1999/8/6(追加情報)
1999/8/3記
スーパー・イリュージョン '99
DAVID COPPERFIELD "U!"
デビッド・カッパーフィールド神戸公演
日時:1999年8月1日(日曜日)
会場:神戸ワールド記念ホール
開場:6:00 p.m.
開演:7:00 p.m.
終演:9:10 p.m.
料金:12,000円(アリーナ)
今回のテーマは「U!」、つまりYOU、「あなた」です。ステージで行われるマジックを、ただじっと客席から見るだけでなく、観客もマジックに参加することが、今回の世界ツアーのテーマになっていました。ポスターなどでも、「客席の13人が消え、2人が空中に浮かび、数千名の人が自分自身の手の中でマジックを感じる」とうたっていました。実際、16の演目の中で、観客が何らかの形でステージに上がるものが11ありました。
1. ONE
オープニングです。舞台中央に台があり、観客2名が舞台に上げられ、ざっと台を調べます。台の上にあった白い布が持ち上がり、サーチライトを持った女性2名が布を取ると、デビッド・カッパーフィールドが出現しています。
2. THUMBS
左右の手をひねって、両手を組み合わせます。このとき、親指は下になっています。手を離さずに、親指を上にしようとしても、相変わらず手はねじれたままですが、デビッドがやると、お祈りのときのように、普通に手をあわせた状態になります。観客も同じようにやっているはずなのにできません。
これは私も子供の頃やったことがあります。まさかそれがこんな芸になるとは思いませんでした。何の準備もしていないときでも、これはできますからマスターしておくと便利です。これは1975年に出ました『手品の研究』(高木重朗著、ゴマブックス)に解説があります。No.69の「逆手に組んだ両手が、手を離さないのに、スルリと抜けるのはなぜか」というタイトルのものがそうです。一度実際に組んで見せた後、観客のほうを向いて、「それでいい」という確認のジェスチャーが手を組み直すイクスキューズ(理由付け)になっています。ほとんどの人が引っかかっていました。
このような、忘れていたり見落としていた「小ネタ」が、自分のレパートリーになるのはうれしいことです。
3. SOFA
「昔はお金がなかったので、アシスタントに美女を使うことができなかったのです。それで、親戚のおじさんやおばさんに手伝ってもらっていました」
こう説明してから、突然、客席に下りてきて、モーティおじさんとアイダおばさんを捜し始めます。客席から、髭をはやした男性と、若い男性の二人を選んで、「おじさんはいつから髭をはやすようになったの?」とかジョークを言いながらステージに上げます。2人を二人掛けのソファーに座らせ、ポケットからピーナッツの入った小袋を若い男性に向かって投げ、「二人で分けるんだよ」と言っていました。おかしいのですが、手伝ってくれる観客は猿じゃないんだから、これはちょっと失礼です。
二人に頭から大きな半透明の布をかぶせます。すると、ソファーごと二人が空中高く上がって行きます。下に、「フライング」のときに使用する大きな透明な箱があり、その中に、ソファーごと入ってしまいました。ふたをしても箱の中でソファーは上下しています。再びソファーは高く上がり、そのままデビッドは帰ってしまうのです。しばらくして思い直したように戻ってきて、二人を無事、下に降ろして終わります。ただ上下しているだけですから、今ひとつ迫力がありません。
4. LASER
「昔実際にあったことなのですが、ステージでうっかり指を切ってしまったことがあります。はさみで指先を切り落としてしまいました。血がどっと噴き出してきて、はさみには肉までべっとりくっついています。あわてましたが、観客は大喜びです。僕が指先を切り落とすマジックをやったのだと思ったのです。(笑)次に指が生えてくるまで3ヶ月かかりました。そのときの写真は1枚5ドルでロビーで販売していますから、好きな人は買ってください」
というような話があり、突然、レーザ砲のようなものがステージに現れ、会場を照らします。会場のあちこちを照らしている間に、デビッドは腰巻きのようなものをしめて、ステージに作られた階段の上に立っています。レーザービームは緑の光線で美しく、会場の隅まで届くので、これに観客が見とれているのをミスディレクションにして、次の準備をするところなど、よく計算されています。
