魔法都市日記(42

2000年5月頃


5月はマジックを見るために東京や静岡に行って来た。そのため、特にゴールデンウィークの期間、旅行中でもあり「魔法都市案内」の更新が1週間ほど止まっていた。小型のノートパソコンをホテルに持ち込んでいたので、メールのチェックは毎日していたがホームページの更新はできなかった。

たった1週間なのに、問い合わせのメールが数通届いた。4日目あたりから、「更新が止まっていますが、どうかしたのですか」というメールが来る。1週間目には、「死んでいるんじゃないかと思った」という知人からのメールも来た。 ありがたいことなのだが、更新が1週間から10日くらい止まることは、旅行、その他の事情でたまにある。しかしこれからは1週間以上更新できないときは「お知らせ」に告知することにした。

今月は、私にしては珍しくマジック関係のイベントに数多く参加したため、画像が大変多くなってしまった。これでも当初予定していた半分くらいに減らしたのだが、それでもいつもの「日記」と比べると格段に多くなっている。遅い回線を使っている方にはご迷惑をかけるかも知れないが、ご容赦願いたい。


某月某日

夕方、東京で定宿にしている有楽町駅近くのホテルにチェックインする。

CF-A1R

今年のゴールデンウィークは、しばらくここに滞在するので、ノートパソコンもスーツケースに詰めて、前もって送っておいた。部屋で荷物をほどいて、自分の部屋に近い環境になるよう、準備する。

今回持ってきたのは無線のモデムで動く小型のノートパソコン(Panasonic CF-A1R)なので、部屋の中であればパソコンと電話線をつなぐ必要もなく、部屋のどこからでもインターネットにアクセスできる。テーブルの上でもベッドの上でも気軽にメールの送受信ができるので重宝した。

机や椅子の配置も自分にとって使い勝手のよいように少し移動させ、携帯電話、トランプ、本等の小物も配置を決める。ざっと部屋の準備ができたので、1階に下りてみる。

さっきは気がつかなかったが、ロビーの墨で食卓のテーブルセッティングの講師としてよく知られている今田美奈子さんのサンプルが展示されていた。フランスのロゼール城で毎年開催されている今田さんの人気セミナー「サヴォアール・ヴィーヴル」の日本版が今回ここで食事付きで開催されている。(6回で、260,000 円)

以前から今田さんの作品は好きで、写真ではよく見せていただいていた。お菓子も正統派クラシック路線を維持しながらかわいいものが多く、これも私の好みである。

Four Aces

ゴールデン・ウィークの間は「母の日、子供の日のテーブルセッティング」というテーマで展示されていた。このようなものを見ると、つい「記念写真」を撮りたくなる。フォーエースをお皿の上に乗せて、こっそり撮らせてもらった。

<5月3日(水)>

今年のゴールデンウィークは、マジックファンにとっては見逃せないイベントが東京でふたつあった。これに合わせて、5月3日はNDMC(日本ドクターマジシャンズクラブ)の中にある分科会、「クロース・アップ・マジック研究会」のメンバーが中心になり、春の懇親会が開かれた。

NDMC懇親会

この会は昨年暮れに埼玉の医師、田代茂氏が世話人となり発足した。インターネットのおかげで、医師、歯科医師だけでも東北から九州まで、すぐに20数名が集まった。医師以外の人でもNDMCには入れるので、そのような方々も会わせると、現在3、40名になっているのだろうか。私もメンバーに入れていただいているので、よい機会と思い、参加させてもらった。

懇親会は3日の夜、銀座日航ホテルの地下にあるバーを借り切って開催された。

私が宿泊していたホテルから会場まで歩いて行っても10分ちょっとなので、6時頃部屋を出る。タクシーで行くほどの距離でもないのでギンブラ.....。(ひょっとしてこれはもう死語?) とにかく銀座をぶらつきながら会場まで行くつもりであった。ホテルを出て1分ほど歩いたとき、カメラを持ってくるのを忘れていることに気がついた。慌てて部屋まで取りに戻る。

