三.第二次シチリア会戦


 マルタ星攻防戦、マルセーユ会戦にて共に勝利を飾ったカルタゴ宇宙連邦艦隊は勝利の余勢を駆り、この機に一挙にシラクサ星域を確保せんと雷将ハミルカルを指揮官に兵を進めていた。対する銀河ローマ帝国艦隊は将軍ルタティウス・カトゥルスに率いられ、先の攻防戦の雪辱を果たすべく、橋頭堡としてパレルモ星占領を狙う連邦軍を撃退する為に出陣。
 更にハミルカルの長子である名将ハンニバルは、恒星マルセーユ周辺での帝国軍スキピオ艦隊を撃退、一路惑星ジェノバを目指す。執政アッピウス・クラウディウスの周辺宙域整備計画によって安全が保証された、首都星ローマから続くアッピア航路は銀河ローマ帝国クラウディウス王朝の脆弱な経済的基板を支える重要な航路であり、ジェノバが陥落すればその一端を敵軍に握られる事になる。帝国の威信を賭けて敵は撃退せねばならぬ、その任は再び将軍スキピオに委ねられた。

 宇宙歴前218年。第二次ポエニ戦争は未だ始まったばかりであり、戦乱はただ激化の度を強めていた。


† † †


 両軍の宿将たるルタティウス・カトゥルスとハミルカル・バルカス。かつて第一次ポエニ戦争でも相争った両将の激突がこれで幾度目を数えるのか、小規模の小競り合いを含めればそれを覚えている人間は少ない。

「では先陣はマルテリウス、貴官に任せる」
「…はっ。必ずや敵軍を撃滅してみせます」

 カトゥルスの旗艦テーヴェレの艦橋より、スクリーンを通じて指示が送られた。先日のマルタ星攻防戦でハミルカルの重厚な布陣の前に惨敗を喫したマルテリウスは、名誉挽回を図っての先陣での出撃となる。前回の勝利に勢いを得たハミルカルが攻勢をかけてくる事は疑いがなく、これを撃退する為に先陣の意義は極めて重要であった。司令官の信頼にマルテリウスは応えなければならない。
 流線型を基調とする銀色の宇宙戦艦が整然と列を為し、宇宙を無数の光点で埋め尽くそうとする。レーダーに敵影が映り始め、互いの距離が縮まるにつれて将兵の緊張感と戦意が高まっていくのが分かる。

「来るぞ。各艦、当初の指示に従って動くように」

 マルテリウスの声が艦隊に流れる。凸形陣に編成された連邦軍が突進、光の槍を吐き出した瞬間、同時に砲撃の指令が飛んだ。

「主砲、三連斉射!その後各艦凹形陣に編成」

 艦隊中央部を後退させ、敵の突進を受けとめておいて三方から反撃の応射。マルテリウスは先の戦闘でハミルカルに取られた戦法を攻守所を入れ替えて再現した。機先を制されたハミルカルは旗艦ディドーの艦橋で舌打ちをする。

(やりおるわ、儒子が!)

 三回の整然とした砲撃で先制され、凸形陣の先頭部隊に甚大な被害を受けたハミルカルは直ぐに陣形の立て直しを図ると反撃、展開した敵を中央から分断すべく砲撃を集中させる。的確に司令部周辺に攻撃を集中するハミルカルの熟練は流石のもので、指揮系統を圧迫されたマルテリウスが今度は混乱する自軍の立て直しに専念する番となった。

「突進!」
「させるか!全軍持ちこたえろ、左右両翼は前進して敵を縦深陣に取り込め!」

 ハミルカルの突撃で艦隊中央部に巨大な穴を穿たれたマルテリウスだが、粘り強い指揮と迅速な指示によって左右から敵を挟撃する事に成功。側面から勢いを減殺されたハミルカル艦隊は攻勢が限界点に達し、各所で指揮が分断される。


†マルテリウス艦隊艦艇数   7050/10000
†ハミルカル第一陣艦艇数   4150/10000


「これは…やむを得ん、一時後退する。後衛部隊に援護を要請しろ」

 指揮卓で両の拳を強く握りながら、ハミルカルが指示を下す。通常、戦闘状態から部隊を後退させるのは容易な事ではない。連邦軍は第二陣を紡錘陣形に組んでマルテリウス部隊の左翼に攻撃を集中させ、自軍は右翼の攻勢に対抗する事で退却を図る。そしてハミルカルの意図を読んだカトゥルスはマルテリウス左翼の更に左から部隊を横列に展開させ、半包囲による敵のせん滅を図った。

「撃て!」

 カトゥルスの命令が飛び、数万本の光条が暗黒の虚空を貫く。マルテリウスの部隊と合わせて半包囲して砲撃、必勝の体制の筈であったが合流させた第二陣を円形陣に編成し、敵の攻勢を凌ぎ切ると戦力を一点に集中して反撃に移る。

「全艦反撃、敵左翼と新規部隊の中間点に砲撃を集中せよ」

 一点集中砲撃によって敵の分断を図ると、ハミルカルは前進を指示。二部隊の中間点におどり込むと零距離射撃によって敵の混乱を増幅させる。帝国軍も左右から挟撃を図り、密集した敵を一挙に撃ち崩そうとしたが指令が徹底せず、また乱戦におけるハミルカル艦隊の強さも並大抵のものではなかった。
 帝国軍がようやく体制を立て直した時、ハミルカルは既に戦場を離れようとしており追撃は不可能な状態にあった。思わぬ損害に帝国軍は撤退を余儀なくされるが、連邦軍も甚大な被害を被りシチリア星域の確保を諦めると艦隊を本国に後退させた。


†カトゥルス・マルテリウス艦隊艦艇数   07074/17050
†ハミルカル第一陣・第二陣艦艇数     12956/14150

‡帝国軍艦艇数 07074/20000 損害率64.6%
‡連邦軍艦艇数 12956/20000 損害率35.2%


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