乱れ撃ちディスク・レヴュー


Classic Editionはこちら↓

(1:96年その1)(2:96年その2)(3:97年その1)(4:97年その2)(5:97〜98年)

(6:1999年)(7:2000年その1)(8:2000年その2)(9:2001年)


BEADY EYE
 Different Gear, Still Speeding
 いやあ、本当に解散してしまったのだねえ、オアシスは。またいつもの兄弟喧嘩で、すぐに仲直りするだろう、と誰もが思ったんじゃないだろうか。
 しかし今回は違った。ノエル抜きで新バンド、ビーディー・アイが誕生したのだ。
 不安だったのは非凡なメロディ・メーカーであるノエル・ギャラガーの不在だ。リアムの勢いだけになりはしないか…そんな危惧を抱いた人もやはり多いに違いない。
 そしてこのニューアルバム。不安は当たったような気も、外れたような気もする。
 勢いはある。それは、やはり一旦リセットしてリフレッシュしたのだから、そうだろう。「ようし、やったるぜ!」的な、良い意味でベテランらしからぬ勢いの良さなのだ。これはアルバム全編に行き渡っていて、聴いていて大変気持ちのスカッとする作品になっている。
 ソングライティングについては、確かにリアムも腕が上がっていたこともあるが、考えてみるとこのバンドにはアンディ・ベルがいるではないか。元ライド、元ハリケーン#1のソングライターだったアンディが。彼も良いメロディを紡ぐ事の出来る、優秀なミュージシャンなのだ。作曲面に不安はほとんど無かったのだ。申し訳ない。
 内容的には「やっぱり、彼らはビートルズが好きなのね」という、王道なもの(まんま「Beatles And Stones」というタイトルの曲まである)。特に3曲目「The Roller」はジョンレノンの「インスタント・カーマ!」を彷彿とさせるが、聴く者を引きつけずにはいられない佳曲だ。全体的には「叙情性、ウェットさを少々そぎ落として、タイトになったオアシス」だろうか。
 まずはうまく行ったデビューだったと思う。何せ彼らもベテランであり、抜かりはあるまい。果たして「次は、どうなる?」という心配もあるにはあるが、それはそれ。今回の作品を楽しもう。(11.03.22)



LEE RITENOUR
 Lee Ritenour's 6 String Theory
 豪華メンバーに惹かれて、買いました。
 「往年の」と言ってしまっては失礼かもしれないが、名ギタリストであるリー・リトナーが高名なギタリストたちと競演した贅沢なアルバム。リー自身が弾いていない曲もあるので、「リー・リトナー編」とでも言った方が適切かもしれない。
 それにしても何と言うメンバーか。列挙するだけでレヴューが終わってしまうかもしれない。ジョン・スコフィールド、ケブ・モ、タージ・マハール、パット・マルティーノ、ロバート・クレイ、スティーヴ・ルカサー、ニール・ショーン、スラッシュ、ジョージ・ベンソン、B.B.キング、マイク・スターン、そして日本から布袋寅泰、などなど。もう全編ギター弾きまくりのアルバムになっているので、自らギターを弾く人などは大変面白いんじゃなかろうか。ブラインドテストなど、楽しめるかもしれない。
 まあ、個々のプレイに関しては素人のわしがあれこれ言うことは全く無い。ただただ、その素晴らしくも楽しげなプレイを有り難く拝聴するのみ。サッカーで言えば世界オールスター戦だ。名人は名人を知る、といった趣きで相手を生かしながら自分も最高のプレイをする。もちろんすべてがセッションではなく、別録音の場合もあるわけ(例えば布袋寅泰は東京で録っている)だが、そう思わせない「作品」として見事に成立しているのだ。
 曲によってリズム隊は異なるが、数曲にベースでタル(・ウィルケンフェルド)ちゃんもしっかり参加。1曲はギタリストと対等にフィーチャーされていて、ビシバシ弾いております。(10.08.04)



JEFF BECK
 Emotion & Commotion
 最近よく聴くようになりました、今頃すいません、ジェフ先生。
 きっかけはBSハイヴィジョンで放送していたライヴ。大きなベースを抱きかかえた女性ベーシスト、タル(・ウィルケンフェルド)ちゃん目当てと言えなくはなかったのだが、やはり巨匠のプレイには惹きつけられざるを得なかったのだ。凄いよ、恰好良いよ。とっくに還暦を過ぎたお方とは思えないぞ。「枯れる」という概念が全く当てはまらない。いやこれはもう、マイブームが到来したかも?
 それから、あらためて過去の名盤(「トゥルース」「ブロウ・バイ・ブロウ」など)を聴き直して、その素晴らしさを再確認。何故今まで琴線に触れなかったのだろう?それどころか、「クラプトンやジミー・ペイジに比べてつまらないなあ」とさえ思ってきたのだ。やはり陳謝せねばなるまい。これからは悔い改めます。
 そんなナイスなタイミングで新作の登場。BSライヴと同様、ベビーフェイスなタルちゃんがベースを弾き、名手ヴィニー・カリウタがドラムをバシバシ叩く。しかし、それ以外にもオーケストラを配した中でむせび泣くギターが流れる曲もあり、「虹の彼方に」や「誰も寝てはならぬ」も演奏し、ジョス・ストーンなどの女性ヴォーカリストをフロントに迎えた曲もあり、とヴァラエティに富んだ作品である。
 ラジオで流れる「ハンマーヘッド」こそハードタッチの楽曲だが、その他はハードロックファンの方には一聴地味かもしれない。むしろジャズに近いものを感じさえするのだ。しかし実際は地味ではなく滋味である事が分かる。このギタープレイをよく噛みしめよう。大いなる感動が、そこにはある。(10.04.12)



PAT METHENY
 Orchestrion
 ジャケットを見て「何だこれは」。
 夥しい楽器の数々が一見雑然と、しかしある意思を持って立ち並んでいる。そうか、これらはメセニーによって全て息を吹き込まれているというわけか。
 新作はパットの鳴らすギターのバックはコンボでもグループでもなく、人でもなく、自動演奏装置なのである。一人でレコード作品を作る場合、普通ならば多重録音をしたり、コンピューターに演奏をさせる。これは当たり前の事なのだが、メセニーは今回そうした手法を採らなかった。あくまで同時に演奏する事にこだわったのだろうか、たくさんの楽器を機械仕掛けで同時に動かす事にしたのだ。タイトルの「オーケストリオン」というのはそうしたもののことを示すらしい。なるほど、昔はこういう「カラクリ仕掛け」みたいなものがあったのだろう。つまりは大掛かりなオルゴールみたいなものだろうか。いや、オルゴールがそれを究極的に簡素化したものなのかもしれない。
 「どんなもんかいな」と半分は興味本位で聴いてみたが、これがまた何という完成度の高い音楽か。「ただやってみました」的な作品などでは全くなく、メセニー本人がやりたいことを詰めていった結果がこれなのだろう、と納得させられてしまう傑作である。これらの装置は全てメセニーが仕掛けている。つまり、全ての楽器がメセニーの演奏なのだ。まさに「一人パット・メセニー・グループ」である。そう思えば完成度の高さも当然といえば当然。何せみんなメセニーなのだから。
 個人的にはパット・メセニーの作品というのは、聴いていて心地よいし何より本人が非常に楽しそうに弾いているのが伝わってくるので、よく聴く事は聴く。しかし、逆にあまり深いものを感じないし、聴き手の感情を鷲掴みにするようなものも無い、と感じていた。
 ところが、認識を改めた。この作品で決してそういう「軽い」人ではない事が分かってしまった。それどころか、底が知れない恐ろしい人ですらあったのだ。一気に興味が湧いてきた。あの屈託の無さそうな笑顔に騙されてはいけないのだ。
 そんな折り、来日公演があるとの事。名古屋にもやって来る。しかもこの「オーケストリオン」を引き連れての登場である。これは行かねばならないだろう。(10.03.10)



NORAH JONES
 The Fall
 こう来ましたか。
 30歳を迎えたノラ・ジョーンズの新作は、これまでとは少々趣を変えてロック色と言うのか、彼女にしてはという意味だが若干ハード目の作りになった。「ピアノを弾きながらゆったりと歌う」というイメージからは段々離れていくようでもある。実際、今作はピアノよりギターで曲を作っていったとの事、これまで公私共にパートナーであったベーシストで別れて心機一転の新作と言っても良いのだろう。芸の肥やしになるに違いない。
 当然ジャズのテイストを備えた女声ヴォーカリスト、という立ち位置とも微妙にずれてきている事も確かだ。もうジャズの棚に置かれる存在でもないのかもしれない。というよりジャンルを超えつつあるのだろう、と今作を聴いて真っ先にそう思った。
 結局、どう変わろうともノラ・ジョーンズなのだ。見事に。この特徴的な歌声がある限り、どんな音楽をやろうともノラ・ジョーンズはノラ・ジョーンズ。逆にそれが強固になったようにさえ感じてくる。彼女に不可能は無いのだ。
 前半はそうした「変化した」ノラが聴かれるが、後半は以前のアコースティックで音数少なめな曲も出てくるので安心も出来ます。この辺りの曲は音も相変わらず良く、ヴォーカルがぞくっとさせてくれるので従来通りオーディオマニアの方にもお奨め。ただ前半は音数が多くてポップスっぽい音造りなので、それ程音質を意識させてくれないかもしれない。また、ヴォーカルにエコーというかリヴァーブがいつもより多めにかかっているのでそこが気になると言えば気になる。
 でも、やっぱりいつも通りヘヴィーローテーションになる、そんなアルバム。この声を聴きたいのです、時々。(09.12.16)



STING
 If On A Winter's Night
 良い感じに年を取っているな、と素直に感じさせる。
 そんなスティングの新作は、前作に引き続きグラモフォンから。とは言えリュートを従えていかにもクラシック寄りだった前作「ラビリンス」に比べ、今作はいつも参加しているドミニク・ミラー(ギター)もいるので、それ程違和感は無い。全編アコースティックであり、トラッドや自作曲を含めた「冬の歌」をテーマにした民族音楽風の作品である。
 こういう素朴な雰囲気を持った曲調だが、さすが大スターのスティングである。彼の持つオーラで曲が数ランク上昇して聴こえてくるのだ。フォーマットだけはアコースティックだが、十分ポップソングとして通用するものになる。スティングでなければ、こうは行くまい。
 正直な話、ソロになってからのスティングにはそれ程強い興味は持たなかった。「ロクサーヌ」を歌うポリスでのイメージが強かったのと、何だかまったりし過ぎる曲に20代だった自分は違和感を覚えていたのだ。当時の自分が、このスティングを聴いてどう思うかは分からない。現在の自分は色々な音楽を聴いてきた蓄積があるのだ。しかし、「ウィル・ビー・トゥゲザー」あたりを歌うスティングより、今のこの路線で歌うスティングの方が断然カッコいいと思うのは決して自分だけではあるまい。(09.11.20)



MUSE
 The Resistance
 まさか、ミューズにここまで「やられる」とは思っていなかった。
 正直な話、忘れかけていた存在でさえあった。なので、もう5枚目のアルバムと聞いてちょっぴり驚いたのだ。既に彼らはシーンに地歩をしっかりと固めつつあるのだ、と。
 実際にリード曲である「Uprising」をラジオで聴いて確信した。「強い」曲なのだ。もう少し繊細さが持ち味のバンドと思っていたのだが、いやいやどうして、なかなか手強いのだ、彼らは。
 そんなわけで手に取ったこのニューアルバム。先頭が前述の曲だったので、これに続く曲達がガッカリだったら…という心配は杞憂だった。様々なジャンルを取り込んでスケールの大きなサウンドは、どこかしらクイーンを思わせる。コールドプレイのように哀愁漂うメロでしかもポップでキャッチーだが、もっと激しさも感じる。ヴォーカルの力強さが印象的なのだ。
 なかなか一言では持ち味を表現するのが難しいバンドだが、コールドプレイやレディオヘッドが好きで、もっとノリの良いものは、と問われれば今はこれを筆頭に挙げたい。(09.10.23)



PERFUME
 B
 タイトルは普通に「トライアングル」と読みます。
 想像していたよりもぐっとエレクトロ・ダンス・ポップなアルバムとなったこの新作、ライバルはペット・ショップ・ボーイズなのだろうか。
 イントロからいきなりシングル曲が続き、「edge」のリズムで身体を動かしていると次はCM曲「NIGHTFLIGHT」。これが非常にいい。シングルにしなかったのが勿体ないが、そこが「らしい」部分だ。OMDあたりを想起させる、80年代エレポップ風なサウンドは当時を知るものには親しみやすく、若者には新鮮なのだ。とにかくポップでメロディアス、そしてちょっとセンチメンタルな曲調。完璧だ。
 そこからしばらくは一聴「地味」な曲が続く。しかしあくまでもファーストインプレッションだ。聴いていくとこれが段々「効いて」くる。クールなエレクトロ調の、リズムは立っているけれどもメロディも切なさが滲み出ていて…という、もはやこれも「形」として確立されていると言ってもいいだろう。テレビ番組でも歌った「I Still Love U」はその白眉、これほど切ない曲があっただろうか。これまでも語られてきた事だが、感情を「敢えて」入れずにエフェクトをかけまくったヴォーカルが、余計に哀感を掻き立ててくるのだ。それをヴォーカロイドでなく、生身の人間の声で作り上げる事に大きな意味がある。そういう事である。
 ラス2で最近のシングル「ワンルーム・ディスコ」が来るのが大変自然な流れに感じる。イントロが前の曲からの流れを自然に引き継ぎ、そしてダンスフロアはモノトーンから総天然色に変貌するのだ。そしてラストにリミックスされた「願い」。これしかない、という最終曲だろう。オリジナルとは異なる、ピアノで奏でられたイントロに「やられ」る。見事な「締め」である。
 今回は音楽面のみで語ってきたが、このアルバムはそれだけの「価値」があるという事だ。純粋に音楽として素晴らしい作品である。日本からこの「B」が生まれた事を誇りに思いたいくらいだ。中田ヤスタカ氏のセンスも当然あるのだが、何よりもPerfume自身の「人間力」「音楽力」が素晴らしいのだ。真剣にこのアルバムが海外に出て、認められて欲しい気持ちが強くなってしまう。今の洋楽勢なら勝ててしまいそうな気がする。何せレ○ィ・○ガなどが大ヒットしてしまう現状である。言っちゃあ悪いが、「あんなの」ならちょろい、と思ってしまうではないか。
 矛盾するようだが、この新作は前作「GAME」程は売れないだろう。音楽として品位が高過ぎるのだ。残念ながら、売れるものとはもっと下世話なものだろう。悲しい事だが…(09.07.18)



MANIC STREET PREACHERS
 Journal For Plague Lovers
 これは良かった。
 最近はここ日本ではあまり話題になる事も少なく、2年前にサマーソニックに出演したくらいだっただろうか。何せ、登場した当初がリッチーの「4 REAL事件」やビッグマウスなどで話題先行っぽいところもあったバンドではある。しかし、粗削りで初期衝動ばかりが際立っていたデビュー時から、だんだん練られてきて本来持っていたポップセンスが花開き、イギリスの国民的なバンドと成長して行った。その姿は好感の持てるものだったし、実際良い曲が多かったのだ。「この1曲!」というものを持たなかったために印象は薄くなっている事も否めないが、こういう自分と同世代のバンドがずっとやり続けていることはうれしい。
 去年、そのオリジナルメンバーのリッチーが正式に死亡したという宣告が下された。謎の失踪から13年、メンバー達はどういう思いだったのか。宣告まではずっと彼の名前をメンバーに残していた事からも窺い知れるが、今作は何とそのリッチーが残した歌詞に曲を付けて完成したという事だ。しかも全曲。リッチーという男は死してなお、本当に良い仲間に恵まれた。そう思う。
 まさに捨て曲無し、という内容で、相変わらず良い曲を書くバンドである事を再認識させられた。最近はラジオで聴いて気に入ってアルバムを買っても、結局良いのはその1曲だけという事がよくある。しかしこのマニックスは違う。確かにラジオ栄えする曲は無いかもしれないが、全曲通して「聴ける」アルバムになっている。カーステレオで流していて、全曲終わってもう一度1曲めから再生されても取り出さずにまたずっと聴いている…そんな良曲だらけのアルバムなのだ。こういう哀愁のこもったメロディはもっと日本人受けしてもおかしくない筈。
 プロデュースはニルヴァーナなどでお馴染のスティーヴ・アルビニ。ベテランバンドをベテランっぽく生ぬるくする事なく、緊張感や緊迫感を出す事に成功している。とにかく、ここ最近の洋楽では一番のお勧めだ。自分でも意外なんだけど。(09.06.29)



PERFUME
 『BUDOUKAAAAAAAAAAN!!!!!』(DVD)
 笑顔と涙。
 彼女らを見ていると、何だか微笑みが漏れてくるのだが、同時に涙も出そうになる。人間の感情に直接問い掛けてくる、何かを確実に持っているのだろう。
 のっけから結論めいた事を書いてしまったが、この感動の武道館ライヴを見ればきっと分かってもらえると思う。「私たちはただ言われた通りに歌って、踊っているだけなのに…」と言っている。それは確かにそうだ。しかし、つまるところ音楽とは人間そのものなのだ。言われた通り歌って踊ったものが、その『人間』を通過すると、そこに『感動』が生まれる。いくら上手に歌ったとしても、その歌っている人間が大した事がなければ感動などは生まれやしないのだ。
 そういう意味では奇跡的なグループ。3人揃うと、人を「動かす」ことができる「何か」を生み出す。もはや、恐れ多くも、あの、ビートルズを、引き合いに出さずにはいられない。大げさではなく、そう思う。
 残念なのは、テレビではそういった彼女らの「凄み」が伝わらない事だ。それどころか、ちょっとおバカな方向へ持って行こうとされていた節もある。ニュースもドラマも音楽も全てが「バラエティ化」している現在のテレビ界。あまりこういうところに深入りしない方が良いだろう。かつて「八時だヨ!全員集合」でアイドルは弄ってもらえたが、もはやそういう場所は無いのだ(今のバラエティとドリフがどう違うのか、…全く違いますよ)。今はNHKが活動の中心なので、ホッと一息である。民放に音楽番組は、残念ながら無い。あるのは単なるバラエティだ。
 これからは昨年のようなテレビへの露出も少なくなってくるだろう。だから世間的には「去年がピーク」と思われてくるに違いない。しかしこれで良いと思う。一方的に消費され尽くされてしまうのは真っ平御免である。
 それにしても武道館の舞台は広い。その広い空間を最大限に、たった3人で生かしきったのも敬服に値する。武道館、と言えばチープ・トリックだが、そう、やはりPerfumeも世界に通じるパフォーマンス力を持っていると言い切れる。
 こんなに幕が下りるのを「待ってくれ」と思わせてしまうライヴが他にあるだろうか。いつまでもいつまでも、目の前で歌い踊り続けて欲しい…これは儚き夢なのか。
 
