<自戒の念を込めました>の巻

あき(以下A)「いらっしゃい。あら、遅いじゃないサンちゃん。 何かあったの?」

サンちゃん(以下S)「今日<オケピ!>に行ってきたんですよ。 そしたらこんな時間になっちゃって。」

たー子「なに?オケピだと。何処のオケピに行ってきたんだよ。東京文化 会館か?それとも国立第二劇場か?まさかお前、サントリーホールじゃな いだろうな?」

のり(以下N)「何言ってるのよ。サントリーホールにオケピはない わよ。ったく酔っ払っちゃって。」

S「三谷幸喜の芝居ですよ、<オケピ!>って。」

A「それで。でも、随分遅いじゃない。もう11時半よ。」

S「そうなんですよ。だってね、終わったのが10時半なんです。始まっ たのが7時でしょ。3時間半もかかったんですよ。」

N「まあ、よ〜くそんな長い時間観てられたわね。アタシはとっても耐え られないわね。」

A「面白かったもんね。耐えられるわよ。」

S「じゃあ、あきさんも観に行ったんですか?」

A「うん、この前の月曜日。まあ、プレヴューだったけど。」

T「何?レヴューだと。宝塚か、OSKか、それともSKDだった りして。懐かしい、実に懐かしい。最近観てないのよ、レヴュー。それで 、どうだったの?あきちゃん。どこのレヴューだったんだっけ?」

N「レヴューじゃなくて、プレヴューよ。ったく、酔っ払い!!」

T「プレヴュー?何だそれ?」

A「まあ、正式のオープン前に観せるものよ。大体手直しのためとかだけ どね。今回のは多分違うでしょう、きっと。」

S「何でそんなの判るんですか?」

A「あら、サンちゃん、プログラム見なかったの?あそこにね、公演日程 が書いてあるじゃない。あれよ。東京公演の日付、良く見てごらん。6月 1日からになってるでしょう。」

S「あ〜、本当だ。確か6日からだったでしょ。それで、1日〜5日まで がプレヴューって事で後から発売したんですよね。」

A「そうよ。だからね、今回のは本当のプレヴューじゃなくて、予め予定 に入っていた行動だと思うんだけど。まあ、いわば追加公演の形をとるん じゃなくて、それを前に持ってきて外国の公演の様にしたかったんじゃな いのかしらん。」

N「そうかもね。まあ良いんじゃなくて、雰囲気だけでもブロードウェイ ってのも。」

T「なに、ブロードウェイだと?俺んちの近くのブロードウェイか。良い ところだぞ、あそこは。何でもそろうし、しかも安い。お薦めお薦め、ブ ロードウェイ。クウィッ。」

A「馬鹿な事言ってないで寝てなさい!ンも〜。」

N「それで本題に戻すと、どうだったのさ、<オケピ!>は。」

S「ものすごく感動しちゃいましたよ。やっぱり凄いですよね、三谷幸喜 って。あっと言う間の3時間半。ね、あきちゃん良かったよね。」

A「まあ、面白かったわね。」

S「何か喉に物がつまった言い方ですね〜。気に入らなかったんですか?」

A「そんな事もないけど。面白かったけど、ミュージカルとしてはどうか な?って思っただけなの。」

N「それ、どういう事なのよ。」

A「まず、致命的に思ったのは音楽が良くなかった、って事。服部隆之の 音楽は編曲は良いけどソロの部分の音楽がね。たとえば、サンちゃん、記 憶に残ってるメロディーある?」

S「たくさん良い曲あったじゃないですか。たとえば<オケピ!>(タイ トル曲で3回ほど出てきます)、それに布施明さんの曲とか、戸田恵子さ んの歌った<サバの缶詰>とか、いろいろ。」

A「じゃあ、サンちゃん、メロディー口ずさめる?」

S「え〜と。そう言われると......。」

A「ねっ、そうでしょう。印象に残る曲が少なかったのね。アッシが印象 に残っているのは川平慈英の歌った<ポジティブ・シンキング・マン>位 ね。バラッドも良いなって思わせといてガクッとなっちゃう。」

N「それは致命的だわ。アタシも中旬に観に行くんだけど、その辺りちゃ んと観てこなくちゃね。」

A「それに、舞台が始まってコンダクター役の真田広之が登場するんだけ ど、その台詞が長いのよ。」

S「僕はそこで<オケピ>の説明をしてくれたんで助かりましたけどね。」

A「でも、25分間台詞のみ。音楽はなし。やっぱり、その台詞に音楽を つけてコンダクターに歌わせなきゃ。本当にミュージカルなのかなって、 ?マークがついちゃったわね。」

N「そう言えば、アタシも前に美輪さんのリサイタルで美輪さんが登場し てから25分間お喋りだけでちょっと参っちゃった事があったわ。そんな 感じかしら?」

A「そうじゃないんだけど、もっとスタッフが考えなきゃ。あの台詞を音 楽に乗せてこそミュージカルじゃないかしら?」

S「そうですかね? でも実に面白かったじゃないですか?僕なんか 笑いっぱなしで。」

A「本当に面白かったわよ。だからつまらないなんて言ってないじゃない 。」

S「それに舞台の美術も良かったでしょ。オケピの上に舞台があるの。あ たりまえなんだけどさ。」

A「あの美術は良かったわね。」

N「それは良いアイディアね。」

A「だから演出にクレームがあるのよね。」

S「えっ!良かったじゃないですか。本当に、上の舞台でミュージカルを やってるっていう設定で。足だけがでてきちゃって。笑えますよ。」

A「そこまでしたんだから本当に舞台をやっている様に、す〜と足だけで も出演させてた方が良かったんじゃないかなって。」

S「そう言われればそうですね。あんなに人が出てこない舞台もないだろ うし、第一、あれしか出てこないんだったら何演ってるのか分らないです よね。」

A「そうなの。コンダクターが<つまらないミュージカルを上演している >って言う台詞があるんだけど、いくらつまらなくたってあれしか音楽の 無い、あれしか登場人物のいないミュージカルって、聞いたことも観た事 もないしね。」

