1.『輸血用製剤の安全性に関する報告書』抜粋
(血液問題検討会 1995年6月)
1.はじめに
わが国では、日本赤十字社を中心とした関係者のたゆまぬ努力により、輸血用血液製剤の供給が安定的に確保されている。
今日、輸血用血液製剤は全て国内献血によって賄われており、国内自給を支える献血制度は、安定供給及び安全性の確保に大きく貢献している。献血制度は、わが国の血液事業の文字通り根幹をなすもので、世界に誇り得るものである。
また、無償で自発的に行われる献血は、安定供給及び安全性の確保に貢献するのみならず、倫理面においてもわが国の血液事業の倫理性を一層高めており、言わば人と人との連帯を示す行為として、その根底にある人々の善意は高く評価されなければならない。
輸血用血液製剤の安全性に関しては、献血による国内自給のほか、血液検査を始めとする種々の方策の研究及び試行がなされ、また実施に移されてきた。その結果、わが国における安全性の確保対策は、世界的にも高い水準にある。
しかしながら、その成果をもってしても、現在の科学技術の水準の下では、ウイルスなどの感染や免疫反応等による副作用を、技術的に完全に排除することは困難である。
その一方で、国民の輸血用血液製剤の安全性に対する意識は高まっており、適正使用と相俟って輸血用血液製剤の安全性確保は、今日的課題となっている。
本検討会では、以上の背景を踏まえながら、輸血用血液製剤の安全性の確保に関する検討を鋭意行い、以下のような結論に達した。
2.輸血用血液製剤の安全性確保対策
輸血用血液製剤の安全性を確保するには、製剤の調整過程での最近混入の防止などの品質管理と共に、受血者への感染症の伝播や免疫反応等による副作用の防止が重要である。
このため、問診で特定の疾病または危険因子を有することが明らかになった者を献血から排除すること、血液検査の結果から受血者にとって危険性があることが確認された場合や、採血後に当人より輸血に供されるべきではないことが申し立てられた場合、当該血液を廃棄すること、移植片対宿主病(GVHD)予防のため、主治医の判断により製剤に放射線を照射することなどの対応がとられてきた。
これらの対策が適切に行われることが、受血者の安全性確保にとって重要である。
(1)献血者
@献血者の啓発、理解
献血者からの採血に際しては、献血者自身の健康に悪影響を来たさないよう十分な対応がとられることは当然であるが、他方、輸血用血液製剤は、患者の生命・健康に直接関わるものであり、受血者に対する安全性の確保に可能な限りの対応がなされなければならない。
献血者には、献血の方法や危険性などに関する理解が必要であるが、併せて「受血者に安全な血液」の提供に関しても、正しい知識と理解があるべきであり、受血者の安全を考えた「自身のある献血」の姿勢が必要となる。
このため、献血者に対して、問診の意義・目的や、検査を目的とした献血の危険性、後述の自己申告の重要性などが正しく理解される必要がある。
また、広く国民に対しても、輸血用血液製剤の安全性に関する啓発を図り、献血の善意が受血者に伝わることが重要である。
検査を目的とした献血は、善意の献血から程遠いものであり、感染初期の場合、検査による感染の事実の発見は困難で、受血者の安全を脅かす恐れが大きく問題がある。従って、検査を目的とした献血は排除されねばならない。
また、外国人等で、言語の障壁等のため問診による安全性の確認をなし得ない場合は、献血を受け入れない。
献血者の同意に関しては、米国では、ア)問診に対し事実を答えたこと、イ)受血者の安全性確保の観点から献血できない条件を理解したこと、ウ)血液検査の結果などから、受血者に対してエイズやその他の疾患を感染させる危険性があることが明らかになった場合その血液は輸血に使用されないこと、などについて同意したことを署名により確認するという対応がとられており、これらのことは参考にすべきである。
また、受血者に対して危険性があるため輸血に使用できない血液を、輸血の安全性の確保のための検査及び安全性の向上を目的とする研究のために使用することがあり得ることについて、献血者に対して説明をする必要がある。
A問診の実施
