【SS】 再会   2004/12/18






 肌寒さに震えを感じて目を覚ますとき、アスカは夢を見て『泣いて』いたのかもしれない自分自身の幼さに気が付いて気まずかった。



 ぼんやりとした意識で起き上がり、やはり夢だったのだと再認識した時などには悲しくなる事だってあるだろう。



 ありふれた日常の始まりである。




 とりあえずシャワーでも浴びて、生物科学研究員(Neue Nerv)としての投稿論文の完成を・・・





「え!? 何? ちょっと・・・ 私、『裸』!?」




 正確には下着姿である訳なのだが、ハッとして掛け毛布を手繰り寄せると、その毛布でさえ、全くに見覚えが無い・・・





 見知らぬ天井・・・  見知らぬ部屋・・・





 昨日に着込んだパーティー用のワンピースドレスと防寒ロングコートの組み合わせだけは、両方とも御丁寧に吊り下げてあるみたいなのだけれど・・・







「何処? 私の部屋じゃない・・・」






 きょろきょろと周りを見渡してみれば、そこは、お世辞にも整頓されているとは言い難いアスカのリビングの雰囲気とは全く異なっていて、生活者の性格が現れて来るかのよう、よくよく質素な感じの和風の作りとなっていた。




 ますますに混乱の疑問符が浮かび上がるアスカのすぐ傍で、襖(ふすま)越しに誰かが近付いて来る音が聞こえる・・・




 その呼び声は、何処までも懐かしく、頼もしいまでの温かさが加わっていて・・・





「起きたの? アスカ? 朝ごはん出来てる・・・」






 ジェリコの壁を突き崩さんばかりに勢い良く襖を開けるアスカは、エプロンを身に付ける年相応の馬鹿が、さも当り前のように廊下で立ち尽くしている変わりなさを見て唖然とした。




 本物? でも・・・




 アスカを見るなり、挙動不審となって目を逸らそうとするその青年の様子を垣間見て、瞬時にムカッと来たアスカは、身を乗り出して問い詰めようとする。




「え〜と、言いたい事は色々とあるんだろうけど、とりあえず服を着てくれないかな? じゃないと、目のやり場に困っちゃう・・・」





 照れたように手のひらで視線を覆い隠すその青年は、枕元に着替えがあるからと言って微笑みながらに指差している。





 ・・・ ※△□☆っ!!





 怒りの正拳が空振りし、訳が分からないまま襖を閉め直すアスカは、訳の分からぬ感情に支配されたまま、背を向けて、戸惑っていた・・・




 裸(?)を見られた事の憤慨と、悲鳴を聞かれた事の気恥ずかしさから、何を言えばよいのか解らなくなってしまっているアスカの背中越しに、もう一度、襖向こうに佇んでいる青年の方から静かに声を掛けてくる。





「台所で待ってるよ・・・」





 アスカ・・・





 しばしの空白が、二人の間を流れ落ちた後・・・




 何も返事がない事を『肯定』と受け取ったその青年は、何事もなかったようにその場から立ち去って行く。




 取り残された女性は、ただ小さく呟いていた・・・





バカ




 と。





 自然に込みあがって来る笑みと共に、小さなくしゃみをしたようである馬鹿青年に向かって「Gesundheit !」と声を掛けるアスカは、これが夢ではないと言う事を理解して、俄然調子が変化する・・・



 取り戻す空気は、完全に彼女(アスカ)の物となっていた。





 覚悟しなさいっ!? バカシンジ・・・




 髪に隠れた表情の中、唇を綻ばせる彼女は、かつて子どもであった頃を思い出すかのよう、そう呟くのだから・・・







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