3.東京の日本赤十字本社とのやりとり

 

3.1.一度目の要望書(1997年5月7日)

3.2.一度目の要望書への日赤による返答
(1997年6月2日)

3.3.二度目の要望書(1997年7月18日)

3.4.二度目の要望書への日赤による返答
(1997年8月19日)

 

 

3.1.一度目の要望書

 

1997年5月7日
日本赤十字社献血事業部 献血安全課 御中
北海道セクシュアル・マイノリティ協会 HSA札幌ミーティング
代表 中條敏巳 三上貴子
〒065 札幌市東区北18条東3丁目14-109 電話・FAX 011-742-7719

要望書

 私たちHSA札幌ミーティングは、北海道札幌市を中心に活動しているセクシュアル・マイノリティ(同性・両性愛者、トランスセクシュアル、半陰陽)の権利獲得、セクシュアル・マイノリティについての正しい知識の普及、セクシュアル・マイノリティの孤独の解消とネットワーク作りのために、1989年に設立された市民団体です。当会は、国連にNGOとしてオブザーバー参加しているILGA(国際レズビアン・ゲイ協会)にも直接加盟している、ローカルエリア・ボランティア団体です。

 さて、今回突然このようなものをお送りしましたのは、貴社が北海道内を含め全国で行っている献血事業において、献血希望者に対し献血前に記入させている「献血申込書(診療録)」(北海道ブロック赤十字血液センターの制作のものを同封させていただきました)の中に記載されている内容について、当会の意見及び要望をお伝えするためです。この中の「問診表」での質問事項「14」は、同性愛者やエイズに対する著しい無理解や偏見があるだけでなく、同性愛者やHIV感染者、エイズ患者への社会的な差別を助長するものである、きわめて有害な内容が含まれていると考えております。

 具体的な問題点としては 

1.性的接触によるHIV(エイズウイルス)の感染は、感染する可能性のある特定の集団(Highrisk Group)が存在するのではなく、コンドーム、デンタルダム等を使用しないちつ性交、肛門性交等の危険な行為(HighriskBehaviour)によって、感染するということが科学的にも明らかであるにもかかわらず、特定のセクシュアリティの性行為を「エイズ感染の可能性がある」と決めつけている。

2.内容に「異性との性的接触」には「不特定」という限定がつけられ、「同性との性的接触」にはその限定がない。記述が「同性愛者=ハイリスクグループ」という無理解と偏見からなされたものとなっている。

3.そもそも上記のようなHIV感染の科学的メカニズムを考慮すれば、性的接触を異性間、同性間で区別すること自体がナンセンスである。

4.内容でいう「同性」は「ハイリスクグループ」としての「男性同性愛者」が想定されており、女性同性愛者の存在を無視している。

といった点が挙げられます。

 そこで当会では、記述を変更するよう要望いたします。当会で審議した変更案を別紙にて添付しましたので、ご参考ください。
 要望に対するご返答は、5月13日(火)午後7時までに、当会にFAXにてお寄せ下さるようお願いします。

 

変更案

エイズ感染の可能性のある方

この3ヵ月に次のいずれかに該当することがあった方

(1)性的接触の際、コンドーム等を使用しない危険な接触(ちつ性交、肛門性交等)をもった。

(2)エイズ検査(HIV検査)で陽性と言われた。

(3)麻薬・覚醒剤を他人と共用した注射器によって注射した。

 

〔補足説明〕

 HIVが体内に感染し、抗体ができるまでの期間(ウインドウ・ピリオド)が、大体3ヵ月であることは医学上では常識となっております。それを考慮すると、1年という根拠のない期間を提示する必要はまったくありません。
 (1)については、要望書に挙げた問題点を解決するものです。(3)の「他人と共用した注射器によって」という文言の挿入は、HIVが麻薬や覚醒剤を注射することによって生まれるものではなく、あくまでも感染経路として考えられるのが、「他人との注射器の共用」という部分であるという、科学的な感染経路の常識を明示したものです。「上記のものと性的接触をもった」等の文章は、(1)の文章の明示により意味をなさなくなります。

 

3.2.一度目の要望書への日赤による返答

 