 あと、ついでに一言。是非ブルーレイでのリリースを!やはりNHKBSハイヴィジョンの画質に比べるとかなり落ちてしまいます。(09.04.27)



吉井和哉
 Volt
 来ましたよ、久し振りに。彼が。
 イエモンことイエロー・モンキーの喪失は、心の何処かに穴を穿っていた。想像以上に。元々は自分がカラオケで「歌う」ために聴いていたようなものだったのだが、この「王道歌謡ロック」は実にしっくりと馴染み、近くにある事が当然のような存在だったのだ。
 彼らが目の前から姿を消し、その後の日本の音楽シーンは面白みが無くなっていた。少なくとも自分にとっては、だ。ブランキーやミッシェルの解散は当然ショックではあったが、いつかは起こる事、と意外にすんなり受け入れられた。しかし、イエモンはずっとそこにいそうな気がしていた。常に安定感のある、そこそこのヒット作を出して行く、永遠に…
 だがそれは幻想だった。彼らは解散し、ヴォーカルの吉井はソロシンガーとなった。そのイエモン時代より少々地味目な作品群は、吉井自身がより強く現れていたのだろう。そのことはベーシストのヒーセが組んだバンドの音がいかにも「売れ線に走らないイエモン」という事からも分かる。
 とは言え、やはり寂しかった。せっかく「陰りを帯びた沢田研二」のような声を持っているのだ。活かして欲しい。勿体ないではないか。このまま地味なシンガーで終わってしまうのは。
 そんな中、聴こえてきた新曲「ビルマニア」。これ、これだ。サビの辺りで否応なしに盛り上がって行く曲調。これを待っていたのだ。来た。来たのだ。
 その「ビルマニア」を先頭に持ってきたニューアルバム。曲調はヴァラエティに富んでいるが、共通するのは音の「分厚さ」。メンバーを外国人に固定した効果が現れており、そこには日本人のロックに時折見受けられるひ弱さは全く見られない。まさに盤石、だ。
 イエモンを先程「王道歌謡ロック」と言ったが、この作品は「王道ロック」と言ってもいい。彼の声も昔と変らないようでいて、良い具合に年を重ねていると思う。同じように年を重ねた、イエモンのファンに贈ります。(09.04.02)



ROBERT PLANT & ALISON KRAUSS
 Raising Sand
 グラミー賞何と5部門制覇です、おめでとうございます。
 受賞してから取り上げるのは何だか後出しジャンケンみたいなのだが、素晴らしい作品なので是非紹介したいと思う。それにしても「最優秀アルバム」は間違いないと思ってはいたが、まさか5部門とは。ちょっとビックリ、である。
 はっきり言って「地味」な作品である。シングルヒットが望める曲があるわけではない。しかし何なのだろう、この緊張感溢れる音楽は。ロパート・プラントは言わずとしれた、「あの」レッド・ツェッペリンのヴォーカリストだった人である。レジェンドである。アリソン・クラウスはブルーグラス界の大スター。この一見ピンと来ない組み合わせの二人、しかしこれが不思議な統一感のある音楽を生んだのである。
 プロデューサーであるTボーン・バーネット自身もギターを取り、他にもマーク・リボーなど腕利きを集めて作られたこのアルバム、当然の事ながら音のクオリティが高い。空間に浮かび上がる音の1つ1つが手に取るように鳴り、並んだ二人のヴォーカルの高さの違いまでも表してくれる。そう、アリソンよりロバートの声が上の方から聴こえるのだ。
 緊張感、と書いたが普通こうしたトラッドを基調とした音楽はリラックス感に溢れたものを想像してしまう。しかし、ここには凛とした潔さとでも言おうか、人を振り向かさずにはいられない音楽的な緊張感があるのだ。こうした音楽でのアリソンの実力は言わずもがな、ロバートはやはり凄い。あのハイトーン・ヴォイスはシャウトをしなくても「我、ここにあり」を見事に体現している。ヴォーカリストとしての年輪が違うという事か。こんなに素晴らしい音楽を作り上げていれば、確かに「ツェッペリン再結成」というジミー・ペイジの要請を断るわけだ。当然だろう。ロバートは常に前を向いていたのだ。
 重ねて言うが、「地味」ではある。しかし、いわゆる「大人のロック」と言われるものがどうしても「ゆるい」ものになってしまいがちなこのご時世、これは「刺激的」だ。よく聴くと分かる。やはりロックなのだ、これは。形だけのロックなど犬にでも食われてしまえ。本当のロックはフォーマットに拘りは無い。魂が溢れ出る傑作。グラミーは当然。一度聴いて分からなければ、何度でも聴いて欲しい。出来るだけ大きな音で。背筋が寒くなる快感を味わえます。(09.02.10)



PERFUME
 Dream Fighter (シングル)
 年末に向けて、必殺の新曲が登場した。
 「こう来たか」と思わせるのが、中田ヤスタカという人は大変上手いと思う。あたかもノールックパスのように、周囲の期待や予想とは違った方向へと振るのだ。
 今回の新曲には良い意味でやはり裏切られた。歌詞の内容やタイトル、曲調だけ取ってみれば「何を今更人生の応援歌なんて」などと言われそうである。現に掲示板などでは言われているが。そんな声には、
 「甘い、君は甘過ぎる」と、思いっきり上から目線で宣言してあげます。
 これをPerfumeが歌うから他とは違うのだ。前にも書いたが彼女らの持つ「ちから」。「音楽力」とでも言い直そうか。今回さらに深くかけられたヴォーカルエフェクトの中から、それはくっきりと浮かび上がってくるのだ。何も心に響いてこない、凡百の応援ソングとは一線を画したモノである事ははっきりとしている。
 確かに売れなかった長い長い下積み時代を考えれば、歌に説得力を込める事が出来るだろう。とは言え、彼女らはその辺りは割とあっけらかんとしているように見えるので、そこまでの深読みは必要のないものかもしれない。ただ、「成功の物語」としてこれまでを知っている者としてはどうしてもこの歌に「情報」を付け加えてしまいがちだ。そしてそこに涙する。仕方のない事かもしれない。
 曲については、既に彼女ら自身がインタビューで「Perfumeらしくない曲で驚いた」と発言しているように確かに所謂「J-POP」みたいな曲ではある。そこがまた、中田ヤスタカの術中に嵌まったような気分にさせられる。次に何が来るのかさっぱり分からないのだ。それを楽しんでいるようにすら思える。リスナーにとっては、特にMっ気が強い人には甘美な毒だろう。
 カップリングの「願い」も、これまた「らしくない」曲で意表を突かれる。これまでに無かったスロー・ミディアムなバラード。踊れないだろう、これは。しかし、こんなPerfumeもいい。「DreamFighter」は今歌うべき曲だが、「願い」はいつになっても、彼女らが30歳を過ぎても歌う事の出来る曲だと思う。
 彼女らの歌には濃厚に「歌謡曲」を感じる。安っぽい「J-POP」などではない、日本人が誇るべき「歌謡曲」だ。それが「世界に通じる」という面でもある。何せ「現代的で、最高にカッコいい歌謡曲」なのだから。(08.11.22)



PERFUME
 Game Tour(DVD)
 この感動をどう表現すれば良いのか。
 悔しいのだ。歯痒いのだ。世間では「ちょっと変わったアイドル」とか「昔懐かしいテクノポップを歌う女の子達」程度の認識しかあるまい。決して間違ってはいない。が、それだけにとどまらない、大きな器とも呼ぶべきモノを彼女らは持っているのだ。
 この楽しい楽しいライヴの模様を切り取ったDVDを見て、確信は深まった。Perfumeというのは、総合エンターテインメント集団なのだ。音楽という枠には嵌まらない、奇跡的なグループだったのだ。さらに確信する。これは世界に通用する。決して洋楽コンプレックスにまみれた「エセ洋楽的邦楽」などではない、本当の「日本が誇る音楽のあり方」として立派に提示できるのだ。アメリカよりもイギリスなどの国がいいだろう。
 まあ、そんなことはどうでもよろしい。
 とにかく楽しもうではないか。彼女達の姿を見ていると、何故だか微笑みが自然に漏れてくるのだ。何と言っても、こういう所が強みなのではないか。周りを和ませる「ちから」。ただのテクノポップではこうは行くまい。中田ヤスタカがプロデュースするアーティストの中で、何故Perfumeだけが売れているのか。それはこの「ちから」にあるのだろう。
 曲目については、これより後にリリースした「love the world」は無いものの、もう「グレイテスト」としか言い様のない盤石の布陣。もう最初の「GAME」でやられました。あのビームサーベルを振り回す振り付けは本当にお見事。殺陣です、あれは。そこから個人的に最も好きな曲「エレクトロ・ワールド」に突入する流れ…た、堪りません。途中から涙が出てきそうになるのは何故なんだろう。本当に不思議な力を持っている女の子達である。
 曲についてそれぞれ書いていたらきりが無いし、冗長になるだけなのでこの辺で止めておくが、副音声モードも面白い。Perfumeが自分たちのライヴを肴にワイワイと「あーだった、こーだった」と盛り上がるという誠に他愛もないものだが、これがまたいい。いつもお辞儀を深々と90°に身体を曲げる、彼女達の謙虚さがこういった会話にも滲み出ているのだ。
 もうすぐ武道館である。何だか試合を前にしたアスリートを応援するような気持ちでいるのだが、あながち間違いではあるまい。心から応援する。頑張ってくれい。(08.10.27)



SUPERFLY
 Superfly
 二回連続で邦楽です。珍しい。
 何せ久し振りにシンプルなロックを、日本語で聴く事になろうとは思わなかったのだ。ラジオから流れる「Hi-Five」、これに見事に「揺すぶられた」。これはその辺の洋楽よりもよほどカッコいいではないかっ。
 調べてみるとこのsuperfly、越智志帆というヴォーカリストのソロ・プロジェクト。以前はギタリストの男性との二人だったそうだが、男性の方は作曲と演奏に専念すると言う事で越智さん独りでバンド名を名乗っているようだ。まあ、売り出し方としてもその方が分かりやすくて良いかもしれない。
 まず前述した曲のシングルを買ったのだが、カップリングには往年の洋楽名曲「ホンキートンク・ウィメン」「リロイ・ブラウンは悪い奴」「デスペラード」がずらり。なるほど70年代風のファッションに身を包んだヴォーカリストの出で立ちとダブる選曲である。最近の若者にしてはなかなか趣味がよろしい。
 しばらくしてこのデビューアルバムを購入。大正解だった。1曲目は「Hi-Five」で上々の滑り出し、次の「マニフェスト」も何だか懐かしいアメリカンロックな音だ。そして聴いた事のある、「愛を込めて花束を」。以前これだけ聴いた時には普通のJポップかな、と思ったがアルバムのこの流れでは良いアクセントになっている。
 本物の洋楽バンド、ジェットと組んだ「I SPY I SPY」はさすが、分厚い音とジェットのヴォーカルに負けじと志帆のヴォーカルが冴え渡る。他の曲も併せて70年代後半〜80年代を色濃く連想させるポップロックチューンが満載。パット・ベネター、ジョーン・ジェットといったあたりを思わせる。こういうシンプルなロック姉ちゃんが日本からも出てきて欲しいと思っていた所だったので、大歓迎である。
 欲を言えば、あまりにも「歌が上手過ぎる」ことだろうか。ロックっぽくシャウトしたいところでも「歌えて」しまうのだ。ある意味凄い事だが、この声を見込まれてベタベタな日本人好みのバラードを唄わされてしまうのではないかと危惧してしまう。あくまでギンギンのロックで勝負して欲しいのだ、この人には。(08.07.29)



PERFUME
Game
 自分だけのマイブームと思いきや…
 何とオリコン1位とは。皆密かに好きだったのね。
 もう、ここ最近毎日ぐるぐるぐるぐるぐる頭の中を回っていた、パフューム。FMで聴いたのが初めてだった。アイドルなんだかアーティストなんだかよく分からなかったが、その時ゲスト出演していて好感の持てる態度も気に入った(まだその時は今テレビで見せるようなボケぶりは見せていなかった)。何と言っても曲が良かった。懐かしくも新しいのだ。しかもポップ。クールでカッコいい。なるほど、こういうのも良いねえ、と密かにお気に入りになっていた。
 そうこうしているうちに大ヒットになってしまった。当然売り出し作戦が功を奏した結果だろうが、ここまで行くには内容が良くないとダメに決まっている。そしてこのアルバム。迷いに迷った末、買ってしまった。レジに持っていく時、少々テレがあった。
 普段このサイトをご覧になっている方々はどう思われるのだろう。何せここ最近取り上げていたのは海外の大御所ミュージシャンばかりだった。それがいきなりアイドルである。自分では久し振りに「乱れ打ち」らしい振れ幅だなあ、などと思うのだが。
 まあ、どんな女の子達なのかは検索すれば簡単に分かるのでわざわざ書く事はしないが、このアルバムの内容、これはホンモノである事は間違いない。これだけ音楽を聴きまくってきた私が言うのだから真実だ。テクノである。ヴォーカルは全てヴォコーダーで処理(あるいはヴォコーダーのようなエフェクトを掛けているか)されている。当然生々しいヴォーカルを期待すると裏切られる。しかしこれがいいのだ。テクノとしてもカッコいいし、歌もポップでわかりやすい。40代にも人気、というのもよく分かる。とは言え、決して往年のテクノをそのままなぞっているだけではない。アンダーワールド、ダフト・パンクといった辺りが連想される、あくまで「現代」を通過したテクノだ。全てを作っている中田ヤスタカという人物、知らなかったのだがかなりの業師である。
 ラジカセ向きの音質かな、とも思ったが意外に聴ける。レンジこそ狭いが立体感のある音場に3人のヴォーカルが2本のスピーカーの間にしっかりと並んで配置されていて、そのヴォーカルの口も決して肥大する事は無く、ちょうど良い大きさに収まっている事には少々驚いた。
 それにしても、毎日聴きたい中毒性を持った音楽だ。今日も頭の中を回っている。リズムリズムリズムリズムループループループプププププ…(08.05.09)



HARBIE HANCOCK
 River
 グラミー獲っちゃいました。しかも「アルバム・オブ・ザ・イヤー」。
 何せジャズの最優秀アルバム受賞は「ゲッツ〜ジルベルト」まで遡るらしいので、こりゃ凄い事である。なので少し前のリリースではあるが、あらためて取り上げたいと思う。
 ハービーの純ジャズ作品は久し振りだったのだが、ジョニ・ミッチェルへのトリビュート作品となった。ジョニ本人も1曲参加している。それにしても昨今のミュージシャンの間でのジョニ流行りが盛んだ。いや、大変良い事だと思う。
 ゲストヴォーカルも豪華で、ジョニの他にもノラ・ジョーンズ、ティナ・ターナー、コリン・ベイリー・レイ、レナード・コーエンという錚々たるメンバーだ。確かにこれならグラミー受賞も頷けるものである。ノラが歌う「コート・アンド・スパーク」はカヴァーとは思えない完成度の高さで、さすが唯一無二の声を持つヴォーカリストは違うな、とつくづく感じさせてくれる。また、バックがハービーのピアノにウェイン・ショーターのサックスである。まさに夢の共演なのだが、いつものノラのまったりゆったりとした空間を醸し出すサウンドと違い、緊張感が漲る中にもテンションの高い演奏と歌を聴かせる。(歌と演奏は別録りかもしれないけれども…)
 コリン・ベイリー・レイの可愛らしい歌声と「リヴァー」という曲はぴったりだ。ジョニの持つ声とは全く異なるのだが、全く気にならないのは歌も演奏もレベルが高いからだろう。そして曲の持つ普遍的な良さだ。コリンはこれからさらに大きくなって行くだろう。
 ハービーの演奏もここ最近にない充実振りだ。確かに往時のひらめきのようなものはなかなか感じ取れないが、少なくとも「魂を込めて演奏している」ことは肌で感じとる事が出来る。決して「お仕事」ではない、ジョニに対する、音楽に対する深い深い愛情を感じるのだ。特にヴォーカル無しで演奏される「ボス・サイズ・ナウ(青春の光と影)」。原曲のメロディは解体されて、いくらタイトルを見てもこの曲とは分からないのだが、それでも心を揺さぶられる力のある演奏だ。
 また、ショーターも凄い。自分のリーダー作ではどうしても吹き過ぎるきらいがあるのだが、サイドマンとしての彼は違う。音数は少ないながらも吹く時には辺りの情景を一変させてしまうような、存在感溢れる演奏をしてくれた。まさに名人芸とでも言うべきもので、あらためて彼の力を思い知った。
 これを機会に聴いてみよう、という方も多い事だろう。諸手を挙げてお勧めできる好アルバム。音も良く、クールで熱い。(08.02.26)



