4.その後

 

4.1.その後の展開

4.2.共同声明の呼びかけ
(1997年年末〜1998年1月末)

 

 

4.1.その後の展開

 

 この回答の3日後の8月22日、この報告書と問診項目との差異について日赤に質問すべく、札幌ミーティング側から直接電話をしました。
 事前に時刻を通達していたにもかかわらず責任者は「急な会議で」不在で、責任者の氏名も明らかにしませんでした。電話に出た職員も氏名を明らかにせず、結局、日赤側に協議を「拒否」された形になりました。
 それゆえ日本赤十字と協議する事は意味がないと判断し、今度は厚生省と直接やり取りすることにしました。このころから札幌ミーティングは東京のアカー(動くゲイとレズビアンの会)とこの問題について協力して取り組むようになったのです。

 ただ、厚生省の方も当時の答えは、まあたしかに同性愛者差別といわれればそうだけども、ヨーロッパのほうではできるだけ危険因子(例えば同性愛者)を広くとらえて、排除するという方向性になってきているというものでした。
 竹村もアカーも、そのヨーロッパのほうでもその献血時における同性愛者排除が問題になって抗議活動が起きているってことも知っていたので、そうした話もしたのだが、厚生省側としてもわざわざ同性愛者差別をしたくはないが、血液の安全性とか現在の献血事業の行われ方とかを考えると、現在の方法を取らざるをえないっていう、ネガティヴな返事しか提示してこなかったのでした。

 こうした結果から、札幌ミーティングとアカーだけでやるには問題が大きすぎると判断し、全国のレズビアン・ゲイ団体とかHIV/AIDS関連団体と手を組んで問題解決を目指すようになったのです。具体的には、献血問題に関する共同声明をだして、それに賛同する団体を募るというものでした。それがジョイント・ステートメント・プロジェクトとして展開された運動だったのです。

 

4.2.共同声明の呼びかけ

 

献血時問診の改善を求めるジョイント・ステートメント・プロジェクト(JSP)

<呼びかけ団体>

北海道セクシャル・マイノリティ協会・札幌ミーティング
動くゲイとレズビアンの会

 ごった返す駅前や自動車免許の試験場、大学構内などで、私たちはよく、大きな献血車と、血液が足りないという訴えを耳にします。大きな都市の駅舎や近くのビルには、かならず献血ルームがあります。ふと足を止めて、私たちはいろいろなことを考えます。何度も献血している人、献血しようと思いながらもためらってしまう人、まったく気にも止めない人……献血をとりまく人間模様は、さまざまです。
 日本国内の献血事業は日本赤十字社(日赤)主体となって行なわれています。献血事業の生命線は、安全な血液の供給です。この生命線を確保するためと称して、日赤は献血をする人に対して事前の問診を行っています。ところが、この問診項目には、安全な血液を供給する目的にそぐわない内容が含まれているのです。
 日赤は、問診時に、献血をする人が以下のどれかに該当するかどうかを聞いています。

(1)不特定の異性と性的接触をもった
(2)同性と性的接触をもった
(3)エイズ検査(HIV検査)で陽性と言われた
(4)麻薬・覚醒剤を注射した
(5)上記(1)から(4)の該当者と性的接触をもった

 そして、過去1年以内に上記の経験があった人を、献血から排除しています。

 日赤は、この問診基準は「血液の安全な供給」のために不可欠だと言っていますが、私たちはこの問診基準にはいくつかの問題があり、結局のところ、「血液の安全な供給」という目的を阻害することにつながると考えています。私たちは、「安全な血液の供給」のために、これらの問診項目をより適切なものに変えることを求めるものです。
 問診基準の問題点と、私たちの主張は、以下の通りです。

 

