魔法都市日記(24

1998年11月頃


11月は学園祭のシーズンである。大学で奇術部のあるところはこの時期に発表会を開くことが多い。一般のアマチュアマジッククラブは必ずしも11月に集中しているわけではないが、それでもやはり秋は多い。今月はそのようなものを2,3見せてもらったので、そのレポートを中心に紹介する。京大のマジックキャッスルにも行ったが、それは別枠で紹介するつもりである。

某月某日

ハーバーランド神戸市は山と海にはさまれた細長い街である。観光地としては異人館などもあるが、遊ぶところといえば、この2,30年、三宮、元町がメインであり、JR神戸駅周辺は、すっかりさびれていた。しかしここ数年、特に阪神大震災の後、メリケンパークハーバランドの辺りも整備され、ポートアイランド六甲アイランドのような人工の巨大な島ができ、今ではすっかり様変わりしている。神戸駅の南、海岸沿いの一帯は神戸で一番あか抜けした場所になっている。いや、神戸でと言うより、おそらく今日本で一番お洒落でエキサイティングかつロマンチックなスペースだろう。

 

海岸沿いには「ホテルオークラ神戸」、「メリケンパークオリエンタルホテル」、「ベイシェラトンホテル&タワーズ」、「ハーバーランドニューオータニ」他、素敵なホテルが建ち並び、「モザイク」、「ハーバーサーカス」といった建物には、ひと味違う店が詰まっている。食事、買い物だけでも、とても一日や二日では廻りきれないほど様々なものがある。

ハーバーサーカス入り口

すぐ近くには昔からの中華街もあり、神戸牛として名高いステーキの店などもあるので、おいしいものに目がない私としては食事をするだけでも入る店に迷ってしまう。

特にこれからはクリスマス前の2週間限定で、「ルミナリエ」という、街を電飾で飾る新しい名物もあり、神戸が一年中で最もにぎわう時期になる。阪神大震災の直後を知っている者としては、わずか4年足らずでここまで復興し、この不景気な時世にもかかわらず、昔より数倍華やかになったのは信じられない思いである。あの廃墟から、たちまち日本で一番お洒落な街にしてしまった。これは昔から神戸に流れている「空気」のせいかもしれない。神戸には明治の頃から多くの外国人が住み、色々な国の文化が点在している。100年以上、そのような空気の中で暮らしているせいか、異国の文化や、流行に振り回されることもなく、うまく街に同化させ、自分のものにしてしまう感覚を身につけている。流行に振り回された華美ではなく、自分なりのフィロソフィーやポリシーを持ってお洒落もし、生きているのが神戸ッ子なのだろう。

西村氏JR神戸駅の北側には三田さんのお宅もあり、しょっちゅうおじゃましているのに、反対側の海側に行くことはあまりなかったのだが、ハーバーランドの一角、「ハーバーサーカス」に新しいマジックショップがオープンしたので行ってきた。3階に、「ワールドマジックネットワーク」という店ができている。(左の写真)

ここは、今年の5月まで、梅田のキディランドで7年間テンヨーの製品を扱っていた西村氏が開いた店である。現在扱っているのは、名古屋のUGMや東京マジックの製品をはじめ、ご自分で取り寄せた海外のネタなども多く、マニアでも十分楽しめる店になっている。

昔、神戸には数多くのマジックショップがあった。そごう(JR三宮)、大丸(JR元町)、三越(JR神戸)といったデパートや、元町商店街にもマジックの道具を扱っている店があった。10年ほど前には、神戸市役所の前にもいっときショップがあった。ところが、ディーラーの人が高齢で引退したり、震災でデパートが改修工事などをしている間に、マジック関係のショップは全部なくなっていた。今回の西村氏の店は、久しぶりにできた専門店なので、ぜひ続けて欲しい。

某月某日

第1回 奇術の祭典
11月8日 13:30−
西宮神社会館(西宮戎神社境内)
入場料 無料

兵庫県の西宮市には公民館でマジックを教えているところが2カ所あるらしい。その二つが合同で発表会を開いた。うちから近いこともあり、日曜の午後、見せてもらってきた。この神社は、毎年1月9日から11日まで開かれる「えべっさん」でおなじみのあの西宮戎である。

