乱れ撃ちディスク・レヴュー"Classic Edition 2"

<96年その2>

97年その1  97年その2  97〜98年


PEARL JAM "No Code"
 何故パール・ジャムはあれほどまでにアメリカで売れまくっているのか。日本ではニルヴァーナの様には盛り上がらないし、これまでのアルバムを聴いた限りではシングル向けのポップなナンバーは皆無に等しく、ラジオでもかかりにくいために日米間の格差はどんどん開いていくばかりだった。そして今作もそれは変わらない。しかしこれが彼らにしか出せない音なのだ。もう聴いた瞬間にパール・ジャムと認識できる、あの聴く者を捕らえて離さないような訴求力のある音。きっとライヴを直に観たら日本でも人気が出るに違いない。エディ・ヴェダーの声は既にカート・コヴァーン以上の存在感を持っていると思う。 (96.9.7)

→最近やっとカバー曲だけど流れていますね。


SUEDE "Coming Up"
 オアシスやブラーが台頭してくるまでは彼らの時代と言っても良い状態だったのに、いつの間にか随分地味な存在となっていた。それというのも、バーナードの離脱、そしてポップ性の稀薄だったセカンドと言った負の要素が余りにも彼らに降り掛かったからだ。正直に言って、もうこのバンドはこのままフェードアウトしていくのだろうと思っていた。ところが、そんな予想を軽く覆すサードが届けられた。これはもう完全復活だ。スエードといえばエロティックな雰囲気ばかりが目立ったが、真の彼らの持ち味はとにかく下世話なまでにポップなことだったのだ。今作はそれが全開の大変楽しいポップスとなって結晶した。こんな音は彼らにしか出せない武器だ。どんどん研ぎ澄ませて欲しい。 (96.9.8)

→この作品が1番良かったかな。


R・E・M "New Adventures In Hi-Fi"
 僕が学生の頃彼らはカレッジチャートの常連で、言ってみればアメリカの大学生が最も好んで聴いていたバンドだったのだ。そんなわけで大学二年だった僕は「ドキュメント」を買った。カッコ良かった。一聴すればごくシンプルなロックなのだが、それに留まらない「何か」を感じたのだ。当時彼らに対する一般の評価といえば、「何を言ってるのかわからないヴォーカルのバンド」と言うどちらかといえば異端者としての位置づけが主だった。それからもう八年。彼らはアメリカン・ロックの本流を行く存在となった。今作もトーンは少々大人し目とは言え、いい出来だ。しかし、あの頃感じた「何か」はもう無くなっているような気がする。 (96.9.22)

→次の作品「UP」も同じ感じでしたな。


KULA SHEKER "K"
 これまでのブリット・ポップ系の連中とは明らかに一線を画すバンドが登場した。インドの皇帝の名前から取ったというバンド名、マントラからの歌詞、時折奏でられるシタールの音色、そしてグレイトフル・デッド!期待のニュー・バンドは「インド&サイケ」か?いや、彼らの音には「魂」があるのだ。何処に、と訊かれても困ってしまうが、とにかく聴いて欲しい。特にギターはジョン・スクワイア以来の逸材だ。あの横ノリ・ギターがここで聴けるのだ。なるほどプロデュースはローゼスを手掛けたジョン・レッキー。これからの台風の目になることは間違いない。 (96.9.29)

→セカンドは本国ではイマイチでしたが何故か日本でヒット。


JAMIROQUAI "Travelling Without Moving"
 デヴュー時のエコロジー路線は何処へやら、すっかりFMには欠かせない存在となったジャミロクワイ。ファッション雑誌の表紙を飾り、フェラーリを乗り回すお洒落さんとなった。しかし今作もそんな憎まれ口も空虚になるよい出来栄えで、何故日本でしか売れないのか不思議なほどだ。どでかいスピーカーが必要になる低音も健在。最初はスティーヴィー・ワンダーの物真似の様だった声も、もう特徴の一つとして認識出来るようになった。何、また新車買ったって?今度はランボルギーニ・ディアブロ?いい加減にしろ。 (96.10.5)

