2.ジョイント第二号
JOINT 献血時問診の改善を求める Vol.1−No.2 (1998年6月07日発行) |
大阪駅前東口のターミナルで、よく献血車を見かける。献血を呼びかける人々の声はむしろ善意に満ちている。それだけに献血者に備え付けてある1メートル四方の垂れ幕の「お願い」の言葉が余計引っかかるのである。人通りの傍らの垂れ幕には、私たちが問題にしている献血時問診の質問項目が、念を押すように記されている。
問題の根底は、安全な血液の供給という日本赤十字社の目的を成り立たせたいならばハイリスク・ビヘイビアという概念によって問診が行われてしかるべきなのに、未だに「ハイリスク・グループ」という事実に沿わない悪しき概念に縛られていることである。そして、この「ハイリスク・グループ」の中に「同性と性的接触を持った」者も組み込まれている。
間違ってはならないのは、異性間性的接触と同じく「不特定の」という文言が仮に同性間性的接触にも付け加えられれば同性愛者差別がなくなったがごとく考えてしまうことだ。「ハイリスク・グループ」なる概念を放置する限り、真のHIV予防にもつながらないばかりでなく、HIV感染者、AIDS発症者への誤解・差別を助長することになる。
日本で公式に「ハイリスク・グループ」概念が浮上したのは、昭和60年(1985年)厚生省薬務局生物製剤課長通知第92号に端を発する。つまりは、国家公認の同性愛者差別が脈を打って生き延びているのであり、日赤はもちろん、究極は厚生省をひきずりださなければならない。
府中青年の家裁判は、上告を待たずして「動くゲイとレズビアンの会(アカー)」の完全勝利に終わった。原告団の方々には本当に「お見事」と申し上げたい。しかし、同性愛者への偏見・差別が、これを契機に瞬時に消え去ったわけではないのも、また厳しく受けとめねばならない事実である。献血問題に関する共同声明に賛同する一員として、この闘いがひいては全国的な同性愛者解放運動の展開のさきがけとならんことを切に望みたい。
(ゲイ・フロント関西 前アクションブランチ代表)
第1号を4月に発行して以来、もう2ヶ月も経ってしまいました。もっと頻繁に発行していこうと思っていたのですが、なかなか時間がとれずすいません。今号では、2月末(もう2ヶ月もたちますね)に行った対・厚生省交渉のご報告をいたします。(東京事務局・稲場)
2月25日(水)に参議院議員会館の会議室で、動くゲイとレズビアンの会(アカー)と厚生省の間で、献血時問診項目に関する話し合いが行われました。
(東京事務局・柳橋晃俊)
※ウインドウ・ピリオド=感染はしているが、検査では検出されない時期のこと
厚生省交渉のなかみ
(1)交渉経過(厚生省の回答を中心に)
1 基本認識
血液供給の安全性を確保する必要があるという認識は、お互いに共通していることが確認できました。厚生省としても現在の問診方法がベストだとは思わないし、より良い方法があれば積極的に改善したいとの認識であり、問題を考える共通の土俵があることは確認されました。
2 ハイリスク・グループ
厚生省の認識としては、現在のHIVに感染している血液の排除のための問診項目は、ハイリスク・ビヘイビアの考え方に立っているとしています。交渉の中では、昭和62年の通知では、ハイリスク・グループの考え方があり、「同性愛者」「両性愛社」などの性的指向に基づく記述があったが、平成7年の通知によってその考え方は変更されているとの説明がなされました。
ただし、交渉後、昭和62年の通知が平成7年の通知によって変更になったというのは誤りであったとの訂正がありました。
3 ハイリスク・ビヘイビア
現在の問診方法ではハイリスク・ビヘイビアに関する質問がされていないのではないかとの質問に対しては、現在の問診自体もハイリスク・ビヘイビアに関する質問である。ただし、問診時に献血者の性行動について細かく聞くことは現実的ではないから、できるだけ簡便な方法でかつ危険因子を排除できるものを考えた結果が現在の問診である、との説明がありました。なお、同性間性的接触と異性間性的接触の間に差を設ける理由としては、男性のHIVの感染原因として同性間性的接触が最も多いことが理由であると説明されました。
4 プライバシー、答えやすさ
問診方法がプライバシーの保護、安心して答えられる条件を整えているかどうかについては、厚生省側もかなりの改善の余地があることを認めたうえで、今後もより良い方法を探っていくことについてはお互いに確認できました。
(2)今後の交渉に向けて
<1>
交渉の中でも触れましたが、現在の問診のように「同性と性的接触を持った」人というきき方では同性愛者が正直に答えるにはかなりの抵抗があります。これは、同性愛者の中には自らの性的指向を隠しておかなくてはいけないと強く思わされているという社会的状況がからんでいます。同性愛者は自らが同性愛者であることが知られたら、周りからは過酷な扱いを受けることを経験的に知っていますし、献血の現場ではプライバシーがどの程度守られるのか不安にさせる場合もあります。また、エイズに関しては発生当初からあたかも同性愛者がかかる病気であるかのような言われ方がされ現在でもその影響は人々の中に根強く残っています。結局この質問項目はハイリスク・ビヘイビアによる分類であるかのように書かれていながら、分かちがたくハイリスク・グループの考え方と結びついています(特に無限定に「同性と性的接触をもった」とすることで、感染例の報告されていないレズビアンも排除するという結果は、同性とセックスする=男性同性愛者という発想しかないことを窺わせ、その中にはかなりバイアスのかかった同性愛認識を指摘することも可能です)。この問診項目は、血液の安全供給という観点にそぐわない結果を招く危険性があります。
