魔法都市日記(21)

1998年8月頃


8月から9月にかけて、私の知人がひと月ほどの間に3名亡くなった。しかもみんな私より若い人達であったので余計にこたえた。(私はまだ40代ですよ) また、アメリカではつい最近、このサイトで紹介した方が2名亡くなっている。亡くなった話ばかりでは暗くなるかもしれないが、彼らへのレクイエムのつもりでお知らせすることにした。

一人は今年の7月頃、「商品紹介」で紹介した"Walking on Air"の考案者、ボブ・マカリスター氏。これを紹介したときにも書いたように、作者は見た目、60歳くらいなのに、歩くだけで息切れするような人であった。まあ、そのような人でも「空中に浮く」ことができるので、このトリックは体力はほとんど不要であることがわかる。せいぜい、階段を上り下りできる程度の体力があれば誰でも「浮かぶ」ことができる。アイディアは笑ってしまうようなものだが、確かに実演可能なので私も紹介した。意外なくらい好評で、数名の方からさらに問い合わせがあった。ある方など、あれを紹介したすぐ後に、早速ハンクリーに注文したら、折り返し返事が来て、考案者が亡くなったので製造できなくなったという知らせを受けたそうだ。おもしろいトリックだからそのうちどこかのショップが権利を買い取り、再び売り出すとは思うが、今のところ入手できないらしい。

もう一人はマイケル・スキナー。9月2日に亡くなった。20数年前になるが、彼が初来日のとき、名古屋で開かれたレクチャーに私も参加した。彼はいつもトランプやコインを1枚をテーブルの上に置くときでさえ、どうやれば一番きれいに見えるかを意識しながらやっていた。そのため、全体の雰囲気も繊細で詩的である。いかにも正統派を感じさせる落ち着きがあり、私の好きなマジシャンの一人であった。

その後、ハリウッドのマジック・キャスルで活躍した後、亡くなる直前まで長い間ラスベガスのホテルでクロース・アップ・マジックを見せていた。今年のはじめ、やはりダイ・ヴァーノンの高弟であったラリー・ジェニングスが亡くなり、続いてマイケル・スキナーまで亡くなってしまい、ヴァーノンの弟子であった正統派クロース・アップ・マジシャンが次々と消えて行くのはなんとも寂しい。スキナーはまだ51歳であったが、今年の夏発売された彼のビデオ(全部で7本)を見ると、手は震えているし、体調もすでによくなかったのだろう。

そのことを思えば、ヴァーノンは元気であった。1969年に日本に来たときすでに73歳であったが、驚異的に達者であった。あのとき、ヴァーノンはカップアンドボールでウォンドを回転させてボールを消す「スピニング・ウォンド・ヴァニッシュ」などもきれいにやっていたのを思うと、スキナーの51歳は若すぎる。まあ、こればかりはいかんともし難いことだが、彼のように、オーソドックスなマジックをきちんと見せる人が歳を重ねて、渋みのあるマジシャンになってくれることを期待していただけに残念である。お二人のご冥福を祈る。


そんなこんなで、8月は私自身、マジックはほとんどできなかったが、メールはたくさんいただいた。特に、前回の「魔法都市日記」でPerfect Watchのことに触れたら、それの問い合わせのメールだけでも20通ほどいただいた。あれはMusiCallを持っていないとまったく意味がないので、ごく限られた人しかできないと思うのに、それでも20名くらいの方からメールが届いたということはその10倍以上、ROMの人はいるのだろう。そして実際にswatch社のMusiCallを買った人がそれだけいると思うと、影響力の大きさに自分でも驚いてしまう。アメリカの雑誌に載っていたのを友人のF教授が知らせてくれたのがきっかけで紹介したら、こんな大きな反響を巻き起こすことになるとは想像もしていなかった。勿論、私自身おもしろいと思ったから紹介したのだが、これほどみんなの関心を引くとは想像できなかった。これも彼の選球眼の良さだと思っている。好みがあうというのは何かにつけてうれしい。

また、これとは別に、外国からのメールもこのところ急増している。私のサイトは日本語でしか書いていないのに、何でこんなに海外からの問い合わせが多いのか不思議である。「商品紹介」やフレッド・カップス特集は、タイトルだけでも英語にしているものが多いので、gooやinfoseek等の検索エンジンで検索すると、海外からでも引っかかるのだろうか。

先日も、熱狂的なフレッド・カップス・フリークの人からメールが来て、「英語で読めないのなら、私が日本語を勉強する」とまで言ってきた。(笑) 写真とタイトルだけでも、だいたいの内容と雰囲気はわかるようだ。「魔法都市案内」、「マジェイアのカフェ」全体を英語版にできたらと思うが、これを全部英語にするとなると、時間の面でも能力の面でも、私の力では荷が重い。将来、優秀な翻訳ソフトでも出てきたら考えてみようか。

逆に、私自身の知らないことや、忘れていることについて、「魔法都市案内」の中で触れたら、早速メールで教えてくださった方も何人かいた。また、私が好きそうなマジックを教えてくださったり、演出面でのヒントなどを連絡してくださった方もいた。今月は最近いただいたメールから、そのようなものをいくつかご紹介させていただく。