→「誰だって矛盾を抱えてるよ」とは本人の弁。でもスポーツカーとエコロジー…


EARTH,WIND,& FIRE "Avatar"
 アースといえば、洋楽の入門にはうってつけの分かりやすさが売りの一つだった。また、渋谷陽一氏が好んでいたことから分かるように、「ロック」な部分を持ち合わせていた当時は数少ない黒人グループだったのだ。そして何よりも曲のノリが良すぎる程よかった。すべて過去形で書いているのが分かるだろう。何なのだこの新作は。前作は地味ではあったがまだ独特のグルーヴ感があった。ところがこの新作ときたら...ひどすぎる。こんなのはアースではなく、ただのメロウなR&Bだ。ルーサー・ヴァンドロスだってもっとダンサブルだよ。エイヴェックスはバナナラマにとどめを刺したが、次の犠牲者は彼らだったのか。これで終わりだろう。さようなら、アースよ。 (96.10.5)

→本当にこれで消えましたな。才能豊かな人たちな筈だけど。


THE BOO RADLEYS "C'Mon Kids"
 うーん、これはどうしたことか。好きなバンドなのだが褒めようがないぞ。「ロッキング・オン」のレヴューでも書かれていたがその通りなのだ。まあ、あの「ウェイク・アップ・ブー」は確かに突然変異のような曲だとは思ったが、もしやあの曲の反動でこのような暗い、内向的な作品となってしまったのではなかろうか。「ジャイアント・ステップス」は地味ながらもポップで良い作品だった。そして「ウェイク・アップ!」でそのポップ・センスは見事に開花した...と思ったのだが、これではまるでライドではないか。今からでも遅くはない。考え直してくれ。君たちはあくまで「ポップ」なバンドなんだから。 (96.10.6)

→結局解散してしまいました。


NIRVANA "From The Muddy Banks of The Wishkah"
 もう五年になるのか。あの「ネヴァーマインド」に初めて針を下ろして(もっともCDなんだけど、うまい表現が思い浮かばないんだよな)から。たとえ凡庸と言われようが、やはり「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」には心底参ったし、彼らの中では一番と言わざるを得ない。音こそ激しいが、実は物凄くメロディアスでポップという新しいロックの方向性を提示したバンドだった。このライヴを聴いても再確認できよう。カート・コヴァーンの才能は恐るべきものだった。そして彼の感情の激しさ、というのか迸りも恐るべきものだったのだ。 (96.10.10)

→そろそろ再評価ブームが起こってしまう位、前のことになってしまいました…


THE JON SPENCER & BLUES EXPLOSION "Now I Got Worry"
 これほど名前と実際の音が一致するバンドも珍しい(ヘヴィメタは除外)。実はジョンスぺを聴いたのはこれが初めてだったのだが、何故もっと早く聴いておかなかったのだろうと後悔した位なのだ。まさにブルースがエクスプロージョンしているのが素晴らしい。一発録りしたんだろうか、この激しい演奏は。スピーカーからそのライヴ感がびんびん伝わってくるのだ。ラジオ受けする曲はないので日本でヒットする可能性は薄いが、その方が良いだろう。前作に遡って聴いてみたくなった。 (96.10.11)

→今やロック界の良心、ジョンスペ。いいよね。


SHERYL CROW
 前作は本当に傑作だった。ついつい口ずさんでしまう「おらわなどぅ」といい、カントリーを味付けにした乾いたギター・サウンドはカッコ良かった。しかしグラミーを受賞して、もしかしたら守りに入ってしまうのではないかという危惧があった。実際先行シングルを聴いた限りではその不安は的中したとさえ思ったのだ。そうした心配はこの新作の前ではものの見事に吹き飛んでしまった。これはいい。ロック色が強まり、ますますその独自性は輝きを放っている。売れたからといってリスナーに媚びたりしない、熱く、それでいて乾いたサウンドは個人的にも大好きで、ジャケットの鋭い目付きもたまりません。セカンド・アルバムで自分の名前をタイトルにするあたり、自信に満ちあふれていますな。 (96.10.12)

