(1) 痛 み
痛みがあれば、ほとんどの場合弾くことを中断するので、それ以上悪化すること
は少ないと思われます。この様な症状の多くは、弾き過ぎのための「筋肉痛」か、
腱と腱鞘がこすれる「炎症」です。いわゆる「腱鞘炎」です。
“毎日5時間以上、何日間も弾き続けた”という心当たりのある場合は、少し練習
時間を控えるか、応急処置として練習後または熱をもって痛みがでた時に冷水など
で冷やす必要があります。
また、数週間休めているにも拘らず痛む場合は、指への血行不良で痛みを生じて
いることも考えられますので、指を温めるとよいでしょう。但し、この血行不良は、
体全体の冷えから生じていることもあって肩から腕全体を温める配慮が必要です。
(2) し び れ
しびれは、「手のひら全体に感じる」「薬指と小指に感じる」「親指と人差し指など
部分的に感じる」場合等があります。しびれは、「慢性的な血行不良」ですので、放
っておくと“指が動かない”等の症状に移行する恐れがあるので注意が必要です。手
首、肘、肩などの関節で慢性的な腫れ・コリのため神経が圧迫を受けて血行が不十分
になる場合の他、首のゆがみに原因のあるもの等が考えられますので、原因となる部
分を探し、温めることが重要です。
(3) む く み
練習を行った翌日に、手と指が膨らんだ感じがあり、手を握ろうとすると痛みがあ
って十分に握れない状態が多いようです。無理なフォームで指を使い過ぎたため血液
が溜まり、指の悪い血液が心臓に還らずに手指の部分に鬱血(うっけつ)してしまっ
た状態です。弾き過ぎの他に、夜更かし、身体の過労、動脈硬化、タバコの吸いすぎ
等も引き金となってきますので注意が必要です。これは、立ち仕事が続いた時などに
足が浮腫む(むくむ)のと同じメカニズムと考えます。足が浮腫んだ時に足を高くし
て寝ころがるのが良いように、手の浮腫みを解消するためには、手先を心臓よりも高
い位置に挙げて腕・肘・肩を回す運動を多くすることです。まずは運動することで、
肩から腕にかけての血行を十分に回復させておくことが基本になります。
また、手のフォームや肩に無理がないかどうか点検し、脱力した状態を体得する必
要があります。手が浮腫んでいて、足や瞼(まぶた)まで浮腫んでいる、更にその色
が悪い場合は、手だけの問題ではなく全身的な疲労が考えられます。
(4)動きがおかしい、動かない
「痛み」や「ふるえ」等は、発症した後一ヶ月ぐらい休めておけば治るものが多く、
軽い症状であると考えられます。但し、休められずどうしても弾いてしまって、常に
これらの症状の続く場合は、慢性化させないために適切な養生が必要です。
さて、本題の「おかしな動きをする、動かない」についてですが、この状態に陥る前に「何かオカシイ?」
という時期が数週間から数か月程あり、本人も自覚しています。しかし、練習不足と思い、何と
か弾けるようにしようと工夫しているうちに更にひどくなって「これはもしかしたら
…?」と気がつくようです。
医学的に考えて、動きにくくなっている状態の方が痛みよりも事態は深刻である
ということです。これらの「おかしな動きをする、動かない」状態は、痛みを伴わない程度の炎症を繰り返
して徐々に上半身も固くなってくる慢性的な筋疲労状態です。この状態になると、整
形外科などの検査で日常生活に支障のない場合は「異常なし」とみなされてしまう場
合がほとんどのようです。(「異常がある」場合は、手術を行うことが多くなります。
但し、手指の手術は大変難しいそうで、術後のリハビリ等により、日常生活では支障
がなくなったとしても、楽器を弾くというレベルまで完全に回復するかは担当医とよく相談してから決めてい
ただきたいと考えています。) 「異常なし」とみなされた場合であっても,この「動
かない」に該当している場合は、治癒に長い期間が必要になります。「おかしな動きをする、動かない」「動
かないことがある」の重症度に合わせ、演奏を控えたほうが賢明です。
「おかしな動きをする、動かない」や「どうも動きがおかしい?」ものについては、基本的には弾かない
方がよいといえます。休んでいる間の筋力の低下は仕方のないことです。もともと指
に負荷をかけたことによって生じたわけですから、ギターを弾かず、「指を空振りす
る、動かす」ようなリハビリを行って、筋の萎縮をとりあえず抑えておくぐらいにと
どめます。 腱鞘炎を患った多くの患者さんの経験から見て、単に筋肉の構造、機能面だけを考慮しての「弱いから鍛えればいい!」という考え方は、健康な動きをする指にだけ適応できる鍛え方であって、病んでしまった指、動かなくなった指に対してこの鍛え方を実践することは、更に悪化させ、指の「巻き込み」に発展してしまうため注意が必要なのです。
症状の現れた時が、何年も前からであれば、修復にも時間が掛かります。現在以上
に悪化させないためにも、前述の「腱鞘炎自己診断テスト」でいつもご自分の指を点検し、
早めに対処することをお勧めします。
そして、ここまで至ったということは、疲労が首から肩甲骨にいたり、更に腕が堅
くなり、手に及んだということです。
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