Make It Todey〜The Brondesbury Tape/Giles Giles & Fripp(2001.11.07 2001.11.18追記)

 なかなか発売されないんで、しびれを切らして外盤を買ったら、翌日日本盤が出てしまったらしい'The Brondesbury Tape'、多分、このサイトを覗いていらっしゃる方の多くの方々が既にお耳にしている事でしょう。
ちなみに先日、アナログ盤1000枚限定で発売された'Metaphormosis'、とうの昔に売り切れたと思っていたら、UKHMVを見ると、まだ掲載されていまして、それほどあせる必要もなかったかな??と思う今日この頃です。
さて、当然、今回ご紹介するGiles Giles & Fripp(以下、GG&F)の'The Brondesbury Tape'、ご存じのとうり、アナログ盤の'Metaphormosis'をベースに、それに収められなかった音源を加えてCD化されたものです。
ただ、良く聞いてみると、それだけではない部分も見られ、かなり濃い一枚と言えましょう。
そんな、GG&Fの忘れ形見'The Brondesbury Tape'をどうぞ。


The Brondesbury Tape/Giles Giles & Fripp 今回、さすがにCDフォーマットですんで、前回の'Metaphormosis'よりも、ちとインパクトの少ないジャケットかな??と思ったら、大間違いで裏ジャケの写真の強烈な事!!!
こちらは既にキング・クリムゾン友の会(All Person's Guide To King Crimson)でも話題になったMichaelの指シャブリ写真でありますが、考えてみると当初のDeccaのプロモーション用バイオも、こんな感じですんで、当初からイメージ的には変なバンドで売ろうなんて意図もあったのかも知れません。
しかし、どの写真も強烈と言えば強烈。
まあ、そんなヨタ話は置いといて、収録されている演奏を見ていきましょう。
CDトップは'Hypocrite'、アナログ盤同様にGG&Fが初めてThe Beacon Hotelの地下室で収録したもの、アナログ盤とまったく同じテイクです。
次の二曲目、三曲目もアナログ盤と同じテイクな訳ですけど、最初の問題は四曲目の'Newly Weds'。
これが、時間表記なんかはいっしょのくせして、何とCDとアナログではまったくの別テイクのようです。
アナログ盤では、後半に口笛のSEとボーカルで終わっているんですが、CDのほうは'After Work'のかけ声の後、ボーカルパートで終わっているのです。
しかもしかも、CDのほうは'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'のテイクのように中間のバックでメロトロンのフルートトラックのような音まで入っています。
確かメロトロンを入手したのは、McDonald加入後の借金で入手した筈なんですけど、もしこれがメロトロンのフルートトラックだとすると、どうやってメロトロンを調達したのか、興味津々であります。
(まあ、口笛の加工なんてのも考えられなくも無いんですが、このCD、そこかしこにSE的な音が使用されていますが、これも見事ですね)
五曲目の'Suite No.1'は、アレンジ的に言えば'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'からギターに対峙するピアノパートが入っていないと思えば良いでしょう。
ただ、ここでの三人の演奏は見事なものです。
加えて、中間部のコーラス部分も含めて'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'とまったく同じアレンジと来ています。
最初に書いたように、バンドのパブリックイメージとは裏腹に、非常に技術的に高い演奏の落差が、このバンドの魅力なのかも知れません。