輸血用血液製剤は、実施し得る全ての予防措置をとったとしても安全性が完全に確保されるものではないが、適切に問診及び検査等が実施されることで、受血者への感染症の伝播等のリスクを最小限に食い止めることは可能である。
問診は病原体に対する実施可能なマススクリーニング法がある場合であっても、感染直後から抗原または抗体が検出できるまでの感染の事実を検知できない期間(ウインドウピリオド)における実施可能な唯一の排除方法であり、検査の限界を補う唯一の方法である。
特に、今後のHIV感染の拡大の可能性を考えればその重要性はますます増大する。したがってHIVに感染している可能性のある者を献血から排除すべく、個人のプライバシーに十分な配慮を払いつつ、具体的に踏み込んだ問診を行うことも、受血者の安全を考慮すればやむを得ない。この点既に外国の問診では、HIV感染の危険性に関してより具体的に聴取されており参考となる。
問診は、また、エプスタイン・バーウイルスやヒトパルボウイルスB19、プリオン等現在ではマススクリーニングが不可能な病原体についても、その輸血を介する感染の危険性の唯一の排除方法である。
さらに、マラリアやシャーガス病等についても、海外旅行者や海外で生活をしたものなどの増加とともにわが国においても感染の危険性が高まる可能性があり、今後問診に際して注意を払っていく必要がある。
問診項目に関しては、問診について全国一定の質の確保を図る目的から、その項目は全国で統一されたものにすべきである。
また、問診項目個々について「はい」なのか「いいえ」なのかを問われることが、問診を受けるものの各問診項目の内容に対する理解を一層確かなものとし、正確な回答に繋がると思われる。
輸血後に発生した感染症等の原因精査のため、問診の記録を必要な期間保存しておく必要がある。
なお別添の問診票は、前述の内容及び「4.個別の安全性確保対策」を踏まえたもので、参考例として示したものである。
B自己申告
献血された血液の安全性について献血者本人が自信を持てないと再考した場合には、例えば献血後にそのことを申し立てる方法が用意されていることは、提供された血液の安全性を一層高めることになる。
既にわが国においては、献血を終えた者からの、HIVに感染している恐れがある旨の申し出を電話によって受け付けてきた。
わが国のHIV抗体陽性者率が上昇していることを考慮すれば、今後このような自己申告の重要性はますます高まっていくと考えられる。したがって、献血者にその主旨及び重要性を十分に説明し、自己申告の実効性を高めていくことが必要である。
(2)検査
安全性確保のうえで最も重要なのは、検査の充実である。
これまで関係者の努力により、検査のための知識・技術の蓄積や人材の育成が行われてきた。
@検査項目
わが国で実施されている検査項目は、現在の科学的知見及び技術水準の下では適切なものであり、各国と比較してもほぼ同様の項目が網羅されている。
伝染の危険性のある病原体、あるいはその可能性が否定されていない病原体で、実施可能なスクリーニング法がない場合として、例えば、エプスタイン・バーウイルスや、ヒトパルポウイルスB19、プリオン等が挙げられるが、現在のところこれらは問診で対応する他に適切な方法は見当たらない。
A検査法
わが国でなされている各検査法の感度、特異性や信頼性等は、現在の科学技術の水準の下では最善のものである。
しかし、輸血用血液製剤の安全性向上に果たす検査の役割は大きく、技術の進歩に合わせて、試薬の変更等による検査法の改良や新たな検査法の導入などの検討は続けられるべきである。
B過去の献血時の検査結果
検査には、検出限界の問題が常に伴うが、これを補うものとして、前述の問診や自己申告に加え、過去の献血時の検査結果の活用の有効性について、今後検討することが望ましい。
(3)検査結果の通知
検査の結果、献血者の健康にとって看破できない異常が見つかり、献血者への通知が必要とされる場合がある。
しかし、その検査の医学的な意義や結果の持つ意味等について十分に説明がなされ得ない場合、いたずらに献血者の不安を招くのみである。また、その基準は輸血用血液製剤としての適否を判断するためのものであり、臨床の立場で診断をし、加療を要するか否かを判断する基準とは異なる。