私は大学の奇術部が行う発表会もほとんど見ていないのだが、アマチュアのクラブの発表会を見るのは20年ぶり以上だと思う。前回見たのは、たぶん京都のどこかのクラブのものであったと思うが、それがいつのことであったのか思い出せないほど昔のことになっている。会場では、福岡康年氏と偶然に会う。二人ともこのような発表会にはめったに行かないのに、不思議なところで会ってしまった。(笑)

今回の発表会は、マニアが集まってできているようなクラブのものではなく、公民館でよくやっている様々な教室の一つなのだろう。出場メンバーも、大半がごく普通の主婦であったり、お孫さんのいらっしゃるような年輩の男性、女性が中心である。月に二回講習があり、その中で、年間数点のマジックをマスターされるのだろうか。何にしろ、指先を使うのは老化防止にもよいと言われているし、、家庭でお孫さんなどに、覚えたマジックを披露して楽しんでおられるのだろう。観客席には小さい子供が大勢いて、おばあちゃんやお母さんが出てくると、盛んに拍手をしていた。

出演者の方々は、皆さん、立ち姿が良いのに感心した。背筋が伸びて、シャキッとしておられる。指導者の方のアドバイスによるものだろうが、ステージに出て、人前で何かを演じるのは、見られているという意識があるため適度な緊張もあり、背筋も伸びる。これも老化防止にもよいと思うので、ぜひこれからもお続けいただきたい。

最後に会長が演じられた「ジグザグガール」は、ここ30年くらい前から舞台のマジックとしてはおなじみのものだが、今回のは完全にひっかかった。女の人がやっと一人、入れるくらいの細長い箱が立ててあり、そこに入ったら、大きな鉄板でできた刃で胸の辺りと、腰の辺りに差し込み、体を3つに切ってしまう。真ん中の箱を横にずらせて、完全に切断されていることを見せる。ここまでは普通の「ジグザグガール」なのだが、今回のは、その状態でふたを開けた。すると、中の女性が消えている。これには驚いた。どこにも隠れるスペースがないのに、いったいどうしたのだろう?ふたを閉じて、ずれていた真ん中の箱を元に戻すと、また中から女性が現れた。これは観客からも「オー」という歓声があがるほどうけていた。このネタは、マジックショップに頼めば作ってくれるところもあるのだろうが、おそらく50万円くらいはしそうである。それをこの会では、会長やメンバーが協力して、3ヶ月かかって自作したそうだ。

奇術の祭典

各演技の前に、司会者が簡単なコメントを紹介してくれていたが、その中で、鳩を使ったマジックをする方のコメントとして、「鳩は卵を産むと、マジックに使えない。それで今回も、発表会が終わるまでは卵を産まないでくれと願っていた」というものがあった。私は、実際に鳩を飼ったことがないので、何で卵を産むとマジックに使えないのかわからなかった。途中の休憩のとき、その方をお見かけしたので直接たずねてみた。私は、てっきり、鳩の習性で、卵を産むとそれまで仕込んだ芸、例えばハンカチから鳩を出した後、静かに「止まり木」に止まることなどをしなくなるのかと思った。たずねてみると、そのようなことではなく、卵を抱かなくてはならないので、使えないというだけのことであった。つまり産休。卵をとってしまえばできるのだが、それでは卵が孵らないので、その期間だけ使えないと言うことであった。(笑)

あとコメントで参考になったのは、「紙うどん」には、カップに入った生麺タイプの即席うどん、「どんべい」に使われているうどん玉がベストだということ。今のところ、これが一番具合がよいそうだ。

 

某月某日

 

Pround as a Peacockミッキーの絵が届く。

先月紹介した淡路島の美術館、アルファビアで購入したミッキーマウスの絵が届く。額に入ったセル画で、ミッキーマウスが背中にトランプをクジャクの羽のように広げている。(Proud as a Peacock)  あまり見かけたことがない絵だったので、つい買ってしまった。(40,000円)

ミッキーもこの11月18日で70歳の誕生日を迎えたそうだから、実際はいい爺さんなんだ。(笑)

