#2.問題の所在A

 

 献血時の問診第14項目は、HIVに対する啓発という効果を果たさないだけでなく、誤解や偏見を強化するという意味で有害である。献血時問診票問題とは、まずはこの改善を求めるものだった。(以下、この運動は主として同性愛者の人権問題として展開されたので、この文章でもCドラッグ使用という側面は割愛して整理していく。)
 仮にこの質問項目が、厚生省や日赤が主張していたように、血液の安全供給という側面から必須のものであるのならば、正当性を認めることも吝かではないだろう。だが、以下に述べるような理由で、この質問項目は、血液の安全供給という点から見てもその役割を果たしていないと考えられる。それは、

1.そもそもこれらの質問項目に挙げられているような行為が、それだけがHIV感染の結びつくという合理的・実証的根拠は存在しない。HIV感染は誰にでも起こり得るものであって、ここに挙げられている集団をハイリスク・グループとして排除しても、リスクを減らすことは出来ない。

例えばどういうことか。HIV陽性の人と性的接触があったとしても、コンドーム等の使用により血液・精液・窒分泌液などが粘膜や傷口と接触しなければ、HIVに感染する確率はかなり低くなると考えられる。しかし、「特定の異性」とのみ性的接触をしている場合でも、相手がHIVに感染しているかどうか不明のまま、それらの体液と粘膜が接触するような性的接触をもっている場合は、HIVに感染する可能性がある。いっぽう、複数の異性または同性と性的接触をしていても、コンドームの使用など、より安全な性的接触を心がければ、HIV感染の可能性は、特定の異性と安全な性的接触をしている場合と同等だ。相手が特定の異性であっても、もし安全な性的接触を心がけていなければ、HIV感染の可能性は、当然不特定多数と安全な性的接触をしている場合よりも高くなる。HIVの感染経路は限られているのだから、本来問題となるべきは誰と性的接触をしたかではなく、どのような性的接触をしたかのはずである。

2.従って、この質問項目では、血液の安全な供給にとって必要かつ十分な情報は得られない。

1.を考えれば、問診の基準は、セックスの相手が同性か異性か、特定か不特定かということではなく、安全な性的接触をしているかどうかという点にたてられるべきであることは、異論の余地がないと思われる。現行のような質問項目では、問診担当者にとっても献血者にとっても、HIV感染経路に関する正確な情報を得ることは出来ない。そのため、献血者は、自らの行動を省みて、自分は献血をしても大丈夫なのか、それとも控えた方がいいのか、正確に判断できないことになるだろう。さらに、問診する担当者も、HIV感染に関する必要かつ十分な情報が得られないため、HIV感染をしていない献血者を排除するだけでなく、実際にHIV感染の可能性がある献血者をみおとすことにも繋がる。

3.さらに、「ハイリスク・グループ」とされた人に対する誤解や偏見を助長し、問診に正確に答えることに躊躇したり、HIV検査自体を避けるという「潜在化」を招く危険がある。

この問診項目では、特定の人々を「ハイリスク」とすることで、これらの人々のHIV感染率が高く、「危険」なのではないかという誤解をもたらす問題点がある。さらにそのことは、それまでにもあったこれらの人々への差別とも相まって、これらの人々を潜在化させるという悪しき効果をもたらしてきた。「潜在化」とは、社会的な差別から身を守るために、性的指向などの自らの属性や、HIV感染の事実を隠さなければならなくなることである。あるいは、差別から身を守るために、HIV検査自体を避けるという潜在化もある。「ハイリスク・グループ」とされた人々は、自己の不利益を恐れて、献血の問診時にも自分の属性や性行動について正確に申告できなくなってしまう。結局、差別的な、または差別を疑わせるような問診項目は「血液の安全な供給」の妨げになってしまうのだ。

 こうした問診票の記述は、従って明らかに非合理的なのだ。だが、では何故この非合理性が容認されてきたのだろう。それを知るには、HIVと同性愛者差別に関わる歴史の概略を知る必要がある。そこで初めて、この献血時問診票問題が単に献血だけの表面的な問題ではなく、非常に根深い問題であることが理解できるだろう。

 


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