3日目。昨晩のトマトスープでリーダーの体調も回復。自分は2日分の食料が 減って1kg以上ザックが軽くなった計算になるので、共同装備のコッヘルくら い持つことを申し出る。が、外へ出て準備していると、思ったより足に疲れが 残っていることに気付く。うーん、やばいかも。今日のP9の上りは、きつそ うだなぁと、等高線の間隔を見てブルーになってたとこだ。 昨日、おっさんらが疲れた足取りで登って行ったところを登る。やっぱ足が疲 れてる。リーダーと間隔が空く。一段上り切ると、おっさんらのテント場の跡 がトレースの上にあった。先を行くおっさんらが見える。その先も一歩一歩、 時折息を整えながら登る。リーダーもそんな感じだ。前方にP10の独標が大 きい。あの向こうに槍ヶ岳が。。。と思うが、遠い。 独標のルンゼに昨日の人がいる、とリーダーが言うので目を凝らすと、黄色い カッパの人が取り付いていた。自分たちは独標は巻くつもりでいたので、直登 してるよーと感心する。P9まで登ったが、休憩する様子もなく進もうとする リーダーに、休憩を要求。ついでにコッヘルも持ってもらった。情けなー。荷 物が減っても、足は重い。 独標の基部まで来るとコールが聞こえた。おっさんらがロープを出してルンゼ の雪壁を登っているところだった。さきほどの人ばかりでなく、先行した人た ちはみんな独標は直登したらしく、右手の雪の斜面にトラバースしてる踏み跡 はなかった。こちらも直登することにして、登攀の準備をしつつ休憩をしつつ 待つ。休憩をしている間におっさんらは抜けてしまったようで、自分たちが基 部に行くともう何の気配もなかった。確保する所を探すが、ハーケンの支点が なく、細長い岩にスリングを巻いて支点を作る。 ロ−プをつないで確保の準備をすると、リーダーから、万一リーダーが落ちた 時にロープが引かれる方向について、途中に支点を作った前と後の場合の確認 があった。普段のゲレンデでの練習ではそんな注意を受けたことないのに、こ れがいわゆるホンチャン(本番)ってやつだな、と緊張する。リーダーが登る のを下で確保。間もなくコールがあり、今度は自分の番だ。ロープなしで落ち たら果てしなく滑り落ちて行くような斜面だけど、あの単独の人はよく登って いったよなぁと感心する。支点を回収するとき、雪に隠れたところにハーケン が1つ打ってあるのを見つける。 雪壁は、日陰になっているので、一部凍っている箇所もある。とにかく右手は ピッケルのピックを突き刺し、左手は雪に突っ込んだり、掴めるものを掴んだ りして登り切る。1ピッチでロープは回収し、いよいよ独標へ最後の斜面を上 る。やがて、先を行くリーダーの歓声。顔を上げると嬉しそうにこっちを見て いる。うぅー。。。気持ちは急ぐが、足がとにかく重い。やっとのことで上り きる。目の前に、槍ヶ岳がでっかく姿を現した。山に入って3日目にしてやっ と目にする槍ヶ岳。泣いちゃうかも。。。と思ってたけど、そんな余裕はとて もなかった。いっぱいいっぱい。でもうれしー。自分のデジカメが壊れたので リーダーのデジカメを借りて撮る。 |
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長めの休憩を取って先に進む。このペースなら、今日のうちに槍を越えられそ うだという確信を持つ。独標から一旦下ってP15まで雪と岩場のアップダウ ンを繰り返す。1回アイゼンが外れた。雪面と岩場の間には大きな隙間があっ たりして、踏み抜きに注意しながら進んだ。前方のピークでおっさんらが休憩 しているのが見える。P15にもテントを張った跡があって、ブロックが積ん であった。槍ヶ岳が大きく見えて、槍ヶ岳を眺めながら、ここでも長めの休憩 となる。 |
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P15から下ると、いよいよ槍の穂先への上りになるわけだけど、下り始めた 所が悪くて引き返す。残置スリングの様子から、懸垂下降をすることになり、 リーダーがロープをセット、先に下りて行った。続いて下りたけど、ちょっと 振られた。ロープ回収の時に岩と岩の間にロープが挟まって、結局リーダーが フリーで途中まで上り返して回収した。 北鎌平を過ぎ、1回休憩を入れる。腕時計の高度計を見ると、3000メート ルを超えた!さらに進んでだいぶ足場が悪くなったところでロープを出すこと になり、見たとこ30年前のハーケンだから、あんまり信用しないように、と 言いながらもリーダーはそのハーケンに確保の支点を作る。リーダーが上るの を下で確保する。すぐに姿が見えなくなり、ロープの出ぐあいで進んでいるの を確認する。 やがてロープが止まったけれど、いつまで経ってもコールがない。ない。ない 。。。寒い。まだかなぁ。。。まだかなぁ。。。と思いながら、寒さに耐えて じっと待つ。支点をつくるとき、足場が悪くてカッパを出せなかったから、風 にさらされていた。遅いー。寒いー。やっとコールがあり、上り始める。上っ て行くと、チムニーの真ん中でリーダーが確保していた。もう少し先まで行き たかったが、カラビナが足りなくなり、支点づくりに手間取ったらしい。登攀 の支度をした所の足場が悪くて、自分の持ってきたのカラビナを渡せなかった からだ。 確保するリーダーのすぐ下の岩場が上りにくかったけど気合いで上って、その まま雪面を上って突き当たりの岩場に支点を作り、リーダーが上ってくるのを 確保。そんなに難しい所じゃないからいいかと、残置のハーケン1つに支点を 作って確保してたら、上ってきたリーダーに速攻チェックを入れられた。支点 を作るときは2つ以上で!でもハーケン1つしかなかったし。 ここは割と足場が安定していたので、ザックを開けてもらって、しまってあっ たカラビナをリーダーに渡す。チェック入ったものの、支点はそのまま、リー ダーは山頂への最後の上りを登って行った。すぐ、山頂が見える、という声が して、しばらくするとコール。自分も最後の上りに入る。ビレイをしていたと ころから左に周りこんで、見上げると山頂に人がいるのが見えた。さらに周り こむと確保しているリーダーが見えた。直下の雪壁を上り山頂に抜ける。見覚 えのある社が目の前にあった。山頂だー! |
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この頃には空模様がだいぶ怪しくなってきていて、雪がちらついてきた。風が あって寒い山頂だったけど、ロープを回収した後は、写真を撮ったりメールを 送ったり、寒い寒いと言いながらわりと長居した。ここから槍ヶ岳山荘への下 りは、夏と同じで、ハシゴを下り、鎖ががっちりとセットされた岩場を下る。 一番心配だったのはハシゴの下りだったけど、慎重にクリア。あとはクサリを 頼りに岩場を下り、槍ヶ岳山荘へ。この頃には雪は雨に変わっていた。 山荘でテントの手続きをして、水も買った。山荘の中はストーブが焚かれて、 暖かくて平和な空気。しかし自分らはテント。外に出なくちゃ。テント場は夏 と同じで、山荘からはちょっと離れている。しかも外のトイレは閉鎖してるの で、山荘まで来てくださいとのこと。キビシー。テント場に行く前に済ませて おいた。 テントを設営する頃には雨がだいぶひどくなってきて、風も強く、設営すると 中に転がり込んで、とるものもとりあえず、ガスをつけた。今日のうちに槍を 越えられてよかった。夜は夜通し、テントが吹き飛ばされそうな風と叩き付け る雨の音で、ほとんど寝られなかった。
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