#Appendix1.性同一性障害診断基準

 

<性同一性障害gender identity disorder診断基準>

1.DSM−W

2.ICD−10:研究のための診断基準

3.ICD−10:臨床記述と診断ガイドライン

☆これらは日本でもよく使われている国際的診断基準である。DSMはアメリカ精神医学会による診断基準であり、ICDはWHOによるものである。
 ちなみにこの訳は日本で出版されているものである。

 

1.DSM−W

 

●性同一性障害Gender identity disorder

A.反対の性に対する強く持続的な同一感(ほかの性であることによって得られると思う文化的有利性に対する欲求だけではない)。

 子どもの場合、その障害は以下の4つ(またはそれ以上)によって表れる。:

(1)反対の性になりたいという欲求、または自分の性が反対であるという主張を繰り返し述べる。
(2)男の子の場合、女の子の服を着るのを好む、または女装を真似ることを好むこと。;女の子の場合、定型的な男性の服装のみを身につけたいと主張すること。
(3)ごっこあそびで、反対の性の役割をとりたいという気持ちが強く持続すること、または反対の性であるという空想を続けること。
(4)反対の性の典型的なゲームや娯楽に加わりたいという強い欲求。
(5)反対の性の遊び仲間になるのを強く好む。

 青年及び成人の場合、次のような症状で現れる。:反対の性になりたいという欲求を口にする、何度も反対の性として通用する、反対の性として生きたい、または扱われたいという欲求、または反対の性に典型的な気持ちや反応を自分が持っているという確信。

B.自分の性に対する持続的な不快感、またはその性の役割についての不適切感。

 子どもの場合、障害は以下のどれかの形で現れる。:男の子の場合、自分のペニスまたは睾丸は気持ち悪い、またはそれがなくなるだろうと主張する、またはペニスを持っていない方が良かったと主張する、または乱暴で荒々しい遊びを嫌悪し、男の子に典型的な玩具、ゲーム、活動を拒否する;女の子の場合、座って排尿するのを拒絶し、または乳房が膨らんだり、または月経が始まって欲しくないと主張する、または、普通の女性の服装を強く嫌悪する。

 青年及び成人の場合、障害は以下のような形で現れる。;それは、自分の第一次および第二次性徴から解放されたいという考えにとらわれる(例:反対の性らしくなるために、性的な特徴を身体的に変化させるホルモン、手術、または他の方法を要求する)、または自分が誤った性に生まれたと信じる。

C.その障害は、身体的に半陰陽を伴ったものではない。

D.その障害は、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

⇒現在の年齢に基づいてコード番号をつけること:

 302.6  小児の性同一性障害
 302.85 青年または成人の性同一性障害

⇒該当すれば特定せよ(性的に成熟した者に対して):

 男性に性的魅力を感じる
 女性に性的魅力を感じる
 両性ともに性的魅力を感じる
 両性ともに性的魅力を感じない

 

302.6 特定不能の性同一性障害

 このカテゴリーは、特定の性同一性障害として分類できない性同一性の障害にコード番号をつけるために入れられている。その例を挙げると、

1.半陰陽状態(例:アンドロゲン不応症候群または先天性副腎過形成)に、性別に関する不快感を伴っているもの。
2.一過性のストレスに関連した服装倒錯行動。
3.去勢や陰茎切除の考えに持続的にとらわれていて、反対の性の特徴を獲得したい欲求は伴っていないもの。

 

302.9 特定不能の性障害

 このカテゴリーは、どの特定の性障害の基準も満たさず、性機能不全でも性嗜好異常でもない性的障害にコード番号をつけるために入れられている。その例を挙げると、

1.自己設定した男らしさまたは女らしさの基準に関連した性的行為、またはそれ以外の特徴に関する強い不全感。
2.自分にとっては利用する物としてしか体験されない愛人を次々もって性的関係を繰り返すやり方に対する苦痛。
3.自分の性的指向に対する持続的で著しい苦痛。

 


2.ICD−10:研究のための診断基準

 

F64 性同一性障害Gender Identity Disorder

F64.0 性転換症 Transsexualism

A.異性の一員として生き、受容されたいという願望。通常、外科的治療やホルモン療法によって自分の身体を自分の好む性に可能な限り一致させたいという願望を伴う。
B.異性への性同一性が、少なくとも2年間、持続的に存在すること。
C.精神分裂病のような他の精神障害の症状でなく、また染色体異常に関連するものでもないこと。

 

F64.1 両性役割服装倒錯症 Dual−role transvestism

A.一時的に異性の一員になる体験をするために、異性の衣服を着用すること。
B.服装を取り変えるについては性的な動機は全くないこと。
C.永続的に異性に変わりたいという願望は全くないこと。

 

