地中海英雄伝説2


 数百年の歳月を数え、幾たびもの苦難を乗り越え銀河ローマ帝国は生き残ってきた。星々の深淵に溶け込んでいく星間国家の数多い中で、だがローマはしぶとく逞しく生き延びてなお版図を拡大すらしていたのだ。それは彼等の強さに起因している筈であったが、より以上に彼等が常に純粋なローマの人では無かった事にもその一因があったかもしれない。ローマは敗国を吸収し、吸収された者はその文化までも含めて広大なローマ帝国の一部と化していた。かつて大エトルリア帝国を滅ぼし、やがてカルタゴ宇宙連邦を征服し、更にギリシア星間公国を傘下に治め、それら全ての人々と文化とを貪欲に吸収してローマは巨大になったのである。
 だが版図拡大の要因となったこれらの措置は、国家の肥大化と価値観の多様化という危険な兄弟と姻戚関係を結ぶということにも他ならなかった。外来の影響によって文化は惰弱になり、奴隷階級の流入が大量の無産化階級を産み出し、娯楽と芸術が活性化、やがて民衆は重厚な歴史や道徳よりも軽薄な色事や風刺を好むようになっていく。建国から時を経て既に純粋なローマの家系など少なく、名家も絶えて久しかった。

 このような状況の中で、第二次ポエニ戦争終結後百年以上を過ぎた宇宙歴前110年頃には巨大な帝国を閉塞感の雲が覆うようになり、それは民衆が新たな英雄を望む母体となった。ヌミディア星系ユグルタ王の叛乱を鎮定したガイウス・マリウス、最初はその副官として活躍し、やがてギリシア星系を始め各地の内乱を平定したスラ、そして平民派の首領としてローマ元老院を打倒したユリウス・カエサル。彼等は全て軍人の出であって内乱鎮定や外征に大きな功績を立て、その実績を持って執政となり、ローマを統治した者たちである。
 実のところ帝国と称しながらローマには皇帝の「家系」は存在しない。ローマは名家の貴族の集まりである元老院の中から第一人者とされる者が執政として広大な帝国を治めるいわば「貴族帝政」であったが、ユリウス・カエサルは始めてその元老院ではなく平民に担がれて至尊の地位についた人物であったのだ。もっとも、カエサル自身は貧乏貴族ながらも元老院議員になれる身分の人間ではあったのだが。


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 時に宇宙歴前48年。強力な軍人でありかつ有能な統治者でもあるユリウス・カエサルの手によってローマは各地の内乱と外来の海賊や他国の脅威から身を守る事ができていた。兵士と民衆は彼等の指導者を「禿の女たらし」と呼んで讃え、カエサルもその評価を笑顔で受け入れて自らの旗艦にモエクス・カルウスの名を冠した。そしてこのような彼の軍隊が戦場で負ける訳がなかったのである。


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