乱れ撃ちディスク・レヴュー"Classic Edition 3"

<97年その1>

97年その2  97〜98年


KISS "Greatest KISS"
 あれは小学校何年生の頃だったろうか。テレビを見ていた僕は大変驚かされたのだ。番組は確か「ヤング・オー・オー」だったと思う。何故驚いたかというと、西城秀樹か誰かが歌うその平和な番組に、いきなり恐ろしい格好をした連中が登場してきたのだから。彼等は英語らしきものを喋っていたので外人だということは分かったのだが、メーキャップを施し、髪を伸ばしたその姿は男か女かさっぱり分からなかった。とにかく幼かった僕にはカルチャー・ショックだったのだ。と言うよりも正直云って怖かった。その後新聞で彼らが「キッス」と言う外国の歌手(「バンド」と云う言葉は当時まだ知らないわけで)と言うこと、全員が男だということを知ったのだった。...と言うわけで、やはり彼らが再びあの姿に戻ったということは大変感慨深いものがある。もう皺くちゃになってしまって化粧のノリが悪いんじゃなかろうか、などと余計な心配をしてしまうが、とりあえずジーン・シモンズの舌は長いわけで、万事オッケーだ。最近既にテレビで二度「ロックンロール・オールナイト」を見ている。 (97.1.1)

→しかし正月からキッスかね。


BUSH "Razorblade Suitcase"
 「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」からもうかなりの年月が経っているにもかかわらず、人々はニルヴァーナの後を埋めるべき存在を求めているのだろうか。パール・ジャム以外ではこのバンドが現在「もう死んだ」と言われながらも根強く残っている「グランジ」の屋台骨を支える存在となっている。で、彼らが実はイギリスのバンドだということは良く知られているが、母国では全く無視されているのだ。僕らのような日本人から見ればアメリカで売れるなんて滅茶苦茶恰好良いことだが、やはりあの偉大なビートルズを生んだイギリスでウケないというのは何か問題があるに違いない。確かに、先入観もあるのかもしれないが「ただアメリカ人の真似をしている」だけの様な感じのアルバムではある。逆にここまでイギリス人らしくない音を出せるのはたいしたものだが、これはただの「グランジ」ロックでしかなく、やはりニルヴァーナやパール・ジャムとは何かが違う。アメリカ人ってのはこういったギターを歪ませまくった音さえ出ていれば満足するのだろうか。 (97.1.2)

→最近この人たちのこと、聞きませんな。ま、グランジってのもねえ…


ROD STEWERT "If We Fall In Love Tonight"
 もはや「御大」と呼んでも差し支えないだろう、ロッドの「バラード」ベスト盤。この人の性格が悪い、と言うのか大スターに有りがちな我がままぶりは有名だが、それでもこの声は凄くいい、と言わざるを得ない。確かにこの声を間近に聴きでもすれば、特にバラードであれば、大抵の女性はクラクラしてしまうのではなかろうか。「アイム・セクシー」と自分で歌うだけのことはありますね。ただ、僕は男なので、このスローあるいはミディアム・テンポだけの構成はちょっとばかり退屈だったりする。もっとも最近のロッドはロック・シンガーというよりはバラード・シンガーだから世間はこういったものを求めているのだろう。クラプトンと同じようなものか。 (97.1.3)

→そろそろ何か出してきてもいいころですが…




MARCELLA DETROIT "Feeler"
 背の高い女性というのは頭が良く見える、と言うのは強ち間違いではない。背筋が伸びた女性、と言っても良いだろう。こんなことを書くと差別と思われるかもしれないが、背が低いとどうしても頭が良くは見えないのだ。もっとも、ただ「でっかい姐ちゃん」ではいけないわけで、結局のところ「頭のよい女性は背が高いような錯覚を覚える」と言い換えればよいのではないか。…訳の分からないことを書いてしまったが、このマルセラもかなり背の高い女性で頭が良さそうだ。そしてこの歌声。女性ヴォーカルブームの中、もっと注目されても良い存在である。しかしちょっとエキセントリックなこの声はどうやら単なるキワモノ扱いされているのが現状のようである。 (97.1.4) 

→結局最近音沙汰が無いな。残念。


THE YELLOW MONKEY "Sicks"
 驚いた。一体彼等は何処まで突き進むのだろう。確かに70年代テイストを持ち味としていたが、どちらかというと「グラム+ハード・ロック」なバンドだと思っていた。しかし彼らはそんなカテゴライズなど遥か彼方に吹き飛ばしてしまったのだ。先行シングル「楽園」はその前の「スパーク」に比べれば地味な曲だが、それでもこれまでのイエモン王道路線を行っており、ロング・ヒットになっている。このアルバムの中で「楽園」はかなり浮いているような印象さえ受ける、そんな作品に仕上がっているのだ。普通こんなアルバム作ったら売れないはずだが、もうそれが受け入れられるスタンスに彼らはいる。あの超名曲「JAM」のヒットが彼らに自信をもたらしたのだろうし、それがどんどん良い方向へ向かっている。インタヴューで「ここ数年はスランプだった」と吉井和哉は言っていたのにも驚かされる。スランプの間にヒットチャートの常連になってしまったのだ。マイナーな時代からのファンは少々寂しいものがあるかもしれないが、これは彼らを信じてついていくしかないだろう。置いていかれないように。それにしても、今作で彼らは歌謡ロックと、地味渋ロックの両方で頂点に立とうというのか。贅沢な連中である。 (97.1.27)