F64.2 小児期の性同一性障害 Gender identity disorder of childhood

・女性の場合には、

A.少女であることについての持続的で強い苦悩と、少年でありたいという欲求の表明(単に、文化的に少年である方が有利だからというだけの欲求ではなく)、または自分が少年であるという主張。
B.つぎの(1)・(2)のいずれかがあること。
(1)あたりまえの女らしい服装を明らかに持続的に嫌悪し、型どおりの男らしい服装、例えば少年の下着や他のアクセサリーを着用すると言い張る。
(2)女性の解剖学的構造を持続的に否認する。それは次のうちの少なくとも1項に示される。
 (a)自分にはペニスがある、またはペニスが生えてくるだろうという主張。
 (b)座った姿勢での排尿の拒絶。
 (c)乳房の成長や月経を望んでいないという主張。
C.思春期にはまだ入っていないこと。
D.この障害は、少なくとも6ヶ月存在していること。

・男性の場合には、

A.少年であることについての持続的で強い苦悩と、少女でありたいという強い欲求、またはより稀には、自分が少女であるという主張。
B.次の(1)・(2)のいずれかがあること。
(1)女性の定型的な行動に心を奪われる。これは女性の服を着たり、女装したりすることを好むこと、あるいは少女のゲームや遊戯に参加することに強い欲望をもつ一方、男性の定型的な玩具やゲーム、活動を拒絶することで示される。
(2)男性の解剖学的な構造を持続的に否認する。それは次の主張の繰り返しのうちの少なくとも1項に示される。
 (a)自分は成長して女になるであろう(単に役割においてではなく)。
 (b)自分のペニスや睾丸が嫌だ、または消えてなくなるだろう。
 (c)ペニスや睾丸はないほうが良い。
C.思春期にはまだ入っていないこと。
D.この障害は、少なくとも6ヶ月存在していること。

 

F64.8 他の性同一性障害

F64.9 性同一性障害、特定不能のもの

 

F66 性の発達と指向に関連した心理及び行動の障害

この項は、性の発達及び指向が変異していることによって生じる問題を扱うためのもので、性指向それ自体は必ずしも問題でも異常でもない。

F66.0 性成熟障害Sexual maturation disorder

 性同一性あるいは性的指向が曖昧なことに悩むものであり、それが不安や抑うつを引き起こしている。

 

F66.1 自我違和的な性的指向Egodystonic sexual orientation

 性同一性あるいは性的指向に問題はないが、本人は現実と異なるものを望んでいる。

 

F66.2 性関係障害Sexual relationship disorder

 性同一性あるいは性的嗜好の異常が原因で、性的パートナーと関係を作ったり維持していくことが困難である。

 

F66.8 他の心理的発達障害

F66.9 心理的発達障害、特定不能のもの

 


3.ICD−10:臨床記述と診断ガイドライン

 

F64 性同一性障害 Gender identity disorder

F64.0 性転換症 Transsexualism

 異性の一員として暮らし、受け入れられたいという願望であり、通常、自分の解剖学上の性について不快感や不適当であるという意識、及びホルモン療法や外科的治療を受けて、自分の身体を自分の好む性と可能な限り一致させようとする願望を伴っている。

診断ガイドライン
 この診断のためには、性転換的な性同一性が少なくとも2年間持続していなければならず、それが精神分裂病のような他の精神障害の一症状であったり、半陰陽の、あるいは遺伝的な、あるいは性染色体のいかなる異常とも関連するものであってはならない。

 

F64.1 両性役割服装倒錯症 Dual−role transvestism

 異性の一員であるという一時的な体験を享受するために、生活の一部で異性の衣服を着用しているが、より永続的な性転換あるいはそれに関連する外科的な変化を欲することは決してないもの。本障害は、服装を交換するに際して性的興奮を伴っておらず、フェティシズム的服装倒錯症(F65.1)と区別されなければならない。
<含>青年期あるいは成人期の性同一性障害、非性転換型
<除>フェティシズム的服装倒錯症(F65.1)

 

F64.2 小児期の性同一性障害 Gender identity disorder of childhood

 通常、小児期早期に(そして常にはっきりと思春期以前に)最初に明らかとなる障害であり、自らに割り当てられた性に関する持続的で強い苦悩によって特徴付けられ、それとともに異性に属したいという欲望(あるいは固執)を伴うものである。患者は、異性に属する服装及び/または行動および/または患者自身の性の拒絶にいつも心を奪われている。これらの障害は比較的稀であると考えられ、よりしばしば見られる決まり切った性的役割行動への不服従とは混同すべきでない。小児期の性同一性障害の診断を下すには、男性性あるいは女性性の正常な感覚に重大な障害がなくてはならない。少女の単なる「おてんば」や少年の「女々しい」行動だけでは十分ではない。この診断はその人が既に思春期に達している場合には下すことが出来ない。
 小児期の性同一性障害はこの節の他の同一性障害と多く共通の特徴を持つため、F90−F98よりもむしろF64.−に分類されてきた。

