八.バルセロナ攻略
話は多少遡る。フィレンツェ星系の攻防戦が行われる少し前、ローマ帝国艦隊シラクサ方面侵攻軍の司令官代理に選ばれたマルテリウスは自分の任務について説明を受けていた。
「囮…ですか?」
ハンニバルの遠征軍の後方を遮断する為に、別働隊が長駆してバルセロナ星系を攻略する。その意図を隠す為にも北方のフィレンツェと南方のシチリアとに兵を出すこと。若いプブリウス・コルネリウス・スキピオの提案から成る、それが作戦であった。スキピオの軍編成に協力する為に南方面軍司令官ルタティウス・カトゥルスが後方に下がり、代理としてマルテリウスが抜擢された理由もそこにあったのであろう。宿将ハミルカル・バルカスを抑えることのみが彼に与えられた目的であった。
「命令、謹んで受領致します」
とはいえ、武人として強敵と戦う任を与えられるは名誉な事であり、この上は結果と実績によってそれに応える必要がある。将軍ルタティウス・カトゥルスが長きに渡って争い、倒せなかったハミルカルを撃滅することが叶えばマルテリウスの声望は嫌が応でも高まることになるだろう。
シチリア星系、シラクサ星周辺に展開する両軍。既に第四次となるシチリア会戦、だが軍司令官としては初の出陣となるマルテリウスは旗艦クリペウスの艦橋で緊張の色を隠せないでいた。
「全艦、砲撃用意」
艦隊を密集させ、敵の攻勢に対応して反撃する。新任司令官として自分の指揮能力にまだ自信がなかったための策であったかもしれないが、これにより情報伝達が早まったことが功を奏し、一瞬であるが敵の機先を制する事に成功する。
「撃て!」
収束したビーム砲が束となって暗黒の虚空を数瞬で横断し、カルタゴ連邦艦隊左翼部に衝突した。そのまま右方向に転進、損害を受けた敵左翼に回り込む。正面突撃を反らせて迎撃を図る基本的な策である。
三度目の主砲斉射、だが体勢を立て直したハミルカルも報復の炎を吐き出し、マルテリウスの軍と正面からの撃ち合いとなる。密集陣形のマルテリウスは戦線維持を容易にしているが、反面砲撃の効果を最大限に活かすことができない。一方でハミルカルは標準的な横列陣形を組み、堅実で粘り強い戦闘によって双方が消耗戦の様相を呈してくることになる。だがハミルカル艦隊旗艦ディドーにも危急を告げる通信が送られてきた。
「バルセロナのハスドルバル閣下より入電!敵攻囲下にあり、救援を乞うとの事です!」
急報に浮き足立つカルタゴ連邦艦隊。だがハミルカルの叱咤によって体勢を立て直すと秩序ある後退に移る。追撃する隙を見せないところは流石宿将の宿将たる所以であった。
「このままシチリア星系を確保する。全艦隊に揚陸部隊を用意させろ」
† † †
かくして優勢から一転、カルタゴ宇宙連邦は危機に立たされる事となった。シチリア星系はマルテリウスが確保、バルセロナはプブリウス・コルネリウス・スキピオの艦隊によって遮断され、ハンニバルはフィレンツェ周辺で妙手クイントゥス・ファビウス・マキシムスによって進軍を阻まれている。
だが帝国ローマも一枚岩ではありえない。司令官の消極的な作戦に異を唱えた一部将校の悪意ある中傷によってファビウスが更迭、新任の指揮官として平民出身のアエミリウス・パウルス、副司令官に貴族出身のテレンティウス・ヴァロを選出、この機にカルタゴ連邦を討ち滅ぼすべく一大決戦へと乗り出す。迎え討つべくハンニバルも兵を用意し、オファント星雲カンネ宙域に両軍が集結しつつあった。
†マルテリウス艦隊 07080/12000
†ハミルカル艦隊 06840/12000
‡帝国軍艦艇数 15080/20000 損害率24.6%
‡連邦軍艦艇数 14840/20000 損害率25.8%
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