![]() |
<農業は不滅です>の巻 |
シュウ(以下S)「俺もそろそろ田舎へ帰ろうかな〜。」 タケちゃん(以下T)「え〜?!何言ってるんですか、シュウさん。」 あき(以下A)「そうよね〜、いきなり。まあ、東京には人も多いし 、東京生まれのアッシにしたら、東京がイヤだったら、とっとと出てけば いいのよ、って思っちゃうけど、でも、良く考えなさいよ。いきなり何で そんな風に考えちゃったのよ。」 S「イヤ〜。これと言って理由はないんだけどさ、この前ね、野田地図の 番外公演<農業少女>を観てきたらさ、なんとなく田舎も捨てられないな 、なんて思っちゃって。」 T「いいな〜。観に行けたんですね、<農業少女>。僕も行きたかったん ですけど、今回は小さなホールじゃないですか。何時もチケット取りにく いのに、それにも増して取りにくかったんですよね。」 A「あら、大阪はまだ余っていて当日券もあるって話しだけど。」 T「だけど、大阪までは行ってられませんよ。だからって言うのもどうか と思うんですけど、話して下さいよ、シュウさんが田舎に帰りたい気持に なっちゃった、そんな芝居の話し。」 S「ああ、いいよ。あきちゃんも観に行ったんだろ?」 A「もち、行きましたとも。この番外公演、今回で4作目なんだけど、今 回のは、前の作品に比べると印象がアッシにとってはチョット薄かったの よね。勿論、作品自体が悪いって言うんじゃないんだけど、特に、2作前 の<赤鬼>みたいな作品があると、その後の作品はちょっと辛い。そう思 っちゃうのよ。」 T「あ〜、<赤鬼>ね。僕が野田さんの芝居を観るようになった原因が、 その<赤鬼>なんですよ。何だか頭を打ち割られた様な衝撃でしたね。」 S「俺もそう感じたな。あきちゃんも言ってたよね、<暫く席を立てなか った>って。」 A「そうね、本当に凄かった。アッシはね、最後の台詞まで、そんなに凄 いとは思っていなかったのよ、実は。でもさ、最後に野田さんが言った台 詞、あれにヤラレタわよ、あれにね。」 S「<とんび>っていう役だったよな、野田の演ったやつって。」 T「良く覚えてますね、凄いなシュウさん。」 S「まあね、でも、台詞まではあまり覚えてないな〜。」 A「最後の台詞はね、本当に最後の最後、その、誰だっけ?、とんびが言 うのよね、<僕が息を吐くと海の向こうは沖に帰っていきます。僕は海の 向こうと一緒に息をしてます。そして、その海の向こうには妹の絶望が沈 んでいます。>って。もう何度も言うけど本当にヤラレタわね。」 S「流石はあきちゃん、でも、今回の<農業少女>の台詞は俺もちょっと 覚えてるんだよな。<農業、東京、そんなに言葉の響きは変らないのに東 京は農業から遠い。>これだね、これ。俺が東京に出てきたのも農業から 遠い東京への憧れだったもんね。」 A「シュウはアッシよりちょっと年下だから、もう集団就職なんてのは無 かったのかしらね?」 S「まだ少しは残ってたんじゃないのかな。勿論、あきちゃんの時代とは 雲泥の差だろうけど。」 A「まあ、アッシはずっと東京だから、集団就職っていうのは無かったけ ど、ニュースでは何度も見た事があるわ。」 T「何ですか?集団就職って。」 A「タケちゃんの時代はさ、といっても今よね、今。猫も杓子も高校へ入 って、その後大学に入る人も多いじゃないの。でもね、アッシの頃は高校 へ行かないで就職した人も沢山いたのよね。それで、田舎の方になると会 社にコネみたいなものがあってね、ここの中学の卒業生はこの会社に皆で 就職するなんて事もあったわけ。」 T「へ〜。まあ、そうでないとしても、シュウさんは東京に憧れてやって きたって事なんですね。」 S「そうだよ、その頃は多くの人がそうだったんじゃないのかな、きっと 。」 