もう一度ホテルの出口までくると、外では雷が鳴り始め、夕立しそうな気配になっている。途中で雨にあうのもいやなのでタクシーに乗ったら、すぐにどしゃ降りの雨が降り出した。カメラを取りに戻らなかったら、途中でびしょ濡れになっていただろう。何が幸いするかわからない。

車だと数分で着いてしまい、まだ少し時間があるのでホテルの喫茶室で30分ほどお茶を飲んで時間をつぶす。

懇親会は7時から始まる予定であったので、6時45分頃会場に入る。

会場では懐かしい方、これまでメールでは何度かやり取りしているがお目にかかるのは初めての方、以前からぜひ一度お会いしたいと思っていた方ともご挨拶ができ、大変楽しく、心はずむひとときをすごすことができた。

小野坂さんご夫妻&ヒロサカイ氏後ろから「おーい、三輪さん」という声に振り返ると、小野坂さんご夫妻がソファーで手を振ってくださっていた。慌ててご挨拶をする。 (左の写真は、小野坂さんご夫妻と、ヒロサカイ氏)

私は普段名刺は持ち歩かないのだが、今回は名刺を持参しないとまずいと思い、上京する日の朝、家で刷ってきた。最近のプリンターはよくできており、名刺くらい簡単に作れる。本当に家を出る1時間ほど前に作ったので、何の工夫もないシンプルなものになってしまった。今度はもう少しデザインにも工夫して、作っておこう。

私が「魔法都市案内」を開いてから、まもなく3年になる。この間、個人的にお会いすることは何度かあったが、これほど大勢の方と一度にお目にかかることができたのは初めての経験であった。みなさんから「魔法都市案内を読んでいます」と声を掛けていただき、恐縮しっぱなしであった。

7時には予定どおり田代氏の挨拶があり、乾杯の音頭は小野坂さんがとってくださって、始まった。

当初、参加者全員が自己紹介を兼ねて、簡単なマジックを一つ見せようかという案が出ていた。しかし30名近い人がやるとなると、それだけで2時間近くかかってしまうだろう。それはちょっと無理なのでカットされた。その代わり簡単な自己紹介だけをすることになった。

全員の自己紹介が終わり、次の催しまで10分程度のブレイクがあった。ビュッフェ形式の立食ではあったが、料理もおいしく、量も十分あった。

その後、NDMCのメンバー3名(伊藤実喜さん、中村安夫さん、私)と、オブザーバーとして参加してくださっていたTAMC(東京アマチュアマジシャンズクラブ)の彌永眞さんがマジックをやることになった。

私はこのような、マニアが大勢いるような場でマジックを見せるのはこの20年間で1,2回しかない。昔はマニア相手によくやっていたのだが、その頃のレパートリーはもうすっかり忘れてしまっている。そのため、このようなときに見せるものに困ってしまう。

その後もう一度歓談の時間があり、最後の30分間は藤本明義さん、木本秀和さん、プロマジシャンのゆうきともさん、オブザーバーとして参加してくださっていたヒロサカイさんがマジックを見せてくださった。

藤本さんはこの7月、ポルトガルで開催されるFISMのコンテストで演じる予定のマジックを見せてくださった。

ゆうきとも氏


木本氏はいつものさえたクロース・アップ・マジックを、ゆうきとも氏(上の写真)は「モダクラ4号」にあった「サウンドマジック」他、数点を見せてくださった。ゆうきさんのマジックは関西ではめったに見られないので、今回見せていただけたのはラッキーであった。

最後はヒロサカイさんがアメリカから帰ってきたばかりでお疲れのところお立ち寄りくださり、2個のカップで行うトミー・ワンダータイプのカップアンドボールと、ロープマジックを演じてくださった。

初めてお目にかかる方が多かったのだが、マジックという共通の土壌があるため、すぐに昔からよく知っているもの同士という雰囲気になれ、大変くつろげる雰囲気の中で、アッという間に予定の2時間がすぎてしまった。最後は柳川幸重さんが閉会の挨拶で締めて下さった。