→今にしてみれば地味な作品だったね。


TONI BRAXTON "Secrets"
 この手の音楽を聴くことは滅多に無いんだけど、実はアニタ・ベーカーなんかは意外に好きだったりするのだ。ホイットニーのような声を張り上げるタイプの人は上手いとは思うけど、どうもピンと来ないものがある。やっぱり女性ヴォーカルは情念を絞りだしたような声がいい。まるで演歌が好きみたいだがもちろんそんなことはなく、ねっとりとした質感に魅かれるのだろう。演歌というのなら何度も引き合いに出して悪いがホイットニーの方がそれっぽい気がする。だから日本でもウケるのだろう。それはともかく、このトニ・ブラクストンは現在アメリカではかなりの人気らしくて、シングル「アンブレイク・マイ・ハート」がずっと一位を記録しているのだ。それで聴いてみた、というのもあるんだけど確かに良い。デビュー作でもあった前作ではもっとあっさりしていたようだった歌声が湿度を増している。ダサくなる一歩手前で踏みとどまった感があり、これがヒットに繋がった要因か。 (97.2.24)

→ネットリ系。やっぱりアクが無いのは駄目っス。


U2 "Pop"
 ボノが昔の生真面目な唄い方や態度を捨て、自らをパロディ化して嬉々として唄うようになってからこれで三作目になる。僕が初めて彼らを聴いたのは「ブラディ・サンデー」の頃で、当時の「熱さ」を好ましく思っていた。その後ビッグ・バンドとしてヒットを飛ばしていくのだが、アルバムを重ねるにつれ、僕が最も好きな部分である「熱さ」が無くなっていくように見えた。年をとっていけばそんなものかもしれないが、本当に彼らは熱さを無くしてしまったのか?いや、そうは決して思わない。表面的には随分変わってしまったように感じるが、サンプリングされまくったボノの声の後ろから、アイリッシュ魂(どんなものかは良く分からないが)が響いてくるのだ。 (97.3.9)

→そう、魂だよ、大切なのは。


THE FUGGIES "The Score"
 アムロが影響を受けているのはどうでも良いとして、あのUAもかなりの熱の入れよう、と聞いては黙ってはいられません。(そういえば、まだUAのレヴューしてなかったな。凄く良いです。聴くべきです。日本人であれだけソウルフルに唄える人を僕は知りません。)確かに日本ではカヴァーソングしかヒットしていないためか、そういったグループのようなイメージがあるけども、決してさにあらず、ヒップホップを大衆化、それもかなりレヴェルを高いところに保ったままで成し遂げた連中なのだ。とはいうものの、やっぱりヒットしたカヴァーが良いのも事実。 (97.3.9)

→今を時めく、ローリン・ヒルがヴォーカルのグループですよ。新作はいつ?


TOTO "Greatest Hits"
 トトといえばやっぱり演奏力の上手さで聴かせてくるバンドだ。特にドラムの低音が素晴らしく、それだけにジェフ・ポーカロの死が惜しまれる。ところで僕は「ロザーナ」「アフリカ」の時代にまだ聴いていなくて、「アイソレーション」が出る直前、トトの新作が遂に、ということで先輩達がわくわくしていたことを思い出す。結局そのアルバムは世界的には失敗作となったが、日本では「ストレンジャー・イン・タウン」がヒットした。トトらしくないハードではあるけれど、チープなエレ・ポップだったあの曲は伝説の「ハイスクール・ララバイ」(イモ欽トリオ!)にそっくりのイントロだったからヒットしたに違いない。ウソだと思うなら「ストレンジャー・イン...」のイントロで山口良一と西山浩二の振付をやってみよう。それはともかく、数年前に出たベストは「アイソレーション」からは全くピックアップされなかった。ドイツ編集らしい今回のベストは、どちらかというと後期中心となっているためか、3曲もセレクトされている。さらには92年、95年の特に最近の作品もかなり収録されており、このあたりは日本ですら余り注目されなかっただけあって地味だ。「99」といった初期の名曲も収録して欲しかったと思うのは僕だけではないだろう。 (97.3.16)

→さすがに本国での人気はもはや…日本人のカヴァーで食いつなぐか?


