〃感動するって素晴らしい〃の巻

大介(以下D)「あけましておめでとうございます。」

あき(以下A)「あら大介、おめでとう。今年もよろしくね。」

えいこ(以下E)「おめでとうございます。今年こそよろしくね。」

A「あら、えいこ、それどういう意味かしら?まあ、それはそうと、本当 によろしくお願いします。それじゃ何にしようか?」

D「やっぱり年の始めは日本酒でしょう。」

E「あたいもそれにしましょうっと。」

A「あいよっ!」

E「それにしても本当に早いわね。もう2千年よ。どんどん年とっちゃう わよ。」

D「でもさ、2000年問題、とりあえず何にもなくてよかったじゃない ですか。」

A「本当ね、良かった良かった。」

E「ちょっと、ちょっと、あたいがさ、どんどん年とっちゃうていう話し してるのに。どういう事よ。」

A「年なんて毎年とるものじゃないの、それより西暦2千年に生きてるっ て事をもっと感激しなきゃ。」

D「そうだよね〜。感激するって言えば、去年はどうだったんですか?芝 居やコンサートは。」

A「そりゃ感激したもの沢山あるわよ。」

E「あたいはさ、ペンギンのホーム・ページで紹介されてた綾戸ね、アヤ ド。今じゃチケット取るの本当に大変みたいなのよ。」

A「本当に大変なの。晦日に六本木のスウィート・ベイジル139でライ ブしたんだけど、そりゃもうすごい勢いでさ、本人もお客も、ノリノリな のよね。あんなに楽しくて素敵なステージはそんなにないわよね。」

D「僕も行きたかったな〜。今度誘って下さいよ。一度でいいから。」

E「あきちゃんたら、暮れの忙しい時に行ってたのね、誰と行ったのかし ら?」

A「それは内緒。でも本当に楽しかったわ。でも、楽しいだけじゃなくて 、とっても感動するステージだったわよ。一つ一つの歌が見えるのよね。 時には可笑しく、時にはシリアスに。彼女にはあの位の大きさがあってる わね。また今年も何度か足を運ぼうかなって思っているのよ。その時にで も一緒に行きましょうよ。」

D「わ〜、約束ですよ、やくそく。」

E「今からそんな約束しちゃって良いのかしら?何時になるかも分らない のにね。」

D「意地悪な事言わないで下さいよ。」

A「ところで、大介は去年何か感動したものってあったの?」

D「僕はですね、<パンドラの鐘>ですね、やっぱ。」

E「観たかったのよ、あんたどっち観たの?」

D「一応、両方とも観ましたけど。」

E「あら、どうして言ってくれなかったのよ。あたいも行きたかったのに 。」

A「そんな事言ったって仕方ないじゃないの。大介にだって一緒に行く人 いるんだから。」

E「あ〜ら、そうなの?結構しっかりしてるのね、見かけによらず。」

A「あんた、そんな事言ってるから誘ってもらえないのよ。」

E「どうせ、あたいはいいのよ。ずっと一人で生きていきます。」

D「えいこさん、すねないで下さいよ。一人で行ったんです、一人で。」

E「あら、そうなの。安心したわ。」

D「今度は一緒に生きましょう。」

A「あら、それこそそんな事言っちゃっていいの?後で困ったって知らな いわよ、まったく。」

E「邪魔しないで頂戴よ。せっかく約束出来たっていうのに。」

A「はいはい。ごめんなさいね。それはいいけど、大介はどうだったの?」

D「僕ははじめにNODA MAP に行ったんですけどテンポが早すぎてあ んまり分らなかったんです。その一週間後に蜷川幸雄の演出するシアター ・コクーンの方に行ったんですけど、こっちの方は台詞もはっきりしてい るし、具体的だったので、僕は蜷川の方が感動しましたね。」

E「本当、観たかったわ。ちょっと、あきちゃんは行ったのかしら?」

A「勿論行ったわよ、両方ともね。」

D「あきちゃんはどっちが良かったですか?」

A「アッシはね、最初に蜷川の方を観たのよ。順序としてはやっぱり蜷川 を先に観た方が良いと思ったのね。」

E「それまたなんで?」

A「さっきも大介が言ってたじゃない。蜷川の演出の方が、絶対に具体的 だし、言葉もはっきりと言わせるだろうなって思ったからね。先にこっち の方を観ておいた方が後でNODA MAPを観てもちゃんと解るなって。」

E「なるほど〜。だけど、同じ戯曲を同じ時期に別の演出家がそれぞれの 選んだ別の役者を使って公演するって、その事自体、面白そうよね。」

D「そうなんですよ。だから2つ観なきゃって。」

E「それで、あきちゃんはどっちが良かったのさ。」

A「勿論、両方とも良かったわよ。とても勉強になったわね。同じ脚本で こうも違うのかって。やっぱり観る側で良かったわよ。アッシなんて到底 出来ないわね、あんな事。」

D「やっぱ、プロなんですよね。当り前だけど。」

A「そうよね。それだけで感激。」

D「でも、どっちかを選ぶとしたらどっちなのかな〜、あきちゃんは。」

A「そうね、自分の好みの舞台は蜷川版だけど、観終わった後の感動は野 田版の方が何百倍もあったわね。何かボーっとしちゃって、観終わった後 に涙が出てきちゃった。」

E「それは大袈裟なんじゃないの?」

D「そんな事ないと思いますよ。僕だって暫くは何か頭をハンマーで打た れた様な、そんな感じだったですからね。」

E「あら、大介。あんたはテンポが早すぎて解らなかったんじゃなかった っけ?」

D「そうなんですけど、解らなくっても感動したんです。」

A「そうよね、アッシいつも思うんだけどね、物事を観たり聴いたりして ね、その事についてちゃんと理解するのも大事な事だとは思うんだけどね 、もっと大切なのは、観たり、聴いたりした後の感動だと思うのよ。だか ら、アッシの場合は観終わった後、聴き終わった後の感動がその作品の自 分の中での評価になるわけね。感動できるって素晴らしいじゃないの。そ う思わない?えいこはさ。」

E「あたいだって勿論そう思うわよ。感動するもの、感動する人に巡り合 いたいわね、今年は。」

D「そうですよね。僕も今年こそ感動できる人に巡りあわなくっちゃ。」

A「そうそう。みんなで何かに巡り合える様にお参りにでも行きましょう 。」

E「そうね、そうね。」

A「感動する何かに今年もたくさん出会えるようにね。」



おわり


*登場人物は全て仮名です。



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#15 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.2
#14 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.1
#13 〃分りやすいって素晴らしい〃の巻
#12 "芸術の秋だよね"の巻 その2
#11 "芸術の秋だよね"の巻 その1
#10 "夢をみようよ"の巻
#9 "暑い時は映画館"の巻
#8 "劇場へ行こう!"の巻
#7 "戦争はおそろしいよね"の巻
#6 "あんたも漫画がすきなのね"の巻
#5 "あんたの涙は.....?"の巻
#4 "安心が一番"の巻
#3 "本当に生はいいんだから"の巻
#2 "小さいことはいいことだ"の巻
#1 アキのニューヨークお芝居観て歩記