このレーザー砲が、デビッドの腰の辺りを横切るとき、光線にあわせて、バチバチと胴体から火花が出ます。まるで本物のレーザーメスで、体を切っているような気分になります。腰の辺りからまっぷたつに切断されたら、上半身が少し右のほうへずれて行きます。腰から下と上が、数十センチずれたままで立っている奇妙な光景があります。上半身だけが傾き始め、斜めに浮かんでます。(これはスティーブ・ファソンのアイディアというクレジットがどこかにありましたから、数年前に売り出した"Fantastic Floatation"や彼のアイディアによる「人体切断」が元になっているのでしょう。)
分離された上半身が下半身を抱えて、ゆっくりと階段を降りてきます。下まで降りると、上半身と下半身がスライドするかのように一つになります。腰巻きを取り除き、完全につながっていることを見せてます。暗転。
5.GRANDPA
これは昨年の公演でもやりました。今回初めて見ることが出来てうれしかったトリックの一つです。子供の頃、おじいちゃんから教わったトランプマジックを再現するという演出になっています。
フォーエースの出現から始まります。トランプを二つに分けて、両手でパケットどうしをパン、パン、パンと打ちつけると、エースが表向きに、順に出現してきます。20数年前、随分流行ったカードマジックです。
エースが4枚とも出た後、エースを表向きにバラバラにテーブルの上に置きます。このうち、スペードのエース以外の3枚のエースの上に、エース以外のカードを3枚ずつ置いて行きます。
1枚目のエースはこのトリックの原案どおり、消します。2枚目、3枚はエースをパケットのフェイスに持ってきて、カラーチェンジの技法でエースを消します。3枚とも消えたら、スペードのエースをちょっとずらせると、下から裏向きの3枚のカードが出現します。これを見ると、消えたエースです。
このトリックは市販もされていますが、原案どおりにやろうとすると、クロース・アップでは最後の出現の部分に無理があります。デビッドはこれを演じるとき、大きなスクリーンで上から撮っていますので、カードの厚みはカバーできるのですが、実際に目の前で演じると、この部分が少々やっかいです。どうしてもクロース・アップ・マジックとして演じたいのなら、いっそのこと、3枚をパームしてきて、広げるときに出現させた方が実用的かも知れません。
蛇足ながら、「マクドナルドのフォーエース」や、ヴァーノンの「スローモーションフォーエース」に代表されるような一連の「フォーエーストリック」では、最初からスペードのエースの上にも3枚のカードを置いておき、3枚のエースが消えた時点でスペードのエースのところを見ると、そこにあった3枚の普通のカードが、エースに変わっているという現象になるのが普通です。しかし、デビッドが演じたものでは、消えたエースがスペードのエースの下から突然現れるだけに意外性があり、観客も一層驚きます。またこのほうが、理屈の上からも筋が通っているかも知れません。
6. COCOON
現象自体は「人体交換」です。
「完璧な日本語」で、「状況の変化」「情熱的な愛」「男と女の間」というセリフを繰り返すのですが、このセリフと現象の関係が今ひとつしっくりしません。途中、何度も日本語を忘れたり、間違えて、通訳の人からこっそり教えてもらうという設定で笑わせるのですが、これもたいして面白いとは思えません。オリジナルの英語ではこのようなやり取りはないはずです。これは外国でやるとき、それぞれの国に合わせてやっているのでしょうが、意味不明の状況が続くとダレてきます。台本の見直しをはかって欲しいものです。
セリフのうっとうしさを別にすれば、現象は大変鮮やかです。
下が見えている台があり、上から白い布がつり下げられています。デビッドがその布にベルトで固定されると、布が閉じて、「まゆ」のようになります。タイトルのCOCOONというのは「まゆ」という意味です。
デビッドが立っている下あたりに、別の台があり、そこに布を持った女性が立っています。その布で、女性が一瞬全身を隠したかと思うと、突然デビッドが現れます。女性は消えています。デビッドを包んでいた「まゆ」を開くと、消えた女性が現れます。
