魔法記録書

スローベンの人間が悲嘆の声を上げたように、世に残されている魔法の呪文における知識の中でも、人々が認識をできているものはごくわずかでしかない。未開の人類にとっては魔法といえば、その全てが鮮やかな火花や大きな音を生み出す程度のものでしかないかのように、その全てを真実知りうる者は世のいかなる賢人の中にも存在しないのである。
ただ、知識を記した記録のみが魔法の一端を伝えることを可能にしているが、人に知られず名もない魔法にとっては、それすら何の意味もないことだ。世の全ての蔵書を収めているといわれる雲峰山脈の高峰にある神殿で永遠の知識を学んでいる嵐巨人でさえも、道化の神に仕える奈落魔術師団の司祭であっても、魔法の全てを知ることは叶わないというのに、卑小な人間がどれだけの知識と記録を残すことができるというのであろうか・・・。

だが、それでも我々は卑小な人間として知りえた知識をここに編纂し、その一端を世に残すことを選んだ。何しろ我々は萎びた林檎をつくりだす魔法すら使うことはできないが、その代わりの知識を魔法そのものの存在に向けて傾けることができるのだから。

1961年にファイザバード近郊の博物図書館跡で発見された魔法記録書の序文より

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