<次回が楽しみ>の巻

たかし(以下T)「あ〜きさん。」

あき(以下A)「あ〜っ、ビックリした。たかしじゃん。何?こん な時間に。」

T「ちょっと買物に来たんですよ。」

A「ああ、そうなんだ。時間あるの?あったらお茶でもしない?」

T「いいですよ。話したい事もあるし。」

A「話したい事?まあ、いいわ。後で聞く事にしましょ。あそこの喫茶店 でどうかしらん?」

T「静かな喫茶店。あきさん、結構来るんですか?ここ。」

A「そうね、普段はね家でコーヒー沸かす事がほとんどなんだけど、たま に気分変えてみたいじゃない。そんな時かな。まあ、2〜3か月に一度っ てとこよ。」

T「ところで話しなんですけど。」

A「そうよ、何なの?」

T「この前行ったミュージカルの事なんです。」

A「な〜んだ、そんな事。また真剣な顔してたから重大な事かと思っちゃ ったわよ。それで?」

T「結構重大な話しなんです。僕にとっては。」

A「何よ?勿体ぶらないで早く話してよ。」

T「この前、会っちゃったんですよ。もう感激。絶対に会えるなんて思っ ていなかったから、感激しちゃった。」

A「だから誰に?」

T「ソンドハイムですよ。」

A「あ〜、ソンドハイムね。アッシも会ったわよ、ついこの前。」

T「え〜!じゃあ、あきさんも観に行ってたんですか?<太平洋序曲>。」

A「うん、行ってたわよ楽日にね。」

T「僕と同じ日だ。それであきさんも会ったんですね。」

A「でも感激したわよ、アッシも。何度となく彼のミュージカル観ている けど、本人に会えるなんてね。あがっちゃってさ、自分が何を言ってるの かしどろもどろでさ。今考えると可笑しくて。」

T「あ〜あ。僕も声を掛ければ良かったな〜。」

A「あんた、会ったんじゃなかったの?もしかして、それって見かけたっ て事?」

T「そうとも言いますね。」

A「何がそうとも言いますよ。じゃあ、話しちゃないんじゃない。」

T「まあ、そうなんですけど。とにかく感激しちゃって。」

A「まあ、いいわ。ところでさ、たかしはどうだった?<太平洋序曲>。」

T「何か変なミュージカルでしたね。日本の事を外国の方が表現するのを 観るって、ちょっと気恥ずかしいもんですよね。」

A「そうね、でもとても良く出来たミュージカルだったわね、そう思わな い?たかし。」

T「そうですね、観終わった時に嬉しくなっちゃいましたよ。」

A「わかる、わかる。このミュージカルは日本の開国をテーマにした物で ブロードウェイでは1976年に上演されているんだけど、その年の夏に 日本で放映されたのよ。アッシ、悔しくてね。観てないんだもの。たかし はまだ生まれて間もないから当然観てないでしょうけど、アッシのアメリ カに住んでる友達にビデオはないか?って尋ねられてさ、それで放送した って事知ったのよ。」

T「それは本当に残念でしたね。何年か前にもジュリー・アンドリュース の<ヴィクター・ヴィクトリア>を放送したじゃあいですか。あの時も上 演中に放送されるって、とても画期的な事だったでしょ。て言う事は、そ んな前だから画期的だなんてものじゃなかったでしょうにね。」

A「そうよね。今回、宮本亜門の演出した舞台を観て、もっとオリジナル の舞台が観たくなっちゃったわね。」

T「これから再演を重ねてほしい舞台だったですよ。」

A「アッシもそれは思ったわ。亜門にとっては<アイ・ガット・マーマン >以来の良くできた舞台だったんじゃないかしらん?」

T「ナレーター役をやった国本武春君が良かったな。それに将軍の母を演 った、誰でしたっけ?<レ・ミゼ>にも出てたあの人。」

A「ああ、佐山陽規でしょ。」

T「そうそう。あきさんは誰が印象に残ってます?」

A「そうね、一番印象に残ったのは、ジョン万次郎役を演った小鈴まさ記 君かな。とても美しい声をしてたし、これから有望な役者さんだと思った わね。それに、今回は有名な役者さんは数人だけで、あとはいろいろ出て はいるけど主役級ではないじゃない。でも、みんなレベルが高くって、や っぱり芝居をする時には知名度よりもレベルの高い役者さんを選ぶべきだ と再確認したわね。」

T「レベルが高いといえば、昨日観てきた寺山の<レミング>も良かった です。あきさんは当然観てますよね。」

A「今回のは観たわ。寺山の生きている時に観れなかった芝居だから今回 は絶対に観ようと思ってたもの。」

T「凄かったですよね。あの役者さん達。あの動き。ビックリです。僕は アングラと言われている芝居を観るのは唐十郎以来なんですけど、唐さん のアプローチとはまるっきり違って、結構刺激的でしたね。」