 続く'Scrivens'、'Make It Today'(Judy付きのほう)はアナログ盤と同じテイクですが、その次の'Digging My Lawn'はアナログ盤とは別テイク、Ianのフルートをフューチャーしたテイク。
こういう同一曲の別テイクはベーシックトラックが同じかなと思えそうですけど、さすがに'track-bouncing'、つまり所謂ピンポン録音を使用した録音ですんで、マスターはイコール、トラックダウンの終わったマスターテープになりますんで、同一曲も全て頭っから録っているのでしょう。
次の'Why Don't You Just Drop in?'もアナログ盤と楽器やメンバー構成は同じですが、別テイクです。
'I Talk to the Wind'はIanをフューチャーしたアナログ盤と同じテイクですけど、ここで注目は担当楽器のクレジット。
何と、Ianのところにアコースティックギターのクレジットがあることです。
実際、バッキングでアコギが鳴っている訳ですが、やはり前回書いたようにIanも自分がギタープレイヤーであるという意識も当時はあった筈で、弾いている可能性はあったのですが、それがようやく証明された訳です。
ただ、後にCrimson脱退後のインタビューで'自分もギタープレイヤーなんだが、Fripp翁の前では絶対に弾けない'と愚痴を言っていたところを見ると、Crimsonに変化する課程でFripp翁Ianがギターを演奏する事を拒否されちゃったんでしょうな、これは。
さてさて、個人的に注目していたが'Under The Sky'、'Plastic Pennies'、'Passages Of Time'の三曲('Under The Sky'のみ二テイク)。
全てアナログでは収録されなかった曲ばかりです。
特に'Under The Sky'は、前回書いたように'She's Loaded'ように、19681028日〜29日のDeccaスタジオレコーディングのコアとなったテイクかと期待したんですが、見事に外れました。
まあ'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'のボーナステイクを聞けば、完全なステレオで録音されていますから、これではPeterのテイクはコアになりそうにない訳ですが....
(一部で、今回のCDでもDeccaのテイクが入っているような事を書いているマスコミがありますけど、そんなもん、Deccaのコピーライトが一切クレジットされて無いことで判りそうなもんだけどな....)
'Under The Sky'は、Judyをボーカルにフューチャーし、一方はドラムレス、もう一方はドラム付きのテイクが収録されましたが、この曲でちょっとホッとしたのは作詞/作曲者のクレジット。
'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'では何と'Under The Sky'はFripp翁の曲になっていましたが、今回のCDではちゃんとIan MaDonald/Peter Sinfieldとなり、出版社もManticore Musicがクレジットされています。
何故、'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'のCD化の際、Fripp翁のクレジットになったのかは良く判りませんが...
さて、'Plastic Pennies'はキング・クリムゾン友の会(All Person's Guide To King Crimson)でも取り上げられていたように何か日本の童謡を思い出させる曲、そして'Passages Of Time'は後半で、後の'In The Wake Of Poseidon'に収録される'Peace'のメロディーラインそのものが登場します。
以前にも書いたように、Fripp翁は昔使ったフレーズをキチンと覚えているか採譜しているのでしょう。
このように昔使ったフレーズを使った曲を再度公式のレコーディングで使用する事が良くあるんすよね。
まあ、所謂、昔の財産って奴でしょうか??


 曲のほうはアナログ盤と同一テイクの'Murder'(この曲、個人的に凄く気に入ってます)、そして'A Young Person's Guide To King Crimson'にも収録されたJudyのボーカルによる'I Talk to the Wind'。
こちらは、個人的には'A Young Person's Guide To King Crimson'収録分よりも、Peter保有のマスターからですんで、もう少し音が良いかな??と期待したんですが、残念ながら差は殆ど無いようです。
逆に、保管状況の問題か冒頭のクラリネットの音でノイズが乗っていますね、CDのほうは。
さて、残りの曲は一曲を除いてアナログ盤と同一テイクでしょう。
で、違うのは何かって言うと、何とクレジットを信じればIanがギターのソロパートを弾いたという'Wonderland'!!!
良く聞くと、確かにソロのパートがちょっとFripp翁的では無い(音色は同一方向の音色ですが)です。
先にも書いたように、この当時のFripp翁はまだ寛大だったんでしょうか??
でも、クレジットを信じれば、この曲、Fripp翁の曲の筈なんだがなー??
(うーん、アナログ盤もIanの可能性がありそう...でも、最後のボーカルパート前のギターはFripp翁の筈です、両方とも...)
ちなみに、昔の財産シリーズ(??)では、この曲の中間のジャズっぽいコーラスは'McDonald & Giles'で使われてますね、これ。
あ、多分Mikeのボーカルは後のCrimsonの'Travel Weary Capricorn'で披露されたものの基と言うか得意技かな??


