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〃分りやすいって素晴らしい〃の巻 |
サンちゃん(以下S)「こんにちは。???何ですか?この音楽は
?」 あき(以下A)「あら、サンちゃんいらっしゃい。これね、謡曲よ。」 S「謡曲?」 A「そう、謡曲。能楽のね、詞章(ししょう)をうたう事よ。」 S「何だか難しくてわかんないな〜。」 A「まあ、簡単に言うと、<謡(うたい)よね。」 S「は〜。あんまり分らないけど、まあいいか。」 A「え〜と、サンちゃんは何にしようか?」 S「あっ、すいません。セットでお願いします。ところで、なんで今日は こんな謡曲でしたっけ?かけているんですか?」 A「あっ、ちょっと待ってね。何時もの音楽にもどすから。」 S「いや〜、いいんですけど、やっぱり戻してもらった方がいいですかね 。」 A「はい、お待ちどうさま。」 S「ありがとうございます。それで、何で?」 A「あ〜、たわいがない事なんだけどね、今日ね、能を観て来たのよ。」 S「能ですか。僕にはちょっと難しすぎますよね。」 A「能って言ってもね、<能がたり>って言う代物でね、語り部がね朗読 を通して<能>の世界を演じていくって言うものなのよ。」 S「へ〜。何か面白そうですね。」 A「そうよ。<能>って聞くと、何か堅苦しい物の様に感じられるじゃな い。でもね、これはとてもリラックスして観賞できるのよ。」 S「それでどんな話しなんです?」 A「今日観てきたのはね、<鉄輪(かなわ)>っていう物なの。」 S「鉄輪、ね〜。何なんです?鉄輪って。」 A「ほら、映画の<八つ墓村>って覚えてるかしら?あの惨殺のシーンで さ、狂ってしまった当主が村人を追いかけて次々に殺していく所よ。あの とき当主が頭に付けてた鉄の輪っか、ほら、蝋燭が付いてたやつよ。あれ が鉄輪なの。」 S「あ〜、あれね。じゃあ、今日観てきた能も怖い話しなんですね。」 A「勿論。〃をんな〃の怨念の話しなのよね。」 S「聞きたいな。」 A「まあ、よくある話しよ、この世界でも。夫に見捨てられた女がね、怨 みを晴らしたいと思って京の貴船明神に丑の刻参りをするのね。」 S「丑の刻って、何時頃でしたっけ?」 A「ちょうど、午前1時〜3時頃かしらね。よく丑三つ時って言うじゃな い。」 S「あ〜、あ〜、あ〜、あれね、真夜中の事。」 A「そうそう。そこでね、神のお告げがあるわけよ。」 S「どんなお告げなんですか?」 A「それはね、.......」 マー君(以下M)「こんばんは。」 S「キャー!脅かさないで下さいよ、まったく。」 M「えっ?何か脅かしましたかね。」 A「何にもしてないわよ。今ちょうど丑の刻参りの話しをしてたから。」 M「なんだ。夏はとっくに過ぎたっていうのに、丑の刻参りの話しですか 。」 A「今日ね、鉄輪って言う能、っていうか、能がたりを観てきたのよ。」 M「鉄輪ですか。ちょっと怖い話しですよね。」 S「えっ!マー君知ってるんだ。」 M「おいら、こう見えても能はたまに観に行くんだよ。」 S「へ〜。人は見かけによらないものだね。そんでさ、今ちょうど神のお 告げの話しだったんだけどね。」 M「赤い着物で、顔は朱色にして、鉄輪を乗せて、蝋燭を灯せば生きなが らにして<鬼>になって、願いが叶うって言うところか。」 S「よく知っているね。」 A「ところで、マー君は何にしようか?」 M「えっと〜。モスコ・ミュールで。」 A「あいよっ!」 S「そいでさ、良くやってるじゃん、テレビでさ。藁人形に釘打ち付ける やつ。」 A「はい、マー君。」 M「どうも。」 S「たまんないよな、男の方は。」 M「サンちゃんは怨まれる事多いもんね。」 S「えっ!どういう事?何か真実でも握ってるの?」 A「まあ、いいじゃないよ。」 S「占い師にでも見てもらおうかな。」 A「そうなの。当然の如く、夫の方はね、陰陽師に祈祷を頼むのよ。」 M「阿倍晴明って言いましたっけ?」 A「良く観てるわね。そうよ、阿倍晴明にね。その後、妻の生霊が出てき て夫の命を取りにかかるんだけど、晴明の呪力に追われて呪いの言葉を残 して消えていくって言う話しなのよ。」 M「確か今でも<鉄輪の井戸>がありましたよね、京都に。」 S「見直しちゃったな〜。マー君。」 M「そりゃどうも。おいらにもちょっとは取り柄位あるんだよね〜。」 A「元々はね、<鉄輪の井>って言って、そこの水を飲むと縁が切れるっ て言う縁きりの井戸だったんだけど、縁きり伝説を打ち消すために、稲荷 様を勧進して縁結びの神としたらしいわ。」 M「去年、京都に旅したときに行ったと思うんですけど、堺町通だったか な〜?」 A「ちょっと待ってね。え〜と、そうそう、堺町通よ。<京都市下京区堺 町通松原下ル>って書いてあるわ。」 S「それでマー君、今幸せにしてるんだ。」 M「そんな事ないと思うけど、そのせいかな?それだったら、サンちゃん も行ってきたら、鉄輪の井戸にさ。」 S「そうだね。行ってこようっと。」 A「行ってらっしゃいよ。良いことあるかもよ。」 M「ところであきちゃん。能がたりとやらは面白かったんですか?」 A「そうね。とっても良い試みだと思ってるのよ。やっぱり能って言うと 、少し畏まっちゃうじゃない。でも、今回の様に、朗読をしながら、能の 世界を見せていく、勿論、語りも現代語で行なわれるって、とても解りや すくて面白いと思う人がたくさんいるんじゃないかって思うんだけどね。」 S「そうだよね。そういうのだったら俺も行けそうだしな。今までのまま だったら、ごく一部の人達だけの物で終わっちゃうよね。」 A「そうなの。伝統芸能の世界って、何か国の保護に甘えてるって感じが するのよね。勿論、演ってる方は一所懸命なんだろうけど。」 M「だいたい、開演時間が早過ぎですよ。夜の部でも4時半頃でしょ。仕 事やってる人間には行けないもんね。」 A「そうよね。まるで観なくとも良いですよって言われてるみたいだもの 。」 S「それじゃ、この先真っ暗じゃないですか。」 M「そうそう。だからさ、サンちゃんも早く京都に行ってさ、鉄輪の井戸 の水でも飲んで幸せにならなきゃね。」 S「そうだよね。今週末にでも行ってこようっと。」 A「本当にサンちゃんて、分りやすくていいわね。」 M「分りやすいって良い事ですよ。」 A「そうね。分りやすいって素晴らしい事よね。ハハハハハ.......」 おわり *登場人物は全て仮名です。 |