BRUCE SPRINGSTEEN
 Magic
 凄いよなあ。
 と、思わず嘆息させられてしまう。「ボス」ことブルースがE.ストリートバンドと共にアルバムをリリースしたのだ。
 ここ最近のブルースといえば、アコースティックな弾き語り調の作品や、ピート・シーガーなどのフォークをカバーしたレイドバック調の作品が続いており、これらもかなりクオリティの高い作品で、さすが年齢を経て違う事をやってもボスはカッコいいものだ、と思っていた。
 そんなところにこのアルバム。聴いてみるまではぎこちないものになってやしないかと余計な気をもんだものなのだが、見事に期待は裏切られた。
 これはいい。本当にいい。こんなブルースはそう、あの大ヒットアルバム「ボーン・イン・ザ・USA」以来ではないか。あんなストレートなロックンロールが満載なのだ。いくらバンドとの演奏でも、ここまでやってくれるとは思っていなかった。もっと大人っぽいものを想像していたのだが、本当に驚いた。もう50代後半の筈だが、若手ロッカー顔負けの、いや若手全員しっぽを巻いて逃げ出してしまうほどの元気なロックを演ってくれた。うれしいではないか。あらためて「ボス」の持つ力というものを確認させられる事になった。先行発売だった輸入盤を購入したので訳さないと歌詞が分からないが、いつものように短編小説を思わせるものなのだろう。歌詞が分かればもっと理解は深まる事は間違いない。もう国内盤も出ているので、歌詞を知りたい人はこちらをお勧めしたい。
 「ボーン・イン・ザ・USA」がいかにも80年代といった軽めの音質だったことを思えば、今回の作品は現代の録音だけあってバランスの良い、中低域がズシンと来るものになっている。音も良くて、そんな所もお勧めです。(07.11.04)



JONI MICHEL
SHINE
 思えば、わしが生まれた頃から歌っている人なのですよ。失礼ながら、還暦を過ぎたお方なのですよ。
 前回トリビュート盤をレビューしたが、「本当に」待望の新作が出てしまった。「レジェンド」と言ってもいい人なので、このささくれた時代にこの人の新曲を聴く事が出来る事を素直に喜びたい。
 リリースはポール・マッカートニーと同じく、スターバックス絡みのレーベルからで、この会社もなかなか味のある方々と契約するものだ、と感心させられる。音楽とは一見関わりの無い企業というのは、逆に音楽業界のしがらみから自由なのかもしれない。
 名作「ブルー」(71年)の時のような張りのある高音はさすがにもう出ないものの、逆に年齢を重ねた滋味のあるハスキーな深い歌声にはやはり感動を覚える。アコギを主体にした昔を思わせるシンプルな構成な中にも、ブライアン・ブレイドをドラマーに起用する辺りはジャズを十分に消化した余裕を感じさせてくれる。
 そしてそして、あの名曲「ビッグ・イエロー・タクシー」のセルフカヴァーも収録されていて、これがまたいい。当時の起伏に富んだ若さ溢れる演奏から、じっくりと噛みしめるように落ち着いて歌っている。この曲を歌う理由があるから、今歌うのだ。そう主張しているようでもある。
 シングルカットしてヒットするようなタイプの曲は無い。しかし、元々シングルヒットを飛ばすタイプの人ではないし、何よりも今こうして引退宣言を撤回してまで新作を出してきたことに、まずは素直に喜ぼうではないか。現役シンガーソングライターの神髄を味わうのも良し、またちょっと辛口な女性ヴォーカルとしてゆったりと聴くも良し。まだまだ活躍してくれそうだ。(07.10.06)



(V.A.)
 A Tribute To Joni Michel
 ジョニ・ミッチェルはいい。
 本当にいい。レコードを聴くようになってから頻繁に聴いたり集めたりするようになったのだが、それまでは「青春の光と影」の人かあ、という程度の認識しかなかった。
 ところがどうだ。こんなに凄い人だったとは。名曲だらけだし、その声も心を揺さぶって来る。さらにまた、レコードの音が圧倒的に良いのだ(逆にCDは音が悪い)。自然にターンテーブルに載せる頻度は高くなってくるというものだ。
 そのジョニ、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしての側面もかなり強いようで、このトリビュート盤も単なる企画物にとどまらない「ジョニに影響を間違いなく受けまくってしまいました」というアーティストがズラリと揃っているようだ。
 列挙するだけでも豪華だ。ビョーク、プリンス、サラ・マクラクラン、アニー・レノックス、エルビス・コステロ…いやこれだけでも聴きたくなってしまう。ジャズ界からもカサンドラ・ウィルソンやブラッド・メルドー(ピアノ)が参加、ヴァリエーションにも富んでいるが、さすがに全体的に統一感がある。
 オリジナルに対する思い入れが深いほど、なかなかこうしたカヴァーというものは聴けなかったりする事も多いのだが、さすがに皆一流のアーティスト、見事に聴かせてくれます。恐れ入ります。考えてみれば、こちらの思い入れ以上に彼らの思い入れの方が強いのだろう。ジョニの愛好者はもちろん、あまりよく知らない人でもこれだけ豪華なメンツが揃っているので損はない筈。むしろここからジョニの深遠な世界に触れる切っ掛けになって頂けるとうれしい。どうやらCDも新しいリマスタリングが進んでいて、既に大名盤「ブルー」が輸入盤で発売されている。また、新作もリリースされるらしい。これからはジョニ・ミッチェルが熱いかもしれないですぞ。(07.08.14)



PAUL McCARTONY
 Memory Almost Full
 何とまあ、創作意欲旺盛な方である。とっくに還暦を超えているのに、である。
 前作「ケイオス&…」から2年と経っていないが、どうやらこちらのアルバムの方が取り掛かりは先だったようだ。レコード会社も変わってのスタートと言う事でも何かと話題の新作だ。
 どこを切ってもポール節が炸裂、王道ポップスあり、ロックンロールあり、メロディアスなバラードあり、ちょっと黒っぽさもあり、とさすがはあのポール・マッカートニーと唸らされてしまう。
 ただ、個人的には前作の方がいい。あの鬼気迫るような空気感は今作にはない。あれはやはりプロデューサーのナイジェル・ゴドリッチの功績が多大だったのか。こんなに怖いポールがこれからもがんがん作品を作り続けたら、何と恐ろしくも楽しい事だろう…と思ったのだが、今作はまたいつもの安全で100%無公害のポールである。しかしおそらく、今作の方が気合いを入れて作ったに違いないとは思う。よく作り込まれているし、曲も練られているように思えるのだ。しかし、鼻歌のような前作の方がやはりいい。これはどうしたことか。
 それでも売れるのは今作なのかな。プロモーションも今回はずいぶん力が入ってもいるのだ。けなしているように思われるかもしれないけれども、決してそうではなく、前作が当然変異的に凄かっただけ。あれが無ければ、この新作も21世紀もやはりポールは健在だ、と胸をなで下ろす佳作に仕上がっております。ちなみに邦題は「追憶の彼方に」だそうでです。(07.06.28)



スガシカオ
 All Singles Best
 「転職って、広告が言うほどカンタンじゃない」と、CМで語るスガシカオ。
 そうだろうなあ。彼がサラリーマンからミュージシャンに「転職」したことはもはや有名な話だが、逆に彼以外にここまで成功した「転職組」がいかに少ないことか。と言うか他にだれも挙げられないではないか。いかに彼が凄いか、あらためて思い知らされる。
 そんなスガシカオの2枚組ベスト盤が年明けまもなく登場した。邦楽を余り聴かなくなってきたので、久し振りに彼の独特なざらついた声を耳にしたのだが、やはり良い。気がつくと最近車の中でのヘヴィーローテーションになっていた。新しい曲から古い曲へと進行していくこのアルバム、どうしてもよく聴くのは2枚目、つまり昔の曲を繰り返し聴いてしまう。「ドキドキしちゃう」「黄金の月」「ストーリー」「あまい果実」…あの時は邦楽も結構聴いていたし、アルバムも発売が楽しみだった。
 もちろん最近の作品である1枚目も悪くない。アーティストとしての「安定感」が出てきて、さすが紅白出場歌手だな、と皮肉抜きでそう思う。ただ、個人的には何だかギラついていた2枚目の時代が好き、と言う事は否定できないのであるが。
 それでも全体を貫くのは村上春樹氏も絶賛する「あの」歌詞の世界と、日本人離れしたソウル&ファンクな感覚。やっぱり彼は唯一無二。実際に他にいないのだ、こういうポジションにいる日本人アーティストは。転職して本当に良かったですね、と心から申し上げたい。(07.05.06)



NORA JONES
 Not Too Late
 気がつかないうちにもはや大物。ノラ・ジョーンズの新作でございます。
 今の女性ヴォーカル隆盛というのは、やはり彼女の影響が強い事は明らかだろう。自分からして、彼女の登場が女性ヴォーカルの分野に目を(耳を)向ける事になった最大の要因なのだ。このハスキーとまでは行かない「心持ち」かすれた歌声。しかしドライな感じは一切無く、その意外に(失礼!)ぽっちゃりとした体型が表すように温かさだとか温もりを感じさせてくれる、あの歌声が今までありそうでなかったものなのだ。
 今作は前作がヴァラエティ豊かな構成だったのに比べると、全体的にまったりゆったりとした曲で占められている。今回はこのトーンで行きたかったのだろう。シングル・ヒット狙いの曲はないが、そんなことは関係ない。アルバム全体で聴かせてくれるし、このまったり感は現代人が飢えているものなのだ。今作も大ヒット間違いなしである。
 相変わらずアコースティックで音数の少ない構成ながら、相変わらず前後感や奥行きを生かした音作り。これもまた上手い、美味い。音と音の「間」を聴くのが醍醐味。超低音がどかーんと来たり、シャキーンとシンバルが伸びまくるようなオーディオ的に高音質なディスクとは少し趣は異なる。言わば「好音質」だろうか。やはり女性ヴォーカルの筆頭であり続ける事は確かだ。期待は全く裏切られません。(07.02.12)



BEATLES
 Love
 そもそもは「シルク・ド・ソレイユ」のサウンドトラック的なもののようだ。それにしても、今回は畏れ多くもビートルズ様の数々の作品を繋ぎ合わせて曲を形成するとの事ではないか。いくら行うのがジョージ・マーティンとは言え、ビートルズでヒップホップでもあるまいに。だいたい、タイトルはジョン・レノンのソロ曲ではないかっ。
 …などと言う心配は杞憂に終わった。見事である。さすがはジョージ・マーティンである、などと手のひらを思いっきり返した事を言うが、仕方がない。いいよ、これ。そんなに「あざとい」ような繋ぎ合わせ方はしておらず、思わず「やるな」「ここでこう来るか」とニンマリさせられるフレーズの登場に拍手喝采。あまり弄っていない曲もリマスターされたように音質アップ、ヴォーカルがしっかり真ん中に来て少し後方に楽器が拡がるという、現代的な定位で展開される往年の名曲の数々がうれし過ぎる。どうやらオリジナル・アルバムもリマスターの準備が整っているらしいと言う噂もあり、これまでのCDでは味わえなかった「本当は音の良いビートルズ」を遂に体験できそうである。これもまた楽しみだ。
 具体的に「この曲がこう」というのは、やはり野暮と言うものだ。通して聴いてこその作品であり、実際にどのトラックもお奨めなので、とにかく全てのビートルズファン、全てのロックファン、全ての音楽ファンは必聴だろう。
 購入したのは輸入通常盤。国内盤にはDVDオーディオがセットになったものもある。残念ながら聴いてはいないのだが、かなり凝ったサラウンドが展開されているのだろう。ひょっとして、オリジナル・アルバムもDVDオーディオ化されるのかも?…まあ個人的には逆行していて、モノラルでのアナログ復刻を希望したいのだけれど。(07.01.10)



STING
 Songs From The Labyrinth
 スティングの新作はなんと、クラシックなのであった。グラモフォン・レーベルの黄色いマークがいかにも「クラシックでございます」と主張しているのだ。
 大上段に振りかぶってオーケストラをバックに…なんてことは決して無い。逆に地味に「リュート」という古楽器とも言って良い弦楽器を従えて、朗々とあの歌声が響き渡るのだ。「語り」だけのナンバーもあり、まさに彼の声のファンには堪らない作品ではあるまいか。
 何故こうなったのかは分からないが、功なり名なり成し遂げたスティングにとってはこういう挑戦も当然好意的に受け入れられる物である事は間違いない。こうした音楽には明るくないのだが、内容もかなりレベルの高いものだと思う。違和感なく「スティングの新作」として楽しめるものになっているのだ。リュートの音やスティングの声もオーディオ的に良好で、エコーが多い割にははっきりとした生々しい音像が現れるのだ。
 もはや形骸化してしまったロックよりもこうしたジャンルを超えた音楽は純粋に素晴らしい。ポリスの「ロクサーヌ」からずいぶん遠くまで来てしまった感のあるスティングだが、今でも、いやそれ以上にラジカルではないか。恐れ入りました。(06.11.12)



BOB Dylan
 Modern Times
 これまたずいぶん元気なオヤジがここにも一人。
 何と言ってもボブ・ディランである。ストーンズと並んで、60年代から現役バリバリなのである。このアルバムも年齢とか全く関係のない、闊達な濁声いや歌声を聴かせてくれるのだ。素晴らしいではないか。
 とは言え、ここ最近のディランとしてはさらにパワーアップした感さえある。「老成したかな」とか「枯れた味わいかな」とか思わせるアルバムが続いていたからだ。しかし今作は違う。数あるオヤジロッカーの旗頭とも言える貫録と共に、エネルギーが横溢しているのだ。まだまだ枯れてなんかいられるか、という声が聞こえてきそうだ。
 キャッチーとも言える曲調に反して、内容は結構重苦しいものだ。昨今のアメリカ、特に9.11以降のアメリカについてかなり怒りを覚えているようで、ブルース・スプリングスティーンあたりと共通しているところだ。ちなみに購入したのは輸入盤で、歌詞カードは無かった。
 音の方はマスタリングがグレッグ・カルビという事もあり、かなり高音質。どちらかと言えば中低域を厚くしたアナログチックな音作りなので、レコードもいいかもしれない。
 それにしてもジャケ写。今回も相変わらず「何だかなあ」というもの。もはやディランの作品はそれが逆に特徴なのか、と諦めるしかないのか。(06.09.23)



DONALD FAGEN
 Morph The Cat
 ドナルド・フェイゲン。
 不思議なものである。こう名前を書いただけであるイメージが沸いてくるではないか。粋。洗練。お洒落。夜。バー。この玄人受けするミュージシャンは名前にも恵まれていたのだ。これがトム・ブーティとかだったらこうは行くまい。
 それはともかく、お洒落で小粋な「ちょいワルおやじ」に欠かせないアイテム(?)とも言えるフェイゲンの新作が登場した。前作「カマキリアド」から13年ぶりなのだが、最近のスティーリー・ダン再結成アルバムが2作ほど続いたのでそれ程のブランクは感じない。ただ、スティーリーがバンド・サウンドを中心にした作品を出しているのに対してやはりこのソロアルバムはいかにもフェイゲン独りのものだ。いい意味で「熱さ」を排除したそのサウンドはやはり精緻の極み。声がさすがに年輪を感じさせるものの「ナイトフライ」から何も変わっていない。だからこそいいのだが。
 何回も何回も聴いて覚えてしまっている「ナイトフライ」の曲たちに比べるとどうしても馴染みづらいところもあるし、ちょっと上品過ぎるかな?という気もしなくはない。しかし、やはりさすがの職人芸とも言えるサウンドには「恐れ入りました」と言わされてしまう。期待は裏切らないし、大人の音楽として物凄く高機能であることは間違いない。
 当然音質も抜群。アナログ盤も聴いてみたいものだ。(06.06.15)



JAMES BLUNT
 Back To Bedlam
 ヴォーカリストの魅力、って何だろう。
 そりゃ声でしょ、というのは当たり前すぎる回答かもしれない。でも敢えて声を大にして言いたい。ヴォーカリストは声だ。声があるから表現力や心や魂が伝わるのだ。
 こんな事をあらためて言いたくなるのも、このジェイムス・ブラントを聴いたからである。この人の声は、…すごい。すごいのだ。自分のボキャブラリーの少なさに愕然とさせられてしまうのだが、下らない批評的表現など何処かに行ってしまえ。
 FMで流れていた「ユア・ビューティフル」。うるさいだけの低級ダンスミュージックの中でふとこの曲がかかるとつい耳をそばだてて聴き入ってしまう。中性的とも言えるハスキーなハイトーンヴォイスは誰かに似ている…と思い出せないでいたのだが、ライナーを読んでいてなるほどと膝を打った。このアルバムが出ているカスタードというレーベルのオーナーは元4ノン・ブロンズの人なのだ。「ホワッツ・アップ」という大ヒットを放ったこのバンドも中性的なヴォーカルが持ち味だった(こちらは女性だが)。
 さらにライナーには「NATOの和平部隊としてコソボでの勤務経験が有り…」とある。あまりこうした経歴に対して先入観を持つのも良くないのだが、やはりそうした体験がこの心に引っかかってくる歌声を生み出す一つの要因になっているのだろうか、と思わずにはいられないことも確かだ。
 それでも純粋にこの素晴らしい歌声に浸りまくるのが正解。音質もまずまず良いので、良質なオーディオ機器で本領を発揮するだろうが、この声はたとえ機器が何であろうと心を打つものがあるはず。だからヒットしているのだろう。(06.04.15)