7.MOONRISE
マーティン・ルイスの傑作、「カーディオグラフィック」のヴァリエーションです。デビッド自身、7,8年前に原案をTVで演じ、それからこのマジックが世界的に有名になりました。大変な傑作です。
今回のは同じ原理ですが、原案は「ワイングラスとトランプ」なのに対して、「海と月」です。観客の中の女性に一人手伝ってもらいます。手に持った10枚ほどのカードには、それぞれ異なった「月」が描かれています。「満月」、「三日月」、さらに「マイアミの月」「ブルームーン」などもあります。これをよく切り混ぜた後、裏向きのまま、1枚、女性に選んでもらいます。誰にも見せないように胸のところにあてて、しっかり持ってもらいます。
デビッドはスケッチブックを取り出し、女性が選んだ月を描きます。普通のマジシャンなら、スケッチブックに描いておしまいなのでしょうが、ここからがデビッドの真骨頂です。選んだ月をしっかりイメージしてもらい、少し近づいてもらいます。「もっと近づいて」と頼み、女性とデビッドがほとんど向かい合わせで密着するところまで接近します。その後、ふたりは背中合わせでぴったりくっつき、「僕のももに手をあてて……、さあダンスをしよう」と、背中合わせのまま、音楽に合わせて体を動かし始めるのです。しばらくして、スケッチにブックに海と月の絵を描き、それを彼女に見せると、それは彼女が選んだ月ではなさそうです。デビッドが描いたのは「満月」ですが、違ったようです。彼女の選んだのは「三日月」です。
「ダンスはうまくいったのに……」
デビッドはがっかりしますが、「英語ではこの丸い月のことをミカヅキと言うのです」。おもしろくもないギャグですが、あまりのくだらなさに、つい義理で笑ってしまいます。
もう一度スケッチブックを見せ、「実は、この丸いのは満月ではありません。太陽です。見ていてください。陽は沈み、そしてその後、月が昇ってきます」
すると、紙に描いた太陽が海の下に沈んで行き、かわって月が昇ってきます。それは三日月です。スケッチブックからこの紙を破り取り、手伝ってもらった女性にお土産として渡して終わります。
原案のワイングラスとトランプで行うもののほうが印象が強く、実際に、マジックとしてもオリジナルのほうが優秀でしょう。また、最後に破った紙を、もう少ししっかり観客に見せないと、あのマジックの良さが出せません。あれは紙に描かれただけの絵が動き、それを実際にお土産として渡せるので、一層不思議なのです。スケッチブックの絵がただ上下するだけではつまらないものになってしまいます。今回は、その辺りが不十分でしたので、イマイチ、観客のウケもよくなかったと思います。
8. DANCING TIES
観客から借りたネクタイが、舞台の上で飛び跳ねたり、箱の中に飛び込んだりする、「ダンシングシルク」のネクタイヴァージョンです。
スーツを着た男性が客席から舞台に上がり、ネクタイをはずします。「いいネクタイですね」と言いながら、デビッドがネクタイの裏を見て、「イトーヨカードー」と読み上げます。お約束のギャグですが、観客は笑っていました。ただ、男性が着ているスーツにしては、あまりにも不釣り合いな真っ赤なネクタイであることが気になりました。(笑)
50センチ四方くらいの透明な箱を観客に調べさせます。ここでも客との様々なやり取りがあるのですが、それは省略します。
透明な箱に入れた赤いネクタイが箱の中で暴れたり、箱から飛び出して空中で歌を歌ったりと、様々芸を見せてくれます。ネクタイの端が折れて、三角の白い部分が口のように見え、その部分がパクパクしながら歌います。しばらくすると3本の黄色いネクタイが現れ、それも一緒になって歌い出す場面は、ディズニーランドの"It's a Small World"か、アニメ映画を見ているような楽しさはあります。最後、借りたネクタイを丸めて、観客に投げて返していたのは失礼です。
蛇足:
