地中海英雄伝説1


 戦争は今も続いている。銀河ローマ帝国クラウディウス王朝とカルタゴ宇宙連邦の戦争は宇宙歴前264年から前241年まで続いた第一次ポエニ戦争が終結して後もくすぶり続けた。敗戦による領土の割譲、重い賠償金、商業特権の放棄に加えて内乱にまで見舞われたカルタゴ連邦は宿将ハミルカルによる内乱鎮圧を契機に元々の商業国家としての逞しさもあって徐々に勢力を回復しつつあった。一方銀河ローマ帝国はカルタゴ連邦の内乱に介入して更に勢力を広げてはいたが、戦争の傷により兵数は減少し、しかも回復力はカルタゴに比べて遥かに脆弱だった。
 その更に23年後、『雷将』ハミルカルに敗戦の汚名を雪ぐ為の再戦を決意させたのは、商業国家としてのカルタゴが生き延びる為に必要なだけの航路を必要とする商人群の後押しによってであった。一方、若い執政アッピウス・クラウディウスにより改革の進んでいた銀河ローマ帝国側でも、元老院との政治的対立による混乱は終始頭痛の種となっており、軍事的にも経済的にも周辺を安定させなければ、内治に専念する事は困難な状況であった。

 宇宙歴前218年、第二次ポエニ戦争の幕開けはハミルカル艦隊の進軍に対応する形でルタティウス・カトゥルス将軍が正面から衝突した第一次シチリア会戦によってである。両軍の動員した宇宙戦艦は各々が艦艇数一万隻、標準的な横列陣形に展開するハミルカルは既に老境に差し掛かってはいたが信頼の於ける力量を有し、特に難局に強く兵の信頼も厚かった。一方のカトゥルスは何事に於いても果断速攻を旨とし、凸形陣による中央突破戦術を得意としていた。


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 正面からの激突、やはり先手を取ったのはカトゥルスであり、戦艦の全面に搭載された一ダースの中性子ビーム砲から収斂した熱線の束が吐き出されると、それは両軍の間に横たわる宇宙空間を横切り、数秒後、虹色の光芒が敵陣を彩った。エネルギー中和磁場により死と破壊の力の一部は減殺されたが、その一撃だけで400隻からの艦艇が光と熱を伴って消失する。ハミルカルは陣形を混乱し直ぐに回復させたが、更にカトゥルスは二撃目、三撃目の主砲を斉射する。
 この主砲の三連斉射によってハミルカルは軍を大きく混乱させ、カトゥルスは敵陣に空いた大きな穴に鑑列をおどり込ませる。僅か12時間の戦闘で3000隻以上の被害を与え、しかも帝国軍は無傷に等しかった。

 苦戦の中で懸命に士気崩壊を防ぎ続けたハミルカルはここで反撃に転じる機会を得る。零距離射撃によってカトゥルスに打撃を与え、尚突進してくる相手の指揮系統に負荷を与え続ける。守勢のみならず攻勢に於ける粘り強さもまた彼の真骨頂であった。一方のカトゥルスは圧倒的な攻撃力を持つ反面で守勢に弱いという欠点をさらけ出し、中央突破に失敗した自軍は敵に寸断されて混乱を脱する事が出来ない。反撃するも混戦状態の中でより秩序を保っているのはハミルカルの軍であり、カトゥルスは何とか陣形を再編成して後退するのが精一杯であった。

 不本意な消耗戦を脱して両軍が後退したのは三日後の事であり、ハミルカルは4200隻、カトゥルスは4500隻の損害を出していた。緒戦は痛み分けに終わり、帝国も連邦も再戦への意欲に燃えつつ撤退する事になる。いずれ大規模な艦隊を率いて両軍が対峙する事は自明であった。


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