#21.小児医療におけるパターナリズムE

 

 虐待が生じる要因、すなわち子どもの受け止めを困難にさせている要因には、様々なものがあります。スコット(1997)によれば、次のように整理できます。

(1)子どもの特徴

  特別な対応を要する、育てにくい子ども、頻繁な金切り声での号泣

(2)状況

 @)社会的なサポート

  子育てに手一杯、助けになるパートナーがいない、
  友人が訪ねてくれない

 A)物質的な状況

  貧しい住宅、負債、失業、殺伐とした地域

 B)価値観

  個人的価値観、サブカルチャー、暴力の容認、
  子どもよりも自分(自分本位・自己中心的)

 C)対応の問題

  疲労感と怒りっぽさ、終わらない口論、
  アルコールあるいは薬物依存

(3)子育ての技能

 @)子どもへの無神経な世話

  必要な認識の欠如、厳しい処罰、誉めることをしない、指導力のなさ

 A)精神病の問題

  抑うつ、人格障害、薬物・アルコール依存

 B)知的に低い親

  様々なハンディキャップ

 C)自分の育った経験

  口汚いあるいは不必要にしつけられた経験、
  被虐待の既往(30%程度)、埋め合わせの経験がない

(4)愛着の弱さ

  望まれない妊娠、早産での出生、早い母子分離、継親

 こうした要因を背景として虐待が生じてくるのですから、虐待に対する危機介入もまた、これらの要因に対する働き掛けであるべきと考えられます。
 ところで、蛇足になるかもしれませんがあえて強調すれば、虐待を引き起こす子どもの特徴についてはこれまでにも様々なものが報告されていますが、こうした子どもの特徴も親がどう認知し、解釈するかという介在因子抜きに結論を下すことはできません。そしてまた、子どもの虐待に関する限り、子どもの側には決定権がなく、親が全権を握っているということ、子どもはそこから逃げることができないのだということは、決して忘れてはならないでしょう。いかなる子どもであっても虐待を受けて当然だということには決してなりはしない。この原則は、忘れてはならないものです。だが、これらの特徴も含めて、子どもの受け入れを困難にする要因一つ一つを考え抜く必要は、確かにあるのだと思います。そうした理解が親に対する具体的なアプローチにも反映すると考えられるからです。

 さて、このリストを本来であれば丁寧に一つ一つ見ておきたいところですが、そのスペースもありませんから、このリストの中で特に強調しておきたい一点だけ考えておきたいと思います。
 それは(3)のC)自分の育った経験についてです。よく、虐待されて育った子どもは、将来も自分の子どもを虐待すると言われます。調査によれば、このように断言することはできないものの、確かに虐待されて育った親は自分の子どもに対しても虐待する確率が高く、世代間伝達の頻度はおおよそ30%と言われています。これは虐待体験を持たない親による虐待の発生率の5倍にあたる数字です。なぜこうした世代間伝達が行われるのか、どうすればこの鎖を切ることができるのかについて考えることは、虐待に対して介入する際に絶対に必要なことと考えられます。
 そのために、渡辺(1995)が分析・記載した母性の発達、そして母親になるプロセスに目を向けておくことにしましょう。

 


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