今回、NDMCが復活してはじめての懇親会であったが、田代氏の情熱に多くのマジック関係者が賛同してくださり、大きな盛り上がりのうちにパーティを終えることができた。NDMCの公式サイトもオープンし、これからますます日本のマジック界で重要な位置を占める会になることを確信した。

2次会:居酒屋この後、十数名が2次会の会場である新橋の居酒屋ヘ向かう。懇親会のパーティには参加できなかった方数名が2次会には来てくださり、こちらも総勢で20名近くになり、盛り上がった。

居酒屋でもマジックが始まり、藤本さんがFISMのクロース・アップ部門のコンテストにも出演されるので、その練習を兼ね、終始英語で演技をやってくださった。この後、狭い場所ではあったが、5、6名が散発的にマジックをやった。居酒屋という狭くて騒然とした場所なので、このような場所に適したものを一つか二つ、普段から準備しておくとよいだろう。

このような場所で避けた方がよいのは、まず時間のかかるもの。なるべく1分以内くらいで終わるものがよい。

次に、クロースアップマットを使用しないとできないようなものは避ける。お皿やコップが散乱しているので、なるべくテーブルは使用しないか、ごく限られたスペースでもできるものがよい。

シュウマイ

私は小川心平氏が神戸のレクチャーで見せてくださった「シュウマイ」だけをやった(汗)。これは時間も30秒とかからないし、場所も取らないので、このような場所での一発芸には向いている。現象は詳しくは書かないが、最後に上の写真のようなシュウマイが出現する。

この2次会のマジックでは、川西宏さんが見せてくださった「マジックキャッスル入会試験」が印象に残っている。随分と長いルーティンなのだが、ストーリーがおもしろいので話を聞いていても飽きないし、最後の結果も不思議である。原理自体は川西さんのオリジナルではないが、ストーリーは川西さんがお作りになったそうだ。 木本さんがこの試験を受けさせられていたが、無事受かったようである(笑)。

この居酒屋には11時半頃までいた。その後、まだ遊びたい人は3次会をすることにして、銀座日航ホテルまで戻る。その近辺で朝までやっている居酒屋に11名で行く。

小さな魔法この店は畳に座敷机が置いてあり、あぐらもかけるが堀ごたつのように足を中に入れてすわることもできる。1次会、2次会と椅子ばかりであったから、このような場所で足を伸ばせるとだいぶくつろげる。

メニューを見ると、「小さな魔法」という飲み物があった。味も何もわからないが、「魔法」という名前につられて数名が注文する。「クエン酸サイクルドリンク」と添え書きしてあったから、疲れが取れるのか? 飲んでみたら、アスコルビン酸を水で溶き、少し甘みをつけただけたという味で、たいしておいしいものでもない。

ここのメニューには他にも「ファンタジア」というのもあった。ディズニーから取ったのだろうが、これもマジックをやっている人ならネーミングだけで注文しそうだ。

隣のテーブルは女性ばかりで、10名ほどいた。、そこが無茶苦茶うるさかったことをのぞけば、比較的ゆっくりできたので、私も普段よくやっているカードマジックを二つほどご覧に入れることができた。菊池崇知さんにもカードマジックを見せていただいたら完全に引っ掛かり驚いていた。さらに、そのマジックは「魔法都市案内」に紹介されていた本で覚えたと言われ、もう一度驚いてしまった(汗)。

<5月4日(木)>

今日はフランツ・ハラーレイのショーが代々木である。昨晩NDMCの宴会の後、2次会、3次会と遊んでいたので寝るのは3時を過ぎていたが、朝は普段どおり7時に目が覚めた。

東京国際フォーラム

ショーの開演は午前11時半なので、10時過ぎにホテルを出ても十分間にあう。まだ時間もあるので、ホテルのすぐ裏にある日比谷公園の中を朝の散歩がてら、ぶらつこうかと思ったが、明日ランス・バートンのショーが開催される東京国際フォーラムにはまだ行ったことがないので、そっちに行ってみることにした。 (上の写真)