→007の主題歌を歌う様じゃねえ…やっぱりファーストかな。


小沢健二 「球体の奏でる音楽」
 前作「ライフ」は僕を邦楽に振り向かせた記念となるアルバムだった。あの素晴らしいポップスは誰にも真似の出来ないセンスがなせる技だろう。(もっとも随分パクりもあったが、それも楽しんで確信犯的にやっていたのだから許してあげましょう。)そして怒涛のシングル・ラッシュ。これもまた完全無欠のポップスで、そうこうしているうちにすっかり有名人になって随分テレビで姿を見るようになった。まさに「痛快ウキウキ通り」である。そんな邦楽界に一つのジャンルを築いたと言える彼の新作は皆楽しみにしていたに違いない。しかし、先行したシングル「大人になれば」を耳にして「おや、何か違うぞ」と感じたに違いない。ジャズ・フレイバーあふれるこの新曲はCMで田村正和との夢の共演がなかなかナイスな中に流れているが、明らかにこれまでの「オザケン」とは異なった世界を見せたのだ。その兆候は「ウキウキ通り」のカップリング曲「流れ星ビバップ」に見られた。その一風変わったトーンの曲は「ウキウキ通り」のような超ハイパーポップはとりあえず終わり、と言う彼の意思表示だったような気がするのだ。そしてこの新作はジャズアルバムと言って良い内容となった。しかも全8曲25分、インストもあるのでミニアルバムのようだ。売れることは売れるだろうが、必ず「前の方がよかった」と異口同音に言うだろう。僕だってそれは同じだ。しかし、これで良かったと思う。決して守りに入ったり、売ることを考えて作ったりせず、「今一番自分のしたいことをした」と言う作品なのだ。やはり彼はアーティストだった事を証明したわけで、またしてもいつ出るか分からないが、次回作は一体どんなものになるかが楽しみになってくると言うものだ。もしかしたら意外と早いペースで出るかも。 (96.10.20)

→そろそろ復帰か?しかしどこに隠れているのやら。名作「life」が中古屋で¥480…


PET SHOP BOYS "Bilingual"
 「ウエスト・エンド・ガールズ」はかなりインパクトの強い曲だった。何がかと言うと、当時ロック一辺倒だった僕をかなり苦しめるほどいい曲というわけだ。これを好きだと言うことは、ロックに対する裏切りではないか、などと。しかし、体裁こそ違え、これもロックなのだ。彼らには「氷点下に冷めた」ロック魂があり、これが僕を揺さぶった、とも言えよう。サッカーの応援では頻繁に「ゴー・ウエスト」が使われているが、これも彼らの功績だろう。決してヴィレッジ・ピープルではあるまい。一発屋と一部評論家から散々言われて早何年経ったことやら、彼らの新作は相変わらずで、テクノロジーの進歩も余り関係が無いようなエレ・ポップを展開している。そういった意味ではやはり彼らはロックだということが言える。 (96.10.25)

→彼らも復帰!アルバムが楽しみ。


VAN HALEN "Best of : Volume 1"
 「ジャンプ」はやっぱりインパクトの強い曲だが、この年代順に並んでいるベスト盤を聴いていくと、それまでの超絶ギターテクが炸裂している楽曲から一転、あのキーボードによるイントロが鳴り響くわけで、違和感を禁じえない。それがデイヴを脱退に追い込み、サミーが加入してからは国民的バンドへの道を歩むことになるわけだ。それがいけないということではなく、ジャーニーやトトといった産業ロックバンドが衰退していく中で重要な位置を占めることになっていったのだ。それにしてもサミーが脱退したことには少々驚いた。そしてデイヴとの新曲(どうやら復活したわけではないようだが)が2曲収録されている。しかしこの新曲は本当にやっつけ仕事の感が強い。デイヴは大人になったのか、覇気の無い声でこれではディナーショー歌手になっていたというのも頷ける。 (96.10.26)

