夢の美術館:大阪コレクションズDREAM MUSEUM : THE OSAKA COLLECTIONS
会場:国立国際美術館 [大阪・中之島] 会期:2007年116日[火]〜325日[日]
ストリート・アートナビ取材:展覧会シーン(報道内覧会) Page-01 Page-02 ●Page-03


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「このピカソは本物ですか」
国立国際美術館
島 敦彦
 来館者の方からこんな質問がたびたびある、という話を常設展示場に座る看視の女性から聞いて愕然(がくぜん)としたことがある。(中略)
 そう、それほどまでに国立国際美術館(に限らないが)のコレクションは、一般的に知られていない。(中略)

「大阪コレクションズ」は、そんな状況を少しでも打開し、何よりも身近なコレクションの魅力に触れてもらおうと企画した展覧会である。しかも、一つの美術館だけでは充分な厚みを持ちえないところを、大阪の三つの美術館とりわけ当館に隣接して開館を予定している大阪市立近代美術館建設準備室の秀逸(しゅういつ)なコレクションが加われば、より見応えのあるコレクション展が実現できるのではないか。ひいては、それぞれの美術館のコレクションの存在それ自体に興味を持ってもらう絶好の機会になるのではないか。そんな思いが、今回の三館共同のコレクションを生かした三つの展覧会(注1)に結びついたのである。

 コレクションは一朝一夕には形成されない。1977年に四番目の国立美術館として開館した国立国際美術館は、今でこそ5000点を超える所蔵品に恵まれているが、オープン当初は寄贈されたジョアン・ミロの陶壁画以外、ほとんど何もない状態から出発した。その後、大口の寄贈や文化庁からの管理換、展覧会からの買い上げ、あるいはいわゆるドル減らしのために特別予算が急につくこともあったが、80年代以降日本各地に続々と誕生した公立美術館の破格の購入予算に比べて、決して十分とはいえない財布をはたいて、地道に収集を継続してきた。しかし皮肉なことに90年代以降は、公立美術館の購入予算が激減ないしは全く無くなってしまったために、国立美術館の収集予算の方が相対的に潤沢にあるかのような逆転現象が生じた。

 さて、今回ご紹介するコレクションは、
20世紀の欧米の絵画を主体に構成した。いわゆる印象派以降、現代にいたるおよそ120年余りの美術の流れをコレクションで辿(たど)ろうというのである。しかし、これは無謀ともいえる試みで、三館の総力とはいえ、ゴッホやポロックなど何から何まで過不足なく揃(そろ)っているわけではない。もっとも、コレクションというものは絶えず未完なのであって、まして狭い展示場に並べられる作品点数自体に限りがある。(中略)

 本展では、
西洋美術の入門書に出てくるような過去の著名な作家に重点を置いたが、展示の後半にはあまり馴染(なじ)みのない作家が登場して、少々戸惑われたかもしれない。とはいえ、たとえばトニー・クラッグのサイコロ彫刻《分泌物》などは、後で作者名は忘れても妙に記憶に残る作品のひとつではなかったろうか。というのも、国立国際美術館は、すでに評価の定まった巨匠だけではなく、むしろ国内外の生々しい現代美術を対象に、その紹介と普及に努め、コレクションについても同時代を見据えた特色ある収集を目指しているのである。

 
ともあれ、これも何かのご縁、願わくは国立国際美術館をはじめさまざまな美術館のコレクションに親しんでもらいたい。「今日は何もすることがないな」と思われたとき、特にこれといった企画展がなくてもつい美術館に足が向いてしまう、そんな病気にかかっていただきたいのだ。むろん、ありきたりな処方箋(せん)は出さないつもりである。

(夢の美術館・大阪コレクションズ展覧会図録より転載)
(注1.国立国際美術館「夢の美術館・大阪コレクションズ」/大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室「佐伯祐三とパリの夢・大阪コレクションズ」/サントリーミュージアム[天保山]「20世紀の夢 モダン・デザイン再訪・大阪コレクションズ」
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“夢の美術館”で会いましょう
大阪市立近代美術館建設準備室
熊田 司
「“夢の美術館”という展覧会をするんですよ・・・」、「へぇー、どんな展覧会ですか?」。大阪市立近代美術館(仮称)、国立国際美術館、サントリーミュージアム[天保山]3館のコレクションで構成するのだと説明すれば、大体理解してもらえるが、やや複雑な表情を見せる人がいないわけではない。