N「わざととは考えられないの?」

A「わざとかな?って考えてもみたんだけど、それだったら最初から上の 舞台を作らなかった方が良かったって思うのよね。」

N「なるほどね。まあ、それはそうと、役者の方達はどうだったのかしら ?」

S「みんな素敵だったな〜。良かったですよね、あきちゃん。」

A「そうね、みんな魅力のある人ばかりで。ただ気になったのは殆んどの 人がミュージカルっぽくないのよね。それが狙いなのかもしれないんだけ ど、川平慈英だけが、飛び抜けてミュージカル演ってる。だから目立っち ゃうし、言葉を変えたら目障りになっちゃう。あんまりミュージカルに縁 の無い人は、<誰?あの邪魔な人>みたいな印象だけが残っちゃうと思う のね。」

S「僕もそうだな。一人だけ踊って歌って。騒いでる様にしか見えなかっ たけど。」

N「アタシはまだ観てないから何も言えないけど、彼はすごく実力もある し、ミュージカルにはピッタリだと思うけどね〜。」

A「チョット浮いちゃってたわね。可愛そうな位。まあ、キャラクター設 定としては良いかもしれないけど。」

N「その他の人達は?」

S「僕はやっぱり松たか子が良かったです。歌もうまいしね。」

A「松たか子はまあまあの及第点どまり。アッシは真田広之と布施明、戸 田恵子らがミュージカルとしてみるとやっぱりうまい。ただ、その人の実 力を発揮出来ない役柄の人もいたからね。」

N「あら、この子、<レミゼ(ミュージカルのレ・ミゼラブル)>に出て た子役の子よね。」

A「そうよ、山本耕史ね。あの頃に比べると歌が進歩してない感じがした けど。結構重要な役で出ているのよ。」

S「僕が初めてミュージカルを観たのが小学生の時で、西新宿でやってた <キャッツ>なんですけど、その時に長老猫を演ってた北川潤さんも出て いたんで嬉しかったな。」

A「彼にはもっと歌ってもらいたかったわね。」

N「伊原剛志はどうだったのかしら?」

A「かっこ良かったけど、歌がちょっとね。自由劇場にいた小日向文世は 役にあってたわね。」

S「ああ、兎の人ですね。笑っちゃいました。」

A「あとの人達も芸達者だったわよ。本当に面白い事は面白かったわ。」

S「終わった後のスタンディング・オベーション、凄かったですよね。」

N「え〜!そんなに凄かったの?」

A「アッシはこの人達、本当に芝居観てたのかしら?って思っちゃったけ ど。本(脚本)としては良いけど、ミュージカルとしてはブーイングかな ?」

N「彼らはきっと三谷さんのファンなのよ。彼が書いたもののファン。彼 が書く芝居だったらどんな物にもスタンディング・オベーションするんじ ゃないの?」

A「だからファンは怖いって思うのね。そういう事が作品を育てないって 事に繋がるのに。残念だわ。」

S「ファン心理って言うか、僕は解るんですけど。」

A「勿論、アッシだってそういう様に自分がファンである人には甘いけど 、第三者の眼で見る事が出来ないと本当の面白みは解らないと思うんだけ ど。」

N「あら、あんた、そんな事言っててもこの前、誰の時だっけ。え〜と、 そうそうマット・デイモンの出てたあの映画。つまんないって言ってても <あたしのマット様が出てればそれで良いの>って言ってたわよね。」

A「あら、そうだったかしら?まあ、いいじゃない。」

S「あきちゃんもやっぱり普通の人なんだね。ファンには甘いんだ。」

A「だから、第三者的な立場で物事を見なきゃって、自戒の念も込めて言 ったのよ。」

T「中野ブロードウェイは安くて何でもそろうよ......ウウィッ」

N「やだ酔っ払ってると思ったら、たーこったら、今度は寝言かしら。」

A「まあ、もう少し寝させてあげましょう。まだ終電にはちょっとあるし ね。」

S「じゃあ、僕帰ります。」

A「あいよっ!ありがとう。」

N「アタシはもうちょっといるわ。じゃあ、サンちゃん、おやすみ。」

S「おやすみなさ〜い。」


おわり


*登場人物は全て仮名です。

なお、<オケピ!>は7月9日まで、青山劇場で、7月14日〜30日ま で大阪の厚生年金会館芸術ホールで上演されます。



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#22 "ロマンチストは誰?"の巻
#21 "涙でサ・ヨ・ナ・ラ"の巻
#20 "至福の時ってどんな時"の巻
#19 "あなたは誰に?"の巻
#18 "これからはアジアの時代かな?"の巻
#17 "待ち人来らず"の巻
#16 "感動するって素晴らしい"の巻
#15 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.2
#14 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.1
#13 "分りやすいって素晴らしい"の巻
#12 "芸術の秋だよね"の巻 その2
#11 "芸術の秋だよね"の巻 その1
#10 "夢をみようよ"の巻
#9 "暑い時は映画館"の巻
#8 "劇場へ行こう!"の巻
#7 "戦争はおそろしいよね"の巻
#6 "あんたも漫画がすきなのね"の巻
#5 "あんたの涙は.....?"の巻
#4 "安心が一番"の巻
#3 "本当に生はいいんだから"の巻
#2 "小さいことはいいことだ"の巻
#1 アキのニューヨークお芝居観て歩記