<ロマンチストは誰?>の巻

タテオ(以下T)「それじゃ、あきちゃんもう1杯おねがいします。」

あき(以下A)「あいよっ!同じので良いかしら?ブランデーの水割。」

T「はい、水割でね。それはそうと聞いて下さいよ。あきちゃん。」

A「何よ、何か良いことでもあったのかしらん?」

T「そうじゃないんです。だってさ〜、ぐじゅぐじゅぐじゅ。」

A「何なの?じれったいわね。」

ひかる(以下H)「またゴローちゃんに何か言われたんじゃ......。」

ゴロー(以下G)「何も言ってなんかないですよ〜っと。」

H「あれれ、もうゴローちゃんたら良い気持になっちゃって。」

T「そうなんだよね。何時も酔っ払っちゃった時にしか言わないだからね 〜、ぐじゅぐじゅぐじゅ.....。」

G「僕ちゃん、そんな事ないですよ〜っと。たださ、タテオさんがさっ、 ちっともロマンチックじゃないからさっ。」

H「あ〜あ、オノロケじゃない。家にでも帰ってからすればいいのにね。」

A「本当よ。早く帰ったら?」

T「イヤー、それでさ、何かない?ロマンチックになる方法がさ。僕とし ては教えてほしい訳なんですよ。」

G「僕ちゃん、ロマンチックなひとときって過ごしてみたいんですー、ス ー、スー、スー......。」

A「あらら、ゴローちゃんたら随分飲んだみたいよね。」

T「そうなんですよ。だからさっ、ゴローが寝てる間にこっそり教えて、 どんな事したら良いか。」

H「そんなの簡単じゃん。部屋で音楽聴いたりさ、映画見たり、芝居見物 も良いんじゃないの?」

A「そうよ。簡単じゃない。」

T「それがね、出来れば苦労なんかしませんよ。何が、どうロマンチック なのか。また、どうすればロマンチックになれるのか、それが解ればね〜 。」

H「タテオ君さ、映画とか芝居とか見に行った事あるんでしょ?」

T「それあありますね、勿論。ゴローとも何回か行ったんですけど。」

A「いったい何行ったの?」

T「映画はねもう去年なんですけどね、<ブレアウィッチプロジェクト> を見たんですよ。芝居はつい1か月程前にあきちゃんが観に行くって言っ てた<ロベルト・ズッコ>に行ったんですけどね。」

A「ダメだわ、こりゃ。」

H「その後、食事したとか、お茶飲みに行ったとかしなかったの?」

T「僕の行きつけのロックパブに行って、お酒を飲んでですね、それで帰 って××ってところですかね〜。」

A「タテオ、選ぶ物が悪いんじゃないの?やっぱりもっとゴローの事も考 えてあげなきゃ。別に悪い訳じゃないんだけどさ、ちょっと見る物が違っ たんじゃない?それに、アンタの行きつけのロックパブってあそこでしょ ?音楽ガンガンの。人の話しも聞けやしない所よね。」

H「え〜、そんな所に行くんだ。それじゃゴローちゃんロマンチックにな れないよね〜。酔っ払うとわかるじゃん、ゴローちゃんてさ、甘えたいん だからさ、もっと。」

T「だからね、何かないですかね〜。」

A「これから何か計画はないのかしら?」

T「一応、第七病棟は取っているんですけどね。これ、始めてなんですけ ど大丈夫ですかね〜。必死の思いで取ったんですけど、また失敗しちゃう んじゃないかと少し心配なんですよ〜。」

H「あれ〜、もう終わっちゃったんじゃないの?4月だったでしょ、あれ 。」

T「えっ?!!!ウッソー。」

A「大丈夫よ。第七病棟の<雨の塔>はね、主演の緑魔子がケガしてね、 1か月延びたのよ。それに第七病棟だったら良いわよきっと。」

T「あきちゃんはもう行ったんですか?」

A「昨日ね。」

H「それでどうだった?」

A「まだタテオ観てないんだから言えないじゃないの。」

T「良いんですよ。参考にもなるしね、今度はロマンチックな気持にして あげなきゃね。」

H「それでどうなのさ。」

A「脚本が唐十郎だからね、ロマンチックなのよ、元々。それに李礼仙( 現:李麗仙)がいなくなってからというもの主人公を失っちゃっていまい ちだったじゃない。だから、第七病棟に書いた芝居なんだけど、状況劇場 の香りがどことなく感じられる舞台になってるわね。」

