<至福の時ってどんな時>の巻

サトル(以下S)「あきちゃん、まだなの?もう9時だよ!」

あき(以下A)「ゴメン、ゴメン。今すぐ開けるからね。」

よち子(以下Y)「あら?サトル、今日は9時からよ。何か用があっ たんじゃないの。」

S「あっ、そうなんだ。」

A「お待たせ!ゴメンネ。ちょっと遅れちゃったね。さあ、さあどうぞ。 いらっしゃいませ。おしぼりね。」

S「何かあったんですか?最近なかったですよね、9時オープンなんて。」

A「そうなのよ。今日はね、トニー・ベネットを聴きにサントリー・ホー ルまで行ってきたのよ。」

Y「そうなんだ。トニー・ベネットね。もう随分な歳よね。まだ唄ってる のね。まあ、その話しは後にして、アタシはビールにしようかな。」

S「じゃあ、僕は.....ソーダ割りで。」

A「あいよっ!.......あらミキちゃん(以下M)いらっしゃい。」

M「遅かったじゃん、9時だったんだっけ?」

S「あきさんトニー・ベネット行ってたんだって。」

M「あ〜、それで。じゃあ俺は雰囲気だけでもって事で、赤ワインあった よね。」

A「あるわよ、ウンドラーガ。まあまあのワインよ。ハイ、どうぞ。」

Y「それでどうだったの?唄えたのかしらん?」

A「何言ってんのよ。まだまだ現役。とても74歳だなんて思えない程の 歌声だったわよ。」

S「へ〜。そんなにいっているんだ。」

M「そうだろうね、この前新譜出たじゃん。俺も聴いたけどまだまだ現役 って感じだったよ。」

Y「ミキちゃん、似合わないもの聴くのね。ビックリだわよ。」

M「そうだろ。俺ってさ以外と以外なんだよな。でもさ、サントリー・ホ ールだろ、珍しいんじゃないの?ポピュラー歌手が出るなんて。」

A「そうなのよ。アッシも前売の広告を見てビックリ。サントリー・ホー ルでしょ。今まではブルー・ノートとか厚生年金ホールとかだったのにね 。」

Y「一生に一度は演ってみたかったのよ。彼、きっと至福の時を味わった 事だわよね。」

A「そうね、ホールの事、何度も素晴らしいって言ってたわよ。でも、至 福の時を感じたのは彼だけじゃなかったの。アッシ等、今日聴きに行った 人達みんなが感じたんじゃないかと思うほどとっても素敵なコンサートだ ったのよね。」

S「良いですよね、そんな時を経験できて。僕も何か経験したいですよ。」

Y「いろいろ試さないとダメよ。サトルはまだ<連れて行って派>のお子 チャマだからね。アタシでも良けりゃ今度これにでも行く?」

M「うまい誘い方だな。見習おっと。」

Y「からかわないでよ。どう?NODA・ MAPの<カノン>。チ ケットあるのよ。誰かと行きたいななんて思ってさ、2枚死ぬ思いで取っ たんだけど、まだ相手が見つからないのよね、チケット代いいからさ、行 かない?」