某月某日

MAGIC CONVENTION

日時 1998年11月29日(日曜日) 14:00〜16:20
場所 大阪梅田 阪急グランドビル26階
会費 3,000円

私の所属している「大阪奇術愛好会」が、久しぶりにクロース・アップ・マジックを見せる会を開いた。なんと11年ぶりだそうだ。今から30年ほど前まで、マジックの発表会と言えば舞台で演じるステージ・マジックばかりで、クロース・アップ・マジックを見せるイベントは開かれたことがなかった。アメリカではクロース・アップ・マジックを中心としたコンベンションなどもあったが、当時の日本では、まだ一度もなかった。「大阪奇術愛好会」には、クロース・アップ・マジックが好きなメンバーがそろっていたこともあり、30年ほど前、日本で初の、本格的クロース・アップ・マジックを見せるイベントを開いた。その1年半後くらいに、東京のフロタさんのところ(邪宗門奇術クラブ)も始めたので、合同のコンベンションを開いたこともある。私も20年くらい前まではこのようなイベントに何度も出演していたが、私自身の仕事が忙しくなったのと、マニアを引っかけることに興味をなくしてしまったので、この20年はマニアの前、特にこのようなイベントでマジックを演じることはまったくなかった。

一ヶ月ほど前、幹事の赤松さんから出演依頼があったときも、あまりに突然であったので辞退させてもらった。せめて3ヶ月ほど前からわかっていたら何とかなったかも知れないが、来年の2月頃までは仕事も忙しく、これから出し物をチェックする時間もないので、今回はお断りした。当日も朝から仕事が入っていたので、それを終わらせてから駆けつけた。

と言うわけで、私は出演する予定はなかったのに、会場の受付で赤松氏から、「何もやらないんだったら入れてあげない」(汗)と言われるし、道具なんか何も持ってきていないと言っているのに、鞄に入っていた「E.S.P.カード」「スケッチブック」「緑のマット」を見つけられてしまい、引っ込みがつかなくなった。(笑)

このスケッチブックはマジック用ではなく、26階から大阪の風景をスケッチするつもりで持ってきているだけだし、マットもクロース・アップ・マットではなく、習字用のマットだと言っているのに、全部却下されてしまった。(汗)

そんなこんなで、しょうがないからほんとに一つだけ、E.S.P.カードを使った簡単なセルフワーキングのメンタルものをやることで許してもらった。

私自身、昔と違い、マニアを驚かせてやろうというような気持ちは全然なく、最近、私が好きでやっているマジックを見せればよいのだろうとは思うが、それでもさすがに入場料を払って来てくださっている方々を相手にテンヨーの「不思議なフライドポテト」はできない。(汗)ほんとは今これが一番好きで、一般の人相手にはよくやっている。すごくうけるが、いくらなんでも、これを観客の9割がマニアというような席でやれば怒られるだろう。

今回、このような会があることを、「魔法都市案内」の中で事前に紹介しようかと思ったが、愛好会としても11年ぶりのことでもあるし、メンバーも、今回は「リハビリ」のつもりであったので、宣伝らしいことは何もしなかった。実際、今回はマニア相手ではなく、ごく一般の人だけに限り入場してもらい、マニアは入場禁止にしようと言っていたくらいである。30名も集まればよいと思っていたので、それくらいなら、どこかで聞きつけた人が集まってくるだろうから、宣伝の必要もないと思っていた。

当日、会場になっている26階に上がってみると、いきなり二川氏がお見えになっているので驚いた。横浜からわざわざ来てくださっていた。しばらくすると、次々と観客が入ってくるので慌てた。とっくに予定の30名は越えている。

クロース・アップ・マジックでは、ひとつのテーブルに30名くらいが限界なのに、実際にふたを開けてみると、77名も来てくださった。これはまったく予想外であり、急遽、テーブルを二つに分けて、演者が順にテーブルを廻る形式でやることも考えたが、突然のことでもあり、それもできなかった。しょうがないから後ろにテーブルを並べて、そこに立ち上がって見てもらうという、ひどい情況になってしまった。東京、金沢、明石といった遠方からも来てくださっており、こんなことなら、次回からは甲子園球場でも借りてやろうか、と松田さんがおっしゃっていた。(笑)

瀬島淳一郎氏

写真は瀬島順一郎氏

出演者と、出し物を簡単に紹介しておこう。

(出演順:敬称略)

1.赤松洋一(当会の幹事:天海賞受賞者であり、数多くのオリジナル作品がある)
「ダイス」や「ポーカーチップ」を使ったオリジナル・マジックを数点。

2.三田皓司(季刊誌『The Magic』(東京堂出版)で、長年マジックのビデオ紹介をしている)
「ブック・テスト」(私はこれの即席バージョンをいつもやっているのに、これには完全に引っかかってしまった。もう一つは、今年話題になった映画、『タイタニック』の出演者を使った予言風ギャグネタ。(笑)