私が見たのは午後7時の部でしたが、正午からの部に、知人が行っていました。開演前、席に座っていると、日本人と外国人のスタッフがそばに寄ってきて、ショーの途中で助手になってもらえないかという依頼を受けたそうです。引き受けると、最前列の席をもらい、始まるまでに色々と稽古もさせられたそうです。箱の改めのとき、箱を叩くギャグまでやったそうです。お土産にサイン入りの色紙をもらい、席も元はアリーナの後方であったのに、最前列にしてもらえたので喜んでいました。彼の話を聞くと、このマジックに限らず、一般の観客に手伝ってもらう場合、相当周到な稽古や打ち合わせをやっているようです。手伝ってもらう人の応答で、予定していたギャグが使えなかったり、笑いが取れるところで取れなかったりしますから、それができそうな人を選んでいるのでしょう。
9.TEARABLE
1枚の白い紙に、16枚のカードが印刷されています。縦横4つずつ並んでいます。このカードは16枚ともすべて異なった絵です。ハート、足の裏、手、目などが描かれています。
観客の中から疑り深い男性3名を選び、通路に立ってもらいます。その側には、スタッフの女性が隣に着きます。さらに観客から女性を3名選び、ステージに上がってもらいます。6名の男女に、先ほどの紙を渡し、縦横、好きなような折り畳んでもらい、最終的に、1/16の大きさになるように折り畳んでもらいます。折り畳んだら、縁を円形に破り取って行きます。丸い形のカードが16枚重なったものが出来ました。16枚重なったものを手で破るのは力がいりますから、女性の紙はデビッドが破るのを手伝っていました。客席にいる男性は自分で破ったようです。この丸く破ったカードを、両手で挟んでもらいます。6人とも同じようにします。
一人の観客に、16の模様から一つ選んでもらうと、それは「手」が印刷されたカードでした。
舞台の上の女性に手を開いてもらい、持っているカードを見てもらうと、不思議なことに16枚ともすべて「手」のカードになっているのです。他の女性のも、客席の男性のもすべて、16枚とも手のカードに変化しています。まるで「ワイルドカード」を見ているようです。
このマジックは、クロース・アップ・マジックのひとつですから、実際にはステージの上にある3台のスクリーンを通して観客は見ています。スクリーンで見ていると、全部「手」のカードになったものは迫力があります。さらに、雪のようにパラパラと手のカードがステージに舞い落ちて行く場面は、それだけで奇跡が起きたと思わせるに十分です。
私もステージで見ているとき、これはそのうちどこかから発売される売りネタなのかと思いました。先のネクタイを貸す役を頼まれた知人の話では、最前列で見ていたので、終わってからステージの上に落ちたカードを見ると、またいつの間にか全部違うカードに戻っていたそうです。(汗)この話を聞いて、これは「売りネタ」にはならないだろうと、ピンときました。
それにしても、大胆なことをやってくれます。(笑)
10. THE FAN
「評論家の人は、僕のショーにはいつも、きれいなおねえさん、たくさんの煙、そして風が出てくると言っています。じゃ、全部、使いましょう。風を送るために小さな換気扇を使います」
こう言うと、ステージには直径2メートルを超えるようなファンがついた巨大な換気扇が現れます。羽は静かに回っています。ステージのどこかから煙がわき上がると、換気扇は煙を吸い込んで後方に吐き出して行きます。
換気扇の前に、紙で出来たスクリーンを置きます。紙を通して、デビッドの姿は見えています。手を換気扇の中に突っ込むと、巨大な換気扇はデビッドの手を粉々に砕いたかのように、反対側から白い煙を吐き出します。全身が換気扇に吸い込まれて行きます。大きな音と共に、火花が散り完全に吸い込まれてしまいます。スクリーンを取り除くと、デビッドの姿は完全に消えています。
その瞬間、客席の中央からデビッドが突然現れます。
11.ビデオ上映
過去、テレビで放映されたものの名場面集です。「オリエント急行の消失」「自由の女神の消失」「ナイアガラ瀑布への落下」等。
12.TEST CONDITIONS
客席に向かって紙飛行機を投げ、受け取った人がまた適当な方向に投げることを繰り返し、3回目に受け取った人が助手としてステージに上がります。
ステージにはテレビが置いてあり、そこにはデビッドの顔が映っています。この画面の中のデビッドが指示を与えて、マジックを見せるという設定になっています。ビデオであらかじめ録画されたものが流れています。本物のデビッドと、テレビの中のデビッドが対話する場面があり、セリフがうまく合うようになっているので、見ていておかしい。