平成9年6月2日
北海道セクシュアル・マイノリティ協会 HSA札幌ミーティング
代表 中條敏巳様  三上貴子 様
日本赤十字社 事業部 献血事業課

 日本の国内で必要とされている輸血用血液はすべて献血に依存しております。献血される方々には、患者さんの生命を救うために無償で血液を提供するという主旨をご理解いただいた上でご協力をお願いしており、献血の意思をお持ちのたいへん多くの方々によって血液事業は成り立っております。献血は、決して強制したり、強要されたりしてなされるものではありません。
 救命のために輸血を受けなければならない方々にとって、輸血用血液の安全は何よりも重要なことです。血液センターでは、医療に必要な血液の安全性を高めるために、献血いただいた年間約600万本の血液すべてについて、ABO、Rh血液型の検査を始め、ウイルスなどの感染予防のための検査を行っています。しかしながら、肝炎ウイルスやエイズウイルス(HIV)を始めとするウイルス等は、現在なし得る世界最高水準の検査によっても検出できないことがあります。また、検査方法の確立していないウイルスやクロイツフェルト・ヤコブ病の病原体等も存在するため、献血される方々についてお話しを伺ったうえで献血の趣旨にご賛同下さる方々に献血していただいております。
 この意味で献血される方々に対する問診は非常に重要であり、厚生省血液問題検討会の「輸血用血液製剤の安全性の関する報告書」(平成7年6月)にもこのことは明記され、現在、献血の際に伺っている問診事項につきましては、上記の報告書に明示された問診表に基づいて、全国同一の内容としており、献血される方々のご理解とご協力のもと、輸血用血液等の安全性を確保しております。
 問診項目は概括的なものとなっていますが、これは少しでも安全性を高め、さまざまな病原体等から患者さんを守るためです。ご提案のように特定の方法による性的接触に限定することは不適当と考えられますので、ご理解いただきたくお願いいたします。
 なお、ご要望の変更案にある期間(1年間)は、上記厚生省の報告書に基づき平成7年7月に設定したもので、より安全な血液の確保をはかるため、必要なものと考えられます。
 また、麻薬・覚せい剤の注射に関しては、エイズ患者・HIV感染者の感染原因として麻薬等の使用が報告されており、患者さんを守るためには、注射器の他人との共用という事実ではなく、麻薬等を使用している方には献血を遠慮していただくことが必要とされ、現在の内容とされています。  以上のことをご理解いただくとともに、今後とも、輸血される方のご協力を得て、患者さんへ可能な限り安全な血液をお届けするという日本赤十字社の使命にご理解賜わりたく、よろしくお願いいたします。

 

3.3.二度目の要望書

 

1997年7月18
日本赤十字社献血事業部 献血安全課 御中
北海道セクシャル・マイノリティ協会 HSA札幌ミーティング
代表 中條 敏巳 三上 貴子
〒065 札幌市東区北18条東3丁目14-109 電話・FAX 011-742-7719

質問状

 先日5月7日付でお送りいたしました当会の「要望書」に対する、貴社からの回答は6月2日付で承りました。しかしながら、当会の意図する問題点の議論がなされていなかったので、ここに改めて当会の質問の趣旨を再度説明し、質問させていただきます。
 当会は献血前の問診自体を否定しているのではありません。しかし、貴社が主張されている輸血用血液の安全性が、貴社の作成する問診事項において確保されるのかについて、いくつかの疑問点があります。それについて先の「要望書」において当会の意見を提示いたしました。
 性的接触によるHIV(エイズウイルス)の感染は、コンドーム、デンタルダム等を使用しないちつ性交、肛門性交等の危険な行為によって、感染するということが科学的にも明らかであることは先の「要望書」においても述べたとおりです。このHIV感染メカニズムを考慮すると、性的接触の異性間と同性間、また不特定の相手か特定の相手かを区別することは全く意味がありません。つまり、貴社の採用されている目的と手段に合理的連関がないということになります。
 また、この問題は同性愛者が献血をする・しないという問題ではなく、貴社の採用されている問診事項、また献血後に献血者に配られる「献血いただいた方へお願い!」(同封させていただきました)等において、あたかも同性愛者がすべてHIV感染者であるかのような印象を、一般市民に広める効果をもつことが懸念されます。これはエイズを同性愛者の病気であるとの誤解を生み、同性愛者に対する人権侵害を誘発する可能性を否定し得ません。このような誤解と差別の扇動ともいえる行為を、貴社が全社をあげて行っていることに、当会は強い憤りを感じます。
 つきましては、以下の質問・要望に7月26日(土)午後7時までにFAXにてお答えいただきますようお願いいたします。 

質問

 なぜ、異性間では「不特定」をつけることで、また、同性間では「不特定」をつけないことで、輸血用血液の安全性を確保できると考えているのか。

要望

(1)同性愛者の性的接触にだけ「不特定」を冠することでHIVに対する誤解を増幅させ、同性愛者の人権を踏みにじることを即刻に停止すること。

(2)今回の問題に関する、貴社側の責任者の氏名を明示すること。

 貴社からの回答の内容によりましては、当会から再びご質問させていただきます。そのため、回答は迅速に、期限は厳守していただきますようお願いいたします。また、この問題に関しましては、道内・全国の同性愛者団体、AIDS関連団体、マスコミ等に呼びかけ、広く問題化していきたいと考えております。

 

3.4.二度目の要望書への日赤による返答

 

平成9年8月19日
北海道セクシュアル・マイノリティ協会 HSA札幌ミーティング
代表 中條敏巳様 三上貴子様
日本赤十字社 事業局 血液事業部

 以前にも説明いたしましたとおり、救命のために輸血を受けなければならない方々にとって、輸血用血液の安全は何よりも重要なことであります。
 輸血していただける方は、決して強要されて献血なさるものではありません。患者さんに使われる血液の安全のため、献血のさいにいくつかの質問をすることによってご了解をいただいた方々にご協力をいただいております。
 以前にもご説明したとおり、問診事項は概括的なものとなっており、安全性を高め、輸血を受ける患者さんの副作用をできる限り低減させるもの以外のなにものでもありません。

 


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