談話室|設計 Note


瓦の心


*** ぬれて情けを見せて、しかも雨を通さず ***

設計の大先輩が語ってくれた、たったこれだけの言葉が、未だ耳の奥底に残っています。

日本に限らず、世界中の風景に魅力を添えている屋根瓦。
今更説明も不要な程人々に親しまれ、それゆえにこそ使うにためらいを覚えさせる素材でもあります。

かつて私たちをとりまいていた環境は皆そうでした、木 にしろ、土壁 にしろ、土間の三和土(タタキ)、石垣もそうでした。

それがいつのまにか、雨やよごれは、その表層で完璧に拒絶され、表面はいつもかわらずきれいな状況を保つ材料に置換えられ、一見豪華な表装の、ピカピカにきれいで、薄っぺらな材料で内も外もおおいつくされようとしています。

何億年の歴史をもつ石材にしてさえも、スライスされ、研磨され、表面の肌理のみが評価される状況なのです。

これは、いたたまれない状況に思えるのです。
本当にこの国は豊かになったといえるのでしょうか?

シックハウス対策、健康住宅志向等、体の健康への影響も大切なことにちがいないのですが、こうした薄っぺらで、ピカピカの環境のなかで子供達の心や感性が、健康に育ちゆくのか、余計な心配までしてしまいます。

いいことも悪い事も表面ではなく、心でうけとめしかも自分自身を失わない。

人としても、住いを設計する者としても、そうありたいと願うのですが、「瓦の心」には遠く及ばない現在です。