T「じゃあ、この<農業少女>っていう芝居は東京に憧れる少女の物語な んですね。」 A「実際に訴えている事は違うと思うけど、少女が東京に憧れてるという のは事実ね。面白い台詞が結構あったじゃない。たとえばさ、ボディー・ ショップの店の前で、身体を売ってる店だと思ったり、農作物が身体の中 に入らないで外に塗ったくっている、それが東京なんだね、なんて言った り、清原のいる巨人の時代にそれもちょっと変だけど、まあ、そういう事 を表現したかったんだなと思うと、ちょっとオーバーに言った方が良いの かもね。」 S「勿論、俺がその様な台詞を聞いて田舎に帰りたいなと思ったわけでは ないんだけどさ、なんかチョットだけ懐かしくなっちゃってさ。ただね、 何時までたっても人間がいる限り農業は不滅だなって考えちゃったわけよ 。」 T「そういう事ですか、この芝居で言ってる事は。」 A「それも違うと思うけど。アッシはね、この芝居で言いたいのは、集団 のエネルギーの凄さや怖さだと思うのよね。どう?」 S「そうだね、その通りだと俺も思うな。途中でさ、サッカーの応援みた いな<ニッポン、ニッポン、ニッポン、ニッポン........>って。 少し恐ろしさを感じたね、俺。」 T「いいじゃないですか、皆で応援するって何処がいけないんです?僕も 応援しましたよ、この前のオリンピック。残念だったよね、あそこで中田 が外さなきゃ。あの審判がちゃんと見てれば篠原が勝ったのに。熱くなっ て応援しちゃいましたよ。」 A「そこよ、そこ。<熱くなって>って所。その熱くなった集団のエネル ギーが怖いって言いたいのよね、シュウちゃんは。」 S「その通り。熱くなった集団のエネルギーが向かう方向が問題なんだよ な。<熱しやすくて、醒めやすい。>俺もそうだけど、多いんじゃないの 、日本人。」 A「野田の作品ってさ、何時も何かを批判というか、何かについて警鐘を 鳴らしているじゃない。今回も凄く思ったんだけどね、その、集団のエネ ルギーへの警鐘を鳴らしてるなって。」 S「最初の頃に、農業という名の駅のホームに立てられている看板につい ての台詞があったじゃない。あの頃見た事のある人は皆覚えているし、品 物は今もあるのに、そのコマーシャルはもうやっていない、そんな看板の ある農業という名の駅。ちょっと淋しいよね。」 A「そのずっと後にもあったじゃない。東京という駅があって、そこには 白い顔したおばあちゃんの化粧品。紀香、あと誰だっけ?色々いる今だけ のタレント、今だけの品物。その中に混じって不登校少女の作った米、農 業少女の看板もあるのよね。それで、いつのまにか、<農業少女>という 米の名前が不登校少女のシンボルとなって一人歩きしてしまう。本当に恐 ろしい出来事よね。」 T「は〜。なんか難しい話しになってきちゃったな〜。」 A「そうかしら。アッシもこういう話しになると熱くなっちゃう性格だか らね。まあ、話しをチョット修正するとね、集団のエネルギーが向かう方 向が間違えると大変な事になっちゃうよ、って言う事なのよ。」 T「集団の中にいても、常に外から見る眼を持っていないといけないと言 う事ですか?」 A「流石はタケちゃん。だからさ、何時も見守っていかないとね、アッシ 達。これからの時代を背負う若い世代を。そのためにもアッシも含めてシ ュウちゃんたちの年台がしっかりしないとね。」 S「そうだよな。これから何をすれば良いか、もう一度しっかり考えなく っちゃな。」 T「いいですね、やっぱりお芝居って。こんなに話しが膨らむんですから 。考えることも沢山あるし。次回は絶対に見逃さない様にしなきゃ。」 A「そうね、いろいろ観て、いろいろ考えましょうよ!それに農業は不滅 だって事も忘れずに。」 おわり *登場人物は全て仮名です。 |