私がいるとじゃまだろうから、ということで、本物のデビッドは客席に下り、ゆっくりと客席の後方に歩いて行きます。その間、ステージでは観客が床や、箱を隅から隅まで調べています。箱は台の上に乗っていますが、下は完全に見えています。箱自体もシンプルなもので、人の隠れるようなスペースはまったくありません。箱を組み立てると、4名のスタッフがライトを持って現れ、ライトで箱の中や周りを照らしてあらためます。すると、突然、箱から本物のデビッドが出現します。
タイトルの「テスト・コンディションズ」というのは、「検査をしっかりする」という意味でしょう。この辺りになってくると、観客も疲れてきて、集中力が落ちてきますが、注意深く見ていると、実際には相当不思議なマジックです。、
13.PANTY SWAP
観客に向かって、唐突に「今日、白い下着をはいている人、手をあげてください」と叫びます。(汗)何名かの人が手をあげました。「では色つきの下着をはいている人、手をあげてください」。やはり何名かが手をあげています。
「では、今、手をあげなかった人は……」という、半世紀前くらい前からある、品のないジョークで始まります。
客席に降りて、2人の女性を選び、舞台に上がってもらいます。2人を離して座らせ、一人には、「あなたは白い下着のとき手をあげましたね?」と確認してから、その人の前に、大きな丸い白いカードを置きます。もう一人の女性の前に行き、「あなたは色つきの下着ですね。じゃ、私が今から当ててみましょう」といいながら、手に持った丸いカードの中から黄色を取り出します。「これですか?」とたずねますが、女性は首を横に振っています。「では、これでしょうか」と裏返すと、スマイルマークが描いてあり、この部分は、爆笑でした。本当の色を女性に教えてもらい、赤いカードをこの女性の前に置きます。
2人の女性には後を向いてもらい、女性スタッフが手伝って、スカートのウエストの辺りから、下着の一部を露出させます。(汗)確かに白い下着と赤い下着が見えています。
メモ用紙のようなものを2人の女性に渡して、サインをしてもらいます。そのサインの部分を破り、それぞれの下着に張り付けます。名前もスクリーンを通して、見えています。
「今から、2人の下着を入れ替えます」
どこかの宴会で、よっぱらいのオヤジが好んでやりそうなマジックで、見ていても品がなさ過ぎます。
途中、ダンシングシルク(ゾンビの布を使うヴァージョンのほう)の要領で、下着を出現させて、空中を飛ばせます。これも下品。
最後は、もう一度、下着を引っぱり出すと、白い下着をはいていた女性が赤い下着になっていて、貼ってあるサインの紙も、確かに赤い下着の人のものでした。もう一人も同じように変化しています。
しかしなあー、デビッド・カッパーフィールドともあろうマジシャンがこんなことをやるか?!不思議さは十分あるけど、オヤジの宴会芸をみているようで、どうにも感じがよくありません。途中のセリフも「ハード」な方法、とイージーな方法というのを、シモネタ風に使ったり、クリントン大統領とモニカ・ルインスキーの話を織りまぜるなど、まさに「オヤジギャグ&シモネタ」のオンパレードです。
デビッド・カッパーフィールドも中年になってきて、風貌も中年のオヤジのようになってきました。風貌は仕方がないにしても、ナイーブでセンシティブな感性はどこに行ってしまったのでしょう。
14.MOON:INTERACTIVE EXPERIENCE
昨年も演じて好評だったのでしょう。今年もやってくれました。このような「お土産奇術」を2年連続やるということは、よほどウケがよいのでしょう。実際、私が今回一番感激したのがこれです。このトリックを知っただけで、十分モトが取れました。(笑)
白いカードが7枚と月が1枚印刷されたA5サイズくらいの紙を会場の入り口で渡されました。それを切り離して、8枚のカードを作ります。デビッドの指示に従って、何度もシャッフルしたり、裏表を混ぜ合わせたりするのですが、最後は会場の全員が同じ結果になります。本当なら100%成功するのですが、約10%の人は失敗していました。これは指示された動作をミスったからです。