某月某日

「魔法都市日記(19)」で、金属製のサムチップを晃天会のディーラーの方からいただいたが、適当な使い道を思いつかないと書いたら、以前から何度かメールの交換をしているO氏が教えてくださった。

Zippoこれは火を指先につまむ演技に使えるそうだ。ローソクに火がついている状態で、親指と人差し指で炎をつまむとローソクの火は消え、指先に火が移る。それでタバコなどに火をつけると、演技の中でちょっとしたアクセントになる。また、O氏は、喫茶店で友人がライターに火をつけたので、その火をさりげなくつまんで、自分の指先に炎を移し、それで自分のタバコに火をつけたそうだ。この光景を少し離れたとこから偶然見ていた人、これは別のテーブルのまったく関係のない人なのだが、今見た場面が信じられなく、唖然としてO氏のほうを眺めていたそうだ。

確かに、マジックが最も効果的に見えるのはこのような状況だろう。マジックのことなどまったく考えていないときに、不思議な現象をさりげなく起こされると、自分の目を疑ってしまうほど驚く。マジックの本質である「意外性」が最も効果的に発揮できるのはこのようなときだと思う。

実際のやり方は、金属製のサムチップの先端にZIPPOの芯が通る程度の穴を開け、芯を少し出しておく。芯にはオイルを前もってしみ込ませておく必要はあるだろう。その程度の加工をするだけで、ローソクやライターの火を数秒間、指先に灯すことはできると思う。火はすぐに指先に移るから、ローソクの芯の部分をサムチップの腹でつまめば消える。見ていると、炎だけをローソクから指先に移動させたように見える。

某月某日

某大学の奇術部の方から、この秋の大学祭で「モンゴリアン・クロック」「パーフェクト・ウォッチ」を組み合わせて使ってもよいかという、許可を求めるメールをいただいた。

「モンゴリアン・クロック」のときに紹介した「トランプ物語」と私の演出、それに「パーフェクト・ウオッチ」を組み合わせたら、ちょっとしたルーティンが組める。詳しい演出方法は大学祭がまだ終わっていないので書けないが、最初、「モンゴリアン・クロック」を演じて、「現在のモンゴルでは....」ということで、「パーフェクト・ウオッチ」か「パーフェクト・タイム」につなげるとおもしろそうなストーリーが作れそうだ。同じような現象のマジックを連続して演じることはよくないのだが、この二つはどちらも「時間」がテーマになっているとはいえ、扱う素材が「トランプ」と「本物の時計」なので、テーブルに出してきたとき、観客にはまったく違う印象を与えるので興味をそぐことないと思う。

某月某日

東京堂出版から出ているマジックの季刊誌に、『ザ・マジック』がある。「魔法都市案内」を読んで下さっている方であれば皆さんご存じだと思う。先日、レギュラー執筆者のお一人、プー博士がVol.37をわざわざ贈ってきてくださった。(9月現在、発売中)インターネットも大変普及してきており、マジック界でよく知られた方からメールをいただく機会も増えたが、プー博士こと、池田先生は昔から私がアマチュアマジシャンとして、ひとつの理想としてイメージしていた方のなので、そのような方が「魔法都市案内」にいつも来てくださっているのを知ってとてもうれしい。

Vol.37では、「音楽は心に残る」というタイトルのマジックを解説してくださっている。現象をざっと説明しておくと、十数枚の漢字が書かれたカードがあり、一枚のカードには、漢字がひとつだけ書いてある。「運」「水」「季」「田」「月」「四」等である。これをよく切り混ぜ、演者と観客が一枚ずつ、裏向きのまま選ぶ。選ばれた2枚のカードを表向きにすると、「四」と「季」である。2枚を続けて読むと「四季」になる。ここで、このマジックを始める前からかかっていた音楽に耳を傾けてもらうと、ビバルディの「四季」が流れていることに気がつく。音楽が、二人の潜在意識に影響を及ぼしたのかも知れない。

ざっと以上のようなものだが、詳しいやり方は現在発売中の『ザ・マジック』(Vol.37)をお読みいただきたい。

このマジックは、ジャンボカード程度の大きさで作れば、ステージでも十分実演可能である。結婚式などで演じても洒落たマジックになると思う。例えば、前もって裏方にお願いしておいて、「四季」をかけてもらってから演じれば、最後のオチのとき、「お二人もこれから様々を四季迎えられることとと思います。楽しいこともつらいこともあるでしょうが、人生とはそのようなものです。春・夏・秋・冬にそれぞれ意味があるように、後から振り返れば、お二人に訪れる数多くの 「季節」もすべて意味があることです。そのような季節をひとつひとつ力を合わせてお二人で乗り越えていただきたいと願っています」と結べば、スピーチのネタにも使えそう。(笑)

ありがとうございました。>プー博士

また、このVol.37には「魔法都市日記(18)」で紹介した、松田道弘氏のカードマジックが載っている。I.B.M.の例会で見せていただいたもので、「カードパズル」というヴァーノンの古いマジックを元に、松田さんがアレンジされたものである。私は新しいテーマかと思ったら、ヴァーノンが1931年に出した『20ドルのマニスクリプト』に発表したトリックであった。私も昔読んだはずだが、完璧に忘れていた。こんなものまで松田さんの頭には詰まっているのだから呆れてしまう。

マジェイア

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