#2.問題の所在@

 

 献血時問診票問題、その問題の本質は、どういったところにあるのか、はじめ僕も良くわからなかった。様々な資料を読み比べながら考えてみて、ようやく今その輪郭が掴みかけてきた気がしている。だがまずはその問題の所在を、ジョイント・ステートメント・プロジェクトの主張に沿ってまとめてみることにしたい。
 繰り返しになってしまうが、献血の際に記入を求められる問診票の質問事項第14項目は、次のようになっている。

この一年間に次のいずれかに該当することがありましたか。

@不特定の異性と性的接触をもった。
A同性と性的接触をもった。
Bエイズ検査(HIV検査)で陽性と言われた。
C麻薬・覚せい剤を注射した。
D@〜Cに該当する者と性的接触をもった。

 ここで「はい」を答えると、献血ができないことになっている。まず、ここが出発点だった。
 この質問項目はそもそもどうして立てられたのだろう。もはやわざわざ書くまでもないことかもしれないが、この質問の目的はHIVに感染しうる危険な行為をしているかどうかを知ることにある。HIVは、現在の検査法では感染した直後はその人が感染しているかどうかを判定することが出来ない(この期間をウインドウ・ピリオドといい、現在の検査技術からは大体3ヶ月以内とされている)。献血された血液が感染しているかどうかは、検査ではわからないという理由により、この時期に関してはHIVに感染する危険性のある行為をしたものを一律排除する必要があることになる。ここに問診の必要性がある、というのが日赤及び厚生省側の主張だ。
 だが、もしそうだとするならば不思議なことがある。考えてみると、これら5つの項目のうち、「BHIV検査で陽性と言われた」を除いては、これらがイコールHIV感染に結びつく合理的な根拠がない。ということは、この問診項目は、これらの行為をした人を、合理的根拠なくハイリスク・グループ(というよりも、より正確に言い表すなら「危険な集団」)として考えていることを意味する。それは即ち、次のような意味付けを行うことに他ならない。

@同性間性的接触や、ドラッグ使用それ自体がHIV感染のリスクとなるのだということ。同性間でどのような性的接触を行っているかということは不問に付され、薬物も注射器を共有しているか個人単位の安全な使用をしているかは問われることなく、一律にこれらを「危険なグループ」とする偏見を強化する。

AHIV感染経路をこれらだけに特定することで、HIVを同性愛者、性的放逸さ、薬物濫用などと意味的に結び付ける。それによりHIV感染者に対する偏見を強化する。

Bまた、これらをHIVに感染する危険をもつハイリスク・グループとすることで、それ以外の人々に対して無根拠な安心感を植え付ける。HIV感染は血液・体液を介して感染するものであり、性的接触としても相手が特定であれ不特定多数であれ、同性であれ異性であれ、危険性は存在する。自分はHIV感染などしないという無根拠な安心感は、感染の無自覚化を促す。

 従って、これらの質問項目は、HIVに対する啓発という効果を果たさないだけでなく、誤解や偏見を強化するという意味で有害であるということになる。ジョイント・ステートメント・プロジェクト、それはまず何より、この点の改善を求めるものだったと言えるだろう。

 


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