#19.小児医療におけるパターナリズムC

 

 子どもの虐待child abuseとは何を指すのか。西澤(1997)は「大人(主に親)が自分自身の欲求の満足のみを求めて子どもと関わるときに発生する行為」と定義しています。つまり、「子どもの濫用abuse」と整理して考えているわけですが、これが児童の専門家の中では比較的広く受け入れられている定義だろうと思われます。ただし具体的にはどのような行為を指すのかについてやや不明瞭でもありますので、そこでここでは子どもの虐待とは何を指すのかについて、国際児童虐待常任委員会ISCCAが提唱している分類を挙げておきましょう。

 1)家庭内の子どもへの不当な取り扱い

  @.身体的虐待
  A.心理的虐待
  B.ネグレクト
  C.性的虐待

 2)施設内の子どもへの不当な取り扱い

 3)家庭外の子どもへの不当な取り扱い

  @.ポルノグラフィや売春
  A.児童労働の搾取

 4)その他

  @.薬物やアルコール依存への誘惑
  A.マスメディアの刺激
  B.その他 子ども向け広告、食品、住宅、遊び場などの問題

 日本における法的な定義としては、2000年5月に出された児童虐待防止法案があります。それは、次のようなものです。

児童虐待とは、保護者がその監護する児童に対し、次に掲げる行為をすることをいう。

1)児童の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること。

2)児童にわいせつな行為をすることまたは、児童をしてわいせつな行為をさせること。

3)児童の心身の正常な発育を妨げるような著しい減食または長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。

4)児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

 これを見るとすぐ判るように、日本においては法的にはISCCAによる定義の1)家庭内の子どもへの不当な取り扱いのみを児童虐待の定義としています。しかし、ISCCAによる定義の2)〜4)も子どもの権利を脅かすという意味で当然定義に含むべきと考えられます。だがここではまずは、日本における定義の範囲内での虐待について考えていくことにしましょう。その上で話題をより大きな範囲に広げていくにしても、その準備として有効なはずだからです。

 


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