祝日の朝ということもあり、国際フォーラム周辺は人かげもまばらで、ひっそりとしていた。随分大きな会場なのに、中も外も空間が十分にある贅沢な作りになっている。バブルの遺産なのだろうが、今ならとてもこんなものは作れないだろう。

フォーラムの中は、まだほとんどの店が閉まっていた。一軒、パンやケーキをおいているカフェがあったので、そこに入り、朝食をすませた。9時半すぎまでここでゆっくりして、その後、東京駅前の八重洲ブックセンターまで歩いていく。ブックセンターの入口に、二宮金次郎の銅像があり、そこに金箔を貼ると......、勉強がよくできるようになるのか、金がたまるのか、勤勉になるのか、どんな御利益があるのか忘れたが、私には縁のないものばかりなので奮発して2枚貼ってきた。1枚50円で、箱から勝手に金箔を取りだし、チューブに入った普通のノリで銅像に貼り付ける。

40分間ほど店内をうろつき、その後タクシーで代々木に向かった。

フランツ・ハラーレイ代々木第2体育館では、4月29日から5月7日までフランツ・ハラーレイのマジックショーが開催されている。ハラーレイといっても、ほとんどの人は知らないだろう。私だって全然知らなかった。知名度はゼロに近い人が、このような大きな会場で9日間、17公演も行って客が入るのか、人ごととはいえ、本気で心配していた。

しかし私が思っているほど、ハラーレイは日本で知られていないわけでもないらしい。日本のテレビに何度か出演して、滝沢君をサポートしてイリュージョンを行っているので、若い人には知られているらしい。滝沢君と言われても、実のところ私は誰なのか全然知らないのだが、とにかく若い女の子には人気のある人らしい。とはいえ、その程度の知名度で、これだけ大きなショーを行い、十分客が入るのか本当に心配していたのだが、行ってみると会場は想像以上に埋まっていた。

数千名入る体育館なのに、ほぼ満席になっていた。フジテレビとタイアップして、フジ系列のテレビでは宣伝したり、サンケイ新聞の拡販材料としてもチケットがかなりの数配布されたという噂を聞いた。

それにしても最近のイリュージョンは大がかりになっている。昨年来日したデビッド・カッパーフィールドにしても、このフランツ・ハラーレイ、明日見る予定のランス・バートンにしても、舞台で扱うものが大がかりになる。

このようなショーを見ていると、ステージマジシャンを目指している若いマジシャンは難しいだろうと思う。特にイリュージョンを売り物にしようとすると、大がかりな道具が必要になり、相当な数のスタッフが必要になる。自分一人が頑張って何とかなるというレベルを超えてしまっている。

フランツ・ハラーレイは、これまで自分でマジックを演じるより、他のマジシャンや、ミュージシャンがステージで見せるマジックをデザインをし、道具などを提供することが中心であった。これまでにもジャネット・ジャクソンを黒豹に変身させたり、マイケル・ジャクソンを50本の槍で突き刺したり、数多くのステージに協力している。巨大なものを消したり、出現させることでも知られている。インドのタージマハール、エジプトのスフィンクス、スペースシャトル、ハワイのダイヤモンドヘッドを移動させるといったことをやっている。

ショーの内容自体は決して悪くなく、過去10年くらいの間に彼が考案したものの中でも選りすぐって構成されている。

一つ一つの出し物はどれも十分観客を楽しませることができるレベルのものなのだが、メインディッシュばかりを出すことがサービスだと勘違いしているふしがある。最初から最後までメインディッシュばかりのフルコースなんて途中で嫌になるに決まっている。味同様、「驚き」は心が感じるものだから、1+1が2になるとは限らない。驚きに対しても人の心はすぐ抵抗力ができてしまう。

童話、「北風と太陽」ではないが、無理矢理風を吹きかけても身構えてしまい、それほどの効果はない。台風のとき、風速60メートルの風が吹いていても、ずっと同じペースで吹いているのなら家が壊れることは少ないのだが、弱くなったり、強くなったりしながら強弱のアクセントがつくと、もっと弱い風でも家は壊れてしまう。ただ強烈なものを並べればよいというものではない。