NEIL YOUNG
 Prailie Wind
 顔の怖い人は実は優しい。
 よく言われる事だが、怖い顔をして本当に怖かったらもはや手が付けられないではないか。顔とのギャップが「優しさ」を引き立てているに過ぎない、とも思う。
 そこでニール・ヤング。何せ彼の顔は怖い。恐過ぎる。本当にこれでシンガーソングライターか、と言いたくなるような風貌である。しかしその割には「弱そう」な声で歌う。このギャップが魅力なのか…どうかはよく分からないが、現在も特異なポジションを占めているアーティストである事は確かだ。キャリアは長いが、クラプトンのようにいかにも今流行の「ちょい悪オヤジ」風に変化する事も無く、昔から全く変わらない。しかし古びる事も無く、今でも若いアーティストから尊敬(「リスペクト」、って言うのか今は)される存在である。
 彼の魅力は当然ルックスではなく、声もそうだが何といってもあのギターの音色。誰かが「ジャン、と鳴らしただけで人一人殺せる音」と表現したがまさにその通り。顔とギターでびびらせるのだ。どう弾いているのか見た事は無いのだがとにかく引っ掛かってくるあの音は一体何なのだろう。
 この新作は「ハーヴェスト」「ハーヴェスト・ムーン」から連なる三部作、ということだが確かにバンドとぐいぐい迫るのではなく、アコースティックにしっとりと来る滋味深い作品となった。とは言え決して地味にはならず、むしろここ最近の作品よりもメロディアスで分かりやすいとさえ感じさせるものになった。ここがポイントだ。前作がベスト盤という事もあり、そこで初めてニールを聴いたという人(あんまりいないかな)もすんなりと自然に入って行けることも大きいのではないか。
 ベテラン勢の新作が相次ぎ、しかもそれらがかなりの力作だったのが2005年後半の収穫だった。ニール・ヤングのこの作品も期待以上の傑作だ。ところが聞くところによると体調を崩しているそうで、それもかなり深刻なようだが一刻も早く回復する事を祈らずにはいられない。(06.1.17)



ROLLING STONES
 A Bigger Bang
 前回のポールには大変良い意味で裏切られたのだが、ストーンズは裏切らない。それも大変良い意味で、だ。
 やっぱりロックはギターが「ジャーン」と鳴って、そのリフがめちゃくちゃ恰好良いと無条件に受け入れてしまうのだ。そういうものなのだ。そうに決まっているのだ。パープルの「スモーク・オン・ザ・ウオーター」しかり、そしてストーンズの「サティスファクション」や「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」は何といっても「あの」リフあってこそだろう。
 そんなわけで今回の新作。のっけから恰好良いリフのオンパレードではないか。これだ、これ。気持ちが良いったらありゃしない。キースの弾く恰好良過ぎてのけぞりそうなギターと、ミックのねちっこい声が絡み合う。これでいいのだ。ストーンズは難しい事を考えなくとも、これだけでみんな感動するはずなのだ。そういう意味ではこの新作、大いに「買い」で、90年代に入ってからは間違いなくトップに位置する作品になるだろう。
 とは言え、文句も少々言いたくなる。いくらCDだからといって収録時間長過ぎだ。ロックはもっと短くていい。46分で十分なのだ。確かにどの曲も粒ぞろいだが、こう曲数が多いと逆に損ではなかろうか。1曲1曲の印象がどうしても薄くなってしまうのだ。思い切って削る事も時には必要。(05.12.10)



PAUL McCARTONY
 Chaos & Creation In The BKYRD
 ポール・マッカートニーに謝らなくてはならない。「数々の失礼、お許しを」
 もはやポールは「普通の」ポップ&ロックアーティストとして存在し、ビートルズで奇跡的な光を放ったのは過去のこと、と思っていたのだ。正直な話。そりゃあ、ソロになってからも数々のヒットを放ったけれども、「マイ・ラヴ」程度の曲ならポールでなければ書けないものでもないだろう。
 今回はバンドではなく殆どポールが独りで作った、ということで「おっ」と興味が湧いて手に取った(正確には店頭に出回っているのがCCCDなのでアマゾンに注文したのだが)わけなのだが、これが大正解。まさかこんなに良いとは。プロデューサーがレディオヘッドなどでお馴染みナイジェル・ゴドリッチというところも期待が持てた。彼ならばきっと心に引っ掛かる作品にしてくるだろう、と。
 この新作に並べられているのは言ってしまえば「鼻歌」みたいなものだ。しかし思い出してみよう。「ホワイト・アルバム」や「アビー・ロード」を。ポールは鼻歌のような小品を作らせたら天下一品だったのだ。まさに今作はそれが見事に当たり、心に引っ掛かってくる作品ができ上がった。特に3曲目が個人的には好きだ。
 ビートルズ、というマジックのようなグループだからポールの作品も生きた、とも言えるだろう。つまりバックバンドを普通の人にするくらいならば全部自分でやればいいのである。だから今までのソロ作にはない「怖さ」がこの新作には存在する。「オーラ」と言い換えてもいいかもしれない。好々爺然としていたポールがいきなり牙を剥いた、そんな印象すら与える恐ろしい作品。これからもこの路線で行って欲しいなあ。(05.11.3)



ERIC CLAPTON
 Back Home
 軽い。こんなに軽くていいのだろうか。
 どうやら軽くていいのだ。タイトルにある通り、のんびり家で落ち着くことが得られた充実感。それがアルバム全編に現れており、よって「軽さ」を感じるわけなのだ。内ジャケにはまさにそんなクラプトンの様子がベタなまでに描かれている。もう文句の言い様はあるまい。
 聴いて行くと確かにこんなクラプトンも悪くない。いつまでも「ティアーズ・イン・ヘヴン」を歌ってしょげている訳にも行くまい。万博関連でSMAPに提供した「Say What You Will 」などは最初彼本人の歌うのを聴いて「ずいぶん手を抜いた曲だなあ、やっぱり単なるお仕事か」と思ったものだが、アレンジを変えてアルバムに収まると全く違和感のない、いい意味で力の抜けた口笛のような曲に聞えてしまうのだ。
 考えてみると名盤を連発していたのは70年代の話。最近は渋いブルースのカバーやアンプラグドばかりが目に付いてしまって、普通のオリジナル作品のことは申し訳ないが記憶が薄れてしまっていた。それらの作品に比べれば、ここ最近ではかなりレベルの高いものである。この軽さ、つい一緒に口ずさんでしまうのだ。見事、クラプトンの術中にはまった感じだ。(05.10.10)



OFFSPRING
 Graetest Hits
 何てったって、楽しいのが一番。
 車で聴こう、と買ったこの一枚。当然オフスプリングと言えば「あはーん、あはーん」でお馴染み「プリティ・フライ」なのだが、さすがベスト盤となれば他にもまさにノリノリの楽しい曲が満載。理屈抜きにガンガン鳴らして楽しもう。プロレスラー、金村キンタロー(アパッチ軍、「ハッスル」でもお馴染み)のテーマ曲「Come Out And Play」で踊るも良し、前述「プリティ・フライ」で一緒に「あはーん、あはーん」と合いの手を入れるも良し。夏は残り少なくなったけど、車の中でこんな熱いロックを鳴らしていつまでも気分は夏のまま。そんなのもいいんじゃない?
 ちょっと気になるのはジャケット。真っ黒け、なんて似付かわしくないな。メタリカじゃあるまいし。今後の展開を暗示しているのか?重い路線へ変更?そりゃいかんよ。(05.9.11)



V.A.
 Ride
 コンピレーションを紹介するのも久し振りだが、理由があるのだ。
 このコンピにはゴリラズ(ブラーのデーモン・アルバーンの匿名ユニット)、シーザース(iPod shuffleのCFタイアップ曲)、コールドプレイの新作からのヒット曲が収録されている。どれもそれぞれアルバム単位で買おうかと思っていたものばかりだった。しかし、しかしである。哀しいかなどれもCCCDだったのだ。しかもEMI系は輸入盤(欧州盤)も同様の措置。あまりにもひどいではないかっ。聴きたいけど聴くことを躊躇してしまう、そういう状態だったところなのだ。
 そんな中リリースされた本盤は何故か通常CDだったのだ。前述の3曲が入っているので喜んで購入したことは言うまでも無い。特にシーザース「ジャーク・イット・アウト」はTV-CFでの印象的なオルガンの音色が耳にこびりついて離れなかったので是非聴きたかった。それにしてもiPodのテーマ曲がどうしてCCCDなのか、理解に苦しむが。オープニングを飾るゴリラズもいいし、ダフト・パンクがそれに続く。他に有名どころはモビーやエイジアン・ダブ・ファウンデイションくらいでどちらかと言うと先物買い的なアーティストが多いが、どのバンドも英国的なにおいを漂わせていて(アメリカやオーストラリアのバンドもいるのだが)統一感があるのでコンピっぽい雑然とした感じが無いのはメリットと言っていいだろう。
 そしてトリを飾るのはコールドプレイ。グラミーまで受賞してもはや大御所とも言える彼らの新曲はやはり「うまい」と言わざるを得ないクオリティの高さ。役者が違いますな。(05.8.14)



BRUCE SPRINGSTEEN
Devils & Dust
 「ボス」も思えばもう50代だったのだ。そりゃあ自分自身の年齢を考えれば当然なのだが、思い浮かぶのはライヴでの物凄く元気な姿。Tシャツかタンクトップにジーンズ。振り上げた拳。しかし、そうしたイメージはあまりにもボスをステロタイプ化したアナクロ・ロックオヤジにしてしまっていた。実際は全く違うのに、だ。
 「ボーン・イン・ザ・USA」はベトナム帰還兵を哀しく歌う、パトリオティズムとは相反した作品であることは訳詞を読めば一目瞭然なのだが、何故かアメリカ本国でも愛国利用されそうになったこともある。本国でさえそうなのだから、まして日本では何を言わんかや、だ。
 確かにあのサウンドプロダクションがあまりにも売れ線狙いだったことも良くないのだが、現在はこの新作のような一聴地味なアコースティック路線であっても十分受け入れられることは、非常に良いことだと思う。その証明にこのアルバムはかなりの国でナンバーワンを記録したようだ。
 「ネブラスカ」を連想させるギターとハーモニカを中心とした作品だが、年輪と「9.11」と大統領選での敗北など、様々な熱い思いが凝縮されている。それが音になって表われているのだ。「あの」少し鼻にかかった独特の声、「ボス」だと誰にも分かるあの声は英語の分からない日本人にも彼の「いいたいこと」の何パーセントかは共有できるんじゃないだろうか、と思わせてくれる。(05.6.25)



JACK JOHNSON
  In Between Dreams
 ラジオから流れる心地よくも何だか心に引っ掛かる、そんな曲を聴いた。これがそのジャック・ジョンソンだった。マイルス・デイビスのアルバムを想起させるが、特別関係はないようだ。とにかくこれは只者じゃあないぞ、とばかりにニューアルバムを買ってみたのだ。それが大当たり。
 ここ最近の男性ヴォーカルとしては出色ではないか。爽やかなシンガーソングライターものとしても十分楽しめるのだが、この声の存在感はただ流しておくには勿体ない。正対して拝聴したくなるものだ。こってりと濃いこの声はくせになる。ラジオだともう少しあっさりして聞えたが、CDで聴くと車の中でも濃さで満たされる。そしてギターもガッチリと主張する。あとはベースとドラムといったシンプルな編成なのでいっそう彼の声が引き立つ。捨て曲なしの名盤と太鼓判ものだが、まあとにかく彼の声で何でも許されてしまうだろう。
 音質自体もすこぶる良い。この濃い声のレンジをしっかり再生できれば、「オーディオ好きで良かった」と思うはず。女性ヴォーカルのリファレンスはノラ・ジョーンズだが、男性ヴォーカルは断然このジャック・ジョンソンで決まりだ。(05.3.29)



PAT METHENY GROUP
 The Way Up
 「パット・メセニー・グループ」としてのアルバムを買ったのは今回が初めてだ。自分は決してパットの良いリスナーとは言えないかもしれない。確かにギタリストとしての腕前は素人ながら凄いと思うし、なかなか良い曲を書くのだが、何だか「それだけ」のような気がしてしまうのだ。「魂がこもらない」とまで言ってしまって良いものだろうか。
 やはり今回も印象は変わらない。お見事っ。その一言で片づけられてしまうかもしれない。完璧なまでに仕上げられた音のタペストリー。ラッセンなどの絵に共通する極彩色の、非の打ち所の無い作品。
 聴いた後は何も残らない。しかしこれでいいのだろう。これぞ、パットにしか出来ない技でもあるのだ。一見(もうかなりの年齢のはずだが)笑みを絶やさない好青年に見えるパットだが、実際にも「いい人」らしい。やはり、と思った。真面目な好青年が作る、レベルの高い作品。そうなのだ。これだけでも凄いし、かなり努力を積んでいるはずである。「闇」や「毒」はないが、考えてみればそういうものを有難がるのは自分も含めた音楽を聴き過ぎてしまったマニア達なのだ。
 「何か聴くものないかな…」という時。次に聴くものに迷った時。こういうものが選ばれやすいような気がする。そして期待を裏切らない。音質も良いので、チェックにも使える。しかも音が良いだけで曲がつまらない、ということがないので何度でも楽しめる。素晴らしいCDなのだ、実は。(05.2.27)



オレンジレンジ
 MusiQ
 カラオケは「花」で決まりか!と若者にすり寄りたがるオヤジ達のマスト・アンセムとなるのだろうか…と馬鹿な心配をしてしまう今日この頃。でもこれ確かに名曲。わし歌いたい。
 この曲で彼らオレンジレンジを知った方は、さぞ戸惑われるであろうこのアルバムの内容。「ごった煮」という言葉が相応しい、バラエティに富んだこの中身はまさに「ミクスチャー」なのだ。
 結構自分は「ロコローション」という、ちょっとお馬鹿な曲が好きでラジオでも気になっていたのだが、やはりこれはいい。どっかで聴いたようなフレーズをちりばめて、ラップで繋いで、これまた耳に馴染んだようなサビを決めて出来上がり。この「あざとさ」とも言うべき勢いが好きだ。パクリだとか言うのも馬鹿馬鹿しくなる、ノリが全ての曲なのだ。
 とにかくロック、歌謡曲、沖縄民謡、ファンク、ヒップホップ、ズンドコ節と何でもアリだ。「こりゃいいや」と思ったものは先入観無しに積極的に取り入れて見事に自分たちの曲にしている。しかも全てポップなことこの上ない。そりゃ売れますわ。紅白が楽しみ。(04.12.19)



U2
 How To Dismantle An Atomic Bomb
 限定モデルで登場したiPodのU2ヴァージョン。あれ恰好良いですな。黒と赤の配色が絶妙で、乳白色というイメージしかなかった同製品の固定観念を変えたと言ってもいい。通常のタイプよりも5,000円高い価格設定がされているが、何せ元々そんなに安くはなくても売れているiPod。余る事は無かろう。
 さて、このニューアルバムも黒と赤をあしらったジャケットとCDの中身になっている。いかにも反戦的なタイトルと共に、内容も「往年の彼らが戻ってきた!」という触れ込みだった。
 が、しかし。どうなんだろう、これは。確かにファーストシングルとなった一曲目の「Vertigo」はまあまあの曲だが、あとはバラードの3曲目がまずまずで、他にはと言うと…うーん、困ってしまう。「特別他と差別化しようのない普通のロック」というのが正直な感想だ。これならば「ズーロッパ」「POP」の時代の方が面白かった。リズムを前面に出してはいたが、メロディも良かったのだ。今回はメロディが無い、とまでは言わないが彼らにしては凡庸。歌詞は過激なはずなのに、ただの叙情的なロックになってしまっている。「WAR」や「ヨシュア・トゥリー」の時はもっと熱く(暑苦しいとさえ言えた)、しかもそれを秀逸なメロディで歌っていた。成長して大人になった彼らの姿はこれなのだろうか。
 確かにまだ一回聴いただけだ。しかし、何回か聴けば印象が変わるだろうか。何回も聴く事を要求できるほど、時代はのんびり待ってはくれないのではないか。(04.12.6)



BRIAN WILSON
 Smile
 音楽ファンの間ではそこそこ話題になっていて有名CD店ではちょっとした店頭ポップと共に陳列されている。ブライアンがビーチ・ボーイズの人で、重要人物である事はそういった店頭の説明書きでわかるだろう。ビーチ・ボーイズ…ああ、明るく楽しいいかにもアメリカ〜ンな音楽だね、という感覚で買って行く人もいるだろう。しかしちょっと待たれい。
 これはビートルズで言えば「アンソロジー」みたいなものだ。これをステレオタイプなビーチ・ボーイズの延長線上に置いて聴くと、中古屋に山積みという事態がまたしても発生してしまう。あくまでビーチ・ボーイズをある程度聞き込んだ方、特に「ペット・サウンズ」を持っている方にお勧めしたいアルバムだ。
 「サーフィンUSA」の気分で聴くと、とてつもなく暗い音楽と思われるだろう。これこそはブライアンがビートルズの「サージェント・ペパーズ」に影響を受けまくって、ヤクでへろへろになりながら作っていた作品なのだ。そして結局当時は完成せず、断片だけがその後のアルバムに収録されたりした、つまりは「幻」のアルバム。古くからのロックファンの間では「伝説」化されていた傑作中の傑作。しかし、遂に幻は全貌を明かした。とは言え、現在のブライアンが録音し直したものだ。だから「ビーチ・ボーイズ」ではなく、ブライアン名義というわけ。
 「暗い」とは書いたが予想していたほどではなく、やはり当時とは違ってクリーンな体で作り直したこの作品、「英雄と悪漢」や「グッド・バイブレーション」などの既に知られている曲も入っているせいもあって、「ペット・サウンズ」に比べれば取っつきやすい。そこが意見の分かれ目かもしれない。(04.11.6)



THE ORDINARY BOYS
 Over The Counter Culture
 クラッシュかな、ジャムかな?と思ったものだった。初めて「メイビー・サムデイ」を聴いたときだ。違った。何と新しいバンドの、新しい曲なのだった。
 決して「オリジナリティがない」と言っているわけではない。何と言ってもこの曲の良さ。上記2つのバンドでもない限り、作れないはずの音なのだ。アルバムを聴いていくと影響はパンクだけではなく、それ以降、あるいは逆にそれ以前の音楽の要素全てがここにはあることが分かる。
 考えてみると、いや単純な事なのかもしれないが、現在の若いバンドは過去からより多くのものを吸収できるのだ。ロック誕生からでも約50年分、自分の糧に出来るのだ。よく「○○は過去の△△の焼き直しじゃないか」という声が聞かれるが、耳を澄まして聴いてみればそこにはもっと多くの要素が詰まっている。いかにそれを「自分のもの」として鳴らす事が出来るか、なのだ。
 このバンドは見事にこれまでのロックの美味しい部分を見事に消化・吸収している。しかし何と言っても曲の良さ。キャッチーなメロディー。これに尽きますな。(04.8.19)