 今回のこの'The Brondesbury Tape'、当初の予想よりも様々な発見がありました。
Judyが実はGG&Fとともに七テイクのプライベートレコーディングを残していた事も明らかになりました。
それと、これも'track-bouncing'、つまり所謂ピンポン録音を使用していることや、後の'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'のテイクを考えると、全ての曲はアレンジも含めて全て譜面化されていた点なんかも注目すべきことでしょう。
特にレコーディングの際、二チャンネルのピンポン録音ですんで、曲の構成がきちんと決まっていないと、行き当たりばったりではダビングが出来ませんから。
さて、先のアナログ盤でオミットされた曲は、録音的に他の曲より落ちるとPeterは判断したようです。
実際、ノイズが乗っていたり、音自体がざらついていたり、加えてマスター自体にダメージを受けているテイクもあります。
しかし、今回のCD化では完全に大棚浚え的な感があって、それらも使用したのでしょう。
ただ、残念なのはマスタリング作業です。
低音を持ち上げているとか、音圧を持ち上げている部分もあるんですが、正直なところバランス的にはアナログ盤のほうが良いように筆者は思います。
加えて、曲毎のボリューム調整がうまくいってないものもあり、全体の音圧のバランスがマチマチになっている感じがします。
(ちなみに、Peterのベースプレイですけど、そりゃうまいに決まってます。
じゃなきゃ、'Groon'なんか出来ませんって。
でも、確か'80年代に某ロンドンパンクのバッキングのオーディションに落ちちゃって、音楽シーンに返りざけなかったんすよね。
ブランクか、はたまたスタイルの問題か.....)
但し、ライナーノーツは、圧倒的にCDの勝ち!!!!
特に、Peter自らがペンをふるった'track-bouncing'、つまり所謂ピンポン録音の解説文が凄い!!!!
非常に細かく書かれていて、しかもチャートまで載っています。
このチャートを信じると、最高六回程度のピンポンとオーバーダブ作業が行われたんですね??
これは予想外でした。
それでも、これだけの音質を保ったモノラルトラックをアマチュアが作成出来た、しかもピンポン時のボリューム調整は全てレコーディング中に行わないと行けないと言う悪条件での作品なのですから、なおさらです。
ピンポンを繰り返すと最初に録音した音が段々ベールをかぶったような音になるんですけど、それもかなり押さえられていますね、これ。
ちなみに、ライナーの最後には同じくRevox F36を使用したトラックダウン中のマスターへのエコーの付け方まで解説されています。
これは、見ても判るように録音ヘッドと再生ヘッドの距離を利用して別トラックに音を移す際に原音にテープエコーを付ける手法です。
テープエコーというとそれなりのエフェクトユニットを想像しがちですが、実際Deep PurpleRicheなんかはオープンリールのレコーダをステージに持ち込んでエコーを付けるなんて事もやっていました。
いやはや、知恵と工夫とDIYが沢山詰まったレコーディングだったんですね、GG&Fのデモテープ作りって。


 さて、今回はGG&Fの'The Brondesbury Tape'を紹介しました。
そう言えば、前回、1967年から1968年のGG&Fの動きをまとめましたが、今回の'The Brondesbury Tape'のライナー等から新しい事実が明らかになったので、ちょっと更新しました。
まあ、刺身のツマにでもして下さい。
若い(のかな??)ミュージシャンがロンドンで懸命に(失業手当みたいなものも貰っていたとか、生活の為、Giles兄弟が個々に他人のバッキングの仕事をしてたとか、Fripp翁がギター教室の先生をしていたとか....)にメジャーへの浮上を伺った、苦しくも充実した日々の記録です。
ちなみに、このCDのライナー、そしてアナログ盤のライナーを信じると、やはりGregPeterの交代劇は、Fripp翁の言うような深刻なものじゃなかったように思えます。
まあ、この辺は11月中旬に英国で発売される伝記本'In the Court of King Crimson'で明らかになるかも知れませんね??

PS: 結局、Voiceprint Japan版のライナーノーツがどうなってるか知りたくて、日本盤も買っちゃいました。
つーても、Voiceprint Japanの場合、CDをまんま輸入して、そいつに帯と日本語ライナーノーツをくっつけて出してるだけなんで、ものは殆ど変わりません。
ちなみに、UK盤のCD番号は'VP235CD'なんですけど、当然輸入したものまんまなんで、CDそのものにはその番号がジャケットを含めて記載されていますが、一応日本盤の帯には'VPJ184'が記載されているのはご愛敬。
で、結局ライナーノーツはというと、ブックレットの記述を翻訳したものが付いてました。
だけど、残念ながらPeterの'track-bouncing'の解説文はオミットされてまして、これはちと残念でしたね??
まあ、今となっては重要な技術では無い'track-bouncing'ですけど、この部分にこそ当時のデモテープ作りのミソがあるんですけど....
あ、そう言えば筆者が日本盤を入手したショップの人の話だと、30枚程仕入れたらあっという間に売れちゃって、筆者が手にしたのがそのショップでは最後の一枚だったそーです。
うーん、やっぱCrimson絡みの音源は本国以外だと、売れ筋は日本なんしょーね???
それとキング・クリムゾン友の会(All Person's Guide To King Crimson)にも既に情報が上がっているように、何と次はGiles兄弟がこれ以前にレコーディングした音源('Trendsetters'や'The Brain'なんかだそーです)をまとめてアナログLPとして発売する動きも出ているそーです。
(発売を画策しているのはLP'Metaphormosis'をリリースした'TENTH PLANET'だとか...)
また日本で売れるのかな??これ??
(以上、チト長い追記/2001.11.18)

To Crimson