今回、私の席は前から4列目、しかも巨大なスピーカーの前であったので、このまま2時間近くも見ていたら、終わったときには難聴になりそうな音であった。会場は音響効果など無視した構造の体育館なので、後ろまで音を十分とどかせるためには、これくらいのボリュームは必要なのだろうが、音だけで疲れてしまいそうなので、ティッシュペーパーをちぎって、丸めたもので耳栓を作って見ていた。

私はフランツ・ハラーレイを見るのはこれが初めてであったが、彼のこれまでの経歴を見ても、イリュージョン・デザイナーとしては非凡なものを持っていることはわかる。ただ演技者としては全然カリスマ性もないし、何も特筆すべきこともない。フランツは他のマジシャンやミュージシャンなどのステージのためにイリュージョンをデザインし、ステージを効果的に演出することにかけては才能もあるので、これからはそちらに重点を置いた方がよいだろう。いつも裏方ばかりにまわっていてはつまらないので、たまには自分も表に出てみたかったのかも知れないが、彼がステージに出てしまえば、ごく平凡なマジシャンにすぎない。裏方ばかりではマジシャンの歴史にも残ることもないし、それが不満だったのかもしれない。しかし、もう表にも十分出たことだし、これからはウエイトをイリュージョン・デザイナーや演出方面に力を注いでもらいたい。

フランツの人柄は大変良さそうで、サービス精神にあふれており、ショーが終わった後、毎回、外に出てきてファンと握手をしていたそうだ。最近のマジックショーではカメラ、ビデオ、テープレコーダーの類は持ち込み禁止なのに、何のチェックもなく、カメラでさえ、フラッシュを使用しなければ撮影もOKというのだから、信じられないくらいおおらかであった。

<5月4日(木)夜>

夜は医療関係者から東京郊外の静かな料亭にお招きいただき、医学部を再受験する大学生の相談に乗る。

ここは各部屋が別棟で完全な個室になっている。広い庭にこのような部屋があり、日本全国から選りすぐった山海の珍味を頂いた。素材から調理、器まで徹底してこだわっている店で、お世話をしてくださる仲居さんの立ち居振る舞いまでよく教育されているのがわかる。

うかい

S君にはここでアドバイスするのが目的であったため、つい熱が入り、料理を味わっている余裕がなかっただろうと、後になって少々気の毒なことをしたんじゃないかと思った。

<5月5日(金)>

昨晩も遅くまで遊んでいたので、朝は部屋でゆっくりしていた。

朝食と昼食を一緒にすませるため、ホテルの近くにある中華料理の店「宝来」に行く。この店の味は、しばらく食べていないと無性に食べたくなる不思議な魅力がある。 何品か注文したが「梅シソチャーハン」という一風変わったものもはじめて食べてみた。これが実にさっぱりした味で、すっかり気に入ってしまった。今、思い出してもまたつばが出てきて、食べたくなってきた。

秋葉原:街頭販売この後、夕方のランス・バートンのショーまで時間があるので、秋葉原に寄ってみることにした。秋葉原の駅前でマジックの道具を街頭販売しているおじさんがいると聞いていたが、今まで一度も見たことがなかった。東京に行った折、秋葉原にも年に一度くらいは寄っているのに、これまで一度も見かけなかったのは、私が行くのとは違う場所で営業しているのだろうか。私がいつも行っているコースでは会えないことがわかっていたので、今回は駅前でたずねてみた。すると駅の真ん前、ロータリーのところでやっていることがわかった。

街頭販売と聞いていたので、縦横1メートルくらいの小さなテーブルを広げて、せいぜい数種類のネタを販売しているのだろうと思っていた。実際に行ってみると、上の写真のようにかなり大きな台の上に、ネタだけでも200種類以上置いている。いかにも人の良さそうなおじさんが、客のリクエストにやさしく応対していた。