MATT BIANCO
 Matt's Mood
 何と言ってもバーシアである。
 お懐かしや、90年代初め清涼感溢れるその歌声は当時はまだそれ程女性ヴォーカルを好んで聴いてはいなかった自分も愛聴していたものだった。当時も「元マット・ビアンコ」というプロフィールで登場していたが、今回10何年か振りの復帰と言うわけだ。お帰りなさい、と言いたい。
 ジャケットに写る彼女はさすがに年齢を感じさせる風貌になってはいるが、歌声は一聴して「あの」爽やかなものだったので一安心。一曲目の「オーディナリー・デイ」がこれまたポップないい曲で、バーシアの歌声が心地よい。アルバム全体はバーシアとマークが曲によって交代でリードヴォーカルを務めているが、大抵片方がバックヴォーカルに回る、という構成になっている。
 元より「爽やか」だとか「おしゃれ」だとか、そういったイメージで括られる事の多いマット・ビアンコだが、今作も当然その路線に変わりはない。ラテン・テイストの濃い楽曲にほんのりボサノバを振りかけて、洗練された音作りで都会的に仕上げる、といった感じか。しかしそこにバーシアが加わった事で、これまで少々鼻に付きがちだった「おしゃれ」な要素を和らげると言う効果があると思う。彼女の声と言うのは昔から良い意味での「素朴さ」を持っており、わざとらしさが無いのだ。これがこのアルバムをナチュラルなものにして、誰が聴いても耳に馴染みやすいものになっているのだ。確かに驚きは無いかも知れないが、何度聴いても飽きのこないことに感心した。車で聴いていて、2巡目に入ってもCDを替えたくなかったのだ。そしてまた聴いてしまった。
 今年の夏を涼しげに過ごしたいのであれば一番のお勧め盤だ。是非、車の中には一枚いかがでしょう。(04.7.21)



FRANZ FERDINAND
 こりゃいいぞ誰なんだ、とラジオから流れる「テイク・ミー・アウト」を一発で気に入ってしまった。「フランツ・フェルディナンド」と紹介されたその名前を当然最初はそのまんまの人名と思ったのだが、どうやら大注目英国新人バンドである事が分かってきた。最近「ロッキング・オン」とか読まなくなってしまったもんな。不勉強をいたく恥じると共に、リリースされたばかりのアルバムを迷わず買う事にしたのだ。
 真っ先に浮かんだ単語が「ニューウェーブ」。そんな80年代の臭いがプンプンしてくるのだ。前述したシングル曲ではそれ程感じなかったのだが、こうしてアルバム全編聞き通してみるとデペッシュ・モード、ワイアー、といった面々を連想してしまう。実際には演奏ももう少しオーソドックスなのだが、どうやら演奏力はまだまだこれから、という感じで例えばギターテクが目立つようにはしていない。しかし圧倒的に曲が良い。ちょっと暗めなところもいかにも英国ロックらしい。
 意外ではあるが、何だか久し振りに王道の英国ロックを聴いたような気がする。ザ・スミス、エコバニ、といった路線を継承しているのは彼らかもしれない。80年代ブームはニューウェーブにも及んで、今まで安かった中古レコードの価格も上昇基調にある今日この頃。まさに現れるべくして現れたと言うべきか。まあ、そういった面倒くさい事は考えなくとも単純に良い曲を楽しめるポップなアルバム。しかし、「あの」80年代を過ごした方々は是非。(04.7.10)



UA
 Sun
 今や「オンリーワン」的な存在となったUA、もはや売れているのか売れていないのかも良く分からないし、そんなことはどうでもいいような気もする。と言ってアルバムを出せばこのように注目もされるわけで、ミュージシャン的には自由なのだ。常にヒットを要求されているJポップのアーティストから見たらうらやましい存在とも言える。
 今作も独自路線まっしぐら。ジャズっぽい生演奏をバックに例の声で歌う。バックの演奏がそうであっても決してベタなジャズにはならないところが彼女の真骨頂。まさにそれは「UAの音楽」としか言い様の無いものなのだ。
 母親になった、という情報の先入観でもあるまいが、今までよりもそこはかとなく優しさが音楽に加わったところが変化と言えば変化だろうか。どちらかと言うとクールなイメージのあったUAだが、何だか今作はほんのり温かなものを感じるのだ。アコースティックな演奏もその印象を強める役目を果たしているし、昔から全く変わらない特徴的なハスキーヴォイスも何だかほほ笑みながら歌っているようなのだ。ここが一番大きな変化だろう。
 さらに前作からそうだったのだが、「無国籍」的とも言えたイメージや佇まいが東洋的な趣を増していることも見逃せない。一聴してそう感じる事ではないのだが、見た事も無い昔の日本を思い起こさせてしまう「何か」。まだ整理されていないので訳の分からない言い方になってしまったが。
 ポップで売れそうな取っつきやすい曲はないのだが、全編一つの曲のように統一感がある。思い出したように時々引っ張り出して聴く事になるのだろう、そんなアルバムだ。(04.6.26)



YOSHI LOVINSON
 at the Black Hole
 「イエモン」というと今やペットボトルのお茶を連想してしまう時代になってしまったのかもしれない。もう3年の時を経過しているのだ。激流のような日本の音楽シーンではいつの間にか「あの人は…」というポジションに置かれてしまっても無理はない。しかし吉井和哉は帰ってきた。YOSHI LOVINSONという、いささか大げさな名前となって…
 先行したシングル「tari」や「スイート・キャンディ・レイン」を聴いていたのでわかるが、イエモン時代に比べるととにかく「暗い」。イエモンはだんだん盛り上がって行って大団円を迎えるような曲調が多く、これがヒットの要因の一つだったのだろうが、それはこのソロでは抑え目なのだ。シングルでさえそうなのだから、アルバム収録曲は尚更だ。以前イエモンのベーシスト、ヒーセがソロを出していたが、「あの」盛り上がっていく音はまさに彼のベースによってもたらされていたことがよくわかって面白かった。
 元々吉井の持っている「暗い」要素がソロとなって放出されたものなのだろう。散々「暗い」「暗い」と書いているが、それはあくまでこのアルバム全体を覆うトーンや、その歌詞がそうなのであって、決して地味なのではない。むしろポップさは相変わらずで、グラムロックとニューウエーブと、そして日本の歌謡曲が絶妙にブレンドされた彼ならではの味が全開だ。
 やはりただの歌謡ロックでは出来ない、クオリティの高いものを作ってきた。その「重さ」をウリにするのではなく、自然に出て来た…やはりこの人、かなり「闇」を抱えていると見た。ソロになってそれが否応なく分かってしまうような作品。(04.4.23)



NORA JONES
 Feels Like Home
 驚いた。
 失礼な言い方になってしまうが、期待を裏切りまくられた傑作だ。ジャケ買いしたファーストアルバムはあれよあれよと言うまに売れまくり、揚げ句グラミーまで獲ってしまったのだが、そうすると2作目と言うのは大変難しい。特に天然の魅力があった彼女の良さがスポイルされてしまうに決まっている、と勝手に思っていたのだ。
 それなのにどうだ。彼女の天然さが炸裂しているではないか。変にゴージャスになることもなく、いやそれどころか音のすき間はさらに多くなり、シンプルで味わい深い、彼女の声の魅力を十分堪能できる素晴らしい作品になっている。いや、全く申し訳ありませんでした。
 既にFMでヘヴィーローテーションになっている一曲目から、忘れられないメロディと印象的な声。バックは必要最低限だがそれだけに良く「効いて」いる。前作はジャズ的な面も多かったが、今作はどちらかと言うとカントリー的なテイストが強い。けれども、まあそんなことはどうでもよろしい。ジャンルなど無視して、とにかく「ノラ・ジョーンズ」のアルバムなのだ。
 悲しいことに日本盤、そして輸入盤でもEU盤はコピーコントロールCDだ。ようやく輸入されたUS盤を手に入れたのだが、これがもう、すこぶる高音質。ノラの声、バックの楽器、それらの音の空間、音場の広がりとまとまり、全てが超ハイレベルなのだ。と言って変にハイファイ調のサウンドではなく、温かい血の通った、ジャケットの色(オレンジと言うか茶色と言うか)に通じる音なのだ。女性ヴォーカルのリファレンスはこれ一枚でOKだ。
 もしかしたらCCCDでも高音質になるように、これだけの音にしたのかもしれない。だとしたら皮肉なことではあるけれども。しかし、絶対にUS盤がお勧め。(04.3.17)



RED HOT CHILI PEPPERS
 Greatest Hits
 タイトル通り、レッチリのベスト盤である。…と書いてしまえばそれまでなのだが、実はかなりのベテランバンドであることを物語る、2作目のベストなのだ。何せ「What's Hits?」は80年代の選曲なのだから。
 1曲目から大ヒット曲「アンダー・ザ・ブリッジ」。もうこれ91年だったのだ。それまでのイメージを少し修正させたくなるような「大人」な曲だったが、以後こういう曲調が多くなっていく。実際このベスト盤、「スカー・ティッシュ」とか「アザーサイド」とか「バイ・ザ・ウェイ」といった代表的な曲は全てそんな「大人」曲である。改めてこのCDを聴いていくと、「あ、レッチリって結構アダルトなバンドだったのね」と思わされてしまう。ライブでは相変わらず下半身丸出しにしているにもかかわらず、だ。
 2曲目の「ギヴ・イット・アウェイ」のようなベースがびよんびよん弾んでファンキー路線まっしぐらな曲の方がレッチリ、というイメージにはピッタリなはずなのだ。実際アルバムにはこうした曲がかなりある。しかし、ベスト盤を編集すると意外に大人しめの曲が揃ったことはバンドとともにリスナーもファンも成長してきた証なのかもしれない。エログロファンキーな曲をもっと!と思いながらも彼らのミディアムスローなナンバーにノックアウトされている自分がいる。
 とにかく「いい曲」がずらりとラインナップされた、盤石なベスト。選曲にひねりはないが、漏れはなし。ただし、迷走期だった「ワン・ホット・ミニッツ」からは一曲もセレクトされず、だ。自分もこのアルバムはつまらなかったので今は手元にない。そう言った意味からもベストだ。(04.1.8)



THE BEATLES
  Let It Be...Naked
 東芝EMIが社運でも賭けているのではないかと思わせるほど宣伝しまくっているこのアルバム。内容はビートルズのラスト・アルバムとなった「レット・イット・ビー」の…うーん何と言ったら良いのやら、「真の」ヴァージョンということらしいのだが、実際には結局かなりの手が加えられているようなので、以前リリースされた「イエロー・サブマリン・ソングトラック」と同様「リミックス」と呼んだ方が的確かもしれない。とにかく(サー)ポール・マッカートニーは「これが本当の『レット・イット・ビー』だ!」と感動したとのことなので、まあそうなのかもしれない。
 いわゆる「蘊蓄」的な話は様々なメディアに詳しいので割愛するが、確かに重厚なストリングスでオーバープロデュースされたこれまでの「レット…」からは全くかけ離れた、シンプルな作品となった。それが顕著なのはやはり「ロング・アンド・ワインディング・ロード」だろう。オルガンをフィーチャーした音数の少ないこのヴァージョンは、重厚なストリングスで彩られていた元ヴァージョンとは全く違って聞こえる。最初は「この場所でストリングスが始まらないと、何だか物足りないなあ」などと思っていたが、何度か聴いているうちに「いや、やはりこれだ。これでなくては」と強く信じるようになってきた。これは音質が良くなったこともかなり大きい。ヴォーカルの存在感がケタ違いなので、ポールの声が「そこ」にいる。まるで新録のように、だ。
 最初は少し懐疑的だったこのアルバム。しかしやはりこの「分厚い音で普通にロックしている」ビートルズを聴くと言うことは改めてこのバンドの凄さを思い知らされた。それは「一曲一曲が他のバンドが一生掛かっても作れないほどのクオリティを持っている」ことは前から分かっていたつもりだったが、さらにその認識を新たにしたこと。そしてまた、「バンドとしての上手さも天下一品だった」ことも、だ。特にリンゴのドラム。やはりリンゴがいてこそのビートルズだったのだ。
 ただ、いまだに納得できないのがジャケット。このグレー地は何か意図があるのだろうか。そして反転させた写真。今どきこれは無かろう。ビートルズはジャケットも最高だった。見ただけで「買いたい!」と思わせてくれる素晴らしいものだったのだ。今回のこのジャケはお世辞にも趣味がいいとは思えない。アナログ盤では大きさも変わるので修正を望みたいが、まあそこまでしないだろうなあ。これは一般的に言えることだがジャケットのデザインが良くない。どうにかならないものなのだろうか。コピー問題を云々する前に、見ただけで欲しくなるジャケットを作ることも重要だろう。(03.11.22)



ELVIS COSTELLO
  North
 いわゆる「ロックファン」はこういうコステロを望んでいるのかどうかはともかく、良い作品だ。
 アルバムごとに全く違うアプローチを見せているコステロさんだが、今回はジャケット同様しっとりと渋いヴォーカルを聴かせる作品となった。「SHE」の路線というわけだ。最初は「似合わないなあ」と思っていたが、この人の声が持つ、独特の「癖」が良い方向に行っているようだ。
 バックの演奏もジャズコンボ+ストリングス、という編成がメインで、ドラムにピーター・アースキン、フリューゲルホーンにルー・ソロフといったジャズ畑のメンバーが多い。2曲目は大ベテランのリー・コニッツ(アルトサックス)がクールにソロを吹いている。
 ロックファンだがジャズファンでもある自分には馴染みやすい作品だし、何よりもこのヴォーカル。この声。参りましたと言う他は無い。ロックアルバムだった前作も良かったし、本当に今この人は絶好調なのだろう。しかしこのアルバムだって「ロック」を十分に感じさせるものなのだ。この声がジャズやクラシックであるはずは無い。これを聴いて「コステロはふ抜けになった」ようなことを言う人のことが分からない。フォーマットは何だっていい。コステロが存在感たっぷりに歌う。ロックだ。(03.10.12)



STEVE WINWOOD
 About Time
 スティーヴ・ウィンウッド。何だか久しぶりにこの名前を聞いた気がする。
 80年代は「ハイアー・ラヴ」などのヒットを飛ばして、やけに華やかな印象があったが、この頃にしたって「復活」という表現が正しいほどの大ベテランだ。トラフィック云々、スペンサーデイビスグループがどうの、という単語は彼を語る上では胃にもたれるくらいしつこく色々なところで述べられているので省略しよう。
 その大ベテランのスティーヴ、新作は自身の弾くオルガンとギター、ドラムといった最小限のメンバー編成で録音されたことが注目の的だ。音数は多けりゃ良いってもんじゃない。このシンプルさが今回の売りか。
 しかし、そんなシンプルな構成をすっかり忘れさせてくれる程このアルバムはテンションが高い。ベースパートはオルガンのフットベースでぶんぶんもりもり出ているし、そのオルガンのソウルフルな「ノリ」とうねるギターが秀逸、そしてスティーヴ自身のヴォーカルも昔ほどのハイトーンとは行かないまでも好調を維持している。
 現在はオルガンを主役にした「ジャム・バンド」がジャズ方面からもちょっとした流行になっている。オルガン・コンボならばおれも負けないぞ、とスティーヴが対抗意識を燃やしたかどうかは分からないが、さすがベテラン、ツボを押さえた演奏で飽きさせない。何よりも曲が良い。確かに多くのジャムバンドはテンションが高く、演奏も良いのだが曲がつまらないことがある。だからすぐに飽きてしまうのだ。その点、さすが歴戦の強者スティーヴは違う。「格の違い」を見せつける作品。(03.9.15)



MANDO DIAO
 Bring'em In
 ベタベタだ。
 確かにこれを何の先入観もなしに聴いたとしたら、60年代のものとしか思わないだろう。それをもしかしたら彼らのオヤジでもリアルタイムではないんじゃないか?という年代の連中がプレイしているのだ。これまでもそうしたバンドは数多く存在したが、例えばストーン・ローゼス。彼らは一聴レトロな演奏や音作りをしていたように見えたものの、結果的には90年代の音をしっかりと鳴らしていた。60年代にはない新しいものがあったのだ。
 翻って、このマンドゥ・ディアオはどうか。どう聴いてもこれが21世紀の音とは思えない。そのまんま、60年代の音をかき鳴らして歌いまくっている。カラオケじゃあるまいし。これでいいのか?彼らは幸せなのか?
 答えは、これでいいのだ。いやこうでなくては、という確信に満ちたサウンドが全曲に渡って流れているのだ。何と言っても理屈抜きに楽しめる単純なロック・チューン。これ以上何を彼らに求めようと言うのか。新しいサウンドは他の誰かに任せて、とにかくロックを楽しもうではないか。やりたい音楽をやろうではないか。今も昔もロックはロックだぜ。そんな声が聞こえた。
 ある意味、今がピッタリのバンドなのかもしれない。確かに高性能な60年代風ロックバンドだが、本当に60年代に存在していたら、キンクスやフーといった連中に勝てたかどうか。楽曲の良さは良い勝負ができるのかもしれないが、やはり長年の風雪に耐えてきて今も聴き続けられているロックバンドにはイントロを耳にしただけで「ぶるっと」思わず身震いさせてしまう「不思議な力」があるのだ。
 まあ、そんな比較は無意味だろう。とにかくマンドゥ・ディアオは良い曲を鳴らす、ロックバンドなのだから。(03.8.11)



