倉敷市郊外の小高い丘の頂上付近、尾根に沿う道路から少し離れて位置する敷地は、かつての民家と畑が散在していたであろう時代を思わせる、ゆったりと拡がりのある落ち着きと静けさが残る環境でした。
大阪市近郊で離れて居住する親子2世帯が、生家の土地で共に週末を過ごす事を目的に、この計画は始められ、与条件の第一は、敷地のほぼ中央西よりにある、ひと抱えもあるヤマモモの大樹を残しその姿を楽しめる計画とすることでした。
これはもとより願うところで、建物を敷地北東側にL字型に配し、西側は倉庫棟と2M弱の段差の石垣、南は敷地境界までの距離と林で囲い込み、ヤマモモを取り込んだセミオープンな感覚のコートとした。
敷地の辺に沿った軸に対し、約10度振れた南北軸の導入と、その外壁を延長しているのは、コートとしての親密性が散逸してしまわないように南東側を限定するためのささやかな配慮でした。
東西軸の寝室ゾーンに対し、生活のアクティブな軸を南北軸に配し、南の庭から居間・食堂を経て2階のスタディールームへと続き、北側のアプローチ庭、さらにテニスコートへとつながる視覚的連続性は、ヤマモモの大樹をさまざまな角度から鑑賞し得ると同時に、周辺ののどかな風景を享受しうるのは、現在では最も得がたい価値であろうと考えています。
自然石・切石はこの土地に残されていたもの、樹木は敷地内の山林から根回し移植したもので、造園材の多くが再利用であり、「力強さ」と「繊細さ」とがうまく共存しバランスしたデザインで、過去の記憶をもつなげてくれた造園は(有)渡辺庭園の渡邊 眞也氏の作品です。
*** 住宅建築 No 325 '02/04 原稿より抜粋
建築種別 | 住宅 |
建築用途 | 専用住宅 |
構造・規模 | 鉄筋コンクリート造 2階建 |
その他 | 住宅建築 第325号 '02/04(建築資料研究社)掲載 |