BEN FOLDS FIVE "Whatever And Ever Amen"
 何故かデビュー作が日本で大ヒットした彼等、この新作は前作よりもオーソドックスな、言ってみればエルトン・ジョンの様になった。前作の破天荒な部分も魅力だったが、「ギターレス」という特性を生かすのならこういった路線は正解だろう。しかしますます日本向けになったような気もするが。ジャケットにしても日本盤の方は随分カッコ良いのに、僕が買った輸入盤のジャケ写はまるで売る気が無いようないい加減さだ。もっともこのいい加減さが実際の彼らの持ち味で、日本では「お洒落モノ」として売ろうというレコード会社の魂胆も伺えて面白い。 (97.3.20)

→新作はもっと地味に。うーん。


カジ・ヒデキ 「ミニ・スカート」
 でたー!という感じで登場した加地くん(なぜか「君」付けで呼ばれる)のファーストです。いやー、これがまた恥ずかしいフレーズのオンパレードでありまして、きっと全国のオリーヴ少女を狂喜させているに相違ありません。現在オザケンが手の届かない彼岸の方へ行ってしまっているので、彼にはその分もしっかり働いていただきましょう。「こんなふ抜けたポップス、ロッケンローラーの俺様には聴けねー!」とお怒りの諸兄には、「貴様らこそ真のロックというものが何も分かっておらーん!」と一喝してあげます。これはロックなのです。大体「ラ・ブーム〜だってMy Boom Is Me〜」にしてもXTCの「メイヤー・オヴ・シンプルトン」にそっくり(あわわ、確信犯的なパクりか?)だったりします。あとはアルバム丸ごとシングルが切れるくらいになれれば言うことありません。そんなわけですっごく楽しみな存在の29才でありました。半ズボンも穿いてます。 (97.4.2)

→オザケン不在の今、頼れるのはカジ君だけだ、頑張れ、30代!


UA "Fine Feathers Make Fine Birds"
 日本から初めてソウル・シンガーが誕生した!と僕を狂喜させたUAの、二枚組編集無しのライヴアルバムが登場した。曲間の喋りもそのまま入っており、彼女の親しみやすい関西弁が聴衆との一体感と相まって、「ライヴ」な雰囲気一杯で物凄く良い。そしてあの歌声。ライヴでさらにソウルフルに、CDよりも熱さを感じるこの歌声は天性のものなのだろうが、感動せずにいられない。何曲かカヴァーもやっている(ジェファーソン・エアプレインやパティ・スミス)が、まだまだ歌わしてみたい人がたくさんいるぞ、と思わせる。また生まれた子供を連れて素晴らしい歌を聴かせて欲しい。 (97.4.27)

→もう彼女も現れてからずいぶん経つんだな。日本のR&Bのはしりだね。


 
THE SEAHORSES "Love Is The Law" 

 イントロが流れてきた瞬間、「ラヴ・スプレッズ」かと思った。やはりジョン・スクワイアのギターは変わっていなかった。とりあえず「お帰り」と言っておこう。復活第一作としては予想以上の出来で、正直ほっとした。他のメンバーとも上手くいっているようだし、めでたしめでたしだ。あとはもう少しリズムが横ノリだったらよいのに、とかヴォーカルはもっと下手なほうが、などと思うが、それではまんまローゼスになってしまう。そのうち彼らの持ち味も出てくるだろう。アルバムが本当に楽しみだ。そしてこの曲も、もしかしたらローゼス以上に売れるかもしれない、と思わせるシングルだ。 (97.5.3)

→結局尻つぼみで解散…やれやれ 



 
THE CHEMICAL BROTHERS "Dig Your Own Hole"
 いやー、ロックだよこれは。素晴らしい。ノエル・ギャラガー参加の「セッティング・サン」もいいが、何といっても「ブロック・ロッキン・ビーツ」につきます。これはテクノのみならず、ロック界にも革命を巻き起こすのではないかとまで思うほどの傑作だ。ずーっと頭の中で鳴り響いている。ほんとにこれはいいよ。朝の目覚めにもいいしねえ。それでもし自分がプロレスラーだったら入場には絶対これにするなあ。 (97.5.3)

→いいねえ、ケミカル。確かにこれは革命と言って良かったのでは。


INXS "Elegantly Wasted"
 変わらないということは良いことなのか。一体これで何作目になるか知らないけれど、インエクセスは全く変わっていない。僕が中学生のころから全く変わらない音を出している。しかしこれでいいのだ。何せ滅茶苦茶恰好良いのだから。ギターがチャラララとなり、マイケル・ハッチェンスがセクシーに歌えばそれでOKなのだ。最近ヒットから少し遠ざかっていたけど、今度は売れるだろう。 (97.5.4)

→亡くなってしまったね、マイケル・ハッチェンス…残念。


THE YELLOW MONKEY "The Triad Years Act.2"
 「ラヴ・ラヴ・ショー」は沢田研二に歌わせてもいいかも。この最新シングルは入ってないが、「太陽が燃えている」や「追憶のマーメイド」はこっちに収録された。まさかこんなに早くベスト第二弾が出るとは思ってなかったので少々驚いているが、この大人気の最中、いい商売をしております。今作はどちらかと言うと地味目の曲がセレクトされてはいるが、どの曲もイエモン流ロックがより強調された形で出ていて、入門者が次に買うにはまさにピッタリ。 (97.5.17)

→今でもジュリーのために作曲して欲しいと思ってるんだけど。

97年その2  97〜98年