DRAGON ASH
 Harvest
 ずいぶん久しぶり、という気もするが1年前のワールドカップの時にはここにも収録されている「ファンタジスタ」が鳴りまくっていたのだ。それを思えばわずか1年、しかし1年でもある。
 kjこと降谷建志はかなり悩んでいたようだ。それはそうだ。10代でデビューしてトップダムに上り詰めてしまったら、一体それからどうしたら良いのか。今でもまだ弱冠24歳に過ぎないのだ。自分のような平凡な人間には想像も出来ない、色々なことがあったに違いない。
 先行シングルにもなった「モロウ」は肩の力が抜けた、良い意味で軽い仕上がりの曲だ。ややハード目のシングルが多かったので、一聴肩透かしな印象を受けたが、今では何度でも聴きたくなっている。「ふっ切れたかな」と感じさせる、歌詞も彼らしい前向きかつ爽やかなものだ。
 アルバム全体的には「ファンタジスタ」路線のハードな曲が多い。ギタリストが正式メンバーとして参加したことも大きいのだろう。タイトなバンドサウンドにボッツの作り出すトラックとの絡みがさらにレベルアップしたように感じる。
 ヒップホップをここまで世間に広め普及させヒットチャートに普通にランクさせることに貢献したのは間違いなくDragon Ashである。しかし、彼らはあくまで「ロック」だと思う。そんなアルバムだ。ラストのタイトルチューンはやはり「彼ら」ならではの感動ものだ。必聴。(03.7.28)



RADIOHEAD
 Hail To The Thief
 強いなあ。
 聴いてまず最初にそう感じた。彼らからそういうイメージは抱きづらいかもしれないが、そうなのだ。盤石、と言い換えても良いだろう。なぜレディオヘッドがこれ程の支持を得ているのか、ガツンと思い知らされたわけなのだ。
 一音一音から伝わる彼ら特有の繊細さ、そこに込められたさまざまな思いとその密度の濃さ。参りました、と頭を下げるとともに、うっとりと聞き入ってしまうその説得力。英語に堪能ならばその歌詞の世界にも浸ることができるのだろうが、いやいや、音だけでも伝わってくる物はあまりにもたくさんあるのだ。トム・ヨークの「あの」絞り出すような声はいったい何千万の人々を平伏させているのだろうか。傑作続きの彼ら、また新たな傑作が登場してしまった。
 ここ最近の作品と比べると、オーソドックスなロックに戻ったような音作りになっている。ギターの音がちゃんと鳴っている、というのは個人的にはやっぱりうれしいものだ。もっともどんなフォーマットの音でもレディオヘッドはレディオヘッド。もう「右上手十分」の形を世間に納得させたバンドは強い。強すぎる。
 この新作は遂に忌まわしきCCCDとなってしまったので、アナログ盤(当然輸入盤)を探して入手した。最初かけたとき「あれ、ずいぶん低い声だな」と思ったら、45回転であった。どこにも書いてないよ、そんなこと。しかし45回転2枚組で重量盤。音質もかなり良くて満足。音が空間に浮かんできます。(03.7.14)



DARYL HALL & JOHN OATES
 Do It For Love
 日本で盛り上がる80年代リバイバル、ご多分に漏れずホール&オーツもコマーシャルで「プライベート・アイズ」が流れまくり、知っている人は懐かしみ、知らなかった若い人も「お、良い曲じゃん」と興味を示す。当然のごとくベスト盤がリリースされ、それとは関係なしに久しぶりの新作が(ちょっと前なんだけど)届けられた。
 と、実際にはあまり期待していなかったことも確かだ。当時のポップセンスを失って、ただただ退屈なだけの曲が並んでいたりして…などと。そして思うのだ、やはり彼らは80年代の人なんだ、と。
 いや、申し訳ありませんでした。全くそんな事はなかったのです。
 そりゃあ、「プライベート・アイズ」や「キッス・オン・マイ・リスト」みたいな必殺のポップソングはここには無いかもしれない。しかし、この新しいアルバムには好ましい曲がたっぷり詰まったいたのだ。
 一曲目から彼ららしい、いや彼らにしか出来ないソウルフルなヴォーカルで楽しませてくれる。それ以降も飽きさせない曲が並んでいて少々驚かされた。彼らはどちらかと言うとアルバムよりも「シングル曲」で売っていたようなイメージがあったのだ。つまり、ベスト盤は凄く良いのだが、通常のアルバムを通して聴くのがちょっぴりつらい、というような。しかし、このアルバムは違う。突出した曲が無い、と言えばそうなのかもしれないが、何度も繰り返し聴いても食傷しない心地よさに、どの曲も溢れているのだ。
 また、当時のようなシンセを効かせまくった音作りではなく、アコースティックにギターをフィーチャーした大変シンプルで聴きやすいサウンドに好感が持てた。今ならばこれだろう。(03.6.22)



STEELY DAN
 Everything Must Go
 出る出ると噂のあったスティーリー・ダンの新作、気がついたらもう出ていたのだ。あれま。
 前作はそこそこヒットしたこともあって、これでまたしばらくマイペースに活動するのかな、と思っていたら意外に早いスパンでリリースしてきた。ちょっと驚きではある。逆に味を占めたのか。
 サウンドの方は相変わらずで、いかにも、な「スティーリー・ダン」印の音楽が全編に渡って流れるというもの。悪く言えばワンパターンなのだが、彼らには許される「偉大なる」それだ。ギターのカッティングを聴いただけで「ああ、来た来た」と思わずつぶやいてしまう、そんないつもの音。
 ただ、若干いつもより「明るい」トーンで全体が貫かれているという特徴はある。ドナルド・フェイゲンの声も何だか楽しそうに聞こえる。これはそういう狙いだったのか、それとも結果的にそうなったのか。そう言えば、いつもの音はもう少しオーディオ的とでも言うべき硬質感が強いことが特徴だったのだが、録音にもアナログ的な温かみを感じる。そういうものが求められている時代、彼らもそれを感じ取っているのか、逆に彼ら自身が必要としているのか。
 今回これと言って名作「Aja」のような超豪華大物ゲストが参加しているわけではない。そんな中で最近地味ながらも特に日本でファンを増やしているジャズピアニスト、ビル・チャーラップが参加している。あまり目立つプレイをしているわけではないが、ちょっぴり嬉しい。(03.6.15)



スガシカオ
 Smile
 前作は完全なアルバムというわけではなかったが、チャートでめでたくナンバーワンをゲットしたスガシカオ。「夜空のムコウ」のセルフカバー効果だったのだろうか?
 個人的には前作には(前々作もかな)物足りなさを感じていたのだが、今作はまさに「お帰りなさい」と言いたい。これなのだ。これがスガシカオだ。この濃ゆいソウル風味溢れてファンキーでいながらギトギトしない、アコースティックな肌触り。そしてちょっと変態チックな歌詞。いやあ、良かった良かった。ついでながらタイトルのシンプルさもいい。ただ「スマイル」。
 先行シングルが何曲か収録されていることも、聴きやすさにつながっているが、ニューバージョンになっていたりと、シングルを買った人も失望しないようなサービスは相変わらず。どれも大ヒットしたわけではけれども、いい曲ばかりだ。
 そう言えば、スガシカオと言う人はかなり息の長いヒットメーカーだと思うのだが、シングルはそれ程ヒットしていない。逆にそれが息の長い要因の一つかもしれない。ヒットを一発出してしまうと、なかなか不遇のときを迎えたりして上手く行かなくなることもあるからだ。唯一無二の個性があるので、別に新境地を開拓する必要もないと思うし、このままいい曲をそのスタイルで歌ってほしいと切に願うのだった。前作で初めてスガシカオに入った方は是非、こちらの方がもっといいですから。(03.6.4)



PAUL McCARTNEY
 Back inThe U.S.
 すごい。聴いていて涙が出そうになってきた。これは絶対聴くべきものだ。
 このライヴ盤、曲目だけ見ているとビートルズナンバーのオンパレード。これだけで「なーんだ」と思ってはいけない。「ポールが素直にビートルズを演っている」ことに感動するべきなのだ。「すべきである」などと思いっきり大上段に振りかぶってしまったが、これで感動しないビートルズファンがいるのか。ポール自身には悪いが、ポールだけのファンでビートルズは良く知らない、という人はかなりの少数派だろう。「いない」と言い切ってしまってもよいのではないか?ならばポールが新曲を最小限に抑え、こんなにたくさんビートルズを歌ってくれたことは皆、大いに称賛すべきなのだ。
 ただ単にポール・マッカートニーがビートルズナンバーを懐メロっぽく歌っているだけならばこんなに感動はしないのだ、確かに。何が素晴らしいかと言って、「素直に」歌い、演奏していることなのだ。つまり、オリジナルそのままに、崩しを加えずにプレイする。これは出来そうだが簡単にできることではない。考えてもみよう。いったいオリジナルから何十年経っていると言うのだ。40年近くの歳月が横たわっているにもかかわらず、それを無視して何事も無かったかのように歌うということがどんなに難しいことだろうか。バックの演奏もその意図に沿ってオリジナルに忠実なプレイを全うしている。
 確かにそうなのだ。崩さないことが正しいのである。つまりポールは正しい。「オール・マイ・ラヴィング」は前奏無しで「くろーじょあーい」といきなり歌い出すからカッコいいのだ。「キャント・バイ・ミー・ラヴ」も然り。「サムシング」はかなり崩しているが、これは元々ジョージ・ハリソンの曲でヴォーカルもジョージだ。亡くなってしまったジョージへ捧げたのだろう。
 さらに、さらにはラストは「サージェント・ペパーズ」から何と、名アルバム「アビー・ロード」の最後を飾る「The End」なのだ。もう、これ以上何を望むと言うのか。さっきから「感動」とか「素晴らしい」だの音楽評論では使ってはおしまい、という単語を使いまくっているが、それがどうした。感動して何が悪い。素晴らしいから素晴らしいのだ。
 それにしても感心してしまうのはポールの声。元気だ。昔のまま。元気などと言ってはあまりにも失礼に当たるほど現役そのものだ。いやはや、もう随分前に発売されていたのに。もっと早く聴くべきだった。
 元々これを買ったのは、最近日本盤では「バック・イン・ザ・ワールド」と新ヴァージョンとなって再発されたのだが、これがCCCD。まずい、本当のCDが無くなってしまう…と慌てて前のヴァージョンを輸入盤で購入したと言うわけ。そんなちょっぴり後ろ向きな買い方をした自分に深く反省。(03.5.5)



椎名林檎
 加爾基 精液 栗の花
 済まぬ、林檎ちゃん。今回はレンタルなのだ。まあチャート1位のようだからいいでしょ。
 だってねえ、まさかCCCD(コピーコントロールCD)とは…音質がそんなに良くないのならば買わなくても良いか、と思ってしまったのだ。あーあ、嫌な世の中ですな。
 それはともかく、本当に久しぶりの復帰オリジナル作。メディアも強烈なプッシュをしてこのアルバムは大ヒットしている。正直な話、業界がここまで「椎名林檎」というアーティストに期待をかけているとは少々意外な印象を受けた。確かに一頃の「ヒットが当たり前のメジャーアーティスト群」がちょっぴり鳴りを潜めてしまっている。何が流行するのか一寸先は闇なのだ。そんな中、カリスマ的な魅力を持ち、ある意味スキャンダラス(突然の結婚・妊娠)な話題も持つ彼女が待たれていたと言うのもうなずける話だ。
 さて内容。これまでの椎名林檎と比べて大きく変わってはいない。一時期トレードマークとさえ言えた「巻舌」が控えめになっているが、それが合う曲調が少ないためでもあるだろうか。ファーストとセカンドは何枚かシングルをリリースしてから満を持して、という形で発表されていたが今作は「茎」のみ。曲順はセカンドと同じくシンメトリー状に並んでいて、彼女らしさを表している。全体的には大人しめと言うか落ち着いた作りの曲が多く、派手なロックナンバーはない。カラオケで歌っても映えるものではない。
 しかしこれが今の椎名林檎なのだろう。考えてみれば彼女は「音楽が、あるいは歌が好きで好きでたまらない」といったタイプではない。そこが他のアーティストと異なる最大のポイントだ。「体内から湧き出てくるどうしようもない表現衝動が結果音楽となって歌となって出てきている」人だと思う。だからこれでいいのだ。
 地味だからといって、悪いわけでは全くない。いや、それどころかじわじわと「来る」ような良い曲がたくさん詰まったアルバムで、やはりさすがと言わざるを得ないのだった。(03.3.23)



THE CORAL
 渋い。
 そう言ってしまえば身も蓋もないのだが、本当にこいつら10代なのかい、という渋さが炸裂しているアルバムだ。
 物凄く短いイントロダクションのような一曲目からどこか懐かしさを感じさせる60年代の匂いがぷんぷんしている。そして2曲目からは本番か、と思わせておいてこれまた激渋に盛り上がって行くタイプの曲なのだ。ヴォーカルの声がこれまた渋すぎ。
 「グッド・バイ」という曲がいい。ちょっと違うかもしれないが90年代初頭に活躍していた「インスパ」ことインスパイラル・カーペッツを思い出した。
 聴き進めていくとそうした渋い60年代的ロックなのだが、決定的なところはここだ。「マイナー調メロディ」に溢れているのだ。つまり日本人にもぐっと訴えかけてくるこの曲調。絶対これは日本で大ヒットする!…とは言うものの、今のところ動きは大人しかったりするのが残念。考えてみると、現在このようなブリティッシュ・ロックはなかなか紹介されていない。オアシスにしても、確かに日本でもそれなりの人気を博してはいるが、本国での扱いに比べれば大変小さな小さなものだ。どうしてもオアシス以外は「その他」扱いになってしまうのが現状だろう。洋楽ロック専門誌にしか登場しないバンド達、ファンにとってはその方が都合は良いだろう。しかし、ようやく日本の中での洋楽が勢いを盛り返し始めている中で、勿体ない話だ。これほどのバンドが日本で埋もれてしまっていることが。
 とにかく何も難しいことはなく楽しめる洋楽アルバムだと思う。聴こう。(03.2.9)



CRAIG DAVID
 Slicker Than Your Avrage
 普段はあまりいわゆる「R&B系」の音楽を聴くことは少ない。それでも比較的よく聴くのはローリン・ヒルか。Dragon Ashやリップスライムなど日本のラップは聴いても本場のものはこれまたあまり聴かない。ただ、最近JAZZを多く聴くようになったこともあり、そこから派生するソウル・ジャズやファンキーなオルガン・ジャズを経てやはりR&Bにたどり着いていたりするのだ。例えばドナルド・バードという人はジャズ・トランペッターだが、後年「ブラック・バード」というもはやR&Bその物のようなアルバムを出して一般的に知られるようになった。
 さてクレイグ・デイヴィッドである。このアルバムは2枚目なのだが、デビューアルバム(未聴)は大変な話題を攫った。イギリスで大流行した「2ステップ」と言われるダンスミュージックの新しい形を切り開いたものとして絶賛されたのだ。2000年の発売だが未だに売れているのではなかろうか。
 このセカンドアルバムを買おうと思ったのはたまたまラジオから流れてくる曲がなかなか良かったからだ。ファーストも結局迷ってはいたが買っていなかったので良いきっかけになった。
 一聴すれば普通のR&Bと言ってもいいかもしれない。しかし、クレイグの声は割とあっさりとしており、向こうのコテコテのソウルシンガーなどと比べるとネットリ感はない。あくまでクールなのだ。音の方もそうで、ドライなテイストのテクノ・ハウスな音がバックトラックになっている。また、アコギをフィーチャーしたロックっぽいトラックもあって、これまた普通の(いわゆる)R&Bとは違うぞ、と思わせてくれる。さらにはスティングのヴォーカルがフィーチャーされている曲もあり、これなどは一見水と油のように思える組み合わせがバッチリ合っていることを思い知らされてしまうのだ。
 2ステップとは何か?という質問にはそのタイトルもズバリ「2 Step Back」という曲で教えてくれる。ソウル、テクノ、ドラムンベース、ヒップホップ…いろいろな要素が混じりあっているのだ。それをハンサム(イケメンと言ったほうがイメージしやすいか)なクレイグがクールに決めて歌う。こりゃ確かに恰好良い。コッテリ・コテコテ系が好みの方には物足りないかもしれないが、これくらいの味の方が胃にもたれなくて良い。(03.1.3)



GEORGE HARRISON
 Brainwashed
 もう亡くなって一年経ったのだなあ、としみじみ感じてしまうジョージ・ハリソン。ラスト・アルバムとならざるを得ないのがこれだ。毎度おなじみのジェフ・リンと息子のダーニ・ハリソンがジョージの歌を基にシンプルに作り上げた作品ということも出来る。
 全体的にアコースティック感が強く、ジョージの歌声が生々しく迫ってくる。相変わらずだなあ、と思いながら聴き進めていくと、ちょっと声が弱々しく掠れたりする部分があったりもする。「やはり体が弱っていたのだろうか」などと思うものの、考えてみればジョージのヴォーカルというのはそういうものであって、やはりいつも通りだったのだ、と妙な感心をしてしまう。それもまた何か悲しい。
 曲自体もこれまたいつも通りのジョージ・ハリソン。「おお!」と驚くような曲が入っているわけでもないが、「サムシング」や「ヒア・カムズ・ザ・サン」の時から変わらないジョージ節とも言える穏やかでポップな曲達。いずれも良い意味で「どこかで聴いたような」曲なのだ。中には「いや、本当にどこかで聴いた」という曲もある。「ラン・ソー・ファー」はエリック・クラプトンが歌っていた。作者はジョージで、つまりはセルフ・カヴァー。どちらが歌ってもさすがに様になる良い曲だ。
 しかしこれがジョージのラスト・アルバム。もうビートルズはたった二人だけになってしまった、ということが何かピンと来ない。58歳での病死は、あまりにも早い気がしてならない。親友のクラプトンや、ストーンズ、ボブ・ディラン、そしてポール・マッカートニーだってまだまだ現役ではないか。…そんな感傷はこのアルバムの中にはない。とにかく、ジョージがギターを弾いて歌っている。それで十分、という良いアルバムだ。ジェフ・リンは良い仕事をしたと思う。(02.12.2)