記念に何か買っていこうと思い、しばらく眺めていたが欲しいものも見つからないので、結局何も買わずに離れた。

この後2時間ほど電気街の中をぶらついていた。

いったんホテルに帰り、東京国際フォーラムに向かう。ランス・バートンのショーの内容については「ショー&レクチャー」に書いたので、興味のある方はお読みいただきたい。

5日の夜の部が最後なので、マニアが大勢来ていることは想像できたが、プロマジシャンも随分見かけた。テンヨーの鈴木さんもお見えになっていたので、どこかでお話でもしたかったのだが、私がホテルで人と会う約束があったため、後ろ髪を引かれる思いで先に帰ってきた。

 


某月某日

昨年10月にオープンした静岡のエスパルス・マジックホールが、6月末で常設という形は閉じることになった。一度は行きたいと思いながら、これまで行く機会が持てなかったことが、ずっと気になっていた。おまけに半月前ほどから、マジック・ホールの総合プロデューサーである蓮井さんが重病という噂がインターネットを通じて駆けめぐり、それならお見舞いを兼ねて行こうと、東京方面のメンバーとも話がまとまった。恐る恐る、電話で蓮井さんの奥様に病気の様子をおたずねしたら、「あれはウソよ〜」と笑っておられたので、ホッとしたもののあわてた。すでに蓮井さん重体説がインターネットに乗って日本中をかけめぐっていたからなのだが、幸いにも訂正するのもインターネットを使えばすぐにできた。何にせよ、蓮井さんがお元気でいらっしゃることがわかり、一同気楽にマジックホールを訪問できることになった。

当日の朝、新大阪を8時半のひかりに乗ると、11時頃にはエスパルスドリームプラザに着いていた。午後1時30分からの部をみんなで見るつもりなので、だいぶ早く着いたが、ここには「おもちゃ博物館」や、「すしミュージアム」もあるので、そちらに行ってみる。昼になると食べるところは混みそうだったので、先に「すしミュージアム」に行ってみた。 すしの歴史や、昔の清水の町並みが再現された通りなどもある。実際に食べられるすし屋だけでも7、8店あり、どこも新鮮なネタを手頃な値段で出している。インドまぐろのトロにしても、銀座で食べたら万札が出ていきそうなネタが二千円程度で食べられた。

この後、北原照久氏がなさっている「清水おもちゃ博物館」に行く。(大人700円、子供400円)

昔の小学校のような作りになっていて、各部屋はそれぞれテーマ別に別れている。ゼンマイで動くもの、セルロイドでできたもの、ミニカー、キャラクター別のものなど、十以上の部屋があった。ロボット類は昭和20年代後半から30年代前半にかけて、電池で動くものが出回り始めた頃のものがあったが、そのうちの何点かは私が子供の頃持っていたものがあり、懐かしかった。

ロボット

ただ私の場合、このようなおもちゃを買ってもらっても、2,3日したら、ドライバーやペンチを持ってきて、分解するのが常であった。買ってもらったロボットも1週間後にはバラバラになっており、幼稚園か、小学校の低学年であった私には、組み立て直すだけの能力はないため、残骸ばかりが転がっていた。

どうして動くのか、その仕掛けが知りたくてついバラしてしまう。マジックも、どうしてそのようなことができるのかを知りたくて、いまだにネタを買い続けている。どうやらこれは子供の頃、ロボットをはじめ、不思議なものを見たらメカを解明しないことには気が済まなかったことと同じ好奇心なのだろう。「三つ子の魂百まで」と言うものの、「好奇心のかたまり」というエネルギーが私にはついたのだろうか。

 


マジックショップ1時前に、4階にあるマジックホールの前で待ち合わせをしていたので、そちらに向かう。マジックホールを入ったところにはマジックショップもある。テンヨーの商品が中心だが、小野坂東さんデザインのオリジナルトランプがあったので、ここではそれだけを買った。

前日、東京ではクロース・アップ・マジックを見せる会があり、そこには横浜の二川さんと浜松の池田さん(プー博士)も出演されていた。特に池田さんがこのようなマニアばかりの会に出演されるのは大変珍しい。