問題点1.「特定の性的指向、職業などをもつ人のHIV感染確率が高いのではないか」という誤解や偏見を助長するおそれがある。

 日赤が献血から排除する対象としている上記5項目の人々は、かつてHIV/AIDS政策の中で「ハイリスク・グループ」と呼ばれていました。日赤がこの人々を献血から排除する目的は、「ハイリスク・グループ」を排除することでHIVに感染している血液の混入を避けることにあると思われます。
 しかし、特定の人々を「ハイリスク・グループ」とすることは、歴史的にこれらの人々を「HIV感染の確率が高い」として差別・排除の対象とすることとつながってきました。この問診項目は、まず、特定の人々を「ハイリスク」とすることで、これらの人々のHIV感染率が高く、「危険」なのではないかという誤解をもたらす問題点を持っています。
 さらにそのことは、それまでにもあったこれらの人々への差別とも相まって、これらの人々を潜在化させるという悪しき効果をもたらしてきました。
 「潜在化」とは、社会的な差別から身を守るために、性的指向などの自らの属性や、HIV感染の事実を隠さなければならなくなるころです。こういう状況に追い込まれた人が数多くいます。「ハイリスク・グループ」とされた人々は、自己の不利益を恐れて、献血の問診時にも自分の属性や性行動について正確に申告できなくなってしまいます。
 結局、差別的な、または差別を疑わせるような問診項目は「血液の安全な供給」の妨げになってしまうのです。

 

問題点2.同性間性的接触と異性間性的接触の間に格差をつける合理的根拠がない。

 この項目においては、異性間性的接触には「不特定」との限定がついているのに、同性間性的接触については何らの限定もついていません。ここからは、同性間性的接触は異性間性的接触に比べてHIVに感染する確率が高い行為であるという認識が感じられます。しかし、このような認識には何ら合理的根拠がありません。
 異性間で特定のパートナーと性的接触をする場合に比べて、同性間で特定のパートナーと性的接触をする場合の方がHIVに感染する確率が高いということを示す実証的データは一つもありません。そもそも、「不特定」と言っても、何をもって不特定とするかわかりません。
 実際、日赤がこの問診をするにあたって参考にした厚生省血液問題検討会安全性専門委員会の報告においても、「不特定の者と性的接触があった者」を献血から排除するとの記述はありますが、その相手が同性か異性かは明示していません。
 「血液の安全な供給」という目的を達するためには、「科学的」正確さに基づいて議論をする必要があるのではないでしょうか。

 

問題点3.基準自体が「ハイリスクグループ」を中心的な基準とし、「ハイリスクビヘイビア」(危険な性行為)の観点を軽視しているため、この問診では「血液の安全な供給」にとって必要かつ十分な情報は得られない。

 HIVの感染経路は限られているため、本来問題にすべきなのは「誰と性的接触をしたか」ではなく、「どの様な性的接触をしたか」ということです。HIV陽性の人と性的接触があったとしても、コンドーム等の使用により血液・精液・窒分泌液などが粘膜や傷口と接触しなければ、HIVに感染することはありません。
 しかし、「特定の異性」とのみ性的接触をしている場合でも、相手がHIVに感染しているかどうか不明のまま、それらの体液と粘膜が接触するような性的接触を持っている場合は、HIVに感染する可能性があります。
 また、複数の異性または同性と性的接触をしていても、「セイファー・セックス」(より安全な性的接触)をしている場合、特定の異性とのみ性的接触をしている場合に比べても、HIVに感染している可能性はそれらの人より低いことはあっても高くなることはありません。
 献血時問診の5項目のうち、HIV感染者を除く4項目は、旧来の「ハイリスク・グループ」を類型化しているだけです。これでは、HIV感染経路に関する正確な情報をえることができません。そのため、献血者は、自らの行動を省みて、自分は献血をしても大丈夫なのか控えた方がいいのか、正確に判断できないことになります。さらに、問診する医師も、HIV感染の可能性のない献血者を排除するだけでなく、本来はHIV感染の可能性がある献血者を見逃すことにもつながります。

 

 以上の問題点にかんがみ、私たちは、日本赤十字社に対して、献血時問診の項目を以下のような観点から改善することをもとめます。

1.性的指向や病気、職業など献血者の属性とHIV感染が関連があるかのようにうけとられる記述を改めること。

2.性的指向による差別を助長する記述を改め、合理的な記述内容に改めること。

3.問診内容をより「ハイリスクビヘイビア」に留意した内容に改めること。

 私たちは、献血時問診を改善することで、献血事業からHIV/AIDSに関連する差別・偏見の要素を取り除き、かつ血液の安全供給を実現するため、努力を続けていきたいと考えています。

以上

<プロジェクト連絡先>

・札幌事務局 北海道セクシャル・マイノリティ協会・札幌ミーティング
〒065-0018 札幌市東区北18条東3丁目14-109
TEL&FAX 011-742-7719 (担当・竹村)

・東京事務局 動くゲイとレズビアンの会(アカー)
〒164-0012 東京都中野区本町6丁目12-11 石川ビル2F OCCUR内
TEL 03-3383-5556 FAX 03-3229-7880 (担当・稲場)

 


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