THE CRANBERRIES
 Stars / The Best of 1995-2002
 「クランベリー」という可愛い名前で、しかもヴォーカルが女性なのだから…と言うイメージで聴くと、期待を大きく裏切られる…と言うほどでもない。なかなか微妙なバンドだ。
 ヴォーカルのドロレス嬢のキャラクターがどちらかと言えば「猛女」系だったりするので(でも美人)誤解されやすいが、全体的には美しいメロディラインを持った分かりやすいポップ・ロックを演奏しているのだ。だからこのベスト盤はもっとたくさんの人に聴いて欲しい。
 冒頭の「ドリームス」や続く「リンガー」などは爽やかな声とサウンドで、こういう曲ばかりならば普通の「女性ヴォーカル物」として日本でも一般紙にも積極的に紹介され、何となく「おしゃれ」かなー、などと認識されるのかもしれないが、一方で次の曲その名も「ゾンビ」や、「サルベーション」といった低いうなり声で歌われる曲が登場するので一筋縄では行かないわけだ。
 とは言え、そう言った曲も繰り返すが「分かりやすい」ので、それほど心配することはない。ポップだが露骨な「売れ線」狙いでもなく、しっかり「ロック」した音を出しているのでロックファンにも好まれるはずだ。
 自分が買ったのは輸入盤で2枚組、1枚はライヴだ。こちらも大変良いので、あれば是非とも2枚組の方をお奨めする。(02.11.21)



NIRVANA
 黒地にシルバーでただ「NIRVANA」の文字。それ意外何もないのだが、これこそが出る出ると言われていた、あのニルヴァーナのベスト盤なのだ。
 個人的には今のところ「最後の」ロックらしいロックと思っている。そう思っている人は実際にかなりいることだろう。何と言っても「nevermind」のオープニング。「じゃーじゃじゃ、じゃじゃじゃーじゃ」というリフ。何と恰好良いのだろう。ロックだ。これがロックなのだ。と、そう確信させるに十分だった。しかし、そうして売れまくったそのアルバムのあと、暗いトーンの作品をリリースし、フロントマンのカートは自殺してしまう。言い方が悪いことは承知だが、これもまさにロックだ。
 基本的には年代順に配列されているのだが、やはりこのアルバムでは5曲目の「Smells Like Teen Split」から聴いてしまった。何度聴いてもこのリフには参ってしまう。しかし、このリフがカートを自殺に追い込んでしまったとも言える。だからこそ格好良さが増してしまう、という罪な曲。これだけでニルヴァーナは伝説になり、10年経った今も再評価どころか、誰も忘れることのない存在になっているのだ。
 未発表の一曲目も音作り自体は最近行われたのか、ずいぶん「今」を感じさせるものの、やはりカートの声で唯一無二の存在、ニルヴァーナの曲だと認識させられる。ほぼ最後の録音(この2ヶ月後に自殺している)にしては、明るいトーンで「nevermind」っぽくもあり、何らかの心境の変化があったのかもしれない。
 ちなみに全曲リマスターされ、ずいぶんクリアな音になっている。ドラムは手数が増えたかのように分厚く、ベースはくっきりと聞え、ギターはカートの感情をダイレクトに伝えるように鳴り響く。とは言え、スカスカだったオリジナルの音の方が人によっては良いというかもしれない。(02.11.3)



UNDERWORLD
 AHundredDaysOff
 とかく流行り廃りの激しいダンスミュージック界、その流れに耐えきれずに脱落していく者、なかなかアルバムを出せずにいる者、出すたびにガラリと音楽が変わっている者など、様相は様々だ。しかし、ケミカル・ブラザーズとこのアンダーワールドだけは別格でコンスタントにアルバムをリリースしている。これは凄いことだと思う。
 ケミカルがアルバム毎に若干音を変えているのと比べ、アンダーワールドは特にここ何作かは変わらない。それで第一線に留まるだけでなく、シーンをリードして行くことが出来るのだから素晴らしい。今作も期待通りのアンダーワールドだ。それでも古臭くならないのがさすが。
 考えてみれば彼らはいつもその時の流行を追うことはしないし、またケミカルやプロディジー、またはファットボーイ・スリムのように一大ムーブメントを作り出すようなこともしなかった。もちろんヒットは飛ばしていたが、とにかくいつも「そこ」に「いる」存在だったのだ。これは結構おいしいかもしれない。お陰でコンスタントにアルバムを出し、そして売れる。そこにあるのは確固とした「アンダーワールド」という信頼できるクオリティの高いブランド。そう、まさに彼らは「ブランド」と言ってもいいだろう。
 今作も新機軸はないが、とにかく楽曲の出来が相変わらず良い。何が流行ってもこういうリズムは不滅なのだ。(02.10.14)



ROLLING STONES
 Forty Licks
 「ストーンズのベスト盤」なるものは当然のことながらこれまでにも何枚も何枚もリリースされている。しかし、この約40年間(!)を総括したベストというものはなかった。ついに今回、2枚組で登場してしまったのだ。これは買わずにはいられない。買った。
 それにしても40曲という物量だが、それでも何せ40年の超ベテラン選手達、しかもまだ現役という恐ろしい人たちなので、惜しくも漏れてしまった曲(「テル・ミー」とか「友を待つ」とかね)もあるが、新曲が4曲もあり、まあ仕方のないところか。
 個人的にうれしかったのは1枚目、60年代だ。「ストリート・ファイティング・マン」といった渋い曲から始まるのだが、いやあ、やっぱり良いなあストーンズは。3曲目に「サティスファクション」のイントロが流れるともう駄目。もう体が勝手に動いてしまう。「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」に、「黒くぬれ!」といった当たり前の曲達に、あたらめて大感動してしまった。まさかこんなに大きな衝撃を受けるとは思ってもみなかった。久しぶりに「ああ、ロックを聴いたなあ」と言う気分にさせてくれた。凄いバンドだ、全く。
 ちなみにこの60年代を中心とした1枚目は最新のデジタルリマスターが施されていて、その効力も凄い。特にギターやドラムの生々しさは一聴の価値ありだ。1枚目は全曲必聴。
 当然2枚目は70年代から現在、ということで選外になった曲も多いが、ほぼ順当だろう。80年代の「ダーティ・ワークス」からの曲がないくらいか。個人的には「シャタード」あたりの代わりに「ハーレム・シャッフル」を入れて欲しかったところ。ストーンズに目覚めた高校時代(結構遅い?)、リアルタイムでリリースされた最初のアルバムなのだ。
 新曲はハッとさせられるものは無いものの、「ストーンズ健在」を印象づけるには十分の意欲的なもの。ラストはキースがヴォーカルをとる新曲だが、そのヨレヨレぶりにはさらに磨きがかかっていてちょっと可笑しくもあったが、それもまたストーンズ。(02.10.7)



BECK
 Sea Change
 「基本的には前作の延長線上にあり…云々」といった言い回しをよくするし、見受けられるのだが、この人には全く当てはまらないセリフだ。
 お馬鹿と言ってもいいくらい陽気だった前作との比較は全く意味をなさない。今作はガラリと変わってアコースティック路線。ベック自身のルーツでもあるフォーク、あるいはカントリー的な要素も濃いものとなった。前々作「ミューテーションズ」路線と言ってもいいのかもしれないが、やはり違う。
 まあベックという人はマイペースなミュージシャンを絵に描いたようなタイプであることは確かなのだが、それにしてもその振幅の巾は一体どのくらいあることやら。「ベックのこういう曲が好き」と決めてしまう人にはついていけないことだろう。ベック自身を好きになるしかない、といったことにならざるを得ないのだ。
 誰にでもお勧めできるような面白い作品では決してない。全編アコギがぽろろんと鳴り、ベックは静かに歌う。陽気さはこれらの曲からは少なくとも表面上は窺うことは不可能だ。しかし、これもベックなのだ。
 ちなみのジャケットは3種類あり、ブルーと紫が貴重になったものを購入。意外とこういうところで迷ってしまうものなのだが、どうなのだろう?(02.10.1)



UA
 泥棒
 このインパクトあり過ぎのジャケットがタイトルの「泥棒」なのだろうか。分からん。
 とにかくずいぶん久しぶりのニューアルバムとなった。AJICOとしての活動があったので、それほどのブランクを感じさせはしないが、前作「turbo」はかなり前のアルバムだったような気がする。しかし良いアルバムで何度も聴いていたし、音も良かったのでオーディオ用のリファレンスとしても使っていた。
 さてこの新作。先行シングル「閃光」(シャレでは絶対あるまいが)はエレクトロな音作りで、ある意味従来路線のUAを久しぶりに聴くことが出来た、という感じだったが、このアルバムは全体的にアコースティック。音数も最低限で、ウッドベースが唸りまくるようなジャズっぽい曲もある。前述の「閃光」もアコースティックに変貌、民族音楽的な仕上がりになっていてシングルと甲乙付け難くこれも大変いい。
 当然UAのヴォーカルはいつも通り。ブランクがあったからと言って特別歌い方を変えるということもない。音数が少ないせいもあろうか、歌声がさらに生々しく、時々「ぞくっ」とさせられる。やはりこの声は唯一無二のものだ。個人的にもこういった低めの声を持った女性ヴォーカルが好きなのだろう。それにしてもこの声は本当に独特の世界。
 そう言えば、「閃光」もそうなのだが、UA自身が作詞・作曲を手掛けた曲が出てきた。いよいよ本気を出してきたか、とも感じられる。とにかく全編通して聴くと彼女の世界に引き込まれてしまい、改めてあの妙なジャケットを見ても「うん、これしかなかろう」という気になってしまうから凄い。これが今売れるのか、と問われればあまり自信はないが、ぜひ手元に一枚置いておきたい必聴盤。(02.9.23)



RIP SLYME
 Tokyo Classic
 いつの間にやら超メジャーな存在になっていたリップスライム。この暑い暑い夏にピッタリの「楽園ベイベー」が売れまくっている間にニューアルバムをリリース。こりゃまた売れるに決まっている。その前にシングルで出た2曲「ファンカスティック」「one」も当然収録。どれもタイプの違う曲だが全てポップで親しみやすく、歌いやすそう(実際はそうでもない)なところがやはり人気が出る秘訣だろう。
 ドラゴンアッシュによって点火された「ヒップホップは決してマイナーな存在ではない」と言う意識が、見事に昇華したものになっていると思う。何せ聴いていて楽しい。特別にラップだのヒップホップだのを意識することがないのだ。きっとそれがヒットする要因の一つなのだろう。普通のJポップファンにも素直に受け入れられるポップ性。「これがヒップホップだ!」とばかりに(いわゆる)ポップスとの相違点をバキバキに表現したものもあり、それもまたいいんだけど「ま、そんなに肩ひじ張らずに気楽に行こうぜ」とばかりに余裕綽々でチャートを席巻してしまう。恰好良いではないか。
 このヒットでもはやジャパニーズ・ヒップホップはすっかり日常に溶け込んだ。あとは、「ああ、昔一時期ラップが流行ったことがあったねえ」なんてことにならないことを願う。(02.9.8)



THE CHARLATANS
 "Live It Like You Love It"
 99年のライヴ。あれはよかったなあ。
 そんなことを感慨深げに思い起こしつつ、この最新ライヴ盤を手に取った。オリジナル・アルバムはあれから1枚出ただけなので、曲目にそれ程の変化はない。代表曲がめじろ押しで、しかも演奏内容も物凄く良いのでお買い得とも言えよう。
 新境地を開拓した最新アルバムからの曲からスタートするので、「やっぱり新しいシャーラ、って感じで全編貫くのかな」とも思ったが、3曲目の「テリング・ストーリーズ」でこれまでのシャーラタンズになる。しかし、この骨太さはどうだ。実際にライヴを見ているので分かっているつもりだったが、やはりスタジオ録音と比べてやたら分厚いのだ、彼らの放つ音圧は。キーボードが重要な位置を占めるのは昔から変わらないが、とにかくうねりまくりで、その分厚さに黒っぽさを加えている。初期の代表曲「オンリー・ワン・アイ・ノウ」も当時の線の細さは全く見せず、まさしく「今」のグルーヴとして鳴らしている。
 一番好きな曲「ウィアドゥー」に今何してるんだか、のジョニー・マーが参加して盛り上げる。確かにこの曲はマーに合うのだな。
 ベスト盤には収録されなかったが好きな曲「ハウ・ハイ」もしっかり入っていた。3年前のライヴもそうだったが、この曲はライヴ映えするのだ。「ハウ・ハーイ!!」「フウ、フウ!!」などとコール&レスポンスできるわけ。
 考えてみるともう彼らも10年以上選手、ベテランだ。まさに盤石、というライヴ盤。ロックとしての刺激と、エンターテイメントとしての娯楽を高いレベルで提示している見事なアルバムだ。(02.8.15)



浅井健一 
 Devil(シングル)
 完全にソロ名義でのリリースはひょっとして初めてか?しかし「ユダ」という名義にもなっているのだが、これは何だろう。
 とにかくこれもまた大変ベンジー(とはもう言わんのかな)らしい曲。特別ブランキー時代とは変わらない、ただもっと直接的に言葉がこちらに飛びかかってくるような、そんな感じだ。録音も関係しているかもしれない。何せ斬れ味鋭い(オーディオマニア風に言えば「解像度の高い」と言う感じか)研ぎ澄まされたヴォーカル、ギター、ベース、ドラムが弾けまくっていて大変気持ちがいい。それ程録音が良くなくてもハートに突き刺さるベンジーの声だが、やはり好録音にすればそれだけ説得力は倍加する。それを思い知らされた。
 3曲ともベンジー節炸裂で、申し分ない。ブランキー時代ほどのポップ性は薄れているかもしれないが、いやいや関係ない。まさに力が有り余った、余裕の構えで繰り出される音と言葉。とにかく聴こう。(02.7.29)



RED HOT CHILI PEPPERS
  By The Way
 大人のロックだなあ。
 ついそんな言葉を呟いてしまった。ちょっとした驚きも込めて。
 何せレッチリである。下品とも言えるパフォーマンスやどうしても頭に思い浮かぶのは往年の名曲「ギヴ・イット・アウェイ」のビデオクリップでのおかしな姿。ファンクやヒップホップなど色々な音楽をぐちゃぐちゃにして「はいどうぞ」。そんな大袈裟だが「イロモノロック」っぽいイメージを彼らに対しては抱いていたのだ。
 しかしこの落ち着いた音はどうだろう。確かに前作からそういった傾向はあった。さらにはそんな曲がお気に入りだったりもしたのだ。それをさらに一歩進めた今作は、アコースティックな音と渋いヴォーカル。後半になってくると以前のファンクな曲も顔を覗かせるが、以前のような羽目を外しっぱなしのような風情はなく、あくまでしっかりと落ち着いた様子を見せる。
 もちろんこうした曲も以前からやっていた。初大ヒットとなった「アンダー・ザ・ブリッジ」がそうだ。あれは名曲だったが、まだ違和感のようなものも少々感じていた。今は違う。色々暴れまくってきた男達が到達したこの落ち着いた音は、絶大なる説得力をもってリスナーの心に響く。もはや盤石、と言ってもいい。(02.7.22)



OASIS
 Heathen Chemistry
 オアシスの新譜については、リリースされるたびに厳しいことばかり書いているような気がする。
 それは当然のことながら期待の裏返しだ。デビュー作や2作目の感動よ再び、といった気持ちがあるからそうなってしまう。音楽誌のレビューにしたって似たようなもので、2作目までの幻影を追いかけているような評論になってしまいがちだった。確かに当初は「前作を超える傑作!」と持ち上げておきながら段々評価を落としていく、というものも多いのだが。
 だからこの新作にしても素直に聴くことはなかなか難しいものだった。もう、オアシスは駄目なんじゃないか、と。
 前置きが長くなったが、とにかく聴いた。結論から言えば、「大傑作!」などと大風呂敷を広げて褒めちぎることはさすがにできないものだ。しかし、このアルバムは「なかなかいいぞ」とは自信をもって言うことが出来る。まあどちらにしてもこのバンド、そんな「シーンを塗り替えるような革新的なロック!」という曲を書く人達ではない。それはレッド・ツェッペリンやニルヴァーナとかには当てはまるが。むしろそう、「ちょっといいじゃない、これ」というタイプの曲に強みを発揮するタイプだと思うのだ。いつまでも古びないエヴァーグリーンな曲。だからこそ、ライヴでは皆が合唱するのではないか。
 本当にこのアルバムにはそんな「ちょっと良い曲」が満載だ。オープニングを飾るファーストシングルの「ヒンドゥ・タイムズ」はむしろ前作までの大袈裟なアレンジを多用しているが、曲が進むにつれて贅肉はなくなっていく。4曲目の「ストップ・クライング・ユア・ハート・アウト」などは、「こういうのを待っていたんだよ!」と快哉を叫びたくなる程、見事なオアシス節・バラード。リアムの書くナンバーも、シンプル過ぎて微笑ましいが分かりやすさが「○」だ。全編に渡ってギターのカッティングが心地よく鳴り響き、やはりメンバーチェンジの好影響だろう。これでいいのだ。
 何度も聴きたくなるアルバムを、オアシスが本当に久しぶりに作ってくれた。これだけで今回は十分だ。(02.7.9)



ELVIS COSTELLO
 When I Was Cruel
 てっきり「大人のシンガー」の仲間入りをしてしまったのかと思っていた。しかし、一般のロックファンのように決して悪いこととは思ってはいなかった。年齢的にもそうだが、別に全てのロッカーがいつまでも不良中年ぶる必要はないだろう。そういう固定観念こそがロックの伝統芸能化であり、停滞なのだから。結構味のある声でバラードを歌うコステロを、「なかなかやるじゃないか」などと少し離れたところから見ていた。
 そうした中でいきなり本流に戻った新作。オープニングの「45」からポップでパンキッシュなコステロ節全開。朝のワイドショーでお馴染の「ヴェロニカ」を彷彿とさせる曲だ。やはり彼にはこれが似合うなあ、と思いつつ聴き進めていくとその「深さ」に気が付く。何だろう。アダルト路線に入る以前の作品と比べると決定的に表現力が違うのだ。ヴォーカリストとしてのレベルアップ、そして何よりも「良い曲」を作ろう、という気合に満ちあふれているように感じる。全てのロックファン、ポップスファン、そして音楽ファンにお奨めしたい傑作だ。
 さらにこの作品、音質も良い。コステロの声の存在感、ベースやバスドラムの低音が物凄い。でかい音で楽しみたくなるアルバムだ。(02.6.19)