東京方面からはこのお二人の他に田代さん、木本さん、稲垣さんご夫妻(いなさん&INAZUMAさん)、関西からは私とSさんの計7名が集まった。

ショーの模様はすでに「ショー&レクチャー」に書いたので、これも興味のある方はお読み頂きたい。

ショーが約50分間で終わり、3階にあるカフェバー「マジックウェーブ」に行く。ここは太陽の光が降りそそぐ明るいカフェであった。清水港も一望でき、すばらしい景色を眺めながらお茶や軽い食事ができる。5時半以降はバータイムになる。夜景もすばらしいので夜のデートには最適だろう。(バータイム:平日17:30〜25:00a.m. 金曜、土曜休日前27:00a.m.まで)

「静岡クロースアップマジシャンズクラブ」の岡本さんも来てくださり、今回のメンバー全員で歓談する。岡本さんには3年ほど前、三田さんと一緒に蓮井さんのお宅にお邪魔した折、色々とネタに関して興味深い話を伺えた。「ワン・ツー・スリー」という日本奇術協会が出している雑誌に、ギミックのことを連載されていたほどだから、世界中のネタに関して精通しておられる。少しでも興味を引かれるものがあると手に入れたくて仕方がないのは、私や蓮井さんなどともよく似た部分があり、そのような点でも話をうかがっていても飽きることがない。

また、浜松で「プーこどもクリニック」を開業しておられる池田さんとも今回はじめてお話しできる機会がもてた。実際には、私が池田さんのマジックを生で見るのはこれが二度目である。一度目は二十数年前、東京で沢浩氏が天海賞を受賞されたときの出版記念パーティのことである。池田さんはそのパーティにゲスト出演されていた。そのときの演技を見せていただいてからずっと、池田さんは私が描いているアマチュア・マジシャンのひとつの理想像であった。

奇をてらうこともなく、自分の好きなマジックに少しずつ改良を加え、手塩に掛けて磨き上げた作品が多く、演出やセリフの端々にも池田さんのセンスが光っている。その後、パソコン通信が始まってから、メールの交換は続いているのだが、二人とも出不精であり、これまで直接お目にかかる機会はなかったのだが、今回、二十数年ぶりにお目にかかれた。

マジックウェーブでは数種類のクロースアップマジックを見せていただけたが、そのどれもがセリフまで詳細に練り上げられているのがわかり、本当に楽しませていただいた。

池田さんに見せていただいていたら、「観客は紳士にだまされるのなら悪い気はしないものだ」という、ライプチッヒの言葉が思い浮かんできた。

念写

上の写真はSさんを相手に、池田さんが撮影してくださった「念写」である。相手にカードを一枚取ってもらい、それを心の中で強く念じてもらってから写真を撮ると、上の写真のように額のあたりに客の覚えたカードも一緒に「念写」される。このマジックはマニアの間では昔からよく知られているが、これができるタイプのカメラは数万円するため、このマジックのためだけに購入するにはちょっと抵抗があった。しかし、これが現在コンビニなどに置いてある大変安いポラロイドで実演できることを教えていただいた。 (something interestingに関連情報あり。)

上の写真で、カードのさらに奥に、かすかに写っているのは誰かの亡霊ではない。少々疲れ気味の田代氏である。

あと、東京から稲垣さんご夫妻もお見えになっていた。パソコン通信やインターネットの世界では、「いなさん」「INAZUMA」さんとしてよく知られたお二人である。

以前からお名前はよく存じ上げていたが、今回、NDMCの2次会でお目にかかってから、ランス・バートンのショー、静岡と、立て続けにお会いできた。お二人は年間数多くのショーをご覧になり、詳細なレポートを発表したり、イベント情報を伝えてくださっている。これはマジック界にとっても大変貴重で、ありがたいことだと思っている。

少し遅れて二川さんもドリームプラザに到着された。全員で午後4時のショーをもう一度見せていただき、その後、近所の居酒屋、「磯」に集まる。日曜でお休みのところを、ご主人がマジックファンなので、ご無理を言って開けていただいた。 蓮井さんやフィル・ケラーさんも来てくださり、話が弾んだ。