S「いいんですか?僕なんかで。」

M「サトル、騙されんなよ。何もない様にチケット代払っておいた方が良 いんじゃないか?」

Y「あら、余計な事言わないでよ。何もするわけないじゃない。第一、サ トルって、アタシのタイプじゃないから。」

A「まあ、良いじゃないの。せっかく誘ってくれたんだから行ってくれば 。チケットなかなか取れないのよ。」

S「そうですよね。じゃあ、お願いします。」

M「気を付けろよ、本当に。」

Y「そんじゃミキちゃんが何かに誘ってあげれば良いじゃないのよ。」

A「まあ、まあ。ミキはいるのよ、もう誰か誘ってるのよね。」

M「まあな。NODA・MAPじゃないけどさ。あきちゃんは何か行 くんだっけ?4月は。」

A「4月は多いのよ。トニーの時の様に観終わってから〃あ〜良かった〃 って思えるものばらりだったら良いんだけどね。」

S「あきさん、何かお薦めありますか?」

A「4月はね、何と言っても劇団第七病棟の<雨の塔>ね。」

S「第七病棟?変な名前ですね。前衛か何かですか?」

M「懐かしいな、まだ演ってたんだ。5〜6年ぶりだろ、俺も行きたいな 。まだチケットあるだろか?」

A「残念ながらチョット難しいかもね。優先予約の時点で定員の3倍近く の応募があったっていうからね。あとは当日券よね。」

M「そうか。当日券ね、でも見逃したら一生後悔しそうだし。当日券でも 頑張って行ってみるかな。」

Y「何二人で盛り上がってるのよ。何なの?第七病棟って。」

S「そうですよ。教えてくださいよ。」

A「ほら、TVでよく悪役してるじゃない、石橋連司って言う人。知 らない?」

S「あ〜、頭の毛モジャモジャのね。」

M「そうそう、あきちゃんと同じで最近はチョット薄くなったけどね。」

A「余計なお世話だわよ。でね、彼と彼の奥さんの緑魔子が作っている劇 団なんだけど、4〜5年に一度しか演らないのよ、芝居。」

Y「緑魔子と石橋連司。懐かしいわね。昔よく映画で観たわ。彼らって夫 婦だったんだ。で、劇団作ってたのね。素敵だわ〜、夫婦で。ニヒルな石 橋と小悪魔的な緑魔子。何かアンバランスな感じするけどそんなに人気あ るんだ。ま〜驚きってとこね〜。」

A「それが石橋連司って舞台に出るとカッコ良いのよね。」

M「だからバランス良いんだよ、とっても。」

A「そうなの。何時も涙が出てね。ジ〜ンとくるのよ。今回も唐十郎の作 品なんだけどね、唐さんも〃とてもセンチメンタルな作品〃だって言って るしね。今から期待してるのよね。」

Y「あら、それだったらアタシも行こうかしら。どうサトル、行かない?」

S「エッ? そんなに誘ってもらったら悪いですよ。それに......。」

M「怖いもんね。その後がさ。」

Y「失礼ね。アタシ、こう見えても実は淑女なのよ。だから安心してよ。 大丈夫だから。」

S「はい......、でも.....。」

A「まあ、後でゆっくり考えてからでいいじゃない。」

M「そうそう。ホント、ゆっくり考えなきゃダメだぞ。オネエさんは怖い からね。」

Y「だから....。いい加減にしてよ。ただ誘ってるだけなんだから 。まあ、後でいいわ。返事頂戴ね。」

S「は〜い。それより、チケットの心配ないもの、何かありますかね。」

A「それだったら美術館に行ってみたら?アッシのお薦めするのは<ホノ ルル美術館展>ね。」

S「ホノルル美術館?ハワイにそんな所あるんですか?知らなかったな。」

Y「アタシも知らなかったわよ。何度も行っているのに。本当にあるの?」

A「そうなのよね。みんな知らないのよ。アッシはハワイに行ったら必ず 寄るの。少しワイキキから離れているんだけど観光客も少ないし近くにと ても大きな公園はあるし。穴場的な存在だと思うわ。」