3.二川滋夫(横浜からわざわざ見に来てくださったのに、突然、出演をお願いする。)
「カード」と「コイン」を数点。「ハンギング・コイン」は、今までデビッド・ロスにしろ、誰のものにしろ、見て面白いと思ったことはないのだが、二川さんのは本当に不思議に見える。また、実際に空中に見えないコインが引っかかっているような気さえしてしまう。まさに、「指先に鳥を見る」の境地。

4.広安芳明(愛好会のメンバーとしては若手で、今回が2回の出場)
観客から借りた指輪と風船を使ったマジック。大変楽しい演出で、構成もよくできたオリジナルマジック。

5.石田隆信(ゲスト出演:第4回厚川昌夫賞受賞者)
「おりがみ」他、オリジナルマジックを数点見せていただく。

Coffee Break(約20分)

6.根尾昌志(日本を紹介したマジックビデオ、Magic of Japanにも出演している)
『夢のクロースアップマジック劇場』(社会思想社)に解説されている、「カラー・チェンジング・ナイフ」、「カップ・アンド・ボール」他。大変ゴージャスな気分になれるマジックのオンパレード。

7.三輪晴彦(予定外の出演。20年ぶりの復活。(汗))
「E.S.P.カードを使った予言」でお茶を濁す。

8.松田道弘(当会の御大。著書60冊近くあり)
「Ten Cards Poker Deal」(10枚のトランプだけを使って観客と二人でポーカーをする。観客の指定した通りのカードを術者は取っているのに、必ず術者が勝ってしまう。最後は何のハンドで勝つかまで予言されている)

9.宮中桂煥(現在、日本だけでなく、世界的に見てもテクニックは最高レベル)
クラシックなカードマジックを数点。「Aces Opener」「ライプチヒのMatching the Cards」「Cards Up the Sleeve(袖を通うカード)」「Ladies' Looking Glass(Royal Road to Card Magicに解説あり)」 この出し物を見ただけで、技量は推測できると思う。

10.瀬島順一郎(FISM国際大会の審査委員)
先般亡くなったマイク・スキナーの想い出を語りながら、スキナーに昔習ったマジックなどを披露していただく。1973年にマイク・スキナーが大阪でレクチャーをしたとき、瀬島氏宅に泊まり、朝食で、食パンを7枚食べたそうだ。(笑) それに引っかけて、「7枚のコイン」、「7枚のカード」を使ったマジックを見せていただく。瀬島氏と言えば、「鳩出し」で有名であるが、クロースアップマジックもお見事。

司会:福岡康年(普段から、司会やその他、様々な場所でマジックをなさっているので、このような会には貴重な存在) 今回は、各出場者を紹介しながら、合間に数点、軽いマジックをはさんでくださった。

あと、当会の主要メンバーとしては、「ムトベパーム」で有名な六人部慶彦氏が仕事の都合で参加できなかったのが残念であった。もし六人部君が参加していたら、現在の関西では、技量、知識、その他諸々を考慮しても、最強に近いメンバーであると思う。

この出場メンバーを見ていただいたらわかるが、一番若い方でもマジック歴は20年くらいで、出場者の半分以上がマジック歴40年を越えている。そのため、サービス精神は相変わらず旺盛だが、今さらマニアのからの賞賛を期待することもなく、自分のペースで、自分の好きなマジックを披露できる方々ばかりである。アマチュアとして長くマジックを続けている人の芸を見せていただくと、「お宝拝見」といった気分になる。好きなマジックがあり、それに磨きをかけ続けている人の芸は、その人のキャラクターともしっかり溶けあい、一流の芸になっている。

私自身、20年ぶりにこのようなコンベンションでマジックをやったら、昔の血が騒ぎだしたのには少々困っている。来年の春頃、またこのような会を開く予定もあるようなので、その時にはもう少しまともなマジックも数点やりたいと思っている。

終わってから、出場者や二川滋夫氏、森下宗彦氏他15名で、31階のステーキハウス、WHYALLA(ワイアラ)で打ち上げを行う。

 

マジェイア

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