魔法都市日記(32

1999年7月頃


7月11日で、「マジェイアのカフェ&魔法都市案内」をオープンして、丸2年が過ぎた。毎日、大勢の方に来ていただいており、感謝に堪えない。

このサイトを開いたきっかけは、私自身の備忘録を兼ねて、私の好きなマジックや、私自身にとって面白いと感じたものを残しておきたいからという動機で始めたのだが、2年経ってみると、知らない間に相当な量になっている。7月11日に調べてみたら、HTMLファイルが475枚あった。丸2年で、この数が多いのか少ないのかよくわからないが、こうなったら、とりあえず、HTMLファイル、1,000枚を目標にしようかと思っている。

情報を発信し続けていると、ネタ切れにならないかと心配してくださる方もいるのだが、これは不思議なもので、発信すればするほど、新しいものが集まってくる。多くの方からネタ、ビデオ、その他諸々の情報を提供していただいているので続けられている。

また、雑誌や映画会社の方からも相談を持ちかけられることもあり、予想もしなかった方と知り合いにもなれた。「魔法都市案内」だけでなく、「煩悩即涅槃」の関係でも多くの方と知り合えたことを感謝している。


某月某日

大阪の梅田に、また巨大な書店ができた。大阪駅の近くには、30年ほど前から紀伊國屋書店があり、そのずっと前から旭屋書店もあったから、本に関してはあまり困ることもなかった。そこに、このたびもうひとつ売り場面積が、現在日本で最大というジュンク堂書店(大阪本店)がオープンした。3月中旬に開店していたのだが、7月になってはじめて行ってみたら、想像していた以上に充実している。ジュンク堂書店は、今まで神戸に本店のある書店であったが、これからはこの大阪店が本店になるらしい。

とにかく専門書の品揃えが充実している。たとえば、仏教関係のコーナーへ行ってみると、お釈迦様が35歳から亡くなる80歳までに説かれたすべてのお経(一切経)まで置いてあった。昔の巻物では約7,000巻になる。仏教関係の専門店ならいざ知らず、一般書店でこのようなものを見るのははじめてであった。 他のコーナーも分野によって差はあるが、紀伊國屋、旭屋といった大型書店の2倍から3倍くらいはそろっている。

店内には、まわりの壁に添って数多くのテーブルとイスが置いてあり、、座って「立ち読み」ができるようになっている。喫茶のコーナーもあり、私のように週に2、3回は大型書店の中をうろつくのが趣味の人間にはうれしい。

一階は文具とコミック、二階が一般書、三階が専門書と分かれているが、フロアーごとに精算する必要もなく、スーパーなどに置いてある買い物かごもあり、まとめて買うときはこれも重宝する。また、1万円以上買うと喫茶の無料券をもらえるし、手数料なしで宅配もしてくれる。私も頼んだら、翌日には届いていた。

1時間ほどうろついていると、店内の雰囲気が最近の書店とは違っていることに気がついた。図書館の書架から本を選んでいるような気分になる。とにかく静かなのだ。場所によってはBGMで静かに流れている音楽しか耳に入らない。

客の入りも決して少なくないのに、なぜこんなに静かなのかと思って辺りを見渡すと原因が分かった。

それは、店内でパンフレットを配っている人がいないからであった。ここ十年ほど前から、大抵の大型書店では某英会話学校の勧誘員が店内の客にでかい声でビラを配っている。とにかく、あの何たら教習所という英会話学校のうるさいことといったらない。一日中のべつ幕なし、でかい声でパンフレットを配っている。一旦ビラを受け取ったら、絶対手を離さず、大学生あたりの若い子が相手ならタメ口で勧誘している。歌舞伎町の客引きと変わらないようなうっとうしさがある。それがこの店にはない。たったそれだけで、店内に静寂が戻ってくるのだから、あれがどれほど耳障りなものか、今回あらためてよくわかった。ぜひ他の大型書店も、店内で係員が声をかけてビラを配るのはやめるようにして欲しい。これだけで、私はこの店が気に入ってしまった。

某月某日

「収納」の本を読んでいたら、収納の極意は、とにかく物を捨てることに尽きるそうだ。捨てるのはもったいないと思っても、その物の値段より、場所代のほうが高くつくことに気がつけば捨てることも少しは気が楽になるかも知れない。とはいえ、もうすでに入手不可能な物や本はどうしても残してしまうが、中には10年以上、使ったこともないものなど、これから先、使うこともないだろうからあっさり捨ててしまった方がよい。

色々捨てたが、フロッピーディスクも全部で1,000枚ほど捨てた。5インチのフロッピーが500枚くらい、3.5インチも500枚くらいあった。8インチのフロッピーもあったが、これは本体の8インチ用ドライブがもうとっくになくなっているので、記念に一箱だけ残してあった。20年近く前は、8インチという、今から思えば化け物のような巨大なフロッピードライブがあった。大きさは最近の17インチモニターと同じくらいでかかった。