したがって、献血者に対する検査結果の通知については、以上の点を考慮し、仮に通知するにしても、献血者自身が適切に理解し得るように、十分な配慮が必要である。
また、医療期間を訪れる代わりに、検査を目的として献血する行為は、前述のとおり受血者の健康を脅かすものである。
特にHIVに関しては、受血者の安全を期するため、検査を目的とした者を可能な限り排除することが必要である。また、HIV抗体検査は輸血用血液製剤の安全性を確保するために行なうものであり、診断を目的として実施するものではない。したがって、HIV抗体の検査結果を通知しない方針であることを明言することが現状においてとり得る最善の策である。HIV感染の診断のための検査を希望する場合には、保健所や専門の医療機関等を利用すべきであり、保健所においては居住地にかかわらず匿名で検査を受けられる。
また、HTLV−1に関しては、抗体陽性の者への通知のあり方について、本人の精神的苦痛に対する十分なカウンセリング等検討すべき点が残されている。現在厚生科学研究によって適切な方策が研究されているところであり、その結果を待って慎重に対応する必要がある。
3.警告表示[この項省略]
4.個別の安全性確保対策
輸血用血液製剤によって生じる個々の疾病の発生予防のための対応は、その危険性の防止を極端に図るとすれば、その一方で献血量の確保に困難を生じ、また、そのための費用負担が増嵩し、社会的に耐えがたい非現実的なものとなる。
したがって、個々の疾病の発生予防のための対応は、現在の科学及び技術水準を基本として、献血量の確保や費用負担も視野に入れつつ、多面的・多角的に検討していかねばならず、その中でいわば「最善の選択」を行っていく必要がある。
(1)ウイルス
@B型肝炎ウイルス(HBV)[この項省略]
AC型肝炎ウイルス(HCV)[この項省略]
B上記以外の肝炎ウイルス[この項省略]
Cヒト免疫不全ウイルス(HIV)
問診により、HIVに感染している危険性のある者を献血から排除する。
具体的には、一年以内に不特定のものと性的接触のあった者や、売(買)春行為をした者、麻薬や覚せい剤を不正に注射したことがある者等を献血から排除すべきである。
また、ウインドウペリオドの危険性を献血者に十分に理解してもらうことが大切である。
更に、自己申告の実効性を高めていく必要がある。
わが国のHIV抗体検査は、感度、特異性ともに世界的に優れた方法である。
抗体検査導入以降これまでのところ輸血によるHIV感染者の報告は見られない。
将来、技術などの進歩により、ウインドウピリオドを短縮し得る、より感度の高いマススクリーニング法の開発がなされた場合には、偽陽性による血液の廃棄が過剰にならないことや費用、信頼性等を考慮しつつその導入を検討すべきである。
DHTLV−T/U
EヒトパルボウイルスB19
Fサイトメガロウイルス
Gエプスタイン・バーウイルス(EBV)
Hその他のウイルス
[この項省略]
(2)細菌等
(3)原虫
(4)今後問題となる可能性のある感染症
(5)免疫反応など
(6)ワクチン、トキソイド及び抗血清
[この項省略]
5.輸血に伴う疾病発生の把握及び情報管理[この項省略]
6.技術の進歩・普及、新たな疾病への対応[この項省略]
7.おわりに[この項省略]
<添付されていた問診票(一部抜粋)>
14.この一年間に次のいずれかに該当することがありましたか。
@不特定の異性と性的接触をもった
A同性と性的接触をもった
B売(買)春行為をした
Cエイズ検査(HIV検査)で陽性と言われた
D麻薬・覚せい剤を注射した
E@〜Dに該当する者と性的接触をもった
advocacy#1-material#2.2.1.
advocacy#0(introduction) / advocacy#1(blood
donation scandal) / advocacy#2(mental health) / advocacy toppage
analyse interminable startpage / preface
/ profiles / essays / links / mail