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★前田知洋氏の御言葉

筋肉が言ってしまう。

前田知洋

『スーパークロースアップマジック 前田知洋 奇跡の指先』


マジェイアの蛇足

上記の言葉は昨年(2004年)の暮れに発売された前田知洋さんのDVD2枚組セット、「スーパークロースアップマジック 前田知洋 奇跡の指先」で前田さんが語っておられた話です。

 人間というのは元来正直にできているのか、嘘をつこうとすると意識するしないにかかわらず、かなりのストレスを感じるものです。すぐに顔に出る人もいます。顔にそれほど出ない人もいますが、無表情をよそおっていても血圧、心拍数、発汗などさまざまな身体的な変化が現れるものです。

 今さら言うまでもなく、マジックというのは人為的に作り出した不思議を楽しむ芸です。これが芸として成立するためには、どれだけうまく虚構を作り出せるかにかかっています。ウソの部分が拙劣であるば観客はマジックを楽しめません。

 マジックを始めたばかりの方からいただくメールに、家族や友人に見せたときすぐにばれるという嘆きがつづってあるものがよくあります。このようなことが起きるのは、家族や親しい友人はその人の日常の動きを知っていますので、少しでも普段とは違う動作や手つきをすると敏感にその差を感じ取ってしまうからです。

 たとえば手の中に何かをこっそりと隠し持つ技法に「パーム」と呼ばれるものがあります。隠すものはコイン、カード、ボール、その他何でもよいのですが、「ただ何かを軽く握っているとき」と、「何かを隠し持っているとき」では同じように見えても微妙に筋肉の緊張が異なっています。それは特定の指にかすかに現れる筋肉のスジであったり、手の甲全体に漂う緊張であったりします。手首の硬さ、腕や肘、肩などにも普段は見られないようなこわばりが生じることもあります。顔や体全体が緊張していることも珍しくありません。このようなことは、普段何かをこっそり隠し持つという動作をしないことと同時に、隠さなければならない、見えてはならないという精神的なストレスがあるため、手や体のいろいろな部分が緊張するからです。そしてこの緊張が観客に伝わり、「何かおかしい」と思われてしまうのです。必ずしもタネが見えたからバレというわけではありません。

 このことに関しては、私も「指先に鳥を見る」や、箴言集の「宮本武蔵」の言葉などで紹介しています。今回紹介した前田さんの「筋肉が言ってしまう」もこれとほぼ同じことなのですがとてもわかりやすくて、よい表現だと思います。

 話が長くなりますが、ある程度のレベルを超えたクロースアップマジシャンは大なり小なりミスディレクションを使います。ミスディレクションはマジシャンにとって最大の秘密と言ってもよいほどありがたいものです。至近距離であればあるほど効果は絶大です。そのため、ミスディレクションさえうまく使えば少々不自然な動作もカバーできると思っているマジシャンが大勢います。ところがテレビなどの画面を通すと、ミスディレクションの効果はあまり期待できません。そのため生で見れば完璧なのに、画面ではタネがわかってしまうということが少なくありません。

 このようなことを避けるには、ミスディレクションなしで演じてもばれないくらい、技法を完璧かつ自然な状態でできるようにするしかありません。誤解しないでいただきたいので蛇足ながら付け加えておきますが、ミスディレクションが不要だなどと言っているわけではありません。ミスディレクションはミスディレクションで必要です。現に前田さんもきちんと計算されたミスディレクションを使っておられます。

 動作を自然に見せるための具体的な方法論は「指先に鳥を見る」とほぼ同じですが、詳しく知りたい方は先のDVDをお買いになることをお薦めします。

 ついでにこのDVDの紹介をしておきます。
 若い日本テレビのアナウンサー男女各2名に、前田さんが普段テレビなどでよく演じておられるマジックを様々な角度から見せるという設定になっています。種明かしは初心者用にキーカードを使ったものが3種類解説されているだけです。基本的な構成はショーを楽しむというものですですが、「リング・フライト」「アンビシャスカード」など、マジシャンであればよく知っているマジックを前田さんがどのように演じておられるのか、とてもよい勉強になると思います。画像も鮮明で、このために新たに作ったものだと思います。種明かしは一部だけですが決して高い買い物ではありません。

 またこのDVDには普段前田さんが使っておられるUSプレイング社の「タリホー・サークルバック(赤)」が付いています。私もタリホーはバイシクル同様、昔からよく使っていますので、それが入っているのだと思っていました。しかしよく見ると、金の縁が付いているのです。縁といっても裏の一番外側、白い枠のさらに内側に金色の縁があります。このため、赤いサークルなどのデザインが数ミリ、縮小されています。このカードの興味深いエピソードも、添付されている解説書にあります。おそらくこのカードだけが個別に販売されるということはないと思いますので、前田さんのファンやカードのコレクターにはこたえられないものでしょう。

『スーパークロースアップマジック 前田知洋 奇跡の指先』 発売元バップ 定価6800円(税別)

アマゾン・ジャパンでも購入できます。


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