1,000枚捨てたというと驚くかも知れないが、1枚1メガだから全部で千メガ。つまり約1ギガだが、最近のハードディスクなど、ノート型でも数ギガあるので、1,000枚分全部ハードディスクに入れたとしても、余裕がある。ここ2,3年は、コンピュータ関係の雑誌を買うとCDがついていることが多く、これも200枚ほど捨てた。本棚の一番上に並んでいたものがごっそりなくなり、少しはすっきりした。

某月某日

お昼の番組、「笑っていいとも」に、青島幸男前東京都知事が出演していた。なんと、青島さんは戦後まもなく、3人で組んで、「スリーブラザーズ」という名前でマジシャンをやっていたそうだ。進駐軍の慰問などがおもな仕事であったらしい。

そう言えば30年ほど前、青島さんが中山千夏と司会をしていた昼の番組があった。そこで、「ハンカチのほどけ結び」やローブを使った「首抜き」をやっていたのを思い出した。特に「ハンカチのほどけ結び」は大変鮮やかで、素人が宴会芸として覚えたようなレベルではなかった。そのときも昔マジシャンをやっていたという話をしていたような覚えがあるが、それは冗談だと思った。しかし、3年もやっていたのならサマになっているはずである。

某月某日

テレビでMr.マリックが2時間出演する特番、「Mr.マリックの大逆襲!」があった。

あの中で、ラスベガスなどのギャンブル場で使われている、中が透けたダイスを使って、出す目を自由にコントロールするマジックをやっていた。「超能力風演出」で、相手の指定した目を出すのだが、これを見ていて、あることを思い出した。

イカサマダイス

詳しいことは書けないのだが、数年前、法曹関係者から、本物の賭場で使われている、様々なイカサマの道具の話を聞いたことがある。

暴力団関係の賭場から証拠物件として押収した物の中には、隣の部屋から自由にサイコロの目をコントロールできる装置が、数年前からすでにあったそうだ。片肌脱いだお姉さんが、つぼにサイコロを入れて振り、「丁か、半か」に賭けるバクチなど、今では客が賭けた後、隣の部屋からどうにでもなるらしい。

これはハイテクを使ったダイスコントロールであるが、バクチの現場のほうが、マジックより先を行っているのに驚く。もっとも、向こうはばれたら指の一本くらいは詰めて当たり前、へたをすれば命だってなくす状況でいかさまをやっているのだから、これくらい精巧なものがあっても当然かも知れない。パチンコだって昔は手で一個ずつ玉を入れて弾いていた。それが20数年前から電動になり、出玉率も釘師の腕よりコンピューター制御で裏からどうにでもなるそうだから、これも時代なのだろう。

このようなハイテクマシーンに限らず、カードマジックで使われている様々な技法も元はギャンブラーから伝わってきたものが数多くある。日本の「花札」でも驚くほど精巧な仕掛けがされたものがあるそうだ。花札の場合、トランプより数倍厚みがあるので、それを利用して、トランプでは見られない仕掛けもある。一振りすると、絵柄がすっかり変わってしまうような札もあるらしい。お土産に、1枚でもこっそりもらってきて欲しかった。

某月某日

デビッド・カッパーフィールドの日本公演が、7月31日(土曜日)の神戸公演から始まった。神戸では土曜、日曜の2日間で、計6公演がある。その後、名古屋で3公演、東京でも20公演がある。

デビッドの日本公演は、1992年、1998年に続いて3度目であるが、私自身は彼のライブを見るのは今回がはじめてである。昨年も切符が売り出されたら、すぐに売り切れたという噂があったので、今回は3ヶ月ほど前、前売りの発売と同時に買っておいた。

私の行った日曜は、正午、3時半、7時の3公演があった。昨年の東京公演に行った人の話によると、昼間の部は次の公演のため、終わる時間が厳守されているらしい。そのため、途中で進行が遅れたりすると、予定のマジックがカットされることもあったようなので、夜の部に行くことにしていた。

当初、一緒に見に行くつもりであった「愛人」が、直前になって行けなくなった。この電話を受けたのがうちの母であり、切符が余っているのなら、私が行きたいと言いだした。友人に2,3名に連絡したが、夏休みの最中でもあり、みんなどこかに旅行に行っており、連絡が取れない。しょうがないから(汗)、親孝行のつもりで母と行くことにした。

この公演のために、遠方からお母様と泊まりがけで神戸に来ている友人がいた。同じ時間の公演を見ることはわかっていたので、宿泊先であるポートピアホテルで、開演前、3時間ほど一緒に遊ぶことができた。ホテルから会場までは歩いて5分程度なので、ここなら時間を気にする必要もない。

今からいやというほどマジックを見るのに、その前にマジックを見せるのもどうかと思ったが、二つばかり見せた(汗)。そう言えば、このとき見せたマジックのタイトルをメールで尋ねられていたので、今、書いておこう。

