〜5 傷心の那須諸将〜

 福原城の那須資永は腹を決めていた。
「皆、これまで、よくついて来てくれた。礼を言うぞ。この上は、わしの首を奴らのもとへ持って行け。そして、資久の配下となり生き延びてくれ。」
「何をおっしゃいます。殿!まだ負けと決まったわけでは、ございません。家臣一同、この城を枕に討ち死にする覚悟です。さすれば、必ず活路を見い出すこと 出来まする。」
「義隆・・・。この上、どのような策があるというのだ。せめて、おまえ達の命は助けたいのだ。」
 この時、関十郎義時が発言した。
「殿。私に妙案がございます・・・・。」
 
 夜明けとともに那須諸将の総攻撃が始まった。城門が破られる前に、資永は城に火を放ち、自害して果てた。家臣たちも資永の後を追って自害した。資永の室 も同様であった。
 燃え落ちた福原城に那須諸将は入り、資永の遺体を探した。白河に逃げてはいないか?必死の捜索の末、資永の遺体を確認した。胤清は安堵した。
「見事じゃ!思えば、資永殿は良い主君であった。資久様が生まれなかったら、きっと、資永殿を中心に那須家を一緒に盛りたてていたであろう・・・。名残り 惜しい限りじゃ・・・。」
 福原城は焼け落ち、那須諸将は勝ち戦に酔いしれていた。しかし、胤清が資永の遺体の傍の小さな遺体に気付くと、一挙に奈落の底へと落とされたのであっ た。そこには幼い資久の小さな遺体があったのである。目から涙を流したままの資久が・・・。

 資永の軍議の時の、関十郎義時の発言が実行されていたのだ。
「殿。私に妙案がございます・・・・。あれだけの兵力を蛭田ヶ原に出陣させている奴らです。各城の守りは手薄になっているはずです。蛭田ヶ原でまともに戦 えば勝ち目はありませんが、今なら山田城の資久を奪ってくることが出来るかと思います。さすれば、優位に交渉を進めることも出来るかと。」
「なるほど・・・。面白い。手勢を率いて、すぐに行くのだ。頼んだぞ、十郎!」
「は!」
 夜中に関十郎義時は田川時法と6名の部下を連れ山田城へ向かった。外は真っ暗なので容易に城を抜け出すことが出来た。山田城には守りの兵もいたが、崖側 だけは手薄であった。崖をよじ登り、城内に潜入すると、敵方の兵に見つかったが、声を出される前に始末することが出来た。しかし、資久の部屋の周囲には数 名の兵がいた。ここでも義時は妙案を出した。いきなり、部下に切りかからせると部屋に侵入し、こう言ったのだ。
「奥方様!資永の兵らが攻めてきました!安全のため、資久様を水口城へ移しますので、こちらへ!」
 作戦は大成功で、まんまと資久を奪い、城を後に出来た。部下のほとんどを亡くしてしまったが、目的は達成出来たのである。水口城は大田原家の城である。 それゆえ、資久の母も、それを信じ、さらに、出陣中の那須諸将にも知らせることさえしなかった。
 福原城では資永が関十郎義時の帰りを出迎えた。
「よくやった。十郎!資久の処遇は考えたいので、今は休め。大義じゃ!」
 夜が明けるまで、資永は今後のことを考えた。資永の妻は資久の命乞いをしていたが、資永の決めたことであれば、従うと言ってくれた。そんな、妻に対し て、ここは危険だから、どこへでも逃げろと言ったが、死ぬ覚悟さえ出来ていると言う。資永はもう迷うことは無かった。夜明けと共に、家臣を集めた。まだ6 歳の資久もそこにいた。
「資久を人質にして和睦交渉を有利に進めるなど、武士にあるまじき行為である。そんなことは出来ない。しかし、憎き大田原どもに一矢報いたい。資久の首を はねて、我らも自害して果てることにした。異存ある者は申してみよ。」
 異存ある者など誰一人いなかった。そして、資久は泣き叫びながら斬り殺されたのであった。
「我が弟よ・・・。おまえには何の恨みもないのだ。全ては大田原どもが悪いのだ。許せ。じきにわしもそっちに行く。あの世では仲良くしようぞ・・・。」

 幼き主君、那須資久を失った那須諸将の悲しみは例えようがなかった。那須資親の遺言を実行すべく起こした行動が招いた結果が、那須家の断絶であったと は・・・。
 大関宗増は大田原胤清を殴りとばした。
「大田原ー!貴様のせいじゃー!貴様のせいで若君が、このような無残な姿に・・・。腹を切って詫びろー!」
「お待ちください。大関殿!大関殿とて同意したことではありませぬか。それを父一人のせいにするのは間違っております!」
 大田原胤清の子、貴清は大関宗増を制した。
「なんだと、この若僧があ!」
「そうだ!貴清殿の言う通りだ。悪いとすれば、ここにいる全員だ!」
 伊王野資勝が大田原父子をかばった。というよりも正論であろう。涙を流さぬ武将はいなかった。大田原胤清は大関宗増に殴られても起き上がる力さえ無かっ た。しばらく沈黙が続いたが、金丸義政の言葉で、後日、山田城で話し合が持たれることになった。
「とりあえず、今日のところは各々(おのおの)の城へお引き取り願って、明日、山田城へ集まり、今後のことを話し合いましょう。」

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