H「状況劇場の香りね。って言う事は李が緑魔子だとすると、唐は石橋蓮 司なわけだ。」

A「そういう事になるわね。ずっとそうでしょ、ここの劇団は。もう25 年もやっているのに今回でまだ10回目。そのうち7つを唐が書いている のよね。正確に言うと再演が1回あるから、9作の内の7作って事になる わね。」

H「物語は?」

A「スーパーに勤めている中年の女、五月と竹竿売りの男、雨屋の物語。 高田馬場にあった、今は燃えて無くなっちゃったけど、鳩屋敷の事件をか らめて描く、とてもロマンチックな作品だわね。」

T「で、あきちゃんは良かった?」

A「アッシね、元々アングラが好きじゃない。まあ、今の時代のアングラ とは違うとおもうけどさ。70年代の寺山、唐、つか、って、やたらと観 に行ったもんね。寺山やつかの劇団で音楽作ってた大津あきらや、主役演 ってた三浦洋一はもうこの世にはいないけど、まだ彼らの芝居は生き続け ているのよね。つかは少し変ったけど、唐は全然変ってない。そこが良い 所でもあり、今では古い所でもあるのよ。」

T「って言う事は、チョット古くて今の時代には合わないって言う事なん ですかね〜。」

A「そういう所もなきにしもあらずね。でもね、やっぱり最後はジ〜ンと きちゃうのよね。これはアッシがノスタルジックになっているって言うの ではなくて、今の人達にも十分に伝える何かがあるって事なのよ。まあ、 ロマンチストのアッシが言っているんだから。」

H「え〜?あきちゃんってロマンチストだったんだ。涙のかけらもない冷 徹なオンナだと思っていたのに。」

A「あら失礼ね。結構ロマンチストなのよ。だから心の中の<兄さん>を 求めている五月と、五月と言う名前の中に何かを求めてしまった雨屋の関 係を知った時にジ〜ンときちゃったのね。」

T「もっと具体的に聞きたいんですけどね、後は観てから僕とゴローがど う感じるかですね。」

H「ゴローちゃんて甘えん坊だけど、とっても良い子じゃん。芝居を観終 わってもちゃんとロマンチックになる様に演出してあげなきゃね。」

A「大丈夫よ。こんな事考えてるんだもん。タテオこそロマンチストかも ね。」

H「じゃあ、俺はどうなるの?俺だけがロマンチストじゃなないわけ?俺 だってさ、.....。」

A「誰もそんな事言ってないじゃないの。ひかるもロマンチストなのよね 、きっと。」

H「じゃあ、帰ってロマンチックな音楽でも聞いて寝る事にしようかな。」

G「あ〜あ。良い気持だった。ゴメンネ、あきちゃん。ちょっと酔っ払っ ちゃったみたいで。」

T「やっと起きたか。さあ、僕らも明日があるから家に帰ろうか?」

G「もうこんな時間か。そうですね。早く帰らないと。あきちゃん、チェ ックしてください。タテオさんも早くチェックしてもらって。早く、早く 〜。」

A「ハイハイ。それじゃまたね。お休み。ありがとね!」

H「以外にゴローちゃんてロマンチストじゃないかもね。」

A「そうね。ただの甘えん坊、って事。」

H「まあ、いいか。人の幸せより自分の幸せだ。俺も帰るわ。」

A「あいよっ!ありがとうございました。気を付けて。ありがとう!」


おわり

*登場人物は全て仮名です。

*第七病棟の<雨の塔>は6月4日まで水天宮、箱崎のTCATすぐの 旧倉庫で行なわれています。



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#21 "涙でサ・ヨ・ナ・ラ"の巻
#20 "至福の時ってどんな時"の巻
#19 "あなたは誰に?"の巻
#18 "これからはアジアの時代かな?"の巻
#17 "待ち人来らず"の巻
#16 "感動するって素晴らしい"の巻
#15 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.2
#14 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.1
#13 "分りやすいって素晴らしい"の巻
#12 "芸術の秋だよね"の巻 その2
#11 "芸術の秋だよね"の巻 その1
#10 "夢をみようよ"の巻
#9 "暑い時は映画館"の巻
#8 "劇場へ行こう!"の巻
#7 "戦争はおそろしいよね"の巻
#6 "あんたも漫画がすきなのね"の巻
#5 "あんたの涙は.....?"の巻
#4 "安心が一番"の巻
#3 "本当に生はいいんだから"の巻
#2 "小さいことはいいことだ"の巻
#1 アキのニューヨークお芝居観て歩記