1.Three Cards Across
2.Diamond Cut Diamond

開演は7時だが、6時開場とあったので、少し前にホテルを出る。昼間は日射しが強く、35度近くあったはずなのに、陽が落ちると、ポートアイランドは海の上にできた人工島なので風もあり、随分しのぎやすくなっていた。

会場の「ワールド記念館」に着くと、3時半から始まった公演がまだ終わっていない。外でしばらく待たされた。公演自体は、正味1時間半程度だと思っていたのに、6時前になっても終わらないということは、2時間半もやっているのだろうか。いくら何でもそれは長すぎるので、途中で何かトラブルでもあったのかと心配になる。

中に入れるまでまだ少し間がありそうなので、外の売店で販売されているデビッド・カッパーフィールドのグッズやパンフレットを見に行く。トランプ、携帯電話のストラップ、キーホルダー、コースター等、数点あったが、あまり興味を引かれるようなものはなかった。それでもパンフレット(2,500円、高い!!)、トランプ(1,500円)、コースター(500円)等を買う。紙製のコースターは、飲み物を置くためというより、「オキトのコインボックス」をするとき、グラスの「上」に置くのに、使いやすい大きさと固さのように思えたので買っておいた。

トランプ&コースター

6時を過ぎた頃から、7時のチケットを持っている人が並びはじめたので、私も列に加わる。「カメラ、ビデオ、テープレコーダ、MDなどを持っている人は入場できないので、入り口であずけて欲しい」と、係員が繰り返し言っている。鞄を持っている人は中をチェックされるらしい。結構、きびしい。

このことは昨年行った人から聞いていたので、普段なら持っているデジタルカメラも当日は持って行かなかった。92年の初来日のときは、このようなチェックもなかったのだが、本番の最中でも写真を撮っている非常識な人がいたので、このようなチェックが入るようになったのだろう。入り口で鞄を開けて並んでいると、実際には鞄の中を見ることもなく、あっさり通してくれた。それと、後で使用する、「月のカード」ももらう。カードといっても、実際には薄い紙に印刷してあるだけなので扱いにくい。せめてシャッフルができるくらいの厚さで作ってくれたらと思う。

月のカード

私の席は、アリーナの中央よりやや後方、さっきまで一緒にいたNさんの席は最前列であった。お母様が、私の席と代わると言ってくださったのだが、それも申し訳ないので、そのままそれぞれの席に着いた。

会場の中でも、外と同じように警告を繰り返している。もしカメラなどを発見したら、即刻その場でフィルムを没収し、返さないと言っている。また、係員の指示に従わない人がいた場合、公演を一時中断し、公演を取りやめることもあると、何度も何度も「警告」していた。

6時40分頃、母が何だか知らないが、やけに大きな包みを持って座席に着いた。遅いと思ったら、私のと自分の分、弁当を2人前買ってきたと言う……。幕間に食べる弁当だそうだ(汗)。あのなあー、歌舞伎じゃないんだから、弁当なんか買ってくるなよー。

マジックのショーで、幕間に弁当を食べている人なんか誰もいないし、第一、今日の公演では途中の休憩もないんだから弁当なんか食べる時間はない。そう言うと、「じゃ、始まるまでに食べてしまおう」と、早速弁当を広げ出した。おまけに500mlのペットボトルに入ったお茶まで2本買ってきている。歌舞伎のときはいつも弁当を予約して、それを幕間で食べるのを楽しみの一つにしているのは知っていたが、まさかこんなところまでその習慣を持ち込むとは予想外であった。

この時間帯は、マジックをやっている人間が大勢来ているのはわかっていた。そんなところでゆっくり弁当を食べる気分にならないので、私は他人のフリをして、パンフレットをながめていた。

母が一口食べた途端、さっきまで、カメラやビデオを発見したらフィルムを没収して、一時、公演を中断するとしつこく警告していたアナウンスのセリフが突然変わった。

「場内での飲食は禁止になっております」

それみろ、きっとモニターで、裏から客席をチェックしているんだ。だから食うなって言っているのに……。そのうち係員がくるぞ。私は知らんからな。最前列にいるNさんのところへ一時、避難した。

5分ほどして席に戻ってみると、まだ平然と食べていた。年寄りのことでもあるし、始まるまでに食べ終われば係員も見逃してくれるかも知れないと思い、私も開き直るしかなかった。母は、「弁当を食べたから、それで公演が中止になったなんて話は聞いたこともないから心配ない」と悠然としている(汗)。 とにかく開演までに食べ終わってくれたのでほっとした。

この後の公演の模様は、「ショーやレクチャー等の感想」に書いておいたので、興味のある方はお読みいただきたい。

終わったのが9時10分頃で、数千名の人が一度に会場から出るので、誰かと会ってゆっくり話をする時間もなかった。母は家に帰ってから、私の分の弁当も食べてしまった。歳を取っても元気でいてくれるのは、まあありがたいことだと思っている。

マジェイア


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