蓮井さん、フィル・ケラー

左から蓮井さん、Sさん、フィル・ケラーさん

フィル・ケラーさんはフランスの出身だが、こどもの頃、島田晴夫やリチャード・ロスの演技にあこがれていたそうだ。12歳のとき、「8本使うリンキングリング」をやったのが初めてのマジックだともおっしゃっていた。

日本の文化が好きで、畳や障子のある家をフランスでも持ちたいのだそうだ。実際、蓮井さんが初めてフィルが泊まっている部屋に行ったとき、フィルのために床はフローリングでベッドが備え付けられている部屋を準備したあったはずなのに、ベッドはどこかへ片づけられ、フローリングの上に畳を敷いて、布団が置いてあったそうだ。

フランスに帰るときは灯籠の古いものももって帰りたいそうだが、これはなかなか手頃なものが見つからないと嘆いていた。

 


某月某日

「東京マジック」の代表者の方から電話があった。電話の内容は「魔法都市案内」の中で私が紹介したこの店の商品についてであった。

ここの商品に限らないが、私はごく一部の例外を除いて、すべて自分で購入したものだけを紹介している。紹介文の中には私自身が感じた不満も含まれることがある。しかし私にとって、まったく使い物にならないネタは取り上げることさえしない。商品紹介などで紹介しているものは、私が購入したものの中でも1割もないだろう。9割はボツネタとして、紹介もせずにほうってある。曲がりなりにも紹介しているものは、どこか私の興味を引いたものに限っている。

今回の電話は、東京マジックが売り出している商品のうち、私が一部批判的なことを書いている部分を会社の人が読み、代表の方に連絡したようだ。最初電話を受けたとき、てっきり私の書いたものを削除して欲しいというようなことを言ってくるのかと思った。もしそうなら、よい機会なので徹底的に話し合おうと思っていた。

しかし、実際にはそうではなく、私が書いていた批判に対しての釈明と、現在その商品がどうなっているか、そして他の購入者からも聞こえてくる不満の声に対する説明であり、大変紳士的なものであった。

私としてもこのような形で商品や、添付されている解説書が改善され、広告の表現にももう少し注意が払われるようになるのなら大変うれしい。「魔法都市案内」で書いたものが、メーカーサイドからこのような形でフィードバックがあったのは、開設して3年目にしてはじめてのことであった。

某月某日

大阪奇術愛好会の例会当日、「今日の例会には若い女性を8名!お連れするのでよろしく」というメールが福岡さんから届いた。他のメンバーはカードマジックが多くなるから、私にはカードマジック以外のものを見せるようにと添えてあった。

そんなこと突然言われても困るのに、例会は7時頃だから、それまでに何とかしようと昼食を食べながら考える。人にはしっかり練習してから見せろと言っているのに、自分は泥縄なんだから、ろくなものじゃない。昼頃まだ決まらず、5時頃、梅田のヘップファイブにある「ポムの樹」でオムライスを食べながら思案していた。8人の女性が福岡さんとどんな関係なのか、今までマジックを見せたことがあるのかどうかもわからないし、それによって見せるものが変わってくる。この辺りのことがわからないと決めにくい。確認のため、福岡さんにメールを送ってみると折りかえし返事が来た。最近は携帯電話で家に届いてるメールが読めるので助かる。するとこれまでまったくマジックは見せたことがないことがわかった。それなら何をやっても重複することもないと思い、だいぶ気が楽になった。

ざっと7,8種類準備してきたが、そのうち2点と、後で時間があればもう一つか二つやるつもりで準備だけはしておいた。

大阪奇術愛好会

例会に8名も女性が見学に来てくださるのは大変珍しいことで、100年に一度もないことだと思う。私が愛好会に入った1975年くらいからでも、一度も記憶にない。

メンバーも普段と勝手が違い、だいぶ手こずっていた。まあ、このような場を年に何度か持てるだけでも大変勉強になるので、機会があればまたお連れしていただくよう、お願いしておいた。

 

マジェイア


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