A「そうでしょ。アッシも感動しちゃったわよ。それに舞台が五反田でし ょ。アッシの実家のすぐ近く。知っている町の名前なんかが出てきちゃっ たんでもっと親近感が沸いてきちゃったのよね。」

T「あの設定も凄いなって感じましたよ。何てったって部屋の壁が消えち ゃうんですからね。隣に住んでいる人って何か気になるじゃないですか。 その隣の人の現実か、幻想かが解らない世界に入っていく。」

A「入っていくというよりも、むしろこちらの世界に入り込まれるって言 うのじゃないかな〜?」

T「あ〜、そうかもしれませんね。それに、謎のスター女優。彼女の雰囲 気。映画<サンセット大通り>のノーマ・デスモンドみたいですよね。何 処かいっちゃってる。」

A「それに江戸川乱歩の世界みたいなのもあったじゃない。屋根裏の散歩 者とその声とのやりとり。寺山の世界って本当に魅力的だわね。」

T「結局、壁なんてあったのか?っていう最後近くの台詞で都会の孤独み たいなもんを感じちゃったんですけどね。」

A「あら〜、たかしったら、随分と芝居を観る眼が養われてきたじゃない の。全くその通り。最後、暗転になった時、もしかしたらこのまま芝居小 屋に取り残されてしまうんじゃないかっていう恐怖感も味わえたじゃない ?もう一度すぐにでも観たいわね。」

T「次回の上演を楽しみにしてましょうよ。」

A「そうね、次回を楽しみにするとしようかな。」

T「ところで話しは変るんですけどね、この前、僕が行ったときに隣に座 ってたあの子、誰でしたっけ?」

A「え〜?そんなの忘れちゃったわよ。その時に言ってよ、その時に。そ れがどうかしたの?」

T「え〜、その〜.....。」

A「何なのよ、ったく。時間がないのよ。早く言ってよ。」

T「あの人何時頃来るんですか?」

A「あ〜、そういう事ね。そんなの分らないわよ。本当の大事な話しって 、この事だったんだ。」

T「ま〜、そんな事もないんですけど。」

A「そうね、多分あの人の事だと思うんだけど、やっぱり週末が多いんじ ゃないかしらん。でも時間までは分らないわ。何時も違うのよ、来る時間 が。」

T「そうですか。でも週末ですよね。」

A「そうよ、週末。今度週末にいらっしゃいよ。来るかもしれないしね。」

T「そうですね。次回を楽しみにしよ〜っと。」

A「そうしてよ。アッシそろそろ行かないと。お店の準備もあるしさ。ア ッシも楽しみにしてるわ、今度の週末。」

T「それじゃ行きますよ、今度の週末。楽しみだな。来るかな?」

A「まあ、いいわね、お気楽で。アッシが楽しみなのは、その時のあんた の態度よ。どんなそぶりを見せるか楽しみって言ってるのよ。」

T「あきさんて結構意地悪なんですね。」

A「あら、今ごろ気がついたの?精神的サドなのかしらね。まあ、今週末 ね。」

T「はい、分りました。何だか怖くなっちゃったな〜。お手やわらかに頼 みますよ。」

A「大丈夫よ。冗談冗談。それじゃ行きましょ。」

T「それじゃ、次回を楽しみにしてます。」

A「あいよっ。それじゃ週末ね。」


おわり

*登場人物は全て仮名です。



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#30 "農業は不滅です"の巻
#29 "夏が終わってまた一人"の巻
#28 "秋はやっぱり大人の雰囲気"の巻
#27 "解りやすいが一番"の巻
#26 "夏はやっぱり怪談"の巻
#25 "おとぎ話には夢がある"の巻
#24 "選ぶのが困っちゃう〜"の巻
#23 "自戒の念を込めました"の巻
#22 "ロマンチストは誰?"の巻
#21 "涙でサ・ヨ・ナ・ラ"の巻
#20 "至福の時ってどんな時"の巻
#19 "あなたは誰に?"の巻
#18 "これからはアジアの時代かな?"の巻
#17 "待ち人来らず"の巻
#16 "感動するって素晴らしい"の巻
#15 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.2
#14 あきのN.Y.お芝居観て歩記 ′99 vol.1
#13 "分りやすいって素晴らしい"の巻
#12 "芸術の秋だよね"の巻 その2
#11 "芸術の秋だよね"の巻 その1
#10 "夢をみようよ"の巻
#9 "暑い時は映画館"の巻
#8 "劇場へ行こう!"の巻
#7 "戦争はおそろしいよね"の巻
#6 "あんたも漫画がすきなのね"の巻
#5 "あんたの涙は.....?"の巻
#4 "安心が一番"の巻
#3 "本当に生はいいんだから"の巻
#2 "小さいことはいいことだ"の巻
#1 アキのニューヨークお芝居観て歩記