「“夢の美術館”なんていうけれど、本当にそんなすごい作品があるの」という疑念が一因であろう。この疑いを解くには、実際に展示作品を見ていただくのが一番よい。(中略)

 私たちの“夢の美術館”は19世紀末から今日にいたるまでの西洋の美術を、約70点の作品で見ていただくという、小ぢんまりとした企画である。しかし、個々の作品から発せられるオーラというか、真正の「芸術」だけが放ちうる磁力は存分に堪能(たんのう)していただけるだろう。
それほどの名作揃いだという自負はある。およそ文化や芸術とは縁が薄いと考えられがちな大阪の地に、これだけの美術コレクションがあったことを、ぜひとも再認識していただきたいのである。(中略)

 約70点の出品作品のうち、半数強は大阪市立近代美術館(仮称)の所蔵である。「近代美術館は、結局は夢に終わったのですね・・・」と言いたそうなのだが、「そんなことはありません。今も計画中です」と答えると、即座に「いつできますか?」と返され、返答に窮
(きゅう)してしまう。けれども、夢は終わったのではなく、いつまでたっても到達しえないところに本当の“夢”があると理解したい。コレクションとともに近代美術館はすでに存在するのだ。建物が建つことがその重要なステップであることは否定しないが、“夢の美術館”は永遠の未来へとつづくのである。(中略)

 近代美術館(仮称)コレクションは、1983年に佐伯祐三作品40件を含む山本發次郎コレクションが寄贈されたことに端を発する。禅僧墨績
(ぼくせき)などを収集していた大阪の実業家山本は、佐伯の遺作に触れてその魅力のとりこになり、約150点にのぼる名作を情熱的に収集した。モディリアーニは山本發次郎の、数は少ないが逸品ぞろいの西洋美術収集であり、さかのぼると福島繁太郎がパリで購入し、日本に持ち帰って1934年に公開したものである。パリに住み豪華美術雑誌『フォルム』を刊行、批評家でパトロンでもあった国際人コレクター福島と、東洋的な深い叡智(えいち)と見識に支えられた収集家山本の、二重の称賛に祝福された作品が《髪をほどいた横たわる裸婦》なのである。

 近代美術館(仮称)コレクションには、ニューヨーク近代美術館旧蔵作品もあるが、逆に同館と獲得を争った末に大阪に帰した作品も複数存在する。どれとは言わないが、日に日に市場から消えてゆく歴史的名作を入手するには、高い情報収集力と隠密行動、そしてスピーディーな決断力が要求される。手続きの透明性や法令順守が厳しく問われる公共には大変困難な仕事であるが、美術への愛、コレクションへの情熱でそれを乗り切ってわが手にする喜びは、何ものにも代えがたい。もとより、私するのではない。万民と共有してこそ喜びもまた百万に倍することは、見識あるコレクターもよく知るところであり、公共コレクションの存在条件ですらある。しかも、この条件は単なる責務なのではなく、未来へと感動の連鎖をひろげる人間の喜びでもあるのだ。

“夢の美術館”はたしかに存在している。だから、ぜひとも“夢の美術館”で会いましょう!

(夢の美術館:大阪コレクションズ展覧会図録より転載)
夢の美術館:大阪コレクションズ DREAM MUSEUM : THE OSAKA COLLECTIONS
会場:国立国際美術館[大阪・中之島]会期:2007年1月16日[火]〜3月25日[日]
ストリート・アートナビ取材:展覧会シーン(報道内覧会)/Page-01 Page-02 ●Page-03
取材日:2007年1月15日 掲載:1月23日
取材・写真・Webデザイン:ストリート・アートナビ/Street Artnavi 中田耕志
※上記の説明、写真キャプションは展覧会報道資料、展覧会図録、記者内覧会を参考にしました。
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