とにかく不思議です。私の周りにいた観客の反応を見ていても、これが一番驚いていました。今回のテーマである「観客参加型マジック」というのは、舞台に大勢上げて、その人たちを消したり、浮かせるといったことが中心ですが、そのような大がかりなものでなくても、このような原価わずか数円のネタで、数百万円から数千万円の道具を使った以上の効果を上げられることがわかります。これはクロース・アップ・マジックを専門にしている人にもうれしいことでしょう。
マジックとしては「セルフ・ワーキング・トリック」で、何のテクニックも使いません。しかし、あれだけ観客は驚くのです。マジック本来のパワーを再認識しました。
このマジックで、デビッドの演出が優れている点は、観客全員の結末が一致していることを見せる前に、伏線として、2名、個別に当てることをやっている点です。この部分の正確なやり方は不明ですが、手段は色々と思いつきます。ごく普通の「カード当て」と同じです。これですら、観客は驚いていました。ここで2人を相手している間に、観客はそれまでに自分がやった操作をすっかり忘れています。そのため、最後に、あれだけ混ぜた自分のカードが当たるなんて思えないのです。おまけに、会場全員の結果が同じになるとは予想も出来ないことでした。(実際は、失敗した人も1割ほどいました。)
15.FLYING
今ではすっかりお馴染みになった「フライング」です。デビッドがステージの上を自由に飛びます。これはテレビなどでもよく放映されていますから、知っている人も大勢いるでしょう。でもやはり生で見るとなかなかのものです。大きな輪の中を通り抜けたり、透明な箱の中に入り、ふたをしても中で浮かんでいる場面は何度見ても感動します。何かで吊しているのだろうと思っても、そのようなことは不可能に思えます。
客席から中年の女性に上がってもらい、その女性を抱いて、飛んだりもしました。この女性の名前を聞いたら、「サチヨ」と答えたので、「ノムラさん?」という突っ込みを入れていましたが、これはウケていました。でもこんなタイミングのよいギャグが出るはずもないので、逆に、これでこの女性も前もって頼まれていたのだろうということがわかってしまいました。(笑)
このFlyingが始まる前に、スクリーンで、人類が飛ぶことにチャレンジしてきた映像が流されました。デビッドがよく言っているせりふ、"If it can be imagined, it is real."(想像できたら、実現したのと同じこと)をあらためて思い出しました。手に大きな羽を持って、羽ばたくことで空を飛べると想像した人達がいるから、今の飛行機があるのでしょう。「想像力は世界を動かす」というのは本当ですね。
16.THIRTEEN
今回の目玉です。13人が一度に消えます。
「18歳以上で、健康な人はみなさん、立ち上がってください。ただし、弁護士の人と、お酒を飲んでいる人、それにマジシャンはダメです」
この3種類の人は、マジックを見せる相手としては、ろくなものではないようです。(笑)
客席に直径1メートル近いゴムのボールを計15個投げ入れ、客席の中を自由に飛び回らせることで、消される人を選びます。音楽が鳴りやんだとき、そのボールを持っている人が舞台の上に出てきます。夫婦で来ているカップルでは、ボールをお互いに押しつけ合って、一カ所でボールが止まることがあるそうです。(笑)そのようなことがないように、ボールはなるべく遠くにとばすようにという指示がありました。
舞台の上に台があり、前後2列の席ができています。前が7つ、後が6つです。そこに13人の観客を座らせ、残った2人は立会人として、すぐそばで見張る役をします。
座ったら、懐中電灯を渡して、点灯してもらうと、客席からもその人がそこにいることがわかります。13人の前にカーテンが降りますが、それぞれが手に懐中電灯や、両端の2人は大きなサーチライトを持って、中から客席に向かって点灯していますので、13人の存在は確認できます。
このままの状態で13人が浮かびます。カーテンが落ちると、13人は跡形もなく消えています。これは迫力がありました。
「これで今日のマジックは終わりです」という挨拶があっても、誰も動こうとはしません。きっと消えた13人は客席の後方か、どこかから出てくると思って待っているのですが、出てこないまま終わりました。
「私は消すとはいいましたが、出す方法はまだ考えていないのです」というのが、オチになっていました。確かに一度消したものは出さないほうが余韻が残りよいのですが、どうも気になります。