ANDREW W.K.
 I Get Wet
 まずジャケ写。何なのだ、この鼻血男は。顔のアップにダラダラ流れ落ちてる。これでジャケ買いをする方はかなりのひねくれ者かもしれない。普通は引きます。
 それでも私は買った。やはりこの男、アンドリューに言い知れぬ興味を抱いてしまったのだろう。日本盤を買ったので、帯には「究極のパーティー野郎による最高のパーティー・ロック・アンセム誕生!」という紹介文が。そして傑作なのが邦題。今どき邦題も滅多につけたりはしないが、これは奮っている。「パーティーの時間がやって来た!」「爆死上等!」「脱いじまえ!」「吐くまでパーティー」等々…しかし、実際そんな意味の原題だから仕方がないか。とにかく、そのセンスたるやいかに、である。
 音はパンクっぽいが、ヴォーカルは意外に低い声で、ドスが利いている。デスメタル一歩手前かもしれない声だ。その声で妙に明るい能天気なサウンドを繰り広げ、一歩間違えると全部同じ曲に聞こえてしまうほど徹底している。
 考えてみると「パーティー・ロック」という言葉も何だか日本では分かりづらい表現だ。パーティーとロックが結びつかない国なのだから。しかし、これを聴けば確かにそれが何たるかがおぼろげながらも見えてくる。B級学園ドラマのそれかもしれない。それでいいのだろう。
 「ロックがつまらない」と誰が言ったのか。最近は大げさに取り上げられはしないけれども面白いものがたくさん出てきている。これもその一つだ。(02.5.26)



THE STROKES
 Is This It
 いやはやストロークス、今頃聴いてしまいました。日本盤の発売が昨年8月下旬だから、9ヶ月か。
 聴こう聴こうと思ってどんどん後にずれてしまうことはよくあることだが、大抵は聴かずに過ぎてしまうことが多い。その時だけ少し盛り上がるものは特にそうだ。しかし、このストロークスは違った。これだけ時が過ぎてもまだまだ、いやそれどころがどんどん盛り上がっているのだ。そりゃ聴かなきゃいけないでしょう。「昔は我先にとそうしたものを聴いていたのに」と言わないように。
 確かにいい、これは。確かに「英国人受けするアメリカのバンド」らしさが随所に見受けられるが、最初のアルバムタイトル曲などは特にその傾向が強い。以前のベックを思わせるローファイなユルさ。しかしノリの良さを窺わせてくれる。そして2曲目に入ってロックンロールの始まりだ。シンプルな、けれどもメロディアスでギターがギュインギュイン鳴って、ヘタウマっぽいヴォーカルが歌う、という頭を空っぽにして楽しめるロックが満載なのだ。音質が悪いのも何のその、最近の音の良い、ストレートなアメリカン・ロック(ホシュ・ロックと勝手に呼んでいる)を鼻で笑うようなレンジの狭い音。しかしそれで必要十分。ここにはロックがあるのだ。
 何でもっと早く聴かなかったのだ。と自分を責めつつ、あらためてこれを、ロックファンの皆さまにお奨めしたい。(02.5.19)



NORAH JONES
 Come Away With Me
 ジャンル的にはジャズということにはなっているのだが、ジャズという器には納まらない人だと思うのでこちらで取り上げたい。
 ノラ・ジョーンズ。最近お気に入りの女性ヴォーカルなのだ。声が可愛らしく、癒し系っぽくもあるのだが、あの手の作品のようにやたらとエコーを効かせたりはしていない素直な録音に好感が持てる。
 彼女、どうやらピアノも弾いているらしい。弾き語りタイプか。一曲目からシンプルにギターが鳴る中でひっそりと、しかし余裕をもって歌うノラ。ギターのリアルな音色とクローズアップされた歌声。先ほど「可愛らしい」と表現したが、決して弱々しいものではなく、大変存在感のある声なのだ。
 こういう歌い方というのは日本人にはいそうでいない、というタイプだ。可愛い顔して芯は強いのだ。だから魅かれてしまうのだろう。
 ちなみにこのアルバムはブルーノートからのリリース。最近は純ジャズだけではなく、こうしたものも積極的に出しているのだ。やはり真ん中の音、この場合はヴォーカルやギターの太い音が昔からの持ち味を残しているようでうれしい。(02.4.29)



エレファントカシマシ
 SINGLES 1988→2001
 ミーシャに続いてまたベスト盤を取り上げることになったが、年末でもないのにリリースがかなりあるものだ。契約の問題だろうか。
 まあそんなことはともかく、「悲しみの果て」が当るまでの彼らというのは、物凄く特異な存在だったことだろう。がなる、叫ぶ、吠える。言葉を、単語を、叩き付ける。そこには迷いなど一切無く、わき出てきてどうしようもないものをはき散らかす、そういった存在。しかし、こうして聴いてみるとそんな初期の彼らの楽曲も大変にメロディアス。元々宮本という人は良いメロディを書くことが出来るのだ、ということが分かる。だからこそ今があるのだ。そう言えば一時期テレビでよく見かけたが、あのキャラクターを使いこなす人がいなかったことが惜しまれるものだ。まあ、なかなか難しいだろうけれども。
 「ベスト盤」と書いたが、ベストは今までにもリリースされており、これはタイトル通りシングル集と言うべきだろう。とにかくリリース順に並べられたシングル曲たち。やはり「悲しみの果て」以降がガラリと違う趣を見せる。やたら叙情的になり、「今宵の月のように」という最大のヒット曲に泣けた人も数多いだろう。そんななかでの「ガストロンジャー」は当時「原点回帰か?」とかなり話題を呼んだものだが、こうして順番に聴いていると決してそんなことは無く、むしろ自然な進化とさえ聞こえる。良い意味で洗練されているのだ、言葉をガンガンぶつけまくっているにも関わらず。
 ラストの「孤独な太陽」。そんな「闘争モード」からまた一息ついた感じのいい曲だ。そしてまた、動き出す。楽しみだ。(02.4.15)



MISIA
 Greatest Hits
 よく知っているはずのデビュー曲「つつみ込むように」をあらためて聴いてちょっと驚いた。当時は「若いのに随分上手いねー」と感心していたが、今回の印象は意外に初々しいのだ。上手いのだが、現在の堂々とした歌いっぷりとは違って、少し背伸びが感じられる。やはり彼女も成長しているのだ。
 もはや「固定客」を獲得したと言っても良いだろう、現在のミーシャは。あまりにも「Everything」が売れてしまったので少々心配したのだが、そんなことを気にする様子もなく、あくまでマイペースに活動しているように見受けられる。とにかく「歌手」として上手い人なので、これからも様々なタイプの曲に挑戦して欲しいものだ。
 何かまとめに入ってしまったが、このベスト盤。前述「つつみ込むように」をトップに、年代順に並べられている。やはり個人的にはセカンドアルバムの曲が一番好きだ。最近はどうもセリーヌ・ディオン化に走っているのが残念。新曲もそうだ。確かにそう言ったスケールの大きな曲が合う人ではあるのだが、こういう曲はたまに出すのが正しく、結局それ程目立ったセールスを上げられずにいる。もう少しここらで新しい試みをさせるのが良いだろう。別に「私は上手いんだアー」みたいな歌でなくても、もっと抑えた感じの歌でも面白いと思う。ライヴで取り上げた「ラヴィン・ユー」のような「可愛い」曲もシングルとして出してくると幅が出てくるのではないか。とにかく、自作自演が当然のようになってきた中、純粋な「歌い手」として貴重な存在。これを生かす作曲家・プロデューサーはいないものなのか。まあ、このままでもアルバムは売れているから良いのか。それでいいのか。(02.3.25)



DRAGON ASH
 Fantasista(シングル)
 リンプ・ビスキットみたいだな、と言うのが第一印象だが、考えてみると昔からこうしたハードコアなナンバーは彼らの得意とするところだった。それが一層洗練されたような今回の新曲も、もはや当然のように連続でチャートのナンバー1を獲得してしまった。まだ前作「 Life Goes On...」もかなり上位にいるのに、だ。
 それにしても本当に高性能な、よく作られた曲だ。「作られた」とはあまり良い表現ではない、と承知の上で言いたい。普通ならば日本で売れるとは考えにくい曲を、刺激の度合いを落とさずに洗練させて売れる曲にしてしまうその手腕。歌謡曲臭さを全く感じさせないのにここまで売れてしまうのはお見事としか言い様がない。だいたい、どんな「流行りモノ」の音楽スタイル、例えばハウス、レゲエ、最近ではトランスにしても「ヒットチャートの上位にランクされる」ためには歌謡曲の要素をふんだんに盛り込まなくてはならない。それなのに、ドラゴンアッシュは軽々と歌謡曲を超えた楽曲を1位にしてしまう。時代が変わったのかもしれないが、それ以上に彼らの手腕がハイレベルなのだろう。
 「ファンタジスタ」とはまた、ワールドカップも近いのでタイムリー。彼らもまた、プレイすることで夢を与えてくれる存在になった。(02.3.17)



小沢健二
 Eclectic
 オザケンのニューアルバム、久しぶりー、痛快ウキウキな気分でCD買って、聴いたらとってもラブリーな…ってことは全くありません。
 そもそも、もはやとっくに30代を迎えた彼に対して「オザケン」などと呼ぶのはおかしい。いや、それはこの新作の内容が十分に示しているのだ。
 ハッキリ言って昔の小沢とは違うことは間違いない。このブランクに、何があったのかは全く知らない。しかし、その時間の長さを考えればこれだけ変わっても驚くには当らないとも言える。低音がズンズン響くイントロから、小沢の低く抑えた囁くような声。しかし、全編そうなのだ。あの、無理に張り上げていたようなハイテンションの声はアルバム中何処を探しても出てきやしない。
 結局これは「大人」のアルバムだ。歌詞の内容もかなりセクシャルで、際どい部分もある。彼は昔の「オザケン」キャラクターからは見事に決別した。しかし、それを求めていたファンも十分に成長する時間は優にあったわけだ。全く変わらないオザケンを今も求めるモラトリアムを責める気はないが、やはり「いつまでやってんだよ」とも言いたくなる。小沢と同世代でもある(同い年かも)自分としては、こうした彼の変化は大歓迎である。是非30代の人達にももっと聴いて欲しい。
 ただ、内容はかなり地味。夜そっと流すのがうってつけだ。そうして何度も聴くとジワジワと良くなって行くタイプのアルバムで、特に3曲目の「麝香」がいい。そう言えば先行シングルとか、全くなかったなあ。ちなみに、あの名曲「今夜はブギーバック」の「今の小沢」ヴァージョンも収録。何度も言うけど、時間は確実に過ぎているのだ。(02.3.5)



バンプ・オヴ・チキン
 ジュピター
 出たよ、アルバム。待ってたよ。
 とにかく、一曲目がまさに「きたきたー、これこれ」という…って、一つ前に書いたケミカルのレヴューと同じじゃないか。でも実際そうなんだから仕方がない。まさにバンプならではの疾走感溢れるナンバー。
 そこから続いて超・ヒットナンバー「天体観測」へなだれ込む。シングルで聴くのと何か随分違って感じるのは気のせいか。新録というわけではないのだが。やはりアルバムという流れで聴くことはそういうものかもしれない。やっぱり名曲。ただ、この曲で彼らが一つのイメージで縛られないことを切に願う。ノスタルジックとか、青春とか。
 確かに彼らには「青さ」を武器にしているように受け止められがちなところがある。歌詞の内容がそうなのだ。しかし、「まだまだそんなもんじゃない」という力を秘めているような気がするのだ。これはとにかくソングライター藤原の「今」を切り取ったに過ぎない。「これから」はもっとパワーアップした内容の歌詞を書いてくるに違いない。彼にはその実力が十分備わっていると思う。
 個人的には8曲目からラストまでの流れが好きだ。「ベル」はアルバム中屈指の名バラードだし、シングル「ダイヤモンド」は言うことなし、ラストの「ダンデライオン」はシングルにしても売れそうな、しかしちょっとこれまでとは違う側面も見せてくれるナンバーだ。聴き飽きない内容を持った、2002年アルバム・オヴ・ザ・イヤーが早くも登場した。
 最近よくある手法だが、20分くらい無音が続いて隠しトラックがある。これはライヴで楽しい内容。しかし、この無音部分の長さ、というのはいかがなものなんだろう?まあ、本編とはあくまで「別」としたい向きも分からないではないのだが…(02.2.24)



THE CHEMICAL BROTHERS
 Come With Us
 オープニングからワクワクさせてくれるケミカルの新作が登場だ。
 とにかく、一曲目のタイトルナンバーがまさに「きたきたー、これこれ」というハイパーなダンス・チューンでうれしくなってくる。さすが、待たせただけのことはあるのだ。
 そして次が先行シングルでオリコン・チャートのランクもなかなか良い位置に着けてしまった「It Began In Africa」だ。やはりこれも凄い。タイトル通りアフリカンっぽいビートを交えながら、いかにもケミカルらしい曲に仕上がっている。踊って良し、聴いて良しのナイスなナンバーだ。
 そこから先もケミカル・ワールド。ロックっぽい曲もあれば、ダルなヴォーカルナンバーもあり、ベースがビヨンビヨン弾むディスコっぽいものもある。てんこ盛りだがそこはケミカル。どれをとってもケミカルだ。彼ら特有の、まさに「化学反応」とも言うべき色に染め上げられていて、どの曲もレベルが高い。そこらの適当なダンスナンバーは裸足で逃げ出すしかないだろう。
 確かに「ブロック・ロッキン・ビート」のような、刺激に満ちあふれた、ポップ度の高い曲は無い。しかし、あれはもはや超・過去のものだ。今、あれをやっても懐メロにしかならない。ケミカルはシーンをリードするべき存在。この作品はそうした興奮がたっぷり詰まっているアルバムだ。
 朱色をベースにあとは黄色、というジャケットも大変好きだ。(02.2.17)



DRAGON ASH
 Life Goes On...(シングル)
 STEADY & Co. もアルバムを出したということで、遂にKj(降谷建二)とBotsが本隊に戻ってきた。何だかドラゴンアッシュのニューシングル、なんて久しぶりだ。どの位ブランクがあったのだろう…。しかし2002年はリリースラッシュらしいので、今から楽しみだ。
 「戦う」ことをテーマにしてきた感のある彼らだが、それは自分たちが言わばアンチテーゼ的な存在だったから。しかし、今や彼らはある種の権力とも言える存在にまでなった。「戦う」べき強い相手はいなくなってしまったわけだ。それでも「仮想敵」を作って戦い続けるのも一つの手かもしれないが、そういう欺瞞じみたことは彼らには無縁だ。
 このニューシングル、既にコマーシャルでも流れまくっているので御存知の方も多いだろう。親しみやすいメロディに、ポジティヴなリリック。最近ではあまり聴かれなくなった「前向きソング」と言ってもいいくらいの内容だ。しかし、ドラゴンアッシュほど前向きな連中を私は知らない。今までだって、いつも彼らは前向きだった。このシングルではあまりにも直球を投げてきたのだ。
 さらにはジャケットのイラスト。「世界は一家、人類は兄弟」か?ここまで行くと、何か反語的な意味が含まれているのかな、とも思わせてしまうが考え過ぎか。ドラゴンアッシュという存在が、そういうあまりにも理想主義的な考えを持っているとも思えないので。真相はいかに?…まあ、実際は大した意味はないのかも。(02.1.29)



東京スカパラダイスオーケストラ
 カナリヤ鳴く空(シングル)
 正直に告白すると、スカパラを今までちゃんと聴いたことはないのだ。今回は、チバユウスケ(ミッシェル・ガン・エレファント)がヴォーカルで参加しているというので「おお!」と買ったわけなのだ。ちなみに前作のゲストヴォーカルは田島貴男(オリジナル・ラヴ)だったそうだ。
 それにしても、これがまた良いのだ。最近のミッシェルはクオリティとしては超ハイレベルな作品を出しているが、あまりにテンパっていて、ついて行くには少々疲れてしまうところがあった。しかし、この曲でのチバは、ビッグバンドをバックに「いちヴォーカリスト」として、あくまで自然体で歌うことを楽しんでいるように思える。こんなチバをもっと聴きたかったのだ。何せ物凄く恰好良いんだから。ちょっとルーズな感じが「チキン・ゾンビーズ」の頃の「ヤサグレた」ミッシェルを連想させるのだ。こういうコラボレーションがどんどん増えてくれると有り難いことだ。
 同じ曲のインストも収録されているが、こちらはトランペットで歌っていて、これまたなかなかよろしい。(02.1.20)



STEADY & Co.
 Chambers
 スーパープロジェクト、勢いに任せてアルバムまで作ってしまった!
 …なんて文句がどうしても出てきてしまうが、こちらが考えていた以上に真剣だったのだ、彼らは。何故って、このクオリティの高さ。たとえ若さに任せていたとしても、こんな作品ができてしまうとは、全盛期のツェッペリンのようではないか。しかもパーマネントなバンドではないのだ、これは。
 言ってしまえば、それぞれのグループ、すなわちドラゴンアッシュ、スケボーキング、リップスライムよりも、聴きやすい音楽が詰まっている。あいまいな表現だ。「聴きやすい」とは。演っている音楽はヒップホップをベースにしたものであることには変わりはないが、全編に漂うのはまったりとした、ユルい雰囲気。決して悪く言っているのではない。それぞれのグループ(特にドラゴンアッシュ)が持っている緊張感のようなものが見事に払拭され、リラックス感が見事に音楽としてレベルの高いものに昇華しているのだ。
 また、バックトラックもジャズっぽいものが多く、カッコ良く、そして美しい。何か、みんなでワイワイと音を持ちよって、「おお、これいいね、いいね」なんて言いながら曲が出来上がって行く…そんな光景が目に浮かんでくる。
 もうヒップホップは市民権を得、チャートにもごく普通に登場するようになった。もちろん彼らのこうした活動が実ってきたからなのだが、勝負はこれからでもあるだろう。今のままでは「一時、流行ったね、ああいうの」で終わる可能性は十分あるのだ。満足せずに、また「次」を目指して欲しい。(02.1.13)