→もう別のバンドみたいになってしまいましたな…


JOURNEY "Trial By Fire"
 良かったので少し驚いた。なかなか再結成したバンドの作品にいいものが無いので余り期待していなかったが、彼らは昔と全く変わらない音で成功した。本当に変わっていない。前作からもう10年くらい経っているはずだが、まるでそんな気がしない。あのいやが上にも盛り上がる曲調はそのまま、臭いバラードもそのままで、変わったのは彼らの顔の皺が増えただけなのだ。「産業ロック」と言う言葉はもう聞かれなくなったが、現在オルタナ系が新たな産業ロックになりつつある中で、この音は新鮮ですらある。ちょうど今聴いているFMでも流れている。ジャーニーを知らない人もかなりいると思うが、そういったリスナーにもアピールできる売れ筋一直線。時代は80年代か?次はカルチャー・クラブか? (96.11.10)

→その後本当にカルチャー・クラブが復活しました。


THE STONE ROSES "Garage Flower"
 解散した。ジョンが抜けたときのような衝撃はないが、やはりショックはある。結局正式なアルバムというのは二枚だけだったが、両方とも愛聴盤となっている。最初聴いたときは「何でこんな地味なバンドが話題になっているのか」と思ったが、聴けば聴くほどのめり込んでいった。ジョンのギターはうまいというわけではないがあのノリは独特だったし、マニのベースは唄っているようだった。そしてイアンのヴォーカルは物凄く下手だった。ライヴでもそれは証明された。今思えばライヴに行っておいて本当に良かったと思う。ファーストからセカンドまでの長い間に何故か解散せず、やっとセカンドが出て、さあ次だ、と言うときに色々なことが起こってしまった。オアシスが大スターになった今、ローゼスのポジションというのも曖昧なものになっていた。結局セールス面ではそれほどの実績が無かった彼らは80年代から90年代への橋渡し的な役割を果たしていたに過ぎなかったのだろうか。確かに彼らの存在無くして現在のブリティッシュ・シーンはない。それは間違いないことだ。しかし彼らにはもうあと少し頑張って欲しかった。まあとにかくストーン・ローゼスは伝説の存在になった。あとはそれぞれの活動に期待しよう。ジョンの新バンドの音は早く聴いてみたいし、プライマル・スクリームはかなりバンドとしていい音になるだろう。イアンはどうなるのか少し心配だが。ところでこのアルバムは彼らの初期の未発表曲を集めたもので、タイトルどうりガレージサウンドでしかないものだが、ファーストの「アドアド」などがむき出しの粗削りな音を鳴らしており、なかなか興味深いものだ。しかしあのプロデュース無しではやはり話題になることはなかっただろう。これはファンのみにお奨め。 (96.12.1)

→このときショックでかなり尋常ではない書き方をしています。


THE YELLOW MONKEY "Triad Years Act 1"
 僕がこれを買うまでに高校生が二人レジに持っていった。もはやそういう存在になったのだ。彼らがいつから聴いていたか知らないが、僕にしたって最近のことである。このベスト盤に収められている初期の曲は「グラム・ロック」で、現在の音とはかなり違う。M3からM4(「スパーク」)に移る部分は別のバンドではないかと思えるほどだ。確かに「スパーク」がヒットしたのは売れる音だったからで、以前のチープなグラム・サウンドでは一介のマイナー・バンドで終わっただろう。しかしこのチープさを僕はかなり気に入ってしまった。吉井和哉の持つ下世話さが全開なのだ。現在はその下世話さを保ちつつも、よりポップな方向に向かっているというわけだ。なるほど。ところで選曲についてだが、「太陽が燃えている」や「追憶のマーメイド」が入っていない。アルバム「フォー・シーズン」からは地味なナンバーばかりが選ばれており、ここにはメンバーのこだわりのようなものが見えてくる。 (96.12.7)

→今や大御所、「これならオヤジにも分かる最近のロック」代表。それも何かな…


APHEX TWIN "Richard D. James Album"
 テクノについては全く詳しくないが、この人は僕でも知っている。それにしてもこのジャケ写の気味が悪いがハンサムとも云える彼の創りだす音は文句無くカッコ良い。日本でダンス・ミュージックというとどうしても軽く見られがち(ユーロビートのイメージが強すぎるのだろう)だが、これはロックよりもクールで熱い音楽だ。こんな職人気質の人がロック界にももっといて欲しいと願うのであった。 (96.12.15)

→ここからテクノを良く聴くようになった。


97年その1  97年その2  97〜98年