S「で、どんな物が展示されるんですかね。」

A「ゴーギャンやモネ、モディリアニ。それにゴッホやピカソそれから......」

S「そんなにいろいろ?」

A「そうなの。元々は個人のコレクションから始まった美術館だからね、 いろいろな物が集まっているのよ。」

Y「あら、良さそうね、どう、サトル。一緒に行くかしら?」

M「あらあら、またですか?」

Y「五月蝿いわね。いいじゃないのよ。鉄砲も数打ちゃ当たるって言うで しょ。ほっといて頂戴。」

M「それも良いけど、他に芝居でお薦めは?」

A「そうね、JIS企画の<月ノ光>なんかどうかしら。」

M「竹内銃一郎と佐野史郎のやつかな?」

A「そうそう。5〜6年前の作品の再演なんだけどミキちゃんはその時観 てるのかしら?」

M「観たかったんだけどね。時間が無くてさ、見逃しちゃったんだよな。」

A「それだったら良いんじゃない?初演はね、紀伊国屋演劇賞や読売文学 賞なんか取ってたと思うのよ。今回は岡本健一や藤谷美紀も出るらしいわ よ。」

M「へ〜、良いかもね。他には?」

A「大事な事忘れてたわ。ジャンジャン。この4月で閉館になるのよ。」

Y「え〜!本当?それ。アタシの青春だったのよ、ジャンジャン。いろい ろ観たわ。実験的な芝居やコンサート。今でも頭に甦るわね。遠〜いあの 頃。」

S「よち子さん、随分想い出がありそうですね。」

Y「そうよ。だからアタシの青春。中村伸郎の<授業>、雪村いづみや弘 田三枝子のミニ・ライブ。高橋竹山の津軽三味線、松岡計子のビートルズ 。良かったわね〜、あの頃。」

M「へ〜。よち子さんにもそんな時代があったんですか?ビックリしたな 、モ〜ウ。」

A「あら、ふる〜〜い。」

S「それで何やるんです?最期の公演は。」

A「流山児★事務所の<血は立ったまま眠っている>なの。」

Y「それ、寺山修司のよね。アタシ昔観に行ってるわ。確か劇団四季が公 演したのよね。」

S「四季ですか?だって寺山修司って言えばアングラじゃないですか。そ れを四季が?」

Y「そうよね、あきちゃん。」

A「そうよ。よち子さんて、昔本当によく観てたのね。サトルね、寺山っ て人はアングラだけじゃなくて歴とした文学人なのよね、元々は短歌から 始まった人なのよ。この<血は立ったまま眠っている>って言う戯曲もね 、彼のほんの短い詩から発想されてるの。だから四季が公演したって何の 不思議はない訳よ。」

S「なるほどね。よち子さん、連れてって下さいよ、ジャンジャン。何か よち子さんと行きたくなっちゃいました。良いですか?連れてってもらっ て。」

Y「勿論よ。アタシもジャンジャンにお別れしたいし。サトル、行きまし ょ、一緒に。」

M「良かったじゃン、サトル。よち子さんてさ、結構良い人なんだよ。」

Y「いいわよミキちゃん、いまさらお世辞なんて。」

A「良かったじゃない。良いものを観たり聴いたりして、みんなも<至福 の時>を味わいましょうよ。」

Y「そうよね。で、サトル、その後も至福の時とする?ね〜、どうする?」

S「やっぱり、遠慮しとこうかな。」

Y「冗談よ、冗談。安心してよね。なんたって淑女なんですからね。」

M「結果報告を怠らない事。いいな、サトル。危なかったらすぐ逃げてく るんだよ。」

S「大丈夫です。逃げ足だけは自信がありあすから。」

Y「ヤダ、この子ったら。」

一同「ワハッハッハッハ.......」



おわり
今回紹介した芝居等
1)NODA・MAP<カノン>
       4/1〜5/14
        シアター・コクーン

2)劇団第七病棟<雨の塔>
       5/12〜6/4
       水天宮・箱崎旧ガラス倉庫
      *緑魔子骨折の為、日程が変更されました。

3)ホノルル美術館展
       4/1〜5/12
        東武美術館

4)JIS企画<月ノ光>
       4/6〜16
        本多劇場

5)流山児★事務所
       <血は立ったまま眠っている>
       4/22〜25
        ジャンジャン



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#19 "あなたは誰に?"の巻
#18 "これからはアジアの時代かな?"の巻
#17 "待ち人来らず"の巻
#16 "感動するって素晴らしい"の巻
#15 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.2
#14 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.1
#13 "分りやすいって素晴らしい"の巻
#12 "芸術の秋だよね"の巻 その2
#11 "芸術の秋だよね"の巻 その1
#10 "夢をみようよ"の巻
#9 "暑い時は映画館"の巻
#8 "劇場へ行こう!"の巻
#7 "戦争はおそろしいよね"の巻
#6 "あんたも漫画がすきなのね"の巻
#5 "あんたの涙は.....?"の巻
#4 "安心が一番"の巻
#3 "本当に生はいいんだから"の巻
#2 "小さいことはいいことだ"の巻
#1 アキのニューヨークお芝居観て歩記