この世から消したい人がいる人は、連れて行ったらどうでしょう。もし戻ってきたら、そのときは、どんな仕掛けになったのか教えてもらえるでしょうから、どっちにしても損はないはずです。(笑)
総括:
私がデビッド・カッパーフィールドのライブショーを見るのは今回がはじめてでした。今まで何度も見ている人の話を聞いても、ショートしてのまとまりは昨年のほうがよかったそうです。
私の率直な感想は、全般的に「暗い」ということです。特に小さなものを扱うとき、舞台には3台のスクリーンがあり、そこに大きく映して見せるのですが、それでも見にくいのです。アリーナは平坦なため、ステージ自体が見えにくいこともあり、スクリーンと舞台を交互に見るようなことになります。このとき、スクリーンが見にくいとつらいものがあります。
現象としては、「浮揚」が多すぎます。アマチュアの大会で、火さえ使えば観客が注目してくれると思って、出演する参加者がことごとく火を使っているものがありました。しかし、いくら火が強烈な印象を与えるからと言って、出てくる人がみんな火を使ったのでは、「また火か」になってしまい、効果は激減します。デビッド・カッパーフィールドの場合、彼自身が自由に舞台を飛び回る「フライング」は確かにすばらしいのですが、何でもかんでも浮かせればよいというものではありません。「フライング」を「決め」にしたいのであればあるほど、「浮揚現象」は押さえておくべきでしょう。
今年の6月頃、デビッド・カッパーフィールドが現在やっているような世界ツアーは今年限りでやめるという噂が出たそうです。その後、スタッフからこの噂は否定されたのですが、今のような強行スケジュールで世界中を回っていたら、彼自身が消耗するだけでなく、マジックの本質である意外性もなくなってしまいます。大ネタばかりでなくても、彼のようなセンスのよいマジシャンであれば、ちょとっしたクロース・アップ・マジックでも演出に力を入れて演じれば、十分観客を楽しませることができるのですから、工夫次第ではもう少し楽になるのではないでしょうか。現在、スタッフや関連企業まで入れると莫大な金が動く組織になっているため、そう簡単には縮小できないのでしょうが、「飽きられる」ということは一番避けたいことです。
私が行ったのは神戸公演の2日目、最後のものでしたが、この時間帯はマジックをやっている人が一番集中することは予想がつきました。それでもアリーナが9割くらいの入り、二階席は2,3割の入りというところでしょう。出し物も、半分くらいは昨年もやったものですから、昨年見た人からは、不満が出てくるはずです。人間の欲望や刺激はいくらでもエスカレートして行き、留まることろを知りません。オートバイを消し、オリエント急行、ジェット機、自由の女神を消して行くと、少々のものを消しても驚かないのかも知れませんが、たとえ小さなものでも、目の前で、あり得ない状況でコインが消えたら、今でも十分不思議です。「月のカード」が一番印象に残っているという人が大勢いることを考えても、大きさを競うだけでなく、演出次第で、まだまだ可能性はあると思います。ただ、マジックとテレビはやはりあまり相性のよいものではなさそうです。テレビの宣伝効果は大きいとは言え、事前にテレビなどで現象を知っていると驚きは半減します。意外性をなくさないようにしながら、マスメディアをうまく利用する方法を考えないと、やって行けない時代になっているのかも知れません。
なお、今回のこのレポートには、友人のR.Nさんや、ドクターS.Tの協力に負うところが少なくありません。厚く御礼申し上げます。
補足:一部タネに関することにも触れましたが、デビッドの行っているマジックは、マジックをやっている人ならわかるように、、市販のネタや、昔からマジシャンにはよく知られたものも数多く演じています。私がここで言及しましたものも、そのようなものに限っています。タネ自体を詮索するのが目的ではなく、今まで見過ごしていたトリックでも、演出次第ですばらしいマジックになることを知っていただきたいからです。現在最高の天才マジシャンから学ぶべきことはたくさんありますから、せいぜい勉強させてもらいましょう。
★「魔法都市日記32」や、「ラウンドテーブル」にも、関連記事があります。
魔法都市の住人 マジェイア