診断ガイドライン
 本質的な診断的特徴は広汎で持続的な、割り当てられた性とは逆の性でありたいという患者の欲望(あるいは自分が逆の性であることへの固執)であり、また、割り当てられた性の行動、属性、および/または装いに対する強い拒絶である。典型的には就学以前の時期に最初に現れるが、診断するためには、本障害が思春期前に明らかになっていなければならない。どちらの性でも、自分自身の性の解剖学的構造を否認することがある。しかしこれは通常は認められない、おそらく稀な症状である。特徴的なこととして、性的同一性の障害を持った子どもは、家族や仲間の期待と衝突したり、いじめ、および/または拒絶を受けたりして困っているにしても、そのために悩まされることはないという。
 これらの障害は少女よりも少年の方に多いことが知られている。典型的には、就学以前の時期から以後ずっと、少年は、決まって女性に関連付けられるタイプの遊びやその他の活動に心を奪われ、しばしば好んで少女や女性の衣服を着用することがある。しかしながら、服装の交換で(大人のフェティシズム性服装倒錯症(F65.1)とは違って)、性的興奮が引き起こされることはない。彼らは少女のゲームや遊戯に加わることにきわめて強い欲望をもつことがあり、女の子の人形がしばしば彼らのお気に入りの玩具で、彼らが好む遊び仲間は少女と決まっている。仲間外れにされることが、学童期の初期に生じる傾向があり、しばしば他の少年たちによる屈辱的ないじめとなって学童中期にピークに達する。はなはだしく女性的な行動は思春期早期に減少していくこともあるが、予後調査によれば、小児期の性的同一性の障害を持つ少年の約3分の1から3分の2は思春期の間にあるいはその後に同性愛的な傾向を示すという。しかしながら(性転換願望症の成人のほとんどが小児期に性的同一性の問題を訴えていたとする報告にもかかわらず)、成人になってからの生活で性転換願望症をあらわにするものはごくわずかである。ー
 臨床例では、性同一性障害は少年よりも少女のほうに少ないが、この性差が一般人口に適応できるかどうかは判らない。少女の場合も少年の場合のように、決まって逆の性に関連付けられる行動に心を奪われるという初期症状が通常見られる。典型的には、このような障害を持つ少女は男の友達をもち、スポーツや粗野でころげ回る遊びに強い興味を示す。彼女たちは人形とか「ままごと遊び」のようなごっこ遊びで女性の役を演じることに興味を示さない。性的同一性の障害を持つ少女は、小児期後期や思春期にいじめられるとしても、少年と同程度の仲間外れを経験する傾向はない。ほとんどの者は、思春期に近付くにしたがって男性的な活動や服装への過度の固執を止めるが、ある者は男性同一化を保持し、同性愛的な傾向を示しつづけることがある。
 稀に性的同一性の障害が、割り当てられた性の解剖学的構造を否認し続けることに繋がる場合がある。少女では、このことは、自分がペニスを持っている、あるいは生えてくると繰り返し主張したり、座って排尿することを拒絶したり、あるいは乳房が大きくなり、月経が出現することを望まないと主張したりすることによって明らかになることがある。少年では、自分が身体的に成長したら女性になる、ペニスや睾丸が嫌だ、あるいは消えてなくなる、および/またはペニスや睾丸がない方がよいと繰り返し主張することで判ることがある。

<除>
自我違和的な性の方向付け(F66.1)
性成熟障害(F66.0)

 

F64.8 他の性同一性障害

F64.9 性同一性障害、特定不能のもの
<含>特定不能の性役割障害

 

F66 性の発達と指向に関連した心理および行動の障害

注)性的指向単独では障害と見なされない。
 以下の第5桁のコードを、個人にとって問題となる性的な発達あるいは指向の変異を示すのに用いることが出来る。
 F66.x0 異性愛的(heterosexual)
 F66.x1 同性愛的(homosexual)
 F66.x2 両性愛的(bisexual)(どちらの性のものにも性的魅力を感じるという明らかな証拠がある場合にのみ用いるべきである)
 F66.x8 その他、前思春期的なものも含む

 

F66.0 性成熟障害 Sexual maturation disorder

 患者は自分の性同一性あるいは性的指向の不確実さに悩んでおり、それが不安や抑うつを引き起こしている。これは、自分がその性的指向において同性愛的なのか、異性愛的あるいは両性愛的なのかはっきりしない青年たち、あるいははっきりと安定した性的指向の時期ののち、しばしば長年にわたる関係の中で、自らの性的指向が変わりつつあることに気づいた人々に起こることが最も普通である。

 

F66.1 自我違和的な性的指向Egodystonic sexual orientation

 性同一性あるいは性的指向に問題はないが、性に関連する心理的および行動的な障害のために、異性であれば良いと望んでおり、性を変更するための処置を求める場合がある。

 

F66.2 性関係障害

 性同一性あるいは性的嗜好の異常が原因で、性的パートナーと関係を作ったり、維持したりすることが困難である。

 

F66.8 他の心理的性発達障害

F66.9 心理的性発達障害、特定不能のもの

 


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