そうした認識から私たちは今後の交渉において、ハイリスク・ビヘイビアの考え方について厚生省と詰めていきたいと考えています。
<2>
今回の交渉においては、私たちと厚生省の間で、安全な血液の供給という視点から議論を進めるという共通認識を確認することができました。また、同時に、供給量の確保、簡便性、プライバシー保護、等様々な要素を満足させながら問題にアプローチをしていく必要性があること、およびそれらは複合的な関連性をもっていることもお互いの共通認識として今後の議論の基盤になることも確認されたと考えています。今後の議論においては、統計的数値の多寡だけではなく、数値の社会的背景や対象の社会的意味付けにまで目を配った議論が展開されると思われます。献血の安全性確保の考え方が、「4,000,000ccの安全な血液を逃しても,400ccの危険な血液を排除することが基本的要請」(山本氏)だとすれば(だとしても)、献血者が正確な答えを出しやすい状況を作ることに対する配慮が、問診強化の実効性を上げるためにも必要になります。今後の交渉では、数字の背景をも意識しつつ、献血問題に関する複合的な要請に応える問診のあり方について議論することを目指したいと考えています。
<3>
交渉中、サンフランシスコやドイツでの議論の話も出ましたが、このような情報が伝わるのも、問題解決の過程できちんとした情報公開が行われている結果だと思われます。密室での議論が生み出してきた多くの悲劇を2度と生み出さないために、私たちは今回の交渉が、情報公開の一環としての機能を果たせることも意識しながら交渉の場に臨みたいと考えています。
(東京事務局・柳橋晃俊)
厚生省との交渉の記録を頼まれ、ニュースで見るだけの霞ヶ関に図らずも足を踏み入れることになった。しかし、依頼を受けてから僕はしばらく考えこんだ。当日の服装はどうしたものか考えていたのである。たかが服なんて、と思われるかもしれないが、僕には、霞ヶ関に行くということが、行きなれない格調高い料理店にたまたま行くことになった的な感じがしたのだ。だから「きちんとした服装で」という妙なプレッシャーを感じたのである。しかし、あいにく僕はスーツを持っていなかったので、結局普段着での参加になった。直接交渉にあたった三名をはじめ、厚生省の方、代議士の方はほぼ皆スーツを着ていた。やはり普段着は僕くらいだ。が、その時の僕は、高級な料理店にコスプレしてお邪魔しているような、一種痛快な気分を楽しんでいたのである。
でも、そんな具合に浮かれてばかりもいられなかった。僕は、主に渋谷や新宿の献血ルームでたびたび献血をしている。ある日、献血に行くと、僕の好きな男性スポーツ選手のポスターが貼ってあった。ぼくはそれをほしいと思ったが、譲って下さいと頼みに行くには少しためらいがあった。何が僕をためらわせたのか。それは、ポスターがほしいと僕がいうことで、「この人ホモ?」という疑念を相手が抱きはしないかと不安になったからである。さらにはそれによって、「問診票にうそはないでしょうね」等と再確認されてしまうのではないかという心配も。これらの心配は決して僕の誇張ではない。僕の中で、「同性と性的接触を持ったか」という問いが、「あなたは同性愛者ですか」という問いに変貌し、ポスターがほしいということさえもためらわれたのだ。この変貌はしかし、献血にやって来る多くの人たちにとってはおそらく、言葉から言葉への連想に近いものではないだろうか。その連想によって彼らは、同性と性的接触をするもの=同性愛者=献血できない、という思考をなんのためらいもなく、より強固にしてしまうだろう。そして何よりも、同性愛者自身が「同性と性的接触をする者」というレッテルに混乱してしまうのだ。
こういうふうに僕は、厚生省の方のお話を聞きつつ、献血ルームでの出来事を思い返していた。交渉が終わったあと、議員バッジやスーツのあふれる館内の食堂で食事をとった。そのころには服のことなんてどうでも良くなっていた。
(アカー会員)
この報告書は、今後の血液事業の進め方について、(1)国内自給の推進、(2)安全性確保、(3)適性使用、(4)有効利用、(5)透明性の確保の5点を柱とし、血液事業に関わる国、地方公共団体、血液事業者、医療機関に対して、血液事業推進のための諸方策、指針を示しています。特に「透明性の確保」に関しては、「国は、広く学識経験者、献血者代表、消費者代表等が参画する審議の場を設け、血液事業に関わる重要事項について調査審議することとし、情報公開を行うことにより血液事業の透明化を図るべきである。」として、国民が信頼できる血液事業体制の確保にとって、当事者の参加、情報公開が重要であることを指摘しています。
また、ウインドウ・ピリオドの問題についてはHIVを例にあげ、「ウインドウ・ピリオドの危険をできる限り排除するためには、献血時における問診の充実を図る」ことを、新たな検査技術の開発、ウイルスの不活化・除去技術の開発と並べてあげています。
現在、厚生省では報告書に基づき、法制化作業が進められ、現在次期通常国会にて提出される予定となっていますが、現在、共同宣言行動として進められているこの運動も、血液事業法が目指す血液製剤の国内自給体制の確立、安全性の確保の観点から重要な問題提起をしていますし、透明性確保の観点からも、多くの当事者を含むこの共同宣言の要求が、誠実に反映され、過去の不確かな情報により置き去りにされた問題を解決する一助になるように、今後も運動を展開していきたいと考えます。
(東京事務局・柳橋晃俊)
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